◇転移11日目
ある程度、材料も揃ったから、寄木細工作りの合間に"はずみ車旋盤"の製作も始めていくことにした。
精度の落ちたクランクだが、幸いにも、鍛冶師の"趙鉄"が協力してくれることになったお陰で、鍛冶場の利用もできるし万々歳だ。文字通り、これで予備のクランクや主軸棒の供給に問題は出なさそうだ。
多少、強引だった部分もあるが、最後には帳尻が合っているんだ。うん、きっと問題もないだろう。
「昨日の仕込みがあるから、とりあえず今日も三つは作れそうだな。だが、同じものばかりだしなぁ・・・。バリエーションが少な過ぎる・・・。あと幾つ売れることやら。」
今日は、婆さんから再度嫌味を言われた以外には、特に変化もなかった。
そのまま、寄木細工を三つ納入して、家に帰ったのだ。
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□転移十日目終了時点
・寄木細工:三個売却:銀3枚/個
・斎恋:手元資金:"銀23.2枚"
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◇転移12日目
寄木細工を一個納入した。
◇転移13日目
寄木細工を二個納入。
◇転移14日目
寄木細工を二個納入・・・・
◇転移15日目・・・・・
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◇転移22日目
ついに、"はずみ車旋盤"が完成した。
10日という長い時間が掛かったが、なんとか完成だ。
今も目の前で、旋盤のぶぶんが、回転して・・・・・回転?いや、待て待て。
・・・・長過ぎないか?
流石に少しおかしい。
旋盤の車輪部分が回り続けている。
俺の足はすでに離れているのに、何でだ・・・?
どこか壊れたか?とも思ったが、そもそも、壊れたのなら止まるはずだ。
回り続けるということは、動力がどこかにあるということになる。
しかし、動力は一体どこに・・・・???
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結局、アレからしばらく回り続けた旋盤の車輪だったのだが、俺が一度離れると止まったようだ。
しかし、もう一度回してみると、また止まらずに回り続けた。
「これ、おかしいのはもしかして俺か・・・?」
俺が離れると直ぐに止まる。
俺がそばにいると回り続ける。
これでは、原因が俺だと言っているようなものだ。
だが、俺の何が原因だ???
結局、その日は何も分からないままに仕事を終えた。
それと、寄木細工も売れた。
12日目以降、売り切った寄木細工は、21個。
緑青館の婆さんからも、とりあえずこれ以上はいらないと指示を受けた。
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□転移22日目
・寄木細工:21個:銀3枚/個
・斎恋:手元資金:銀86.2枚→→→銀85.2枚
・羅門:家賃兼食費:銀1枚
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羅門にも、追加で銀を1枚渡した。
羅門の奴は渋っていたが、俺だって既に86枚も銀を持っているのだ。
そこまでたくさん持っていても仕方ない。
少しでも足しにしてもらって、食事内容を豪盛にしてもらった方が、まだマシだろうと告げた。
「あと、貧乏人相手に、もっと薬師としての仕事をしたいのであれば、俺が金を稼いできて羅門がそういった慈善事業の薬師をやることだって可能だぞ?」とも言ってみた。
正直、流石に冗談だ。
言ってから少し後悔したが、それでも、経済的側面から見れば、羅門のやっていることは誰の為にもなっていないのだ。
対処療法的にいくら施しをしたところで、羅門の為にもならない上に、施しを受ける側も、それが当たり前になってしまうのだ。
「羅門がいなくなった時には、どうするつもりなんだ?」と、俺が本当に問い掛けたかったのはそこなのだ。
だが、羅門の悲しそうな表情を見ると、俺は何も言えなくなってしまった。
また、折を見て言ってみるつもりではある。
だが、それもどこまで聞き入れてくれるかどうか・・・・
羅門の真意が分からない限り、俺が何を言おうとも、羅門の心に響くことはないのだろうから・・・・・
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◇転移23日目
俺は、その日は緑青館に行かず、超鉄の鍛冶場へと足を踏み入れていた。
「おい、趙鉄いるか?」
「あ"ぁ"、一体誰だ・・・・って、旦那じゃないですか・・・へへへ・・・」
呼びかけた俺を怒鳴りつけようとした超鉄だったが、呼んでいたのが俺だというのが分かったのだろう。
直ぐに卑屈な様子を見せて、ゴマでもするのかのように手揉みしながら俺に寄ってきた。
「今日は一体どうしたんで?・・・今は、急ぎの仕事がありやして、あまり手が離せないんですが・・・・」
「そう手間のかかる内容じゃない。一度、お前の所の炉を見せてもらおうと思ってな。」
「炉を?・・・別に見るくらいは構やせんけど・・・変なことしないでくださいよ?」
「しねぇよ。俺だって炉を弄ったことくらいあるんだ。お前より知識も腕もあらぁ。」
「・・・・・未だにそれは信じられんのですけどね・・・。旦那は、どう見たって20そこそこでしょう?そこまで腕が立つもんなんですか?」
「これでも、今年で50なんだがな・・・。その辺り俺にもよくわからん。だが、記憶にも腕にも嘘はねぇよ。」
「へぇ・・・・不思議なこともあるもんですね。まぁ、見るだけなら構いやせん。どうぞ。ただ、俺は仕事してるんで邪魔だけは勘弁願いやすぜ?」
「おう・・・」
そうして、趙鉄に促されつつ、俺は趙鉄の仕事場に入ったんだが・・・・・
工房の奥に、土盛りの炉が鎮座し、その周囲に灰やスラグが積もっているのが見えた。
そばには、手押し箱ふいごが置かれ、焼け焦げた太い丸太の上には無数に傷が付いた金敷がある。
「ちっ・・・汚ねえな。」
俺は、趙鉄に聞こえない程度の声で呟きながら、鍛冶工房を眺めていた。
整理整頓の行き届かない、乱雑な工房。
焼き入れ用の冷却設備には、汚い木桶が一つあるのみで水や塩水、油との使い分けさえ存在しない。
工房全体が、煤で黒ずんでいて、採光悪く、光源といえば目の前の炉内で揺らぐ、鍛治の炎のみといった具合だ。
(ちっ・・・良くない・・・・良くないな・・こりゃ。この阿呆をなんとかするところから始めなけりゃならないのか?こりゃぁよ。・・・・・・はぁぁぁぁぁ・・・・こっちに来てから疲れることばっかだな・・。羅門や猫猫との出会いが最上過ぎたな。)
炉も良くなければ、送風の為の箱ふいごもダメダメだ。
焼き入れ用の冷却なんて言わずもがな・・・。
これ以上ないくらいに改良の余地がある。
(・・・というより、コイツ、マトモに道具の管理さえしてないな。本当に職人かよ・・・。こんな奴に仕事なんて頼むんじゃなかったわ。)
正直言って、最低ランクをさらに超えてきそうな具合だ。
あのクランクと主軸棒が、しっかり形になっていたのが奇跡的なぐらいだ。
そもそも、この工房自体がそこまでいいものとも言えん。
時代背景を考慮した上であっても、こいつの身内が格安で手に入れたもの、といったところだろう。
「・・・・・欲しいのはこいつでも、この工房でもねぇ・・・。買い叩くか?いや、婆さんが乗ってくれるかどうか・・・。」
工房の仕事音が鳴り響く中、俺は一人そうやって呟いた。
この工房の買取。
どう考えても、その方が将来を考慮するなら利点がある。
ただ問題は・・・・・
「こっちの鍛治組合、だよな・・・・。」
恐らくは、この国にも鍛冶師達の組合が存在する。
それがどんなものなのかも分からないが、職人同士の横のつながりというのは、敵に回すと面倒なのだ。
「なんにせよ、一度持ち帰って相談してみるか・・・」
俺は、その後趙鉄に帰ることを告げ、右叫と婆さんに相談してみることに決めた。
鍛治工房は、俺の将来にとって必須だしな・・・。
「だが・・・・、工房なんていくらするんだ?」
趙鉄からの工房買取。
俺の中で、その考えが少しずつ形と色を持ち始めていた。