俺は、これまでの検証結果を振り返っていた。
ダブルには、明確な強みがある。
俺とは別の場所に具現化できること。
全身を再現し、俺自身とは異なる動きをさせられること。
そして、必要に応じて具現化し、不要になれば消せること。
どれも、戦闘では有用な性質だ。
分身を別方向から攻めさせる。相手の意識を分散させる。俺自身が接近する間に、もう一人の俺に攻撃させる。
使い方次第で、戦術の幅は大きく広がる。
それを捨てるのは惜しい。
だが、ヒソカを相手にすることを考えると、単純に攻撃の手数を増やせばいいわけではなかった。
こちらが攻撃を仕掛けても、相手には対応するだけの速度と経験がある。
分身との連携を磨けば、攻撃の精度は上がるだろう。
それでも、連携そのものに意識を割いている間に、俺自身の判断が遅れる可能性は残る。
ならば、操作に習熟するまで鍛え続ければいいのか。
それも一つの答えだ。
だが、習熟に必要な時間を、ほかの鍛錬に使った場合はどうなる。
身体能力を高めることも、虎咬拳の精度を上げることも、相手の動きを見極める訓練も必要だ。
限られた時間の中で、すべてを十分な水準まで引き上げられるとは思えなかった。
「……何を残すべきなんだ」
呟いてから、俺は考え方を変えた。
今のダブルを使い続けるか、捨てるか。
その二択だけで考える必要はない。
能力を構成している要素を分け、それぞれが本当に必要なのかを考えればいい。
まず、全身を具現化すること。
全身を再現できるからこそ、分身に俺と同じ技を使わせられる。攻撃だけでなく、防御や移動にも対応できる。
しかし、ヒソカと戦うために、必ずしももう一人の俺が必要なのだろうか。
必要なのは、分身そのものではなく、分身によって得られる戦術的な利点なのかもしれない。
攻撃の手数を増やすこと。
相手の意識を別の方向へ向けること。
本体だけでは作れない攻撃の機会を生み出すこと。
それらを別の方法で実現できるのなら、全身を再現する機能に固執する理由は薄れる。
もちろん、別の方法があるとは限らない。
ダブルを捨てた結果、今まで持っていた強みを失うだけになる可能性もある。
だからこそ、何を代わりに得られるのかを考えなければならない。
次に、動作の自由度。
今のダブルは、基本的に俺が可能な動作を再現できる。
その自由さがあるからこそ、状況に応じて使い方を変えられる。
一方で、選択肢が多いことは、必ずしも戦闘で有利に働くとは限らない。
判断する時間が必要になるからだ。
もし、できることをあらかじめ限定したらどうなるだろう。
選択肢が減れば、状況に応じた柔軟な対応は難しくなる。
その代わり、特定の動作に特化させられる可能性はないだろうか。
ただ制限するだけでは意味がない。
失う自由と、得られる性能が結びついていなければ、単に使いにくい能力になるだけだ。
俺は腕を組み、考え込んだ。
制約と誓約。
念能力には、自らに制限を課すことで、その能力を強化する仕組みがある。
しかし、制限を設ければ、望んだとおりの強化が得られるという単純な話ではない。
何を捨てるのか。
何を得たいのか。
そして、その制限が自分にとってどれほど重大なものなのか。
俺自身が納得できない条件を並べても、意味はないだろう。
そもそも、俺にとってダブルを捨てることは、簡単な選択ではなかった。
長い鍛錬の末に完成させた能力だ。
ヒソカに勝つための手段であり、まだ生き残れるかもしれないという希望でもある。
それに、分身がいるということは、俺自身が危険を冒さずに済む場面があるということでもあった。
本体が踏み込む代わりに、分身を前に出す。
本体が受けるかもしれない反撃を、分身に引き受けさせる。
そうした使い方ができなくなるのなら、俺にとっては大きな損失だ。
それでも、手放すことに意味があるのなら。
俺は、そこで思考を止めた。
ダブルを捨てれば強くなれる。
そんな都合のいい結論を、先に決めてしまうわけにはいかない。
恐怖から逃れたいだけなのかもしれない。
分身に頼らず、自分自身でヒソカと向き合うことが怖いから、別の能力に希望を求めているだけなのかもしれない。
その可能性を否定することはできなかった。
だからこそ、感情とは別に、必要なものを見極める必要がある。
ヒソカと戦うために、俺に足りないものは何なのか。
攻撃の手数なのか。
反応の速さなのか。
身体を思いどおりに動かす精度なのか。
相手の動きを読み、次の一手を選ぶための処理能力なのか。
それらをすべて一つの能力で補おうとすれば、今のダブルと同じように、多くの機能を抱え込むことになる。
ならば、最初から全部を求めない方がいい。
必要なものを選び、それ以外を手放す。
その選択によって何を失い、何を得られるのか。
まずは、そこから考えるべきだった。
俺は鍛錬場を後にした。
ダブルを捨てると決めたわけではない。
今の能力を使い続けると決めたわけでもない。
ただ、強くなるために必要なのは、今あるものを磨き続けることだけではないのだと、少しずつ分かり始めていた。