歴史再現系で、カルト的な人気のある配信者として有名・・・という設定。
本人は、配信者が本職のつもりですが、収入面では様々な資格を使ってのアルバイトが主体。
歴史付きが高じて、どこまでも色々な資格を思いつきだけで取るので、本人もどんな資格を持っていたのか記憶していない模様。なお、スマホのメモには入っている。
しかし、今回転移した際には、そうした所持品のほとんどがないので、本当に何もない状態からのスタートになってます。なお、服装の作務衣も自作の模様。作業着仕様でかなり分厚く、表面には耐熱加工もしているという本格的な作業着です。靴もただのスニーカーでなく、登山靴の改良品。腕時計だけは祖父からもらったままのもの。
ただし、手入れとメンテナンスは、全て自前で行なっているという気合いの入り用です。
そんな設定の主人公が、薬屋のひとりごとの世界で何をするのか?
作者の俺にも分からないので、楽しみにしていてください。ꉂ(˃▿˂๑)
ひとまずの安心を得た俺は、羅門の姿を見つつ周囲を見回す。
周りには、掛けられた乾燥した草や、乳鉢や乳棒、車輪状の薬研、テコで動く押し切り機、調薬用のてんびんや分銅など様々なものが置いてあった。
その他にも、竹ザルや籠、医療系の書物と思しき綴じ本や竹簡なども見受けられる。
(どうやら、本格的に異世界転生・・・いや、過去の支那にでも転移したか・・・?)
などと、俺は自分の状況を再認識していた。一息吐くと大分違うらしい。
先ほどまでとは異なり、ゆっくりとだがマトモな精神性が戻ってきていた。
「あの・・・。る、羅門さん?」
「うん?何かな?」
ゆったりとした口調が特徴的な方だ。
周囲を安心させるという意味で、これ以上の人はいないだろう。
そう思わせられるほど、この人の喋りというのは俺を安心させてくれた。
「この人がいるのなら、安心できそうだ」と、普段人を疑ってばかりの俺が、そう思わされるほどに・・・・
「足が悪いのですか?」
「ん?あぁ、そうだね。膝が少し・・・」
「膝・・・よければ、詳しく伺ってもよろしいですか?もしかするとお力になれるかもしれません。」
俺は、普段ならそんな優しさなどカケラも見せたことなどないというのに、そんな気遣いさえ見せたのだから、まさしく本物なのだろう彼は。
「・・・・・・昔、色々あってねぇ・・・膝の皿がないんだよ。」
「膝の皿・・・つまり、滑車が動いてねぇ・・いや、無いから紐がうまく機能してないのか・・・?あぁ、確か・・・そうだ。筋肉って紐を、うまく引っ張り上げて回すのが膝の役割・・・・だったか?羅門さん。聞きたいんだが、辛い動き辛い姿勢ってのは何だ?俺はこれでも職人・・・・みてぇなもんなんだ。それこそ、アンタらが見たことないもんも色々と作ってきた。アンタの足の為の補助具って奴も作れるかもしれねぇ。いや、作れる。違うな・・・作らせてくれんか?」
俺は、普段の俺なら絶対に見せない熱量で、羅門に話し出していた。
「俺なら、アンタの足を何とかしてやれる!」そんな想いで・・・。
「ふむ・・・そうだねぇ・・・。なら、作ってみてくれるかい?で、姿勢だったねぇ。やっぱり、しゃがみ込んだり膝を曲げる動作が、一番辛いねぇ。それと、段差や何かを跨ぐときも難しいよ。」
「ありがたい!・・・・しかしそうか・・。しゃがみ込み・・・なら、立ち上がりや座る時の動作も・・・。となると、本当に滑車と滑車部分の保護がいる訳か・・・。」
膝がなくなっていて、うまく機能しないというのなら、膝の代わりとなるものを外部に置いて代行させてしまえばいい訳だ。
それと、膝の皿・・・骨格による保護もないとなると、肉や皮が直接外部と接触してしまう。
だから、膝をつけないし痛みが出るんだろう・・・。
「しゃがみが難しいってなると・・・・そうだな。何よりも前に曲がりすぎないような固定具か・・・・それと膝の保護具・・・。入り口に竹はあったな・・・となると、竹バネか?できれば金属を使いたいが・・・この際仕方ないか。最初はそれで・・・。おっと、すまん羅門さん。」
俺は、羅門の話を聞きながら、羅門の足を測らせてもらっていたのだ。
しかし、この世界に何があるのか?どんな素材があって、どれだけの工具や技術があるのかがまるで分からない。
だからこそ、頭の中にあるものがどれだけ使えるのか、どれだけ作れるのかを、幾通りもシミュレートしつつ検討していた。
「・・・・ヒンジ・・・ストッパー付きのヒンジを側面に・・・。あとは竹のバネでアシストして・・。膝カバーを起点に外骨格を作れば何とか・・・。いや、工具は機材はどうすりゃいい・・・ナイフは・・・・ある、か?出来っかな、これだけで・・・・」
マトモな工具もなく、機材も存在しない。
普段なら、工場で作る様なものを、俺は現地でかつナイフ一本で作らなければならないのだ。
正直、普段の俺なら、再現系の配信でもない限り絶対にやらない類の仕事だろう。
歴史再現系の道具作りは、昔の情景を脳裏に描きながらやるからこそ楽しいのだ。
仕事で誰かの為にするのとは違う。絶対に違う。
こんなふうに、失敗したらどうしようなどと、考えずに済むのだから・・・・・
「斎藤・・・さんと言ったかい?」
「あ、え、えぇそうです。斎藤 恋。恋とでも、呼んでいただければ・・・・」
「じゃぁ、恋さんだね。別に失敗しても構わないから、やってごらんなさい。私はそんなことで咎めたりしないよ」
「あ・・・ありがとうございます!な、なら、このナイフをお借りしてもよろしいか?!そ、それと、外の竹や木材も!」
緊張しているのが伝わっていたのだろうか?
どこまで察されているのか分からないが、側で見守ってくれている祖父のような面影がある。
(昔、時計をくれた爺さんにそっくりだよな・・・。なんか、本当に俺の爺さんみたいだな。)
俺は、この腕時計をくれた祖父に似たこの男へと、次第に懐き始めていた。
後で、まだ42歳だという年齢を聞き驚くことになるのだが、それは余談だろう。
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「ここを、こうして・・・・あと、こっちももう少し・・・・」
太めの竹を割りナイフで面取りしつつ、一番負荷のかかる関節部分に節が来るように工夫してみた。
正味のところ、こうした作業は専門じゃないんだが、それでも医療系技師の資格は一応だが持っているし、義足や補助具の製作経験もあるにはあるのだ。
だからこそ、やってやれないことはないと思っているのだが・・・・・これが、なかなかに難しい。
旋盤もなければ、電鋸もヤスリさえないのだ。
ましてや、今使っているのは自然素材。
形が羅門さんの足に合うのかどうかが、まるで分からない。
いや、むしろ、俺の技量で合わせられるようにしなきゃならないのだ。
歴史系配信者として、一応、色々なものは作ってきたんだが・・・・
そんな経験が役に立っているとは、とても思えなかった。
なんせ、これまでに配信していたのは、『作ってみた』だ。
分かるか?"人に合わせて作った"じゃないんだよ。
実際に使う人がいるものを作った訳じゃない。いや、確かに自分で使ってみたり、誰かに使ってもらったりはしてたんだが・・・。そんなことが、如何に不十分だったのかが分からされた。
まさしく、"分からされた"だな・・・これは。
膝の真横に来る場所で上下の竹を重ね、火箸を熱して穴を開ける。
羅門の膝に合うように保護するためのカップを作り、それに合わせるように膝の前面に板ばねが来るように、竹でバネを作っていく。
竹の薄さを調整し、しっかりと弾性が保たれるように工夫しつつ、だ。
材料が多くない上に、何度も試してやるだけの時間もない・・・。
(強度も、竹だけでどれだけ保つか・・・)
ヒンジを入れ、回転運動が保たれるようにし、膝カップのサイズも羅門に合わせて調整していった。
「ほぉ・・・面白いねぇ・・、こんなものが・・・・。」
羅門は、俺の作っていく補助具を面白げに目を細めながら見てくれていたが、やめてほしいな・・・。
ナイフ一本と火箸だけで作っている、俺の雑な仕事ぶりを評価されるのはちょっとどころか、非常に苦しい。
どうせなら、もっとしっかりした腕っぷしを見てもらいたいのだ、この人には。
「一応、これで完成だ。装着してみるぞ?」
完成した補助具を一度バラし、再度、羅門の足に付けてから組み直していく。
膝のカップ裏には、家にあったボロ布をもらって緩衝材代わりにした。
膝の前面には、板ばねを取り付け、カップと共に膝を保護し、膝の動きを補佐してくれるようになっている。
膝部分のストッパーも機能しているかどうか、装着してくれてから試したのだが・・・うまくいっているようだ。
「ふむ・・・・ほぉ・・・・悪くないねぇ・・・。」
羅門は、補助具を付けてから何度も座ったり立ったり、そして杖なしでの歩行なども行いながら、使用感を試し続けていた。
「ただ、問題もありそうだね。」
「ん?あ、そうか。締め付けている部分があるからな・・・。長時間の使用は認められない、かな。もっといい材料があれば、マシなものができる・・・・と思うんだが、如何せん、これ以上ここでは無理だな。」
麻紐できつく縛り、補助具を固定する必要がある為、長時間使用すると鬱血の問題が出てきたり、使っているのが竹である為に皮膚との擦れが酷い。
だが、そうした問題はあれども、羅門からはかなりの高評価のようだった。
ひどく嬉しげに歩き回っているから、本当に喜んでくれているのだろう。
「そこまで喜んでくれるなら、俺の仕事の甲斐もあったな。」
羅門の喜び具合を見て、このまま追い出されることはないかな、と、さらに少し安心できた。
そうした俺の目に、羅門がこれまでに使っていた杖が目に入る。
単なる"太いだけの木でできた杖"だ。
真っ直ぐなだけの棒、杖というには俺としては認め難い・・・というか、まだ改良の余地があると思う。
「なぁ、羅門さん。」
「ん?なんだい。」
「もし、俺の仕事ぶりを信用してくれるなら、その杖も少し使い易く加工させてくれないか?」
俺は、再度、羅門さんにそう申し出ていた──────