Romancing SaGa 3 — Destinies Unbound —   作:水城 雅

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第27話 グレート・フェイク・ショー

 ロアーヌを発ったザインたちがピドナへ戻り、数日が過ぎていた。

 港には船が並び、通りには荷車が溢れている。

 大きな荷を背負って歩いていても、誰も振り返らない。町へ入る時に、一人ずつ名を確かめられることもなかった。

 ノーラの工房には、以前より物が増えていた。中へ入ると、炉の熱と油の匂いが四人を迎えた。

 壁際には削りかけの柄が並び、奥では若い職人が鉄を打っている。入口に積まれた木箱を避けて入ると、ノーラは顔を上げるなり手を差し出した。

「見せな」

「まだ何も言ってないわよ」

「そのために来たんだろ」

 ノーラは早速エレンが差し出したフランシスカを見る。

「使ってるな」

「使いやすいもの。振った後、戻しやすいのよね。前のより、次へつなげやすい」

「そりゃよかった」

 刃へ顔を近づけ、角度を変える。

 光の当たり方で、細かな欠けが浮かんだ。

「何を斬った?」

「いろいろ」

「いろいろじゃ分からないだろ」

「魔物とか、竜とか」

 ノーラの手が止まった。

「竜?」

「ツヴァイクで」

「ああ、あの大会か。お前ら、出たのか」

「出た。勝った。こいつが大分使い込んだ」

 ザインが言うと、エレンは彼を見た。

「あんたも剣、使い込んだでしょ」

「俺の剣は、ここまで欠けてねえ」

「竜の相手してないからよ」

 ノーラは二人を見比べ、斧を作業台へ置いた。

 口元が、少しだけ緩んでいた。

「話は聞いてやるから、順番に出せ」

 ノーラは次にザインが差し出したファルシオンを持った。

 刃を指で弾いて音を聞き、刃先を少しずつ傾ける。

 途中で手が止まった。

「硬いもんに当てたね」

「剣とか、盾とか」

「そこは分かるよ」

「なら聞くな」

 ノーラは鼻を鳴らし、刃の小さな傷を指した。

「ここ。横から力が掛かってる」

「受け流した時だな」

「受け流した後も、無理に押しただろ」

「……よく分かるな」

「作ったの、私だからね」

 ノーラはファルシオンも作業台へ置くと、エレナのエストックを受け取った。

「柄の具合は、とてもいいです。長く持っていても、前ほど指が痛くなりません」

「あんたは手首を返す時、そこを押す癖があるからね。緩んでないか見ておくよ」

「お願いします」

「サラは?」

「弓を、少し。弦を替えた方がいいのか分からなくて」

 ノーラは受け取った弓を、丁寧に眺めた。

 指先で弦に触れ、張りを確かめる。

「よく使ってるね」

「はい」

「手入れもしてる。すぐ替えなくてもいいけど、予備は持っときな」

「分かりました」

 サラは肩の力を抜いた。

 褒められたことに気づいたらしく、口元が少し上がる。

 ザインが作業台の端へ肘を置いた。

「で、いくらだ」

「まだ見てる途中」

「先に聞いとかねえと、後から増える」

「増えるような使い方をするな」

 エレンが笑った。

 奥から、金槌を置く音がした。

 若い職人が入口へ顔を向ける。

「親方、あれ、今日からでしたっけ」

「あれ?」

「広場の。見世物小屋」

 サラが振り向いた。

「見世物小屋?」

「昨日から天幕を張ってたろ。昼から開くってさ」

 ノーラが顎で通りの向こうを示した。

「行ってきたらどうだい。こっちは夕方まで掛かる」

「何がいるんですか」

「大蛇だの、珍しい獣だの。妖精もいるって聞いたよ」

 サラの目が丸くなった。

「妖精?」

「看板には描いてあったね」

「本物かな」

「私に聞かれてもねえ」

 エレンがサラを見る。

「行く?」

「うん」

 二人の視線が、エレナへ向いた。

 彼女はすでに興味を持った顔をしていた。

「妖精なら、見てみたいですね」

 最後に、三人がザインを見た。

 彼は作業台から肘を離した。

「いくらだ」

「まだ看板も見てないでしょ」

 エレンが言った。

*

 広場の外れには、三つの天幕が並んでいた。

 赤と黄色の布。

 風に揺れる長い旗。

 入口では笛と太鼓が鳴り、派手な上着の男が、通りを歩く人々へ声を張り上げている。

「さあさあ、お立ち会い! 世界の不思議、世にも珍しい獣たち! 遠い国まで旅をせずとも、ここでご覧になれますぞ!」

 大きな看板には、金色の文字が躍っていた。

《グレート・フェイク・ショー》

 ザインが見上げる。

「フェイクって書いてあるぞ」

「先に言ってくれるなんて、親切じゃない」

 エレンが返した。

「それで金を払うのか、お前は」

「面白ければいいのよ」

 サラは看板の絵を見ていた。

 角のある獣と、大きな蛇。その隣に、小さな羽を持つ人影が描かれている。

「これ、妖精だよね」

「そのようですね」

 エレナが看板へ近づいた。

 絵の妖精は花の上に立ち、にこやかに片手を振っていた。

 足元には、南の密林で発見、と書かれている。

 呼び込みの男が、四人を見つけた。

「ようこそ! 本物の妖精をご覧になったことは?」

「ないよ」

 サラが答えると、男は大きく頷いた。

「ならば、ぜひ! 世にも稀な、空飛ぶ小人! 人の言葉まで喋ります!」

 ザインは入口の札を見た。

 一人、十オーラム。

「三つ全部か」

「もちろんでございます」

「途中で、別に払えとは言わねえな」

「ございませんとも!」

 エレンが財布を出した。

「ほら。入るんでしょ」

「まだ払うとは言ってねえ」

「一人だけ外で待つ?」

「……見る」

 四人分の入場料が、それぞれの財布から出された。

*

 最初の天幕では、曲芸が行われていた。

 張り渡した綱の上を、若い男が歩いている。

 足元の綱が揺れても、上体はほとんど動かなかった。

 サラが息を止めた。

 男は途中で足を止め、ゆっくりと腰を落とした。

 片手を綱へ掛ける。

 観客が静まったところで、身体が逆さになった。

「うわ」

 エレンが声を漏らした。

 逆さのまま揺れを止め、男が笑いかける。

 拍手が起きた。

 サラも手を叩いた。

 エレナは、綱を留めている支柱へも目を向けていた。

「よくあれだけ揺れを抑えられますね」

「下も見てるのか」

 ザインが訊く。

「ええ。仕掛けも含めて、見事だと思いませんか」

「やってる奴の腕だろ」

「もちろん、それもです」

 男は最後に一度宙返りをし、再び綱へ降りた。

 大きな歓声が上がった。

 エレンがザインを見る。

「できる?」

「何で俺がやるんだ」

「できそうだから」

「曲芸師を雇え」

 火を使った芸もあった。

 男が口元へ松明を寄せ、大きく息を吐くと、炎が天幕の高いところまで伸びた。

 エレナが真剣な顔で見ている。

「何を口に含んでいるのでしょう」

「やるなよ」

「まだ何も言っていません」

「考えただろ」

「仕組みが気になっただけです」

 エレンが二人の間から顔を出した。

「で、何を使ってるの?」

「匂いからすると――」

「お前も聞くな」

 サラが笑った。

 右側の天幕へ向かう途中、出てきた男が口元を押さえていた。

「……あれは、飯の前に見るもんじゃないな」

 エレンが眉を上げる。

「何がいたの?」

「見りゃ分かる」

 見て、分かった。

 天幕の奥に、鉄の囲いがあった。

 その中で、薄桃色の肉の塊が動いていた。

 胎児とも蛸ともつかない異形の魔物だった。

 膨れた頭部には赤い目のようなものが幾つも並び、節のある長い尾と細い触手が、地面を這うようにうごめいていた。

 顔らしきものがこちらを向いた。

 サラが一歩下がった。

「……生きてる」

「そりゃ、動いてるもの」

 エレンも近づこうとはしなかった。

 男が看板を叩いた。

「これぞ、魂を吸う怪物、ソウルサッカー! その名を聞いただけで、泣く子も黙る!」

「泣くと思うけど」

 エレンが小声で言った。

 怪物の口元から、液体が一筋垂れた。

 床板へ落ちる。

 白い煙が上がった。

 ザインの目が細くなる。

 囲いの下には、何枚も板が敷かれていた。

 そのうち一枚は黒く変色し、金具の周りが崩れかけている。

 飼育係らしい男が、長い柄の桶を引き寄せた。

「支配人。こっちの留め具、やっぱり替えないと」

「後にしろ。客がいる」

「でも、昨日も」

「終わってからだ」

 派手な上着の男は、観客へ笑顔を向け直した。

 ザインは囲いをもう一度見た。

 ソウルサッカーが動くたび、傷んだ金具が小さく鳴っていた。

「離れろ」

「言われなくても、もう出るわ」

 エレンがサラの肩へ手を添えた。

 天幕を出ると、外の空気が妙に清々しかった。

「あれは、もういい」

「私も」

 サラが頷いた。

 エレナは振り返っていた。

「あの液体、木だけではなく金属も傷めているようでした」

「近づかねえ方がいい」

「ええ」

 中央の天幕から、太鼓が聞こえた。

 次の見世物が始まるらしい。

 入口へ人が集まっていく。

 サラが看板を見上げた。

 そこには、羽のある小さな姿が描かれていた。

*

 中央の天幕には、大勢の客が入っていた。

 前の方で、子供が父親の肩へ乗っている。

 立ち並ぶ背中の隙間から、小さな檻が見えた。

 サラが背伸びをする。

「あそこかな」

「見える?」

「少しだけ」

 舞台の上で、興行師が長い棒を持っていた。

「さて、お待ちかね! 南方の密林、そのまた奥より連れてまいりました、世にも珍しい妖精でございます!」

 赤い布が引かれた。

 檻の中で、何かが動いた。

 小さな手足。

 鮮やかな髪。

 背中には、薄く透き通る羽があった。

 人形ではなかった。

 細い指が鉄格子を掴み、こちらへ顔を向ける。

「こっち見てー!」

 前の子供が声を上げた。

「見てるよ!」

 檻から返事が飛んだ。

 観客が沸いた。

 エレンも思わず目を丸くする。

「本当に喋った」

「だから、喋るって言ってるでしょ!」

 妖精が立ち上がった。

 だが、すぐに背中を気にするように身体を捻った。

 羽が小さく震え、顔をしかめる。

 サラの笑みが消えた。

「……何か、引っ掛かってる?」

 エレナが人の肩越しに檻を見る。

 格子の内側に、細いものが張り渡されていた。

 灯りを受けた時だけ、わずかに光る。

 妖精が手を伸ばした。

 それを見た興行師が、棒で檻を軽く叩く。

「さあ、羽を見せておくれ。皆さん、お待ちかねだ」

「出してくれたら、見せてあげる!」

「ほら、お喋りも達者でしょう?」

 観客が笑った。

「出してってば!」

 また笑いが起こる。

 サラは周りを見た。

 誰も、檻へ近づこうとはしない。

 妖精が格子の間から手を伸ばした。

 興行師は棒の先をその手へ押し当て、檻の中へ戻した。

 サラが、前の客の間へ踏み出しかけた。

 ザインが肩へ手を置き、引き止める。

「待て」

「でも、あんなこと……」

「分かってる」

 低い声だった。

 ザインは檻から目を離し、舞台袖に立つ男を見た。それから、客の間を抜けられる場所と、出口の位置を確かめる。

 エレンの手も、斧を探して腰へ動いた。

 何もないところで止まる。工房へ預けたままだった。

「……あれ、嫌がってるわよね」

「ああ」

 檻の中で、妖精が押し戻された手を胸元へ引き寄せていた。

「芸じゃないよ、あんなの」

 サラの声が震えた。

 ザインは肩に置いた手を緩めたが、まだ離さなかった。

 妖精が顔を上げる。

 サラと目が合った。

 サラは何か声をかけようとした。

 その時、前の客が身を乗り出し、二人の間を遮った。

 背伸びをしても、もう妖精の顔は見えなかった。

 見世物が一区切りつくと、サラは興行師へ近づいた。

「あの子を、出してあげられませんか」

 男は愛想よく笑った。

「逃げてしまいますので」

「帰りたいって言ってました。あれ、芸じゃ――」

 ザインが、サラの肩へ手を置いた。

「行くぞ」

「でも」

 舞台袖にいた大柄な男が、こちらを見ていた。

 腰には棍棒を差している。

 ザインはサラを促し、出口へ向かった。

 天幕を離れたところで、サラが足を止めた。

「……置いていくの?」

「客が帰ってからだ」

 サラが顔を上げた。

 ザインは興行場の裏手へ目を向けていた。

「今、騒ぎになったら、あの檻ごとどこかへ運ばれる」

「じゃあ、夜に?」

「ああ」

 エレンが息を吐いた。

「なら、先に武器を受け取りに行きましょ」

「その前に、裏の出入りだけ見ておく」

 ザインが歩き出す。

 サラも、その後を追った。

*

 夜、興行場の灯りが一つずつ消えていった。

 最後の客が広場を離れ、入口の幕が下ろされる。

 工房から受け取ったファルシオンの鞘を押さえ、ザインは荷車の陰で待っていた。

 見回りの男が天幕の角を曲がる。

 足音が遠ざかった。

「行くぞ」

 四人は足音を抑え、中央の天幕へ向かった。

 布の隙間を抜けると、藁と湿った土の匂いがした。

 どこかで獣が動き、鎖が鳴る。

 小さな檻は、舞台裏の台に置かれていた。

 上に布が掛けられ、中から音はしなかった。

 サラが近づく。

「……いる?」

 布が動いた。

「いる」

 昼より小さな声だった。

 サラが布を上げる。

 妖精は檻の底に座っていた。

 膝を抱え、片方の羽を不自然に畳んでいる。

 サラを見た。

 次に、その後ろの三人へ目を向ける。

「あんたたち、昼間いたよね」

「うん」

 サラが頷いた。

 妖精の目が、ザインで止まった。

「ひげも」

「他に覚え方ねえのか」

「見れば分かるでしょ」

 声には、まだ棘があった。

 けれど、格子へ伸ばした手は少し震えていた。

 サラが檻の前へしゃがむ。

「助けに来たよ」

 妖精はすぐには答えなかった。

 小さな指が格子を握り直す。

「本当に、出してくれるの?」

「そのために来たんだよ」

 格子を握る指が、少し緩んだ。

「……じゃあ、早く」

「うん。今、開けるから」

*

 檻の正面には、小さな錠がついていた。

 エレンが覗き込む。

「鍵は?」

「大きい男が持ってる」

「昼間、出てきた奴か」

 エレナは横へ回っていた。

 小さな灯りを寄せ、格子の間から中を見る。

「背中を、少し見せてもらえますか」

「出してくれたら見せる」

「出すために、確かめたいんです」

 妖精は顔をしかめた。

 それでも、ゆっくり身体を動かす。

 透明に近い糸が、内側の枠へ何本も結ばれていた。

 羽の縁が、その中へ引っ掛かっている。

 格子を押そうと腕を上げると、背中の糸まで張った。

「それ以上は、動かさないでください」

「分かってる。痛いもん」

 

「最初から、こうなっていたんですか」

「違うよ。ここ、広げようとしたら引っ掛かった」

 妖精が格子を指した。

 二本の鉄棒が、途中から外へ曲がっている。

「……これ、自分で?」

 エレンが訊いた。

「開かなかったから」

 ザインは曲がった鉄と、小さな両腕を見比べた。

「小せえのに、力あるな」

「小さいのは関係ないでしょ!」

「声」

 ザインが言った。

 妖精は口を閉じた。

 閉じてから、不満そうに頬を膨らませる。

 エレナが檻の横へ手を添えた。

「こちらは外せそうです。糸も、この枠へ結ばれています」

「正面じゃないの?」

 サラが訊く。

「世話をするための口でしょう。今、開けます」

 ザインが枠へ手を掛けた。

 エレナはすぐに止めた。

「待ってください。先に糸を緩めないと、羽が引かれます」

「どこからだ」

「こちらを支えていてください」

 エレナは鞄から鋏を出した。

 妖精の背中から離れたところで、糸を一本切る。

 羽が、わずかに下がった。

 妖精が息を吐く。

 サラは檻へ手を差し入れ、ほどけた糸を持ち上げた。

「痛くない?」

「そこは大丈夫」

「こっちは?」

「待って。少し引っ張ってる」

「ごめん」

 エレンは入口を見張っていた。

 隣の天幕で、金属の弾ける音がした。

 続いて、悲鳴。

 全員が動きを止めた。

「誰か! こっちへ――!」

 声が途切れた。

 何かが床を叩き、重いものを引きずる音が続く。

 ザインは入口へ向かった。

「外を見るぞ」

「分かった」

 右の天幕が、内側から大きく膨らんでいた。

 その足元から、白い煙が這い出している。

 ザインが曲刀を抜いた。

「……あの金具か」

 布が裂けた。

 薄桃色の身体が、暗い通路へ転がり出た。

*

 ソウルサッカーは、昼間より大きく見えた。

 細い触手が地面を掻き、口が大きく開いた。

 そのすぐ前で、飼育係が倒れていた。

 片脚を引きずり、後ろへ下がろうとしている。

 しかし、怪物の触手が男の衣服を掴み、引き寄せようとしていた。

 ザインが走り、曲刀を伸びた触手へ斬りつける。

 刃がぬめる皮膚へ入り、男の服が裂けた。

「引け!」

 エレンが飼育係の襟を掴んだ。

 怪物から引き離し、後ろへ下がる。

 ソウルサッカーの口が、空を噛んだ。

 湿った音がした。

 ザインは刃を引いた。

 切ったはずの触手が、まだ動いている。

「しぶといな」

 怪物が顔を上げる。

 口元が膨らんだ。

 ザインは横へ跳んだ。

 液体が地面へ飛び散る。

 すぐ脇の木箱へ掛かり、白い煙が上がった。

「溶解液を吐くぞ! 正面に立つな!」

 エレンは飼育係を荷車の陰へ運んだ。

「立てる?」

「脚が……」

「そこにいて!」

 戻ってくる足音を聞きながら、ザインは怪物の進路へ入った。

 表通りは、天幕の間を抜けた先だった。

 このまま出せば、人のいるところへ行く。

 ソウルサッカーが、地面を這った。

 見た目に反して速い。

 ザインは横から斬った。

 胴へ刃が入る。

 だが、曲刀が抜けきる前に、尾が振られた。

 彼は刃を引き、身を沈めた。

 頭上を、湿った風が通った。

 エレンの斧が反対側から入る。

 怪物の肩口へ食い込んだ。

 身体が大きく揺れる。

 それでも、倒れない。

「何よ、こいつ!」

 斧を引き抜き、後退する。

 ソウルサッカーの口から、また液体が垂れた。

*

 中央の天幕で、サラは最後の糸を持ち上げていた。

 外から、剣と斧の音が聞こえる。

 姉の声もしている。

 妖精がそちらを見ようとする。

「あと一本です。動かないで」

 エレナが言った。

「外に何がいるの?」

「昼間、隣にいた魔物だと思います」

 鋏が糸へ入る。

 張っていたものが切れた。

 羽がゆっくりと広がる。

「取れた!」

 サラは切れた糸を引き出し、檻から手を抜いた。

 エレナが鋏をしまい、横枠の留め具へ手を伸ばす。

「では、ここを――」

「もう大丈夫」

 妖精が格子を掴んだ。

「少し離れて」

 エレナが手を引く。

 小さな両腕に力がこもった。

 鉄が軋んだ。

 横枠の留め具が弾け、格子が外へ押し開かれる。

 サラは目を丸くした。

「……開いちゃった」

「羽が引っ張られなければ、これくらい」

 妖精は開いた枠を乗り越え、一度、大きく羽ばたいた。

 風が起きた。

 サラの前髪が揺れ、目の前から小さな姿が消える。

 次の瞬間には、天幕の高いところにいた。

 妖精は一周飛び、入口へ向かった。

 そこで止まる。

 外では、ザインがソウルサッカーの尾をかわしていた。

 エレンが斧を構え、天幕から離れた場所へ誘導しようとしている。

 妖精は裂けた布の向こうを見た。

 その先には、夜空が広がっていた。

 どこへでも飛べた。

「今のうちに逃げて」

 サラが言った。

「外は危ないから、上へ――」

「槍!」

 妖精が振り向いた。

「私の槍、そこの台にある!」

 エレナは台へ目を向けた。

 丸めた布の横に、細長い木の枝が置かれている。緩く曲がった柄には節があり、鉄の穂先は見当たらなかった。

「この枝ですか?」

「それ!」

 持ち上げると、妖精が両手で受け取った。

 柄を握り直す。

 枝の先へ淡い光が集まり、細く尖った刃の形を取った。

 エレナの目が、その先端へ止まる。

「……これは」

 妖精はもう、入口へ向いていた。

 だが、飛び出す前に一度だけ振り返った。

「サラ、だっけ」

「うん」

「さっきの、ありがと!」

 小さな身体が、夜の空気へ飛び出した。

*

 ザインが半歩退いた時、頭上から声がした。

「どいて!」

 何かが、すぐ横を通った。

 槍の穂先がソウルサッカーの尾を捉える。

 ぬめる肉が裂け、尾が地面へ叩きつけられた。

 怪物の身体が横へ傾く。

 ザインは槍の主を見た。

 妖精が空中で止まっていた。

 自分の身体ほどもある槍を、軽々と引き戻す。

「……お前」

「これで、貸し一つ!」

「助けたばかりだろ」

「今度は私が助けた!」

 ソウルサッカーが動いた。

 妖精へ向けて、口が開く。

「横!」

 ザインが叫ぶより早く、妖精は飛んでいた。

 溶解液が空を切り、後ろの地面へ散った。

「当たらないよ!」

 高く上がり、怪物の背後へ回る。

 エレンが目で追った。

「速っ……」

 その間に、エレナとサラが出てきた。

 サラは弓を構えた。

 狙いを定めた瞬間、妖精が目の前を横切る。

 サラは慌てて矢先を上げた。

「勝手に飛び込むな! 矢が当たるぞ!」

 ザインが声を飛ばした。

「当たらないよ!」

「サラが撃つのをやめたんだよ」

 妖精が振り返った。

 サラは弓を引いたまま、狙い直せずにいた。

「……じゃあ、どこ?」

「左から回れ。こっちは俺が押さえる」

 妖精は少し口を尖らせたが、槍を構え直し、左へ飛んだ。

 空いた射線へ、サラが矢を放った。

 矢が口元へ突き立ち、ソウルサッカーが顔を背けた。

 エレナが怪物を見ていた。

 傷はついている。

 尾も、胴も。

 それでも、厚い身体が動くたび、傷口が肉の間へ隠れてしまう。

 口元が膨らむ。

「また、吐きます!」

 五人が散った。

 溶解液が、今度は低く飛んだ。

 エレンの足元をかすめ、草を黒く変える。

 ソウルサッカーが、そのまま前へ出る。

 吸いつくような口が、エレンの腕へ向かった。

 彼女は斧の柄を横にして押し返した。

 細い触手が柄へ絡む。

「触るな!」

 踏み込み、怪物の身体を横へ押す。

 ザインがその触手へ斬り込んだ。

 エレンが斧を取り戻す。

 柄には、ぬらぬらとした液体がついていた。

 彼女は一瞬だけ顔をしかめた。

「手入れしたばっかりなのに!」

「後で拭け!」

 ザインが返す。

 エレナが手を上げた。

 風が集まる。

《ウインドダート》

 鋭い風の刃が、怪物の身体へ走った。

 膨れた皮膚が裂け、ソウルサッカーが身を縮める。

 その動きを、サラが見た。

 口の下が、一瞬だけ伸びた。

 すぐに細い触手が寄り、その部分を覆い隠した。

「下からなら、届くかも」

 妖精がサラを見た。

「どこ?」

「あの触手の向こう。私がこっちを狙うから、反対から行ける?」

「行ける!」

 即答だった。

 サラは弓を引いた。

 左へ回った妖精が、槍を身体に沿わせる。

 今度は、まだ飛び込まなかった。

 ソウルサッカーが口を開く。

 弦が鳴った。

 矢が右肩へ突き立ち、怪物の顔がそちらへ振れる。

 その横へ、エレンが踏み込んだ。

「こっちも、いるのよ!」

 腰を捻り、斧を叩き込む。

 膨れた胴が傾き、地面を支えていた触手が潰れた。口元を庇っていた触手まで、体勢を戻そうと外へ広がる。

 サラには、その隙間が見えた。

「今!」

 妖精が飛んだ。

 羽ばたきが土埃を巻き上げる。

 地面すれすれを駆け抜けた小さな身体が、怪物の懐で跳ね上がった。

《チャージ》

 穂先が、口の下を捉えた。

 飛翔の勢いを乗せた槍が深々と突き入り、怪物の頭を下から突き上げる。

 巨体がのけぞった。

 妖精は柄を捻って槍を抜き、翼を広げた。勢いを殺しきれず、そのまま怪物の脇を飛び抜ける。

 一拍遅れて、ソウルサッカーが地面へ崩れ落ちた。

 重い音が響いた。

 土埃の中で、長い尾が一度跳ねた。

 妖精は空中で向き直り、槍を構えた。

 ザインも曲刀を下ろさない。

 まだ、触手が地面を掻いていた。

 その動きが次第に鈍り、やがて止まる。

 開いた口から、最後の雫が落ちた。

 エレンが長く息を吐く。

「……何で、こんなの見世物にしてるのよ」

 ザインは倒れた怪物を確かめてから曲刀を下ろし、妖精を見た。

「今のは、よかった」

「ちゃんと待ったでしょ!」

 妖精が胸を張った。

「ああ。あれなら、こっちも合わせられる」

 妖精はサラへ向き直った。

「あそこ、よく見えたね」

「一瞬だけだったけど」

「私には見えなかった。次も教えて」

 サラは少し驚き、それから弓を下ろした。

「うん」

 妖精が笑う。

 サラも、笑い返した。

 広場の方から、灯りが近づいてきた。

 騒ぎを聞きつけた夜警だった。

 興行の者たちも集まってくる。

 飼育係は荷車の陰に座っていた。

 エレナが脚を確かめ、サラが水を運ぶ。

「触られましたか」

「服だけだ……引っ張られて、捻った」

「では、まず動かさずに」

 興行師が、倒れたソウルサッカーを見ていた。

 その目が、頭上の妖精へ向く。

「こいつらが、勝手に――」

「俺、言いましたよね」

 飼育係の声がした。

 男は顔を上げていた。

「留め具、替えないと駄目だって。昨日も、今日も」

 興行師の口が止まった。

 夜警が二人を見比べ、次にザインたちへ目を向けた。

「話を聞かせてもらおうか」

 ザインは曲刀の血を拭った。

 鞘へ戻してから、頷く。

「長くなるぞ」

 妖精がザインの肩の後ろへ下がった。

「また、檻?」

「ならねえように話すんだ。お前も喋れ」

「喋っていいの?」

「自分の話だろ」

 妖精は彼を見た。

 それから、夜警の前へ飛んだ。

「私、果物を食べたら眠くなって、起きたら閉じ込められてた!」

 夜警は妖精へ向き直った。

「誰に、その果物をもらった?」

「知らない男。森に来たの」

「待ってください。それは我々が――」

 口を挟んだ興行師を、夜警が手で制した。

「あんたの話も後で聞く。今は、この子からだ」

 妖精は口を閉じ、夜警の顔を見た。

「続けてくれ」

 今度は、ザインを振り返らなかった。

 小さな手で身振りを交えながら、檻に入れられるまでのことを話し始めた。

 次に四人も順に事情を聞かれた。

 宿の名を伝え、翌日も話を聞くと言われて、ようやく帰ることを許された。

*

 宿へ戻った時には、夜もずいぶん更けていた。

 エレンとサラは、その夜はエレナの部屋へ泊まることにした。

 遅くなると伝える使いは、夕方のうちにトーマスの親戚宅へ頼んであった。

 妖精は宿の窓へ飛ぼうとして、ザインに呼び止められた。

「羽、見せろ」

「何で」

「糸が残ってねえか、見てもらえ」

「飛べたよ」

「飛んだから、もう一回見るんだ」

 妖精は不満そうにしたが、エレナの方へ戻った。

 部屋に灯りをつける。

 エレナが椅子へ座ると、妖精は卓の上へ降りた。

 片方ずつ羽を広げる。

 サラが灯りを持ち、エレンは窓を閉めた。

「こちらに、一本だけ」

 エレナは羽の端へ残った糸を、指先でそっと外した。

 妖精は身じろぎしなかった。

「傷は少し擦れた程度ですね。今夜は休んでください」

「もう治ったよ」

「治ったかどうかは、明日見ましょう」

「……はーい」

 妖精はエレナを見て、羽を畳んだ。

 エレナは、卓へ立てかけられた枝を見た。

 先ほどの刃は、もう消えている。

「その槍、どこで手に入れたんですか」

「森。いい枝だったから、持ってた」

「最初から、刃が出たのですか?」

「最初は出なかったよ。刺そうと思ったら、出た」

 エレナは少し黙った。

「……ウィルスピア。記録にある槍と、特徴が似ています」

「そういう名前なんだ」

「知らずに使っていたんですか」

「刺せるから、槍でしょ?」

 サラが水を入れた小さな器を置く。

「飲める?」

「飲める」

 両手で持ち、少しずつ飲んだ。

 エレンは寝台の端へ座った。

「あんた、あんなに速いのに、寝てるところを捕まったのね」

「寝てる時は、飛ばないもん」

「まあ、そうだけど」

「起きてたら、捕まらなかった!」

「分かったわよ」

 ザインは戸口にもたれていた。

「次から、知らねえ奴の食い物を食うな」

「あんたたちは、もう知ってるよ」

 妖精が空の器を持ち上げた。

「これには、薬なんか入れないでしょ」

 ザインは一瞬黙った。

「……入れねえよ」

「じゃあ、大丈夫」

 サラが小さく笑った。

 ザインは四人を見た後、戸を開けた。

「寝ろ。明日、どうするか考える」

「ひげは、隣?」

「俺の名前はザインだ」

 戸が閉まる。

 妖精は器の縁を撫でていた。

 しばらくして、小さく言った。

「……ありがと」

 サラが顔を上げた。

 エレナも、手を止める。

「糸、痛かったから」

 サラは隣へ椅子を寄せた。

「取れてよかったね」

 妖精は一度頷いた。

 今度は、何も言い返さなかった。

*

 翌朝、ザインが宿の食堂へ下りると、自分の皿からパンが浮き上がった。

 いや、パンを抱えた妖精が飛んでいた。

 卓の向かいでは、エレンが肩を震わせている。

 サラは困った顔で、別のパンを差し出しかけていた。

「それ、俺のだぞ」

 妖精が空中で止まった。

「ちょっとだけ」

「自分のを食え」

「こっちは何が挟まってるの?」

「見るな」

「肉だ」

 嬉しそうな声だった。

 ザインは皿を引き寄せた。

 妖精も、パンを抱えたまま近づいてくる。

「離せ」

「一口」

「先に聞け」

 妖精はサラのパンを見た。

 少し考え、そちらへ移る。

 ザインのパンが戻ってきた。

 端が、一口分なくなっていた。

 エレンがとうとう笑い出した。

「もう食べてるじゃない!」

「戻したよ」

「そういう話じゃねえ」

 エレナは茶を飲んでいた。

 妖精がそちらへ飛ぶ。

「それ、苦い?」

「少し。飲んでみますか」

「やめとく」

「賢明ですね」

 ザインは椅子へ座った。

 妖精はサラの隣へ降り、パンを食べ始めた。

 昨夜より羽がよく動いている。

「家へは、帰れそう?」

 サラが訊いた。

「帰れるよ」

「どこなの?」

「南の森」

「アケの方ですか」

 エレナが訊くと、妖精は顔を上げた。

「川のそばに、人間の家があるとこ?」

「おそらく、そこです」

「その奥!」

 エレナは手帳から地図を取り出した。

 妖精がパンを抱えたまま、紙の上へ降りようとする。

「待ってください」

「何?」

「足に、蜜が」

「あ」

 サラが布を渡した。

 妖精は足を拭き、今度は地図の横へ降りる。

 エレナが南方を指した。

「アケの南にあるこちらの森でしょうか」

「その川、こんな曲がり方じゃないよ」

「そうなのですか?」

「途中で二つに分かれる。片方は、上から落ちてくる」

「滝ですね」

 エレナが別の紙へ書き始めた。

 妖精は地図を覗き込む。

「そこから先は、木がいっぱい」

「それは分かるわ」

 エレンが言った。

「上を飛べば、すぐ分かるよ」

「私たちは飛べないの」

「……そうだった」

 妖精が四人を見回す。

 ザインはパンを食べながら言った。

「昨日、帰り道一緒に歩いたろ」

「遅かった」

「お前に合わせたら、走りっぱなしだ」

「じゃあ、途中で休めば?」

「そういうことじゃないでしょ」

 エレンに返され、妖精は槍を肩へ担いだ。

「でも、案内はできるよ」

「人が歩く道も?」

 サラが訊く。

「歩けるところを通ればいいんでしょ」

「そうだけど」

「じゃあ、できる」

 エレナが顔を上げた。

「ご一緒しても構いませんか」

「森に?」

「はい。妖精の暮らす場所を、見てみたいんです」

「来るの?」

「迷惑でなければ」

 妖精は彼女の顔を見た。

 次に、エレンとサラを見る。

「暑いよ」

「今から、そんなに?」

「虫もいる」

「シノンにもいたよ」

 サラが言った。

「大きいよ」

「どのくらい?」

「これくらい」

 妖精が両腕を広げた。

 サラの笑みが、少しだけ止まる。

 エレンが横から訊いた。

「話を盛ってない?」

「いるもん」

「……いるのね」

「いる」

 エレナは筆を止めた。

「森の様子は、以前と変わっていませんか」

「何が?」

「魔物が増えたり、住む場所を変えたり。こちらへ来る途中で、気になることがありましたので」

 妖精の羽が止まった。

 パンを置く。

 少し考えた。

「……最近、奥が暑い」

「暑い?」

「火のあるところは、前からあったよ。でも、前より広い」

「火事?」

 サラが訊く。

 妖精は首を振った。

「燃えてる場所だけじゃない。近くの木が元気なくなったり、知らないのが歩いてたり」

「魔物か」

 ザインが訊く。

「たぶん。前はいなかった、大きいの」

 エレナとザインの目が合った。

 魔物の移動。

 ランスでも話したことだった。

 ただ、遠い南の森で起きていることまで、同じ原因とは限らない。

 エレナは地図へ目を戻した。

「まず、アケで話を聞きたいですね」

「森へ行く前にか」

「ええ。こちらの地図も古いですし、道を確かめておきたいです」

 ザインは妖精を見た。

「お前は、その森へ帰るんだな」

「うん」

「なら、途中までは同じだ」

 エレンが彼の顔を覗き込む。

「あんたも行くの?」

「森の話が気になる。案内がいるうちに見ておく」

 ザインは妖精の槍へ目を向けた。

「それに、昨日の動きだ。この速さに合わせて戦えりゃ、やれることが増える」

「私、強いでしょ!」

 妖精が飛び上がる。

 ザインは顔を上げたまま答えた。

「だから、勝手に飛び込むな」

「サラが言った時は、待ったよ」

「毎回そうしろ」

「じゃあ、毎回ちゃんと言って」

 ザインは少し黙った。

 それから頷く。

「ああ」

 サラが妖精を見ていた。

 目が合うと、妖精が笑った。

「また、昨日のやつできるね」

「うん。でも、あんな魔物ばかりじゃないといいな」

「もっと大きいのもいるよ」

「……いるんだ」

 エレンが立ち上がった。

「まず、船でしょ。出る日を聞かないと」

 エレンが立ち上がった。

「その前に、夜警の詰所だ。昨日の話を済ませる」

 ザインが言った。

「そうだったわね」

 妖精は窓へ飛んだ。

「早く行こう!」

 ザインが皿を見下ろす。

「まだ食ってる」

「食べながら歩けば?」

「お前じゃねえんだ」

 妖精は窓枠へ座り、足を揺らした。

 外の通りを見て、すぐに振り返る。

「ねえ」

「何よ」

 エレンが答えた。

「港って、どっち?」

 エレンは右を見て、左を見た。

 どちらにも指を向けなかった。

 サラが笑い、席を立つ。

「私たちが案内するよ」

「じゃあ、お願い!」

 妖精は窓から戻ってきた。

 サラの肩のすぐ上で止まる。

 エレナが地図を畳む。ザインは残ったパンを食べ、勘定を確かめた。

 最後に、卓の上の小さな器へ目を落とす。

 妖精の皿から、木の実が一つ分けてあった。

「これは?」

 ザインが訊いた。

 妖精が振り返る。

「さっきの分」

「一口、食ったやつか」

「それ、美味しかったから」

 ザインは木の実を見た。

 妖精へ目を戻す。

「……次は、先に聞け」

「分かった!」

 今度は素直な返事だった。

 エレンが戸を開け、サラが通りへ出た。

 妖精も飛び出しかけ、入口のところで止まる。

 振り返って、待っていた。

 ザインは木の実を口へ放り込み、荷袋を肩へ掛けた。

「行くぞ」

 妖精の羽が、朝の光を受けた。

 

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