不定期更新になると思いますが、良かったらぜひ。
また、基本的な設定としては、旧アニメ版のラストからのIFとなります。
何かを創り出したり得たりするためには、それと同等の価値を持つものを失わなければならない。
それが、俺の中にある最も根強く刻まれている言葉である。
目の前で、最初に見えた岩。
そう理解出来る程、俺の頭の中には知識があるのを理解した。
「痛ぇ、なんだ、ここは?というよりも」
そうしながら、ゆっくりと起き上がりながら、右手で痛みのある頭の箇所を抑えながらも息を整える。
「ぐっ、俺は一体」
なんとか起き上がりながらも、自身の身に起きている事を少しでも知ろうとした。
いや、より言えば。
「・・・俺は、一体、誰なんだ」
口から思わず出てしまった一言に背筋が凍った。
知識は確かにある。
俺の頭の中に、これが真実か分からない知識。
けれど、大事な事がスッポリと抜け落ちたような感覚が恐ろしい。
「はぁはぁはぁ」
呼吸が荒くなる。
少しでも、自分の中に取り込もうとする動作。
パニック状態である事を理解し、精神を落ち着かせようとする。
けれど、そんな理屈はない。
なぜならば、それらは落ち着く為の何かがあるのが前提であるからだ。
今の俺にあるのは、俺自身の身体と黒いズボン。
そして。
「錬金術」
膨大な知識の、全ての中心にあるのは錬金術という知識を中心にした事。
等価交換の法則。
何かを得るには、同等の何かを渡す必要がある。
なぜ、その言葉が出るのか。
あまりにも基本的な言葉という事なのか、それとも俺自身が記憶を代償に何かを得たのか。
「何を得たって言うんだよっ」
思わず叫んだ時、ポケットから落ちた物が地面を響かせる。
それは銀時計があった。
ゆっくりと拾い上げて、そこにあった文字をかろうじて読む事が出来た。
「エドワード・エルリック」
それが俺の名だと自然と理解すると共に、銀時計をゆっくりと開いた。
「10月3日を忘れるなっ」
その言葉を呟いた瞬間に感じたのは頭痛が。
「思い出すなって言うのかよっ俺の記憶!」
俺は地面を強く叩きつけて、痛みが走る。
拳を叩きつけた衝撃が、骨の中まで響いていた。
痛み。鈍く、そして確かな痛み。
それが唯一の救いであるかのように、俺は地面に額を押し付けて息を吐いた。砂利が頬に食い込む。生臭い土の匂い。
――と、その時であった。
耳が、異質な音を拾った。
まとはずれた何かが、空気を切り裂く音。
湿った鱍が擦れ合うような、粘着質な響きが、そう遠くない場所から届いていた。
顔を上げる。
視界の端に、朱色が走った。
「……何、だ」
俺の声など、届くはずもない距離にそれはいた。
巨大な、蛇だった。
鮮烈な赤。あのように肉腫のごとき粘液を纏った鱀の色を見たことがあるかは分からない。ただ、そのおぞましい体躯は、まるで城壁をなす岩壁のごとくそび立ち、見上げる空を半ば遮るほどの質量を持っていた。まるで悪夢が凝り固まって形を得たかのように。
そして、その旁らに彼女がいた。
褐色の肌。
異国の装い。いや、違う。これもまた「異世界」という言葉で括られるべきものであろうか。俺の知識の中に、その民族を特定するものはない。ただ、直感的に理解した。彼女は、人間であると。
その人間が、巨蛇と対峙していた。
「……嘘だろ」
思考が追いつかない。
現実と呼ぶには、余りに荒唐無稽であった。
蛇が、動く。あのような巨躯が、信じ難い速度で蠢動し、その顎を開く。彼女の体躯など、飲み込めば足りるほどの差異。
否、むしろ飲み込む必要すらない。噛み砕けば、肉塊と化す。
なぜ、そんなもので戦おうとする。
なぜ、逃げない。
俺の内で、何かが叫んでいた。
だがそれは言葉にならない。
ただ、背筋を這う悪寒となって、全身を粟立たせた。
彼女が動いた。剣を構え、蛇の攻撃を躱す。速い。だが、蛇の方が速い。
巨体からは想像もつかぬ速度の、二撃目が迫る。
躱せない。
蛇の尾が、彼女の足元を薙ぎ払った。
彼女が体勢を崩す。
崩れた。
その隙に、蛇の頭が、降りた。
顎が開かれる。牙が、弧を描く。
逃げ場はない。
殺される。
呼吸が、止まった。
いや、止まったのではない。
俺の中の何かが、動いたのだ。
理解したのは、後であった。
両手を、合わせていた。
右手の指先が左手の甲に触れ、左手の指先が右手の甲に触れる。
祈るような形。いや、祈りではない。
もっと原始的で、もっと致命的な、**構築**の形だ。
両手を、地面に叩きつけた。
――光が、走った。
地表を、這い走った。
青白い光が、まるで血管のごとく地面の下を走り、奔流となって駆け抜ける。
その光が通った場所の土が、せり上がった。
隆起した。
岩が、土が、礫が、渦を巻くように隆起し、形を成していく。
指が五つ。
掌の隆起。
手首の節。
腕の太さ。
地面が、拳になった。
大きさは、蛇の体躯に見合うほどであった。
まるで大地そのものが腕を伸したかのように、土と岩で構成された巨大な拳が、地を這うようにして迫った。
その質量は、土の塊でありながら、鋼の如き重量を孕んでいた。
拳が、突き出た。
横から、蛇の胴体を、打った。
ずドォォォンッ!!
地鳴りが、臓腑を震わせた。
蛇の巨体が、横に逸れた。
まるで怒りに任せて叩きつけられた鉄柱に弾かれたかのように、赤き鱀の胴が跳ね、その頭は彼女から遠ざかる。
砕けた土砂が散り、飛礫が頬を掠めた。
蛇が、苦痛の声を上げたのかは分からない。
ただ、その巨体がのたうち、距離が開いた。それだけが、確かな事実であった。
俺は、息を呑んだ。
「……出来た」
自分のやったことに、驚愕していた。
手を見る。
何の変哲もない、ただの手だ。
土汚れが付着した、ただの俺の手だ。
けれど、確かに、俺の手は地面を打った。
そして、地面は拳になった。
知識はある。
どうやればいいのか、何をすればいいのか、その理は頭の中にある。
等価交換。構築。解構。再構築。
プロセスは、手に取るように分かる。
分かるのだ。
だが、俺は自分が何者か分からない。
「俺は……」
声が出た。
乾いた、虚ろな声が。
自分の手を、見つめている。
この手が、あのようなものを作る。
あのような力を行使する。
それは、間違いなく俺の力だ。
その力の使い方を、俺は知っている。
だが、俺は、俺を知らない。
技術は残っている。
記憶だけが、抜け落ちている。
その事実が、容赦なく心臓に突き刺さった。
「……なんだよ、これ」
呟きが、唇から漏れた。
目の前では、蛇が再び体勢を立て直そうと蠢いている。
褐色の女は、難を逃れたことに気づいていないのか、それとも気づいていてなおも構えているのか。
俺には、分からなかった。
ただ、拳を叩きつけた場所だけが、ひどく無様に抉れていた。
視線が、届いた。
彼女が、こちらを向いた。
突然の衝撃に、蛇から意識を切り離し、その褐色の顔が俺の方へ向けられた。
顔を、見た。
「」
息が、止まった。
金色の瞳。
俺と同じ、金色の瞳を、彼女は持っていた。
いや、それだけではない。
俺の目が、そこにあった全てを、拒絶した。
頭部。
その艶やかな髪の間から、異形が生えていた。
毛の生えた、三角形の――耳。
猫の、それに近い形状の耳が、頭頂部からぴくりと動いている。
そして、腰の裏。
服装の隙間から、蠢くものがあった。
尾であった。
獣のそれと同じように、肉と毛で構成された尾が、蠢いていた。
俺の知識が、異常を訴えている。
人間に、そのような器官は存在しない。
あり得ない。
そもそも、進化の系統樹において、哺乳類と爬虫類の性質が混在することなど――
「あり得ねえんだよ」
声が、漏れた。
否定ではない。
否定できない事実を目の前に晒され、知識が追いつかず、ただ漏れ出た声であった。
猫の耳。
猫の尾。
人間の、顔。人間の、体躯。
それらが、混然一体となり、そこに立っている。
彼女もまた、俺を見ていた。
理解出来ないものを見るような目で。
いや、正確には俺が何者かを測りかねているようだった。
助けてもらったという認識はあるのだろう。だがその直後の判断が、彼女の瞳の中で揺れている。
警戒か。感謝か。それとも。
「…なぁ、お前は」
声をかけようとした時であった。
地鳴りが、二人の視線を断ち切った。
蛇が、動いた。
依然として健在。
俺の放った土の拳は確かに蛇の胴を打ち据え、その巨躯を逸らした。だがそれは所詮、土と岩の塊であった。蛇にとっては掠った傷程度、せいぜいが癇に障る打撃でしかなかったのだ。
赤い鱀が、再び蠢動し始める。
傷つけられた怒りか。
あるいは、横合いから邪魔を入れられた苛立ちか。
その巨大な頭部が、ゆるりとこちらへ向けられた。
否。
正確には、俺と彼女、双方を視界に収めるように動いた。
舌が、嘴の如く突き出され、空気を舐め取った。
狩る気であった。
二人まとめて。
「…俺とお前、どっちが先に食われるかって話でもあるまいし」
口から出たのは、場にそぐわぬ軽口だった。
自分でも驚くほど、呼吸は浅く、心臓は暴れている。なのに、身体は立ち上がっていた。
膝が笑っている。だが、立っている。
蛇が、再び体勢を整えた。
俺の中で、錬金術の知識が回路を組んでいく。
等価交換。
破壊と再構築。
大地を材料に、如何なる形を与えるか。
それは、分かる。
俺は、それを知っている。
だが、俺は俺を知らない。
背後からの声が鼓膜を震わせた。
「おい」
短く、冷たい声。
振り返る必要はない。さきほどの褐色の女だ。俺を助けてもらったという認識は、どうやら彼女の表情には出ていない。むしろ剣の柄に手をかけたまま、値踏みするような視線を投げかけているようだった。
「チビ」
叫びが喉から飛び出した。
「誰がチビだっ!」
我知らず身長を伸ばすように背筋を反らしていた。足元の砂利を蹴り散らす。
燃えるような怒りが脳髄を焼き尽くす。チビ。その単語が俺の神経を逆撫でする。なぜだ。なぜその言葉がこれほどまでに俺を苛立たせる。
女は呆気に取られていた。
瞬きを一つ。二つ。猫の耳がぴくりと動いた。
「…なんださっきのは」
表情が変わった。
呆れと共に、冷ややかな殺気が滲み出る。
「何よりも何のつもりだ」
剣が、抜かれかけた。柄から僅かに覗く刃が鈍い光を放つ。俺の視界が殺気を捉えた瞬間、背筋が凍る。
「勝手な真似をして死にたいのか。あんな大層な技を放った挙句に脅かすなど」
殺す気か。本気でそう思った。
俺は手を挙げて身構えた。喧嘩腰。だが、構えの形は不自然で、腹の底では「戦えるのか?」という疑問が渦巻いている。
「テメェが食われそうになってたからだよ」
声が裏返った。事実を述べたまでだ。俺は、ただ、そう動いただけだった。
「体が勝手に動いた。それだけだ」
嘘ではなかった。
分からないのだ。拳を叩きつけようと思ったのか、地面が拳になると信じていたのか。ただ、結果がそこにあっただけで。頭の中には「死にかけた奴を放っておけるか」という理屈が、後からこじつけのように現れた。
女の目が細くなった。
「…はぁ?」
心底分からないという顔だった。
殺気は引いた。いや、呆れに変わったのか。猫の耳が、困惑するようにゆるりと揺れる。
「何のつもりかと聞いておる。褒めてくれたわけでもあるまい。私が助かったことに礼でも言いたいのか?」
嫌味だった。
俺は唇を噛んだ。
「…勝手に心配しろって言った覚えはねぇよ」
「そうだ。勝手にお前が助けたのだ。故に問いただしておる。その意図を。あのような大騒ぎを起こして、私にまで蛇の標的を向けさせて」
「だから何だって言うんだよ! 助けてやったのに文句言われる筋合いはねぇだろ!」
叫びが喉を灼いた。大声を出したせいで、肺が痛い。胸が大きく上下する。
猫耳女は小首を傾げた。
理解不能という顔。完全に理解不能という顔。
俺に対してどう反応すればよいのか分からずに立ち尽くしている。
「…変な奴だ」
呟きが聞こえた。
そして、沈黙。
沈黙ではなかった。
ズズズズズ……
地面が揺れた。二人の会話を断ち切るように、蛇が再び動き出した。
巨体が砂を巻き上げ、頭部がゆるりと揺れる。唸り声のような低い音が喉から漏れている。
俺と猫耳女は、同時に蛇を見た。
赤い瞳が、二対。
こちらを捉えている。
殺意が、湿度を帯びて空気を重くする。
「…続けるか」
猫耳女が短く呟いた。
剣を握る手に力が込もる。
俺は息を飲んだ。
会話の間にも蛇は距離を詰めつつあった。逃げられない。逃げ場はない。ならば――
「知るかよ、やってやるさ」
身体が、動いた。
思考が追いつく前に。
まるで誰かに操られるように。いや、俺自身の意志など最初から存在しなかったかのように。
足が地面を踏み抜き、重心が沈む。
両手が合わさる。
祈りではなく構築の形。
そして叩きつける。
光が走った。
地表を這う青白い脈動が、蛇と俺の間に壁を築くべく奔る。
土が隆起する。
岩がせり上がり、礫が噛み合わさる。
一面の土壁が、蛇の進路を遮るように立ち上がった。
「避けろ!!」
声が出た。自分に言ったのか、女に言ったのか。
いや、それは蛇に向けてだったのかも知れない。
蛇は、止まらなかった。
巨躯に見合わぬ俊敏さで、土壁の横をすり抜けた。
まるで水が岩を流れるように。
赤き鱗が土の縁を掠め、砂塵を撒き散らす。
障壁など初めから存在しなかったかのように。
「嘘だろ…」
速い。
質量と速度が比例しない。
あの体躯であの動き。理屈が通らない。
だが。
蛇が避けた。その事実だけが確かだ。
避けたということは、道があった。
道が限られる。
通り抜けた軌道が、一本の線として浮かび上がる。
俺には見えた。
いや、見えたのではない。
知識が弾き出した。
等価交換の理が、蛇の運動量と土壁の位置関係から次の動線を算出した。
蛇は、必ずそこを通る。
「今だ」
叫んだ声に応じたのは俺ではなかった。
女が、動いた。
俺の声など聞こえていないはずだった。だが彼女は見ていた。蛇の動きを。俺が作った壁に弾かれた蛇の軌道を。
剣閃が、走った。
褐色の手から銀の刃が跳ねる。
蛇の胴を、横から。
肉が裂ける音が、空気を震わせた。
赤い鱗が舞った。
血飛沫が砂に落ちる。
蛇が、のたうった。
巨体が痙攣し、後退する。
赤い瞳に困惑の色が見えた。いや、それは怒りかも知れない。傷つけられた獣の、原始的な怒り。
蛇は、下がった。
砂を巻き上げながら、その巨躯を後方へと退かせた。
俺は息を吐いた。
いつの間にか止まっていた呼吸が、荒く戻る。
「…避けた」
呟きが漏れた。
蛇の動きを止めることは出来なかった。だが、道を限った。
結果、女の剣が届いた。
俺は何もしていない。
ただ壁を作っただけだ。
動いたのは彼女だ。
切ったのは彼女だ。
なのに、心臓が早鐘を打っている。
身体が、震えている。
「俺…今、何をした」
知識が告げる。
理屈は分かる。
蛇の進路を障壁で制限し、移動方向を予測可能な範囲に限定する。
戦術としては初歩的だ。
だが、俺はそれを考えたのではない。
身体が、知っていたのだ。
俺が何者か知らないままに。
両手が、覚えていた。
「…おい」
女の声がした。
振り返ると、彼女が俺を見ていた。
殺気は消えていた。
だがその代わりに、より複雑な何かが、その金色の瞳に浮かんでいる。
「お前、ただ者ではないな」
そう言われた俺は、ただ空虚に笑うほかなかった。
何者かも分からない俺に、ただ者も何もないのだから。
砂煙が、晴れていく。
風に浚われ、陽光が差し込む狭間に彼女の輪郭が浮かび上がる。
褐色の肌に、砂埃が薄く張り付いていた。猫の耳が、ぱたぱたと小さく振動し、付着した塵を払っている。その仕草だけを見れば、どこか愛嬌のあるものだが、眼光は相変わらず鋭かった。
女は、俺の前に立った。
見上げるような距離。そう、俺より少しばかり背が高い。
その事実に、腹の底で何かが蠢くのを感じたが、今は別の感情が勝っていた。肌を伝う汗が、冷えていく感覚。
「ギレーヌ」
女が、言った。
声は低く、然し淀みなく響いた。
「ギレーヌ・デドルディアだ」
名前、であった。
名乗りだ。あの蛇との死闘を切り抜けた直後だというのに、その声には格斗を終えた者の凪いだ静けさのみが宿っている。
俺は、僅かに目を丸くした。
無意識に、であったのかも知れない。あれほどの剣技とあれほどの殺気を間近で見せつけられた後で、こうも自然に名を告げられると、逆に奇異な程だ。
まるで、呼吸をするように当然のこととして。
「……エドワード」
俺は、口を開いていた。
声音が、僅かに掠れた。
唾を飲み込む。喉が渇いている。声が裏返っては格好がつかない。
「エドワード・エルリックだ」
銀時計に刻まれていた名前を口にする。己の名を名乗る、という行為が、こうも居心地の悪いものだとは知らなかった。何しろ、その名が自分のものであるという確信すら、俺にはないのだ。
ポケットの中の銀時計の重みが、唯一の根拠であった。
「多分……錬金術師だ」
「多分」という言葉が、滑り落ちた。
正直に言えば、「錬金術師」という語以外、己が何者であるかを示す言葉を、俺は持たなかったのだ。身体は覚えている。知識は残っている。だが、俺は俺を知らない。だから「多分」以外に、何と言えば良いのか分からなかった。
ギレーヌが、僅かに首を傾げた。
猫の耳が、つくりと動く。その仕草が、言葉の意味を測りかねている彼女の内面をそのまま映しているようであった。
「錬金術師?」
繰り返された語句に、疑問の色が混じる。
彼女の金色の瞳が、俺をじっと見据える。品定めではない。純粋な不審の色であった。
「魔術師じゃないのか」
「……魔術?」
俺の口から、音が漏れた。
魔術。
その単語が、俺の知識の中を波紋のように広がり、そして何にも触れることなく消えていく。
錬金術はある。
等価交換の法則がある。
構築、解構、再構築のプロセスがある。
だが、「魔術」という概念が、俺の中で何かを指し示すことをしない。
いや、待て。
魔術、という言葉は、確かにどこかで聞いたことがあるような気がする。だが、それは俺の知識の端っこに薄く、朧気に存在するのみで、明確な輪郭を持たないのだ。
錬金術と魔術。
その違いは、何だ。
何が違う。
俺は、俺の頭の中を、探った。
何もない。
答えは、どこにもなかった。
現在のエドワード・エルリック
・衣服はズボンと下着と靴のみ
・四肢は健在
・持ち物は銀時計のみ
・記憶喪失
・錬金術等の知識はあり