『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第2話 覚えていること

どれくらい、そうしていたのだろう。

 

気づけば、拳を握りしめていた手から力が抜けていた。

 

呼吸を整え、頭の中に浮かんでは消える記憶を整理する。

 

まずは、ヒソカについてだ。

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)。

 

薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)。

 

どちらも、漫画で読んだ知識として覚えている。

 

だが、知っていることと、実際に対処できることは違う。

 

念能力の性質を知っていたところで、戦闘中に何を仕掛けてくるのか、どのタイミングで使うのかまでは分からない。

 

それに、俺が覚えているのは漫画の内容だ。

 

自分が経験した戦闘の記憶ではない。

 

カストロがヒソカに敗れたことは知っている。だが、戦いの細部をすべて正確に思い出せるわけではなかった。

 

そもそも、今はいつなのだろう。

 

俺がダブルを完成させたということは、少なくとも念能力を習得し、ここまで鍛錬を積み重ねてきた後だ。

 

原作のカストロも、ダブルを使ってヒソカと戦っていた。

 

ならば、その戦いより前なのは間違いない。

 

原作の展開を知っているからといって、今の状況まで完全に一致しているとは限らない。

 

俺が記憶を取り戻したことで、何かが変わった可能性だってある。

 

考えれば考えるほど、確かなことが少なかった。

 

だが、一つだけ確かなことがある。

 

俺は、ヒソカと戦わなければならないわけではない。

 

天空闘技場に居続ける必要はない。

 

別の場所へ移り、戦うことを避けながら生きていく道だってある。

 

原作のカストロがヒソカと戦ったからといって、俺まで同じ道をたどる必要はないのだ。

 

そう考えると、ほんの少しだけ呼吸が楽になった。

 

逃げればいい。

 

勝てるかどうかも分からない相手に挑み、命を落とすくらいなら、逃げてしまえばいい。

 

名誉も、執着も、今の俺には命より大切なものではない。

 

少なくとも、死ぬと分かっている戦いに、自分から飛び込む理由はなかった。

 

それでも、すぐに行動を決めることはできなかった。

 

今の生活を捨てて、どこへ行くのか。

 

これまで積み重ねてきた鍛錬を、これからどう生かすのか。

 

そして、仮に逃げるとして、いつまで逃げ続けるのか。

 

考えるべきことはいくらでもあった。

 

何より、原作の知識だけを頼りにしても、これから先を生き抜ける保証はない。

 

俺が知っているのは、あくまで漫画として描かれた物語だ。

 

そこに描かれていない出来事もあれば、俺が覚えていないこともある。

 

この世界は、俺の知識どおりに進むとは限らない。

 

だからこそ、今の自分に何ができるのかを知らなければならない。

 

視線を落とす。

 

そこには、俺が長い時間をかけて完成させた念能力があった。

 

ダブル。

 

自分と同じ姿をした分身を生み出し、本体と連携させて戦う能力。

 

完成したときは、これでさらに強くなれると思った。

 

だが、原作のカストロは、この能力を使ってヒソカに敗れた。

 

その事実が、今までとは違う意味を持って迫ってくる。

 

この能力を鍛えれば、ヒソカに勝てるのか。

 

それとも、この能力にこだわること自体が間違いなのか。

 

答えは出ない。

 

ただ、目の前にある自分の能力が、急に頼りないものに見えた。

 

俺は拳を握り、ゆっくりと開いた。

 

逃げるにしても、戦うにしても。

 

まずは、自分が何を持っているのかを知らなければならない。

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