『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第13話 何を残すのか

翌日。

 

俺は鍛錬場で、虎咬拳の構えを取っていた。

 

両手を前に出し、十本の指を開く。

 

虎咬拳は、拳だけで戦う武術ではない。

 

指先までを攻撃に使い、相手を捉え、食らいつき、抉り取る。

 

虎が獲物に噛みつき、肉を引き裂くように。

 

それが、この武術の特徴だった。

 

俺は一歩踏み込み、右手を振るった。

 

続けて左手。

 

両手の指先で対象を捉え、腕を引くと同時に身体を捻る。

 

掴むだけでは終わらない。

 

相手の動きを封じ、逃げようとする力を利用しながら、さらに深く抉る。

 

左右の手を別々に使い、片方で動きを制限し、もう片方で攻撃することもできる。

 

両手で同時に捉え、異なる方向へ力を加えることもできる。

 

十本の指をどう使い、腕をどのように連動させるか。

 

その組み合わせによって、攻撃の形は変わる。

 

俺は動きを止め、自分の両手を見下ろした。

 

虎咬拳は、単に指先の力を鍛えれば身につくものではない。

 

どの指を、どの角度から使うのか。

 

相手の動きに合わせ、どの程度の力を加えるのか。

 

攻撃を仕掛けた後、どう次の動作につなげるのか。

 

一つひとつの判断が、技の成否を左右する。

 

十本の指を使えるということは、それだけ多くの選択肢を持つということでもあった。

 

そして、その選択肢を実戦で生かすには、鍛錬が必要になる。

 

俺は再び構えた。

 

踏み込みと同時に右手を伸ばし、左手を重ねる。

 

十本の指先が対象を捉えたところで、両腕を引き、身体を捻った。

 

動作がつながる。

 

捉える。

 

抉る。

 

次の攻撃へ移る。

 

それぞれの動作を独立させるのではなく、一連の技として組み立てる。

 

これが虎咬拳だ。

 

俺が時間をかけて身につけてきた、戦い方の一つだった。

 

そして、ダブルを完成させた今も、その技術は失われていない。

 

「……腕、か」

 

俺は構えを解き、両手を開いた。

 

ダブルは、俺と同じ姿をしたもう一人の身体を生み出す能力だ。

 

本体とは異なる位置から攻撃できる。

 

別方向から相手の動きを制限できる。

 

本体が攻撃する間に、分身に別の役割を担わせることもできる。

 

必要に応じて具現化し、役目を終えれば消す。

 

その自由度は、ダブルの大きな強みだった。

 

全身を再現するからこそ、腕だけではできない動きも可能になる。

 

移動し、踏み込み、身体の向きを変え、相手の死角へ回り込む。

 

そうした動作も含めて、もう一人の俺として戦わせられる。

 

腕だけを残せば、当然、失われるものもある。

 

それでも、俺が攻撃を組み立てるうえで、腕が重要な役割を担っていることは間違いなかった。

 

虎咬拳を使うにしても、両手の連携が要になる。

 

ならば、全身を再現することにこだわらず、腕の働きを別の形で補う方法もあるのではないか。

 

俺はダブルを具現化した。

 

目の前に、もう一人の俺が現れる。

 

そいつに虎咬拳の構えを取らせ、俺自身も同じ構えを取った。

 

二人で同時に踏み込む。

 

右手で捉え、左手を重ねる。

 

本体と分身、それぞれの十指が別々の位置から対象へ向かう。

 

一方が相手の動きを制限し、もう一方が攻撃する。

 

攻撃の手数も、角度も増える。

 

本体だけでは作れない状況を、ダブルなら生み出せる。

 

虎咬拳との相性も悪くない。

 

むしろ、使いこなせれば大きな武器になるだろう。

 

だからこそ、簡単には手放せなかった。

 

ダブルは、決して弱い能力ではない。

 

鍛錬を重ねれば、操作の精度も上がるだろうし、本体との連携も改善できるはずだ。

 

それでも、俺には考えなければならないことがある。

 

残された時間で、どこまで使いこなせるのか。

 

そして、ダブルを磨き続けることが、ヒソカに勝つための最善の選択なのか。

 

俺はダブルを消した。

 

再び、一人で構えを取る。

 

腕を振るい、指先を使い、身体を捻る。

 

その動きを確かめながら、別の可能性を考えた。

 

もし、もう一組の腕を具現化できたら。

 

それが俺の身体から伸び、俺の動きに合わせて攻撃できたら。

 

全身を再現する必要はない。

 

腕が増えることで、攻撃と防御の選択肢を増やせるかもしれない。

 

虎咬拳の動きを補助することも、今の両腕では届かない位置から攻撃することも考えられる。

 

だが、ダブルと同じように自由に動かせるとは限らない。

 

具現化するものを腕だけにすれば、それだけで能力が強くなるわけでもない。

 

どこから出現させるのか。

 

どのように動かせるのか。

 

どんな制約が生じるのか。

 

そして、制約を設けることで何を得ようとするのか。

 

考えるべきことは多かった。

 

俺は自分の両手を見つめた。

 

十本の指。

 

この指先で相手を捉え、抉るために、俺は虎咬拳を鍛えてきた。

 

この技術を、今すぐ捨てるつもりはない。

 

ただし、これまで身につけたものを、そのまま新しい能力に持ち込めるとも限らなかった。

 

能力に合わせて武術を変えるのか。

 

それとも、武術を生かすために能力の形を変えるのか。

 

どちらか一方に決める必要があるのかさえ、まだ分からない。

 

俺はゆっくりと拳を握った。

 

虎咬拳を身につけるまでに費やした時間も。

 

ダブルを完成させるまでに費やした時間も。

 

どちらも、俺がここまで来るために必要だった。

 

だからといって、積み上げてきたものをすべて守ることが、これからの強さにつながるとは限らない。

 

必要なものを見極める。

 

そのうえで、何を残すかを決める。

 

俺はもう一度、虎咬拳の構えを取った。

 

十本の指を開き、踏み込み、腕を振るう。

 

まだ、答えは出ていない。

 

それでも、自分が何を武器に戦ってきたのか。

 

そこから考え直す必要があることだけは、はっきりしていた。

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