Romancing SaGa 3 — Destinies Unbound — 作:水城 雅
アウナスは壇上から動かなかった。
太い腕が、金色の装飾を施した大鎌を持ち上げる。
「まだ帰る場所があると思っているのか」
牙ののぞく口から、低い声が響いた。
ザインは答えず、背後の入口を確かめた。
廊下から噴き上がった炎が、細くなっていた。
石床が見える。通れない距離ではない。
「下がるぞ。背は向けるな」
五人が後退する。
大鎌が横へ振られた。
「伏せろ!」
炎が石床を走り、入口の手前で弾けた。
エレナがサラの肩を引き、石柱の陰へ入れる。熱風が吹き抜け、床に残った火が揺れた。
やがて、その炎も薄れた。
入口を塞いでいた火は消えている。
ザインがそちらへ足をずらす。
大鎌の切っ先も動いた。
「……逃がす気はないってわけね」
エレンが斧を握り直した。
「ああ。一度、止める」
ザインが先頭へ出る。
その後ろにエレン。左右へミアとエレナが開き、サラが矢をつがえた。
アウナスの身体が、壇上から滑るように降りてきた。
次の瞬間、大鎌が来た。
遠かったはずの刃が、目の前にある。
ザインは身を沈めた。頭上を熱風が通り、背後の柱から石片が飛ぶ。
外套の端に火がついた。
留め具を外し、肩から落とす。
燃える布の向こうから、鎌の柄が迫った。
曲刀を斜めに当てた。
重い。だが、止める必要はなかった。
刃を滑らせながら横へ抜け、相手の腕が伸びきったところで踏みとどまる。
「今だ!」
ミアが左から飛び込んだ。
槍の穂先が、アウナスの脇腹へ伸びる。
大鎌の柄が戻った。
穂先を打ち払われる直前、ミアは槍を引き、身体をひねって上へ逃れる。
その下へ、エレンが入った。
斧が長い脚の付け根を捉えた。
硬い手応え。刃が滑る。
それでも、浮いていた身体が横へ傾いた。
「動いた!」
エレンが斧を引き戻す。
アウナスの顔が彼女へ向いた。
弦が鳴った。
サラの矢が、鎌を握る手へ飛ぶ。
アウナスは腕を引き、柄で弾いた。
その間に、ザインは懐へ入っていた。
《デミルーン》
曲刀が弧を描く。
厚い胸板を、斜めに斬り上げた。
刃は通った。
黒い傷が開き、アウナスの上体が揺れる。
次いで、傷口から炎が噴いた。
「っ……!」
曲刀を持つ腕が、熱に包まれた。
ザインは後ろへ跳ぶ。右袖が燃え、皮膚に鋭い痛みが走った。
エレンが彼の肩を引いた。
直後、二人のいた場所へ鎌の切っ先が落ちる。
石床が砕けた。
ザインは左手で袖の火を払い、曲刀を握り直した。
指は動く。
まだ、握れる。
アウナスの胸には、斜めの傷が残っていた。
その縁を、細い炎が舐めている。
「……人の刃が、ここまで届くか」
先ほどまでと違い、鎌を両手で握っていた。
ミアがザインの横へ戻る。
「斬れたよね?」
「ああ。だが、斬ったところから火が返る」
「じゃあ、刺したらすぐ離れれば――」
「今の俺より早くな」
ミアは焼けた袖を見た。
槍を握る手に、力が入る。
後ろで、再び弦が鳴った。
サラの矢が胸の傷へ向かう。
アウナスは大鎌を傾けて弾いた。
サラは次をつがえていた。
今度は、鎌を持つ手首。
アウナスが腕を引く。
矢はその指をかすめ、奥の壁へ突き立った。
吊り上がった目が、サラを捉えた。
その奥で赤いものが揺れる。
大鎌の動きが、一瞬止まった。
「……お前は」
サラの指が止まった。
草地を走ってきた人虎。前に立つ者を無視して、こちらへ向かってきた黄色い目。
あの時と似た、嫌な感覚があった。
「サラ」
ザインは振り返っていなかった。
「手を止めるな」
サラは息を吸った。
矢を一本抜き、弦へ掛け直す。
「……うん」
大鎌が振られた。
五人は左右へ散った。
石床を走った炎が柱へぶつかり、その両側へ広がる。
エレンは柱の陰へ滑り込み、足元まで来た火を避けて一歩退いた。
「さっきより広くない!?」
「固まるな!」
ザインが声を飛ばす。
ミアは既に別の柱へ移っていた。
アウナスは追ってこなかった。
中央に浮いたまま、鎌をゆっくりと戻す。
胸の傷は残っている。
だが、腕の動きは鈍っていなかった。
ザインは息を整えた。
右腕が脈打つたび、袖の下が痛む。
相手を見ていれば、鎌はかわせる。
踏み込めば、刃も届く。
そのたびに、こちらだけが焼かれていく。
「ザイン」
柱の向こうから、エレナが呼んだ。
彼女はアウナスの手元を見ていた。
「鎌を大きく振った後、持ち直すまでに間があります」
「懐へ入るか」
「あなたが鎌を引きつけてください。エレンが押さえたところで、私が手を狙います」
ザインは頷いた。
その後ろで、サラが矢をつがえる。
ザインが柱から出た。
アウナスの顔が向く。
曲刀を低く構え、間合いへ入る。
大鎌が横から来た。
今度は、さらに半歩近づいた。
刃の内側へ潜り、柄を曲刀で押し上げる。
「エレン!」
右から斧が走った。
アウナスは鎌を引き戻し、柄で受けた。
金属が鳴る。
エレンの足が床を擦った。
それでも退かず、腰を入れて押し込む。
「重いのは、こっちもよ!」
柄が横へ流れた。
エレナが踏み込む。
《星穿ち》
細い切っ先が、鎌を握る指の間へ入った。
突き抜けるより早く引き、斜め後ろへ身をかわす。
炎が噴いた。
頬が熱い。
こめかみの髪が焦げた。
だが、指は開いていた。
大鎌の片側が下がる。
「ミア!」
サラが呼んだ。
ミアは槍を構えたまま、アウナスの手元を見ていた。
アウナスの空いた手が、彼女へ伸びる。
サラが放った矢が、その腕へ突き立った。
ミアが消えた。
《チャージ》
低く飛び込んだ槍が、胸の傷の下へ突き刺さる。
小さな身体ごとぶつけた一撃に、アウナスが押し戻された。
浮いていた巨体がわずかに沈み、尖った足先が初めて石床を掻いた。
ミアは穂先を引き抜いた。
羽を打ち、真横へ飛ぶ。
炎が追った。
槍の柄が熱くなる。
手を離しそうになりながらも抱え込み、柱の陰へ飛び込んだ。
その向こうで、アウナスの大鎌が床を叩いた。
火が円を描いて広がる。
「下がれ!」
ザインがエレンの腕を引く。
エレナも柱へ戻った。
炎が足元をかすめ、焦げた革の匂いが立った。
ミアが柱の上から顔を出す。
「刺した!」
「見えた! 戻ってこい!」
ザインが答えた。
アウナスは、壇の手前まで押し戻されていた。
胸には二つの傷がある。
刺さった矢を引き抜くと、指の間で焼き捨てた。
笑ってはいなかった。
「……羽虫が」
ミアは言い返しかけた。
だが、鎌が持ち上がるのを見て、すぐに柱の裏へ戻った。
炎が頭上を抜けた。
石の表面が弾け、髪へ細かな破片が落ちてくる。
ミアは槍を抱え直した。
掌が赤くなっていた。
ザインは柱へ背を預けた。
息を吸うと、喉の奥が熱い。
五人で押し込めた。
あの鎌を外し、傷も負わせた。
もう一度、同じようにできるか。
右手を握る。
指が震えた。
柱の向こうでは、エレンが斧を持ち替えていた。エレナも頬の汗を拭い、呼吸を整えている。
サラは残った矢を指で確かめていた。
一方、アウナスの鎌には、また炎が集まっていた。
「出るぞ」
ザインが言った。
エレンが彼を見る。
「もう一度、合わせれば――」
「その次は?」
エレンは口を閉じた。
ザインが右手を持ち上げる。
焦げた袖の下で、皮膚が赤く腫れていた。
「こっちが先に振れなくなる」
「……分かった」
エレンは入口へ目を向けた。
その時、柱の脇から鎌が来た。
ザインがエレンを押し出し、反対へ跳ぶ。
肩をかすめた刃が、柱の縁を削った。
着地した先に、床を這う火があった。
足を止めたところへ、鎌の柄が迫る。
「こちらです!」
エレナが横から踏み込んだ。
細剣が、先ほど傷つけた手へ伸びる。
アウナスが指を引いた。
鎌の軌道がずれる。
ザインは身を屈め、その下を抜けた。
エレナへ刃が返る。
矢が飛び、アウナスの顔のすぐ横をかすめた。
エレナはその一瞬で退いていた。
ザインとともに、入口に近い柱へ滑り込む。
「助かった」
「貸しにしておきます」
「ああ」
いつものようには返せなかった。
エレナの視線が、彼の右腕へ落ちる。
「腕を」
「外へ出てからだ」
ザインは入口を見た。
柱を二本越えれば届く。
だが、走り出せば、あの鎌が追ってくる。
「出口へ火を飛ばされると厄介だな」
「ええ。ただ、鎌から放つ炎は、振った方向へ走っています」
エレナは砕けた柱と、その向こうの壁を見た。
「こちらとは別の方へ撃たせれば、抜けられます」
「一振り、無駄にさせるか」
「次を振る前に」
ザインは短く頷いた。
「エレンたちを先に出す。俺が引きつける」
「私とサラで援護します」
「頼む」
ミアは柱の高いところで、槍を握っていた。
アウナスの胸には、まだ傷がある。
自分の槍が開けた穴だった。
押し戻せた。
鎌も、止められた。
あと一度、皆で合わせれば。
そう思うのに、下の四人は入口へ近づいていた。
村の南で枯れていた花が浮かぶ。
いつも実を採りに行っていた場所へ、もう行くなと伝えた。
ここから帰ったら、あの水はどうなる。
ミアは槍を握り直した。
熱くなった柄が掌に擦れ、顔をしかめる。
「ミア!」
ザインが呼んだ。
「エレンと先に出ろ!」
ミアは彼を見た。
曲刀を持つ腕が、赤く焼けていた。
唇を噛む。
「……分かった!」
柱から離れ、入口へ向きを変えた。
アウナスの顔が上がる。
大鎌の刃先が、彼女を追った。
「ミア、横だ!」
ザインの声と同時に、羽を打った。
さっきまでいた場所を、炎が貫く。
かわした。
そう思った直後、羽の端が熱くなった。
身体が傾く。
もう一度、羽ばたこうとする。
片側だけが空を掻いた。
柱が迫る。
ミアは槍を突き出した。
穂先が石へ当たり、滑る。身体は柱から離れたが、そのまま下へ落ちていく。
「ミア!」
床へ叩きつけられる寸前、エレンが受け止めた。
勢いに押され、二人で膝をつく。
「掴まって!」
ミアはエレンの肩を握った。
背中へ目を向ける。
羽の片側が縮れ、うまく開かない。
「……避けたのに」
「話は後!」
エレンが立ち上がる。
「ザイン!」
「そのまま行け! サラもだ!」
「分かった!」
サラは弓を構えたまま後退した。
エレンがミアを抱えて、戸口を抜ける。
アウナスの鎌が、入口へ向いた。
ザインが柱から出た。
《デミルーン》
斜めから放った斬撃が、大鎌の柄を打つ。
刃先が上がり、炎が戸口の上を削った。
右腕に痛みが走った。
曲刀を落としかけ、握り直す。
アウナスの顔が彼へ向く。
「まだ立つか」
「お前が邪魔でな」
ザインは横へ動いた。
アウナスと入口を結ぶ線から外れ、柱の間へ入る。
大鎌が追ってきた。
刃に炎が集まる。
ザインは足を止めた。
背後には柱がある。
入口は、左斜め後ろだった。
「サラ!」
戸口から矢が飛んだ。
狙いは、傷ついた方の手。
アウナスが鎌を引き、矢を弾く。
その動きに合わせ、ザインは踏み込むふりをした。
大鎌が振り下ろされた。
ザインは左へ跳んだ。
鎌が石床を割り、炎が柱へぶつかる。
砕けた石が背中を叩いた。
「今です!」
エレナが叫んだ。
ザインは身を起こし、入口へ走る。
アウナスが鎌を持ち上げかけた。
その手へ、もう一本の矢が向かう。
腕が引かれた。
それだけでよかった。
「逃げた先にも、我が炎は届くぞ」
背後から声が来た。
ザインは振り返らず、戸口へ駆け込んだ。
脇で待っていたエレナが、彼の通過を確かめて走り出す。
前にはサラ。その先を、ミアを抱えたエレンが走っていた。
「止まらないで!」
エレナの声に重なって、広間で炎が噴き上がった。
戸口から熱風が吹き出し、四人の背を押す。
通路の先が、左右に分かれていた。
エレンが右へ向かいかける。
「左です! 中庭へ戻って!」
エレンが足を踏み替え、角を曲がる。サラが続き、ザインも肩を壁へぶつけながら走り抜けた。
最後にエレナが曲がった直後、炎が背後の壁を叩いた。
石片と熱風が、通路へ吹き込む。
その先で、サラが足を止めた。
中庭の水槽のそばに、二つの影がいた。
一頭が鼻先を上げ、こちらへ向き直る。
「作業室へ! 外へ出られます!」
エレナが脇の入口を指した。
サラの矢が、近づいてきた魔物の前脚へ刺さる。
「お姉ちゃん、先に!」
エレンはミアを抱え直し、作業室へ飛び込んだ。
三人も続く。錆びた工具の並ぶ壁を抜けると、外の光が見えた。
城壁沿いの足場へ出た。
熱い風が顔に当たる。それでも、息が吸えた。
「石段を下りて! 川沿いを上れば、橋に出る!」
エレンの肩で、ミアが叫んだ。
背後で何かが崩れる。
五人は振り返らず、斜面を下った。
*
川を渡るための縄は、まだ残っていた。
エレンはミアを抱え直し、橋の足場を確かめた。
縄を握り、先に対岸へ渡る。
サラが続く。
次にエレナ。
ザインは曲刀を鞘へ収め、左手で縄を握った。
足元の石が、少し崩れた。
熱い水が隙間を流れている。
「こっち見て!」
エレンが声を張った。
ザインは対岸を見た。
彼女が縄を張っている。
一歩、足を出す。
もう一歩。
岸へ上がった時、膝が落ちた。
エレンが腕を掴む。
エレナも肩を支えた。
「……着いたぞ」
「見れば分かるわよ」
エレンの声が、少し掠れていた。
サラは森の方を見ていた。
矢をつがえた弓が、手にある。
追ってくるものはなかった。
木の間を、赤い蝶が飛んでいった。
*
水音が遠ざかるまで歩き、岩陰でようやく足を止めた。
ザインは木の根へ座った。
腰の曲刀を鞘ごと外そうとして、右手から滑らせる。
地面へ落ちる前に、エレンが受け止めた。
何も言わず、彼の横へ置く。
エレナは水袋を開けた。
焼けた腕へ、少しずつ水を流す。
ザインの肩が強張った。
「我慢してください」
「してる」
「ええ。分かっています」
布が皮膚に貼りついているところは、そのままにした。
露出した傷の上へ手をかざす。
淡い光が揺れた。
すぐには塞がらない。
エレナの額から、汗が落ちた。
「……痛みを抑えるところまでです。今日は、もう剣を振らないでください」
「振れる腕が残れば、十分だ」
彼女は返事をせず、布を巻いた。
隣では、サラがミアの羽を見ていた。
縮れた縁へ、指を近づける。
「触っても大丈夫?」
「そこは、痛い」
「じゃあ、触らないでおくね」
「……うん」
サラは無事な方の羽も確かめ、それ以上は触れなかった。
エレンが水を差し出す。
「飲める?」
「飲める」
ミアは両手で受け取った。
少し飲んで、膝へ置く。
「南の川、まだ熱いままだよね」
誰も、すぐには答えなかった。
木々の向こうから風が来た。
熱を含んだ、嫌な風だった。
「うん」
サラが言った。
「止められなかった」
ミアは水袋を見た。
「……あいつ、どうしたら倒せるんだろ」
ザインが顔を上げた。
最初の一撃。
斬った直後に返ってきた炎。
五人で押し込み、石床を掻かせた長い脚。
刃は届いた。
ミアの槍も、深く入っていた。
それでも、鎌は止まらなかった。
「まず、あの火だな」
ザインは巻かれた布へ目を落とした。
「こっちが斬るたび焼かれてたんじゃ、先に潰れる」
「刺したら、すぐ離れたよ」
「見てた。よく入れた」
ミアが顔を上げる。
「……でも、倒れなかった」
「ああ」
ザインは否定しなかった。
エレンが、木の根へ斧を立てかけた。
「押せたから、もう一度いけると思った」
「俺もだ。だが、あいつの鎌は鈍らなかった」
ザインは右手の指を動かし、途中で止めた。
「こっちは、一度斬るだけでこれだ」
エレンは巻かれた布を見た。
「……あの火を何とかしないと、続かないわね」
「ああ」
エレナが布の端を留めた。
「ランスで聞いた話を、もう一度確かめる必要があります」
「ヨハンネスに?」
エレンが訊く。
「ええ。あの方が何を根拠に異変を察知したのか。それに、昔の人たちが、どうやってあれと戦ったのか」
ミアが顔を上げた。
「また来る?」
エレナは彼女を見た。
「来られるように、調べます」
「すぐじゃないんだ」
「今、戻っても同じです」
ミアは唇を噛んだ。
サラが、その横へ座り直した。
「先に、村の皆に話そう」
「何を?」
「水がもっと熱くなるかもしれないこと。魔物も増えてること。それから……しばらく使わない方がいい場所」
ミアは森へ目を向けた。
西の泉。
北の木の実。
風の通らない、幹の裏側。
「小さい子たち、南の枝で寝てる」
「場所、変えられる?」
「空いてる家はある」
今度は、はっきり答えた。
「あと、昨日の水場。もう行かない方がいい」
「うん」
「私が言わないと。また遊びに行く」
ミアは立ち上がった。
羽を動かしかけ、顔をしかめる。
エレンが隣へしゃがんだ。
「乗って」
「歩けるって」
「村まで、歩いてどのくらい?」
「……ちょっと遠い」
「じゃあ、乗って」
ミアは少し迷ってから、彼女の肩へ掴まった。
ザインも立とうとした。
エレナが先に腕を取る。
「一人で立てる」
「立ってから言ってください」
エレンが小さく笑った。
サラは荷物をまとめた。
最後に鞘へ収まった曲刀を拾い、ザインの左手へ渡した。
彼は受け取り、腰へ戻した。
右手は添えなかった。
森の中へ戻る。
先頭を歩くエレンの肩で、ミアが顔を上げた。
「その先、右」
「こっち?」
「うん。坂はあるけど、川から離れる」
エレンが道を変える。
サラが続き、エレナとザインも、その後を追った。
ミアは枝の先を見ていた。
まだ緑の葉がある。
鳥の声も聞こえる。
村までは、帰れる。
「次の根は、左から回って」
今度は、後ろの二人にも届く声で言った。