◇転移四日目
今日も緑青館へと向かう。
ただ今日は、猫猫はそばにいない。
猫猫も未だ六歳だそうだが、六歳にしては成長が遅いように見える。
知性の発達は高そうなのだが、どうにもコミュニケーション能力といった面で遅れているように思えるのだ。
「いや、あれはものぐさなだけか・・・?」
ウチの妹の時と同じなら、たぶんものぐさなだけだろうが・・・・全てを妹と同じに当てはめていんだろうか?
少しばかり、妹と猫猫を同じように見過ぎているかもしれない・・・。
「まぁいい。そんなことよりも・・・」
目の前の仕事を片付ける所からだ。
が、ここからは、木材を削り、駒を作っていく作業が大半・・・・。
竿旋盤を反復して動かし、金具に固定させた木材を駒の形に削っていくだけだ・・・・・
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結局、一日で作業は終わらない。
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◇転移五日目
また今日も今日とて、削りの作業。
繰り返し削っていく作業の連続である。
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「あぁ、今日もやってんのか。調子はどうだ?」
「ん?右叫か。別に?普通だ。特に変わりばえもないよ。ただ・・・・家にあったやつと比べると慣れんね・・・なかなか。慣れない古い工具で作業するのは疲れる・・・・。」
「へぇ・・?そんなもんか。あのよく分からん工具?も、そっちでは使われてたのか?」
「いやいや、あんなもん使われてたのなんて、云百年も・・・・・いや、まぁ、昔は使ってたって具合だな。」
「・・・・そうなのかい。そんなもんか。」
「あぁ、そんなもんさ。さっき言ったことは忘れてくれ。」
「さぁ、なんのことだ?」
俺の失言を、右叫は聞き流してくれるようだ。
まぁ、こんなことを話題にしてもな・・・・。
遣手婆には話されるかもしれんが、話されたところで一体どうするのやら。
バレたところで別に問題もないだろう。
「とりあえず、今日の作業もこれで終わりだ。帰るよ。」
「おう!気ぃつけてな。」
「あぁ。」
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◇転移六日目
「あとはこれを・・・・墨、でいいか。あー・・・もう半分はどうしよう。白はないよな・・・」
リバーシの駒を、そのまま半分だけ墨で黒く染めた。
問題は、残り半分なんだが・・・・・・もう、これでいいだろ。
材料を新しく買い込むのも手間だし、そもそも反面だけ色が変わっていれば問題なんてない。
「材料も結構残ってるな・・・。あとは、端材でなんか作るか・・・。」
元々、余った材料を使って、猫猫の玩具《オモチャ》を作ってやるつもりだったのだ。
これでも、腕に自信はある。
竿旋盤なんて古い作業道具だったとしても、それなりのものくらいは作るのだ。
が、これから作る小物に、そんなものは使わないのだが・・・。
シュッ、シュッ・・・と、小刀で木材を削り続ける。
一つ一つ正確に、三角柱や四角柱の木片を削りあげ、それが終われば鉋がけを施していくのだ。
10分、20分、30分・・・・・。
1時間が経つ頃には鉋がけを終え、膠の湯煎と貼り合わせの作業を行なっていく。
「はぁ・・・・。明日、続きやるか・・・」
貼り合わせた木片を、そのまま紐で縛り上げ固定させたまま、営繕小屋の隅に置いてきた。
続きは、また明日。
──────明日があれば、だが。
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◇転移六日目:夕刻
「で?完成したのかい、持ってくるもんってやつは。」
緑青館の遣手婆を呼び出し、俺は作り上げた"一基のリバーシ"を見せる。
作ったのは二基だが、一つは持ち帰って猫猫や羅門とするためのものだ。これくらいは許してもらおう。
「あぁ、これだ。」
俺は、碁盤のような四角い板を見せ、それと共に、反面を黒く塗り上げた石を用意していく。
「リバ・・・いや、反面碁という。ま、名前はそっちで考えてくれ。ともかく、俺が提案するのはこの遊戯(ゲーム)だ。」
「ふん。なんか、パッとしないねぇ・・・。」
「まぁ、ともかくやってみようや。それでなけりゃ分からんだろ?」
「ふんっ。随分と強気だね?これでダメなら、アンタは奴婢になってもらうからね?」
「まぁ、やった後で相談だな、それは。」
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ルールを説明した後、遣手婆とリバーシを行った。
ルールも何もかもが、凄まじく簡単なのがこのリバーシの特徴だ。
だからこそ、俺はこの高級妓楼でウケると見たんだが・・・・遣手婆の方はどうなんだろうな・・・。
「詰みだな。で、どうだった?婆さん。」
「簡単だね・・・・。」
「それが、これの"売り"だよ。象棋と違ってこれなら、長考がほとんどない。それに妓女が上手ければ、相手を気持ちよく勝たせることだって簡単にできるだろ?それは、妓楼にとって一番の利点だろうさ!その間に妓女との話も弾むだろうし、飲み食いだってできる。遊戯の片手間に遊べるってのは、大きな利益だと思うよ?それに、何より・・・・簡単で覚えやすい。これは、客にとっても、妓女になったばかりのか、禿?にとっても覚えやすく、取っ掛かりやすいのさ!」
「ふーん、飲み食い・・・話が弾むねぇ・・・。確かにのめり込む人間は出そうだね。ただ、この見た目はなんとかならないのかい?これじゃ、ウチでは使えないよ!」
「そこは諦めてくれよ婆さん。そもそも、俺は職人ではあっても彩色家じゃぁない。色を付けるなんて、俺の仕事じゃないよ。そもそも、勝手に色をつけて、ここの雰囲気に合わなかったらどうすんのさ。そっちの方が、婆さんにとっては損だろ?」
「ふんっ、物はいいようだね。けど、こんな見窄らしいもんじゃ、高い値は付けらんないよ!」
遣手婆は、そんなことを言いつつ、キセルを吸いながら思案している様子だった。
「銀5枚・・・一つ銀5枚だね。」
「おぉ!感謝・・」「ただし!あんたの取り分は、4割だろ?今回渡すのは、銀2枚だけだよ!」
「お、おう・・・。十分だ。」
ここに来るまでに色々市場の様子を見たが、大体の貨幣価格を現代日本の円で換算するなら、【銀:7,500円/枚】と言ったところだろう。右叫とも、細かい雑談をしつつ考えた相場だ。
5,000円くらいかとも思ったが・・・・多分、もうちょっと高い。
(銀2枚。1枚7,500とすると・・・・15,000円相当か・・・。三日でこれか。いや、二個作ったし、三日で三万円相当か?日給一万程度か・・・・とほほ・・。泣けるねぇ。しかも、一個は持ち帰る訳だし、三日で7,500・・・。やっぱりもう一個も売ろうかな?悩む・・・・けど、やっぱり売ろう。)
「なら、二個とも買い取ってくれるか?」
「ん?もう一個あるのかい?」
「あぁ、こっちも入れて、銀4枚で頼む。」
「・・・・・・あいよ。」
銀2枚を4枚にすることを躊躇ったのか・・・?
おいおい、マジでやめてくれよ?俺の三日間の仕事を台無しにしないでくれ。
そうして俺は、遣手婆から銀4枚を受け取り、その日は羅門達との家へと帰った。
(あの二人にも、もっといい生活させてやりてぇなぁ・・・。)
俺は、異邦人である自分などの面倒を見てくれるこの羅門や、その娘の猫猫を、もっとちゃんとした場所で生活させてやりたいという願いを抱いていた。いや、抱いた。
今ここにある銀4枚を元手に、次の仕事を熟すのだ。そうして、4枚を10枚100枚と増やせれば・・・・
「いつか・・・いつかはもっと・・・・・」
身体も若返って、気分まで若返ったのかもしれない。
俺は、将来について希望を抱けるようにまでなっていた。
「羅門!帰ったぞ。・・・猫猫もただいま。」
「おかえり、斎恋。」「ん!おか恋」
「ただいま。・・・・猫猫、おか恋ってなんだよ。そんな言い方はやめなさい。ちゃんと"おかえり"とか、"お帰りなさい恋兄さん"とかにしとけ。いいかげん、そのズボラなところは直せ。ちゃんと喋れるだろ?喋れるんだから、ちゃんと喋りなさい。いつか、本当に喋れなくなるぞ?」
「・・・・・・・・分かった。」
「ん。それでいい。これからは、ちゃんと言葉にすること。いいな?」
「ん!」
「ん、じゃねぇっての・・・・ったく。」
そんなくだらなくも、掛け替えのないやりとりを済ませた後、飯の支度を手伝った。
そして、飯の最中のこと。
「そうだ羅門。」
「ん?なんだい」
「緑青館の婆さんに、作ったもんが売れたよ。銀4枚だ。」
「そうかぃ、良かったねぇ」
「ありがとう。全部、アンタのお陰だ。とりあえず、食費だ。銀1枚分。受け取っといてくれ。」
「・・・・分かったよ。これはちゃんと受け取っておくね。」
「ちゃんと使えよ?でないと、俺の方が心苦しい。最低限の生活費くらい納めさせてくれ。」
「そうだねぇ。なら、そうするかい。」
「あぁ。」
羅門には、毎月銀1枚を渡すつもりだ。
俺がそう決めた。
これが、ここで養ってもらう為の代価なのだと・・・・。
「あとは、あの寄木細工を組み上げねぇとな・・・。」