俺の名は
念願の教師になることも決まりあとは配属先の通達を待つだけだ。これから始まる教師としての人生を考えるととても楽しみなものだ。
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2015年2月上旬のある日の夜、教育委員会からの連絡が来た、この時期に来る連絡は県外の学校の配属になるらしい、一体どこの学校だろうか…
〇〇県の旭丘分校、東京から新幹線を使っても6時間はかかるほど遠い村にある分校だ。
「2種を取って正解だったな…普通は県内の学校の配属になるはずだが、引っ越しの準備も進めなければならないな…ん?」
携帯電話が鳴る、こんな時間に誰だろうか、開いた携帯には見覚えのある電話番号が映し出されていた。
「この番号は…もしもしおじさん、久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだな悠」
「どうしたんですか?こんな時間に」
「お前に伝えておくことがある、4月から県外に赴任することになってな、八十稲羽から離れることになった」
愛する八十稲羽のために警官になったほどのおじさんが赴任しなければならないとは、余程のことがあったのだろうか。
「どこに赴任することになったんですか?」
「あぁ、旭丘っていう村で新米の駐在の面倒を見ることになってな」
まさかの俺の配属先の分校がある村と同じ。こんな偶然が存在するものなのだろうか。
「俺の配属先の分校と同じ村じゃないですか、こんな偶然もあるものなんですね」
「なに?お前教師になるとは言ってたが、まさか同じ村に行くことになるなんてな」
俺にとってもおじさんにとっても意外でしかない。
「菜々子もお前の働くの分校に通うことになるだろ。ハハッ、まさか菜々子に勉強を教えていたお前が今度は教師と生徒として勉強を教えるとはな」
「引っ越しもこれからだろ?俺達が引っ越す家でまた一緒に暮らさないか?」
「いいんですか!?お言葉に甘えさせてもらいます!」
引っ越しの問題は解決できそうだ。少し安心できる。
「引っ越しについてはまた話そう、積もる話はあるが、一旦切るぞ」
「はい、おやすみなさい」
これからはまたおじさんと菜々子と一緒に暮らせるのか…4年前の思い出が駆け巡る、楽しいことも大変なこともたくさんあったが、俺にとって一生忘れることのない大切な思い出だ。いままでのこと、これからのことを考えると嬉しい限りだ。
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2015年3月29日(日)午前
俺は既に引っ越しの準備を終えており、後は家に向かうだけだ。しかしおじさんたちの準備に時間がかかっており、到着するまで数日遅れるそうだ。そして引っ越しの荷物の受け取りなどをするため、俺は先に家に向かうために電車に乗っていた。
「小川町駅まであと1時間半…あともう少しだな」
ここまででもかなりの時間を電車で過ごしたがまだまだ遠いようだ、仮眠をとるか…
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ふと目が覚めると俺は霧の中にいた。全てが始まったあの時と似た夢を見ているのだろうか、とりあえず前に進むことにした。
霧が濃くなっていく、足元どころか手元すら見えない。ただ先には炎のような光が刺していた。
「くそっ、どこまで進めばいいんだ」
でも少しずつ光に近づいてきてるように見える。後少しだろうか、近づくたびに誰かの声が聞こえ、次第に鮮明に聞こえてくる。
「お前に私を見つけることも捕まえることもできない」
その一言だけはっきりと聞こえ、光は消えてしまった。それと同時に俺も目を覚ます。
「なぜあの時のような夢が…それにしても短いようで長い夢だったな」
どうやら夢を見ている間に小川町駅にたどり着いていた。ひとまず電車から出よう。
「ここが旭丘、新しい俺の始まりの場所か…」
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2015年3月29日(日)正午、俺は田舎に来た。どこを見てもザ・田舎のような雰囲気で、片田舎だった八十稲羽の比にならないほどだ。
「とりあえず家に向かうか」
俺達が引っ越すことになる家はここから数十分歩いた先にある住宅地の一軒家だ。俺は早速向かうことにした。
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数十分後
「ようやく着いた、先にご近所さんへ挨拶ぐらいはしておかないとな」
住宅地とは言っても比較的最近に作られた家が3軒しかない。あとは舗装された道と畑が広がっているだけだ。
洋風な黄色い屋根の2階建て、建てられてから数年ほどしかなのだろうか。呼び鈴を押しても誰もいないし、庭には車どころか生活感を感じる物すらない。どうやら空き家のようだ…
もう一軒の家には車やバイクが置いてある、誰か暮らしているようだな。しかし呼び鈴を押しても反応がない。仕方がない、今日のところは帰るか…
「悠?悠なのか!?」
毎日のように聞いてきた懐かしい声が聞こえる、俺の後ろには茶髪で首にヘッドホンを掛けた男、かつて八十稲羽の1年を共に戦ってきた相棒、
「陽介!なぜここに!?」
「それはこっちのセリフだぜ!悠こそなんでここにいるんだ?とにかく上がれよ、クマもいるぜ!」
クマ、テレビの中で出会った着ぐるみのような不思議な生き物だ。クマもまた最初から最後まで共に戦ってきた仲間である。本当に今日は懐かしいことばかりだな。とりあえず陽介の家に上がることにした。
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居間にはせんべいを齧りながら横になりテレビを見ているクマがいた。
「ヨ、ヨースケ!クマ、お恥ずかしいとこ見られちゃったクマ!もうおヨメにいけないクマ!」
「お前のそれはいつもと同じだし、そもそもお前はオスだろうがっ!それより客来てるっての!」
「クンクン、この匂いはセンセイ!どうしてここに?クマをおヨメにもらいに来たクマ!?」
「いや、教員免許を取ってな、4月からこの村の分校で教師をすることになったからこの家の隣に引っ越してきたんだ」
「センセイ、ホントーに先生になっちゃったんクマ?クマたちはヨースケがダメダメだからこんなとこに飛ばされちゃったクマ!」
「聞き分けの悪いことを言うな!転勤したんだよ、40キロぐらい先のジュネスの店長としてな、クマはバイトで雇ってる」
ジュネスの店長の息子だった陽介が今はジュネスの店長か、出世も早いものだ。
「そうか、珍しいこともあるものだな」
「まったくだ、おじさんと菜々子ちゃんもこの村に引っ越すってこないだ言ってたしな、奇跡みたいなもんだよ」
「他のみんなはどうしてるんだ?」
「里中は警官目指してて天城は女将修行、完二は実家継いでりせちーは大ブレイク中、直斗は探偵をしているよ、で、俺達はジュネスだ」
よかった、みんなそれぞれの道で頑張っているようだ、俺も頑張らなくてはな。
「ところでだが悠、ここに来たのは初めてだよな?この村にもいいとこがあるんだ、案内するぜ!」
「いいのか?頼む陽介」
「はーいはーい!クマ、駄菓子屋に行きたいクマ!せんべいの補充とホームランバー食べたいクマ!」
「別にいいけど今日はおごらねーからな!あとクマ毛は脱げよ、熊が出たって騒ぎになるからな」
「もー、ヨースケはホント注文が多いクマね。ほいさ!」
クマはクマ毛を脱ぎ熊田になった!
「んじゃ、早速いこーぜ!」
こうして俺達は駄菓子屋に向かうために花村の家を後にした。
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2015年3月29日(日)午後
俺達は陽介の家から20分ほど歩き駄菓子屋『かがや』に着いた。見るからに昔ながらの駄菓子屋と言える。稲羽市の商店街にも似たような店があったな。
「お、花村とクマか、いらっしゃい」
俺達と年が近そうな金髪の店主が対応した。陽介とクマの名前を知ってるあたり知り合いなのだろうか。
「こちらはお初っすね、始めまして。私はこの店の店主の
「始めまして、鳴上悠です。この村の分校で4月から教師をするため引っ越してきました。」
「あの学校、先輩以外の教師雇うのか。しっかりしてそうな人で良かった、先輩も見習ってほしいもんですよ。」
「先輩?」
「あぁ、いまあの学校で先生してる人が学生の頃からの付き合いなんですよ。」
流石田舎、思っているよりも世界は広くはないようだ。
「カエデちゃん、これくださいクマ!」
「はいよ、ちなみにこの店は雑誌の取り寄せや通販代行、物品などのレンタルもしてるんで是非これからもよろしくお願いします、鳴上先生。」
商魂たくましい人だ、駄菓子屋だけの収入で生計を立てるのは厳しいのだろう…
「ちょっと楓ちゃん!?初めて来た人に営業ふっかけないでもらえます?てか、悠には先生ってつけてるのに俺にはさんもつけてもらえないの!?」
「はぁ?お前は馴れ馴れしすぎだ、1つ年上だろうとこれくらいがちょうどいいだろ」
確かに、陽介は誰にでも仲良くしようとするぶん、はっきり言ってウザいと思ってしまうときもあるほど馴れ馴れしいし、残念なとこも多い男だ。顔はイケメンなのもあってか、ガッカリ王子などと呼ばれていたこともあるくらいだ。これくらいがちょうどいい。
「今度引っ越してくる俺のいとこもここの世話になると思います。こちらこそよろしくおねがいします、楓さん。」
「フフフ…早速家に帰って食べるクマ!」
「クマ待て!さっき鍵閉めてったから開いてねーっての!じゃあまたな、悠!」
陽介はクマを追って帰ってしまった。俺もそろそろ帰るか…
「鳴上先生、この村は初めてですよね?“霧”には気をつけてくださいね、“神隠し”にあってしまうかもしれないので」
霧と神隠し…そっとしておくことのできない噂だな…
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2015年3月30日(月)夜中
俺はリムジンの中で目を覚ました。青い部屋には鼻の長い男と秘書が座っている、何度も見てきた部屋、ベルベットルームだった。
「ようこそ、我がベルベットルームへ…お久しぶりですな、お客人。」
「イゴール、マーガレット!これは一体どういうことだ?」
「正直、私たちにも見当がつかないわ」
「ワタクシから言えることは一つ、お客人はこれから先、またもや大きな壁にぶつかることになることのみでございます。」
「大きな壁?」
「いかにも、その壁を打ち破るためにはまた一から絆を育み、強くなることでございます。」
「私たちも可能な限り力を貸すわ、必要になったらまた来なさい」
また始まるというのか、テレビの世界での戦いが…