技術屋のひとりごと   作:斎藤 恋

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まだ、そこまで進みません。
しかし次の話からは、ちょっとずつ進む予定。
今回の話は準備段階です。


技術屋のひとりごと『第04話:買い出し』

緑青館の遣手婆は、右叫という20後半くらいの男衆の一人に声を掛けた。

 

「右叫、アンタ付いてってやりな。コイツと一緒に買い出しだよ。あと、アンタ名前はなんて言うんだ?」

 

「サイ・・・・斎恋《サイレン》だ。」

 

 

一瞬、言い淀んだのを遣手婆は見逃さなかった様子だが、羅門が反応してないのを見て、何も言わないと決めたようだ。俺自身、騙すつもりもないんだが、それでも嘘を付いているという後ろめたさが少しはある。

 

「買い出し、ね。何を買ってくりゃいいんだ?」

 

「さてね。それはソイツに聞くといいさね。」

 

 

 

二人に見つめられるが、さて、何を買うべきだろう?

貰った道具類には、色々あるが、一覧とするならこんなものだろうか。

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◇数年前に亡くなった営繕が使っていた工具類一式

□計測・墨付け

・曲尺

・墨壺

・罫引《ケビキ》

□切断・荒加工

・枠鋸

・釿《チョウナ》

・手斧

□切削・削り

・押し鉋

・丸鉋《マルカンナ》

・小刀

□彫り・穴あけ

・平鑿《ヒラノミ》

・丸鑿

・弓錐

□打撃・分解・締結

・金槌

・木槌

・釘抜き

□刃物手入れ

・砥石

====================

 

内容そのものは多いが、それでも加工に使っていくのなら、もっと欲しい材料は多い。

何より、早いうちに旋盤が欲しい。

 

 

「欲しいもの・・・欲しいものか。太い鉄の丸棒が2本。それと、生皮の紐が3m分、あとはやっぱり青竹ですかね。しなりの強い奴なら若木でもいいかな。それと角材。これが4、5本くらい。あと檜かカヤの乾燥材が二枚。両方とも一尺四方のものかな。柘植か桜、栃辺りの緻密な感じの硬木も・・・・・」「・・・って、ここでそんなに言っても何もできないよっ!」

 

 

と、言い過ぎたのか怒られてしまった。

どうにも、俺の買いたいものの種類が多過ぎるようだ。

 

 

「はぁ・・・ったく、どんだけ買わせるんだい。」

 

「といっても、ほとんどが木材ですよ?それに色んな種類の木材を言いましたけど、正直、ここにあるのか分からないってのが一番ですからね。俺のところと呼び方が違ってる可能性もありますし、実際に見てみないとなんとも・・・・」

 

「なるほどね・・・。お婆、これは私が行ってみないとなんともならないかと。」

 

「面倒だねぇ・・。まぁいい。右叫しっかり見てやんな。勘定はこっちに付けときな!」

 

 

 

そう言って、緑青館の婆さんは、そのまま内へと帰っていった。

 

・

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・

 

 

そうして買い物でた俺たちだが、早速、問題に直面した。

 

 

「いや、花街の外れ・・・?あんな所にモノを届けるのかい?無茶言わんでくれ。それに、こんだけのモノを家の中に置けるのか?」

 

「い、いや、それは・・・・・」

 

「はぁ・・・・無理なんだったら、他の場所にするか何か考えてくれ。というか、兄ちゃんは緑青館の人だろう?緑青館じゃダメなのか?」

 

「ふむ・・・構わないと思うぞ?いや、緑青館に運んでくれ。それでいい。」

 

「あいよ。」

 

 

購入した荷物の置き場所だ。

俺や猫猫、羅門のいる花街の外れは、貧しい者の多い危険な場所だ。

羅門自身が、貧しい生活をしているから、そして貧しい者も見てくれる薬師ということもあって、周囲からは狙われ辛い。

 

しかし、そこにこんな色々な素材が置かれるとなれば、どうだろう?

しかも、購入した物は、緑青館でも使えるような新品の木材がほとんどだ。

 

ましてや、俺の持つ工具類は、売ればそこそこの値段になるものばかり・・・・

どう考えても、あの家に持ち帰るには"分不相応"なものばかりなのだ。

 

 

「ま、しばらくは緑青館で仕事をするしかないね。それに営繕小屋なら、前の爺さんが使ってたものがある。場所にも不足しないよ。婆様も、営繕小屋なら、安心して仕事を任せられるだろうし。」

 

「・・・・そちらがいいのなら構わない。だが、仕事では音が出るぞ?それに、将来は必ずここから出るつもりだ。それでもいいのか?」

 

「構わないよ。・・・・でも、出るっていうのは、どういう意味で聞けばいいのかな?答えられそうな話かい?」

 

 

右叫の質問に、俺は少し戸惑った。

「いつまでも居座ってくれても構わない。」そんな言葉のように聞こえたからだ。

 

見ず知らずの、完全な異邦人の風貌の俺に、そんな言葉を掛けてくるとは思いもよらなかったのだ。

 

 

「答えるのは問題ない。そもそも、俺が作りたい物はいくつもあるんが・・・・、そのどれもが火を使う。要は、でかい窯がいるんだ。鉄やらガラスだな。だから、緑青館で窯を作って作業する・・・なんてのは、不可能だろう?あそこで、そんなことはできん。それこそ、追い出されるだろ、違うか??」

 

 

「くくっ・・・なるほどね。最もだ。」

 

 

右叫は、俺の言葉に少し笑いつつ、納得してくれた。

恐らくは、色々な者が、あの緑青館には訪れるのだろう。

だからこそ、この右叫という男は、相手の事情を深く詮索しないようにしているのだと思えた。

 

 

「しかし、この辺りではどんなものが作れる・・・・作られているんだろう。その辺り詳しく知りたいが、誰か詳しい者はいないだろうか?」

 

「どんなものが、か・・・・。おかしなこと聞くね。しかし、職人としては当たり前か。けど、そうだねぇ・・・。単に商売人から話が聞きたいってことでいいのかい?それならいくらでも当てはあるけど。」

 

「いや、どうだろうな・・・・。下手な商売人と話をして、余計な情報が漏れるかもしれん。そういったことは避けたい・・・。」

 

「ふーむ、そうか。・・・・なら、羅門さんでいいんじゃないか?」

 

「羅門さんに?」

 

「あぁ。あの人、昔は良いところの出だったらしいし、色々と知ってるんじゃないかな?」

 

「羅門さんが・・・。なるほど。分かった、そうしてみるよ。感謝する。」

 

「いいよいいいよ。別に大したことを言った訳でもないしさ。」

 

 

 

右叫は、そう言いつつ笑みを浮かべた。

随分と気のいい男のようだ。

 

緑青館の遣手婆といい、思いの外、妓楼という割にはいい人材が揃っていると見える・・・。

 

 

(しかし、時代に合わない気もするな・・・。やはり、異世界なのか?茘という国の名前・・・。いや、日本語が通じている時点で変か。文字も草書ではあったが、日本語のようだったしな。)

 

 

ここに来るまでに、斎恋は幾つものことを目敏く確認していた。

緑青館で扱われていた"紙"に、書かれていた"文字"。

 

喋っている言葉の内容や、口の動き。

扱われている金の種類や、置かれている商品の質、内容。

 

 

多くの情報が、既に揃いつつあったのだ。

それでもなお、情報を求めていたのは、歴史系配信者としてあるまじきだが、今のこの国の年代予想が、まるで立たなかったからだ。まして、市場でサツマイモやジャガイモ、落花生にひまわりの種までが売られている。

 

 

これ等は"新大陸原産"だ。

どう考えても、麻が主流の時代にあっていいもんじゃない。

綿花の生産が遅れている・・・・?一体なぜ?

 

ここが支那だとするなら、綿花生産がここまで遅れている理由はなんだ?

 

 

「右叫。見たかぎりだが、この辺りだと綿花は高級品なのか?」

 

「?そうだな、高いよ?服で言うなら、麻の方がずっと安い。・・・・しかし、ずっと気になってたんだが、君の服は何でできてるんだ?綿・・・のように見えるが。」

 

「綿だよ。俺のいたところじゃ、綿が安かったんだ。むしろ、麻布を無理に買おうとする方が大変だった。麻の方がずっと高かったんだよ。」

 

「へぇ・・・変わった場所だな。いや、原産地って奴なのかな?作っている現地だと安いと聞くし。」

 

「まぁ、詳しくは言えないけど、沢山あったことは事実だよ。金持ちって訳でもないから、そう考えてくれて構わない。」

 

「ま、詮索はしないさ。婆様は、色んな人を受け入れるからな。その辺りは気を付けてるつもりだよ。」

 

「そうしてくれるなら、ありがたいね。」

 

 

事情を聞かれたところで、マトモに答えられる気がしないのだ。

どう答えたところで、よければ変人、悪ければ妄想癖の強い異常者だろう。

 

・・・いや、薬中扱いになる可能性も高いか?なんにせよ、言わないにこしたことはない。

 

 

「で、これで買うものは全部か?」

 

「そう、だな・・・。で、緑青館に全部送ってくれるのか?」

 

「ふっ・・・あぁ、そうしておくさ。明日からの仕事で頼むよ。荷が届くにはまだ、時間がかかるだろうしね。」

 

「助かる。」

 

 

==========

□購入した物一覧

◾︎金物屋

・太い鉄丸棒:径1cm(1/3寸)・長20cm(7寸未満)

◾︎皮革屋

・油揉み牛革紐:幅10mm・厚4mm・長3m(6尺)

◾︎材木商

・榧《カヤ》の乾燥厚板:30cm(1尺)四方・厚3cm(1寸弱)

・黄楊《ツゲ》の丸棒材:径3cm(1寸弱)・1.2m

◾︎細工物屋

・銘木の端材:紫檀・花梨:数寸の木片

◾︎乾物屋

・膠:小袋一つ

・乾性油:小壺一つ

==========

 

金物屋や皮革屋、材木商など色々と回った。

しかし、それでもまだ分からないことだらけだ。

 

本当にファンタジーな世界なのだろうか・・・?

 

 

(時代区分がよく分からん。技術レベルは戦国時代くらいか・・・?それくらいを基準に考えておいた方が良さそうだな・・。)

 

 

戦国時代を基準に考えていいのかさえ、よく分からなかったが、異世界だからそんなもんかと、最後には納得した。

あとは、作るべきものを考えるだけだ。

 

 

(リバーシは作る。しかし、その前に・・・・)

 

 

リバーシを作るのはいい。

しかし、その前段階がいる。

 

 

ただただ、今ある工具で無為に作り続けるだけでは、職人としての名誉に関わるのだ。

 

 

(くくっ・・・どうせなら、よくある転移者の知識チートって奴でもやって見るかね。・・・・この世界でどこまで通用するのか分からんが。)

 

 

時代区分が分からない以上、どこまでやってもいいのか、その基準がいまいち掴めていない。

しかし、戦国時代基準と、この世界の技術レベルを置いた以上、そこに合わせてやっていく他ないだろう。

 

 

指針となるものもない以上、自身の知識の中にそれを求める以外に方策はないのだから──────

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