『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第10話 足りない時間

鍛錬を終えた俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 

ヒソカとの差を埋めるには、何が必要なのか。

 

考えれば考えるほど、単純な答えでは済まなくなっていく。

 

速く動けるようになればいい。

 

攻撃の手数を増やせばいい。

 

ダブルとの連携を磨けばいい。

 

どれも間違いではない。

 

だが、それらを一つずつ積み上げていくだけで、本当に間に合うのだろうか。

 

俺はふと、原作のヒソカとクロロの戦いを思い出した。

 

クロロは複数の能力を使い、観客すら戦術に組み込んでいた。

 

能力を切り替え、状況を操作し、相手に情報を与えることまで計算に入れる。

 

単純に速く動くことだけが、強さではない。

 

相手の能力を理解し、戦場を自分に有利な形へ変え、勝利に必要な条件を整える。

 

クロロはそうしてヒソカを追い詰めた。

 

もっとも、あの戦いを見て、俺が同じことをできると思うほど楽観的ではない。

 

クロロには、長年積み重ねてきた経験と、多彩な能力がある。

 

俺には、そこまでの手札も、準備に費やせる時間もない。

 

漫画で読んだ展開を覚えていることと、同じ戦術を実行できることは別だった。

 

知識があれば、相手の選択肢を予測する助けにはなる。

 

だが、予測できたところで、身体がついてこなければ意味がない。

 

逆に、どれだけ速く動けても、相手の仕掛けに気づけなければ、その速さを活かすことはできない。

 

必要なのは、速度と判断力、そして状況に応じて使える手段。

 

それらを組み合わせて、ようやく勝機が生まれる。

 

「……簡単じゃないな」

 

口に出してみても、当然ながら答えは出なかった。

 

俺は改めて、自分の念能力に意識を向ける。

 

ダブル。

 

自分と同じ姿をした分身を具現化し、操作する能力。

 

二つの身体を使えることには、明確な利点がある。

 

片方に攻撃させ、もう片方から仕掛ける。

 

一方が相手の注意を引きつけている間に、もう一方が別の角度から攻める。

 

相手に対応を強いるという意味では、十分に強力な能力だ。

 

問題は、その強みを戦闘で発揮するまでに、どれだけの習熟が必要なのかということだった。

 

分身を思いどおりに動かす。

 

本体と分身の動きを連動させる。

 

相手の動きに対応しながら、二つの身体を使って攻防を組み立てる。

 

練習すれば、今より上手くなるだろう。

 

だが、どこまで上達すればヒソカと戦えるのか。

 

その水準に到達するまで、何か月かかるのか。

 

そもそも、どれだけ練習しても、二つの身体を同時に扱うという構造そのものは変わらない。

 

もちろん、熟練すれば意識的に処理する必要が減り、動きが自然になる部分もあるはずだ。

 

それでも、ダブルの習熟に時間を使うほど、ほかの鍛錬に費やせる時間は減っていく。

 

身体を鍛える時間。

 

虎咬拳を磨く時間。

 

相手の動きを見極め、反応するための訓練。

 

念そのものへの理解を深める時間。

 

どれも、戦ううえでは必要になる。

 

そして俺は、知っている。

 

ダブルを使いこなすことに力を注いだ先に、原作のカストロがたどり着いた結末を。

 

あいつは弱かったわけではない。

 

ヒソカと戦えるだけの実力を持ち、ダブルという強力な能力も完成させていた。

 

それでも敗れた。

 

もちろん、敗因を一つに決めつけるつもりはない。

 

能力の相性だけが原因だったとも、経験不足だけが原因だったとも言い切れない。

 

だが、少なくとも、ダブルを極めることだけでヒソカを超えられるわけではなかった。

 

ならば、俺はどうするべきなのか。

 

ダブルを捨て、基礎から鍛え直すか。

 

いや、それも違う。

 

今の俺がダブルを手放したところで、急にヒソカと渡り合えるようになるわけではない。

 

分身を使えること自体は、明確な強みだ。

 

その強みを捨てて、別の道に進むだけの根拠は、まだ足りていない。

 

そもそも、俺はダブルを完成させるために努力してきた。

 

自分の能力として形にし、使い方を考え、可能性を探ってきた。

 

それを簡単に切り捨てられるほど、割り切れているわけでもなかった。

 

「……使い方を変えるだけじゃ、駄目なのか?」

 

ふと、そんな考えが浮かんだ。

 

ダブルをもっと上手く使う。

 

それは、今まで考えてきたことだ。

 

だが、上手く使うことと、能力そのものを戦闘向きに変えることは、同じではない。

 

たとえば、今の能力に何かを付け加えるのではなく、必要な機能だけを残すとしたら。

 

あるいは、今まで当たり前だと思っていた仕組みを、別の形に組み直すとしたら。

 

そうすれば、ダブルの利点を残したまま、習熟に必要な時間や、戦闘中の負担を減らせる可能性はないだろうか。

 

もちろん、思いつきにすぎない。

 

念能力が、都合よく望んだ形へ変わってくれる保証はない。

 

制約を加えるにしても、何を条件とし、何を代償にするのか。

 

何を残し、何を諦めるのか。

 

そこを間違えれば、今より使いにくい能力になるだけかもしれない。

 

それでも。

 

今までの能力をそのまま磨き続けるか、すべてを捨てて別の道を探すか。

 

その二択しかないと思い込んでいたことに、俺は気づいた。

 

ダブルを完成させたとき、俺は自分の可能性が広がったと感じた。

 

ならば、その可能性を広げる方法は、本当に今の形を磨き続けることだけなのだろうか。

 

俺は右手を開き、握り直した。

 

まずは、ダブルの何が強みで、何が負担になっているのかを整理する必要がある。

 

それぞれを切り分けたうえで、残す価値のあるものと、手放すべきものを考える。

 

答えが見つかるとは限らない。

 

考えた末に、今の能力を使い続けるという結論に戻る可能性だってある。

 

それでも、試す価値はある。

 

俺は鍛錬場を後にした。

 

明日からも修練は続ける。

 

ただし、これまでと同じ問いを繰り返すつもりはなかった。

 

どうすればダブルを上手く使えるのか。

 

その先に、もう一つの問いがある。

 

そもそも、俺は今のダブルを、そのまま使い続ける必要があるのだろうか。

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