『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第14話 腕を残す

翌日。

 

俺は鍛錬場で、ダブルを発動させた。

 

目の前に現れた分身は、俺と同じように両腕を構える。

 

その姿を見ながら、昨日から考えていたことを整理した。

 

全身を再現する必要はないのではないか。

 

俺が求めているのは、もう一人の俺そのものではなく、戦闘に必要な機能なのかもしれない。

 

特に、腕。

 

虎咬拳では、十本の指を使って相手を捉え、食らいつき、抉る。

 

だが、腕の役割はそれだけではない。

 

拳や指先を一点に叩き込むこともできる。

 

腕を振る勢いを攻撃に変え、手刀や裏拳を放つこともできる。

 

相手の攻撃を逸らし、腕を掴んで動きを制限することもできる。

 

腕は、それ自体が多くの戦闘動作を可能にする部位だ。

 

ならば、もう一組の腕を具現化することには意味がある。

 

問題は、その腕に何をさせるかだった。

 

あらゆる動作を自由に行える腕を作るなら、ダブルと同じように、多くの選択肢を扱う必要がある。

 

それ自体が悪いわけではない。

 

だが、今の俺が求めているのは、何でもできるもう一組の腕ではなかった。

 

必要な機能を選び、それ以外を切り捨てる。

 

そうすることで、別の強さを得られないだろうか。

 

俺はダブルを消した。

 

そして、自分の背中に意識を向ける。

 

そこから、もう一組の腕が生えてくる様子を思い描いた。

 

肩の位置。

 

肘の曲がり方。

 

手首の向き。

 

指先の形。

 

人間の腕を再現すること自体は、ダブルの一部を具現化するのと大きく変わらないはずだ。

 

俺はオーラを集中させた。

 

背中に違和感が生じ、肩から先の形が浮かび上がる。

 

もう一組の腕。

 

細部を整えるには集中が必要だったが、形を作ること自体はできた。

 

俺は、その腕を動かした。

 

肘を曲げ、手首を返し、指を開く。

 

腕は俺の意識に応じて動いた。

 

動かすこと自体に、大きな問題はない。

 

だが、自由に動かせるということは、それだけ多くの動作を可能にするということでもあった。

 

手首の角度を変えれば、指先の向きも変わる。

 

肘や肩の動かし方によって、攻撃の軌道も変わる。

 

それらを組み合わせれば、動作の種類は際限なく増えていく。

 

腕を再現するということは、単に一本の武器を作ることではない。

 

多様な動きを可能にする身体の一部を、そのまま持ち込むということだった。

 

俺は具現化した腕を消した。

 

必要なのは、腕の自由な再現ではない。

 

その機能のうち、何を残すかを決めることだ。

 

俺は鍛錬場の中央に立ち、動作を整理した。

 

まずは、打突。

 

拳や指先を、狙った一点へ叩き込む。

 

次に、振り回し。

 

腕を振る勢いを攻撃に変える。手刀や裏拳も、この動作に含められる。

 

三つ目は、受け流し。

 

相手の攻撃を正面から受け止めるのではなく、力の向きを変えて逸らす。

 

四つ目は、掴み。

 

相手の身体や腕を捉え、動きを制限する。

 

そして、五つ目が爪撃。

 

十本の指先を使い、相手を引っかき、抉る。虎咬拳の特徴を生かすための動作だ。

 

打突、振り回し、受け流し、掴み、爪撃。

 

攻撃と防御に必要な働きを、この五つに分類する。

 

もちろん、これですべてを網羅できるわけではない。

 

細かな手の操作も、複数の動作を自由につなぐ連携も、状況に応じて軌道を変える動きもある。

 

五つに絞るということは、そうした自由を失うということだった。

 

だが、それは腕を不完全な形で再現するという意味ではない。

 

本来なら多様な動作ができる腕から、必要な働きだけを選び取る。

 

俺は再び腕を具現化し、五つの動作を順に確かめた。

 

打突では、拳を前方へ突き出す。

 

振り回しでは、腕を横へ振り、手刀を放つ軌道を取る。

 

受け流しでは、斜めに腕を動かし、相手の攻撃を逸らす動きをなぞる。

 

掴みでは、指を閉じて対象を握る。

 

爪撃では、指を開き、十本の指先を攻撃に使う形を取る。

 

どれも、腕が本来持っている動作だった。

 

特別な動きを生み出す必要はない。

 

何をできるようにするかではなく、何をできないようにするか。

 

その選択が、能力の形を決めることになる。

 

俺は腕を消した。

 

五つの動作を選んだだけでは、まだ不十分だった。

 

具現化した腕は、五つの動作を自由に切り替えられるのか。

 

それとも、一度選んだ動作だけを行うのか。

 

動作が終わった後も腕を維持するのか。

 

あるいは、動作の完了と同時に消えるのか。

 

そこで、ふと別の能力を思い出した。

 

カイトの気狂いピエロ。

 

具現化した武器を扱う、あの能力だ。

 

詳しい仕組みのすべてを知っているわけではない。だが、具現化するものの形だけでなく、その扱い方や制約まで含めて能力が成り立っているという点は、考えるうえで参考になる。

 

俺が今考えている腕も同じだ。

 

どんな動作を行えるのか。

 

それだけでなく、いつまで存在できるのか。

 

そこまで決めて初めて、一つの能力として形になるのではないか。

 

例えば、具現化した腕を自由に消せるようにする。

 

必要なときに呼び出し、役目を終えれば消す。使い勝手はいいが、消失の自由を制限することにはならない。

 

反対に、一度具現化した腕を、自分の判断では消せないようにする。

 

そうすれば、必要がなくなっても腕が残る。使い勝手は悪くなるが、その不自由さを強化につなげられる可能性はある。

 

さらに、選択した動作が完了すると同時に、腕が消えるようにする方法も考えられる。

 

打突を選んだなら、打突を行う。

 

爪撃を選んだなら、爪撃を行う。

 

動作が終われば、腕は消える。

 

そこから別の動作へ移るには、改めて能力を使わなければならない。

 

一つの動作に機能を限定するだけでなく、腕が存在できる時間まで制限することになる。

 

もちろん、まだ候補を並べただけだ。

 

どの条件が適切なのかは分からない。

 

制約を増やすこと自体が目的になってはいけないし、不自由にした分だけ必ず強くなるわけでもない。

 

何を捨てることに意味があるのか。

 

自分にとって重要なものを、どこまで手放せるのか。

 

その代わりに何を得たいのか。

 

そこまで考えたうえで、制約を選ばなければならなかった。

 

俺は両手を見つめた。

 

虎咬拳を使うなら、十本の指を自由に扱えることには大きな意味がある。

 

それでも、新しい能力に同じ自由を求める必要があるとは限らない。

 

本体の腕でできることと、具現化した腕に任せること。

 

それぞれの役割を分ければ、今までとは違う戦い方ができるかもしれない。

 

ダブルをそのまま使い続けるのか。

 

それとも、必要な機能だけを残し、別の能力へ作り変えるのか。

 

まだ、答えは出ていない。

 

だが、腕に何を求めるのかは、少しずつ明確になってきていた。

 

俺はもう一度、構えを取った。

 

次は、選んだ動作にどのような制約を設けるのか。

 

そして、その制約によって何を得ようとするのか。

 

そこを決めなければ、先には進めなかった。

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