『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第16話 見えていない差

翌日。

 

俺は鍛錬場で、いつものように虎咬拳を繰り返していた。

 

踏み込み、両手を繰り出す。

 

十本の指を目標に届かせ、力を込め、左右の動きを連動させる。

 

何度も繰り返してきた動作だ。

 

身体が覚えている。

 

それでも、毎回まったく同じように動けるわけではなかった。

 

踏み込みの位置がわずかにずれる。

 

右手を出すタイミングが早すぎる。

 

両手の動きが噛み合わず、力がうまく伝わらない。

 

普段なら、その程度の誤差は修正しながら鍛錬を続ける。

 

だが、今日は違った。

 

俺は動作を止め、その直前に何が起きていたのかを考えた。

 

どこを狙っていたのか。

 

どのタイミングで動こうとしたのか。

 

実際には、どこへ動いていたのか。

 

頭の中にある動作のイメージと、現実の身体の動き。

 

その二つは、完全には一致していない。

 

意識すれば修正できる。

 

だが、修正するには、まずズレに気づかなければならない。

 

そして、気づいてから動きを直すまでにも、わずかな時間が必要だった。

 

「……ここか」

 

俺は拳を下ろした。

 

足りないものが、少しだけ見えた気がした。

 

単純な筋力や攻撃の威力だけではない。

 

自分の動きを正確に把握し、必要な修正を判断し、それを身体へ反映させる。

 

その一連の過程にも、改善の余地がある。

 

ヒソカとの戦いでは、こちらが動作を修正するまで相手が待ってくれるわけではない。

 

判断の遅れは、攻撃を外すだけでなく、反撃を受ける原因にもなる。

 

ならば、動作の精度を高めるだけでは足りない。

 

判断を速くし、判断したことを身体へ伝え、実際の動きに反映させるまでの遅れも減らす必要がある。

 

俺は再び構えた。

 

今度は速さを求めず、動作の正確さだけを意識する。

 

踏み込みの位置。

 

腰の回転。

 

肩から腕へ伝わる力。

 

指先が目標に届くまでの軌道。

 

一つずつ確認しながら動くと、普段は意識していなかった小さなズレが見えてきた。

 

修正する。

 

もう一度動く。

 

また別のズレに気づく。

 

終わりのない作業だった。

 

それでも、ただ回数を重ねるより、得られるものは多いように思えた。

 

やがて俺は、鍛錬を中断した。

 

このやり方を続ければ、技の精度は上がるだろう。

 

だが、すべての動作を意識して修正していては、戦闘の速度についていけない。

 

一つの動きを確認している間に、相手は次の動作へ移ってしまう。

 

必要なのは、修正の精度だけではない。

 

そもそも、今までより細かく身体の動きを捉えられれば。

 

相手の動きに含まれるわずかな変化を、より早く認識できれば。

 

判断に使える情報が増えれば、選べる行動も変わるかもしれない。

 

俺はそこで考えを止めた。

 

それは、今の俺にできることなのだろうか。

 

身体の動きを意識して修正することと、認識や判断そのものを変えることは別だ。

 

鍛錬だけでどこまで到達できるのか。

 

念能力によって、その過程を補助できるのか。

 

まだ分からない。

 

ただ、ダブルを別の形に作り替えるのなら、こうした問題を放置したままでは意味がない。

 

もう一人の身体を増やすことに、どれほどの価値があるのか。

 

それよりも、自分自身の身体を、今より正確に扱えるようにする方が重要なのではないか。

 

俺は両手を開き、指先を見つめた。

 

虎咬拳は、十本の指を使う技だ。

 

一本一本の指が役割を持ち、両手が連動することで、初めて本来の威力を発揮する。

 

その動きを、もっと細かく制御できたなら。

 

今まで届かなかった攻撃が届くかもしれない。

 

相手のわずかな隙を、逃さず捉えられるかもしれない。

 

だが、考えただけで実現できるものではない。

 

何を強化すれば、その結果につながるのか。

 

どれほどの効果が得られ、代わりに何を失うのか。

 

確かめなければならないことは、まだ多かった。

 

俺は再び構え、虎咬拳を繰り出した。

 

今度は、ただ強く打つためではなく。

 

自分が何を見落とし、何を修正できていないのかを知るために。

 

その小さな差の先に、今の自分を変える手掛かりがある気がした。

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