『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第1話 その結末を知っている

 ダブルが完成した。

 

 目の前に現れたもう一人の自分を見て、俺は思わず息を呑んだ。

 

 顔も、身体つきも、身にまとった衣服も、寸分違わず再現されている。

 

 試行錯誤を繰り返し、何度も失敗してきた。

 

 思うようにいかず、鍛錬の方向性に悩んだこともある。それでも諦めずに取り組み続け、ようやくこの瞬間にたどり着いた。

 

 成功した。

 

 その実感が、遅れて胸の奥に広がっていく。

 

 これで、もっと強くなれる。

 

 今まで一人で行ってきた鍛錬も、工夫次第で効率を上げられるはずだ。虎咬拳の技術を磨くにしても、二人分の動きを利用できるのは大きい。

 

 もちろん、能力を完成させただけで強くなったわけではない。

 

 これから使い方を試し、欠点を見つけ、使いこなせるように鍛えていく必要がある。

 

 それでも、ようやく一歩を踏み出せた。

 

 俺は目の前の分身に意識を向けた。

 

 その瞬間だった。

 

「――っ!」

 

 頭の中に、何かが流れ込んできた。

 

 知らない景色。

 

 知らない人々。

 

 見たこともないはずの場所。

 

 それらが、ひとつの人生を形作る記憶となって押し寄せてくる。

 

 知らないはずなのに、知っている。

 

 自分のものではないはずなのに、確かに自分の記憶だった。

 

 息が詰まる。

 

 頭痛とは違う。身体のどこかが傷ついたわけでもない。

 

 ただ、俺という人間の中に、今まで存在しなかったはずの何かが、一気に溢れ出していた。

 

 いや。

 

 存在しなかったのではない。

 

 思い出したのだ。

 

 俺は、カストロだった。

 

そして、俺には別の人生の記憶があった。

 

この世界とは違う場所で生まれ、違う名前で生きていた記憶。

 

そんなものが自分にあるなんて、今の今まで考えたこともなかった。

 

 俺はずっと、自分をカストロだと思って生きてきた。

 

 この身体で鍛錬を重ね、虎咬拳を磨き、念能力を身につけてきた。それらは間違いなく、俺自身の経験だった。

 

 前世の記憶など、何一つ覚えていなかった。

 

 それなのに、今。

 

 まるで封じられていたものが一気に解き放たれたかのように、別の人生の記憶が蘇っていた。

 

 そして俺は、この世界の物語を知っていた。

 

 漫画として。

 

『HUNTER×HUNTER』。

 

 自分が生きている世界が、かつて読んでいた物語の世界だということを、俺は理解してしまった。

 

 理解したくもない事実まで、一緒に。

 

 記憶の中に、一人の男の姿が浮かび上がる。

 

 奇妙な化粧。

 

 軽薄な笑み。

 

 相手を弄ぶような言動。

 

 そして、底の見えない強さ。

 

 ヒソカ。

 

 俺は、あいつを知っている。

 

 物語の中で、カストロが戦う相手。

 

 そして――。

 

「……負ける」

 

 声が漏れた。

 

 誰に言うでもなく、ただ口からこぼれ落ちた言葉だった。

 

 そうだ。

 

 俺は負ける。

 

 ヒソカと戦い、敗北する。

 

 念能力を駆使して善戦するものの、最後には圧倒される。

 

 そして、その戦いの先に待っているのは。

 

 死。

 

 そこまで思い至った途端、全身が冷たくなった。

 

 呼吸が浅くなる。

 

 心臓が、嫌な音を立てている。

 

 嘘だ。

 

 何かの間違いだ。

 

 そう思いたかった。

 

 けれど、記憶はあまりにも鮮明だった。

 

 ヒソカの能力。

 

 戦いの流れ。

 

 カストロの敗北。

 

 それらは断片的で、細かな部分には曖昧なところもある。

 

 漫画で読んだ内容を、すべて覚えているわけではない。

 

 それでも、結末だけは覚えていた。

 

 俺は死ぬ。

 

 このまま物語の通りに進めば、俺はヒソカに殺される。

 

 目の前には、完成したばかりのダブルがいる。

 

 さっきまで、あれほど誇らしかった自分の成果。

 

 強くなるための、大きな一歩。

 

 それが今は、ひどく遠いものに見えた。

 

 どれだけ鍛えればいい。

 

 何をすれば助かる。

 

 そもそも、本当に助かるのか。

 

 考えようとしても、思考がまとまらない。

 

 ヒソカの強さを知っている。

 

 自分が敗北することも知っている。

 

 その事実だけが、頭の中で何度も繰り返される。

 

 逃げたい。

 

 怖い。

 

 死にたくない。

 

 そんな言葉ばかりが、頭の中を回り続ける。

 

 どうすればいいのかなんて、分からなかった。

 

 何をすべきなのかも、考えられなかった。

 

 ただ、自分がいつか死ぬという事実だけが、重くのしかかっていた。

 

 俺はまだ生きている。

 

 今は、まだ。

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