『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第20話 自由を捨てる

鍛錬を終えた俺は、床に座り込んで考えていた。

 

頭。

 

胴体。

 

脚。

 

それぞれに必要な機能を考えてきたが、どれか一つを強化すれば解決するわけではない。

 

相手の動きを細かく捉える。

 

捉えた情報から、取るべき行動を判断する。

 

その判断を、身体の動きへ正確に反映させる。

 

そして、必要な位置へ踏み込み、攻撃を届かせる。

 

どれか一つが欠けても、ほかの機能を十分に活かせない。

 

ならば、すべてを強化すればいいのか。

 

俺は、その考えを打ち消した。

 

そんな都合のいい話ではない。

 

俺が完成させたダブルは、全身を具現化し、自在に動かす能力だった。

 

自分とは別の位置から攻撃できる。

 

本体と分身で相手を挟み込める。

 

必要に応じて具現化し、役目を終えれば消すこともできる。

 

その自由度は、ダブルの大きな強みだ。

 

だからこそ、捨てるには惜しい。

 

だが、自由であることと、今の俺にとって最適であることは同じではない。

 

もう一人の身体を自在に操るには、技術も経験も必要になる。

 

鍛錬を重ねれば、今より上手く使えるようになるだろう。

 

それでも、ヒソカとの戦いまでに、必要な水準へ到達できる保証はない。

 

ダブルを磨き続けること自体が間違いなのではない。

 

限られた時間を、どこに使うべきかという問題だった。

 

俺は立ち上がり、能力を発動させた。

 

目の前に、もう一人の俺が現れる。

 

何度も見てきた姿だった。

 

完成させるまで、どれほど鍛錬を重ねてきたか。

 

思いどおりに動かせず、試行錯誤を繰り返し、少しずつ形にしてきた。

 

その積み重ねは、決して無駄ではない。

 

分身がいれば攻撃の手数を増やせる。

 

相手の意識を分散させ、本体とは別の方向から攻めることもできる。

 

自分が危険を冒す代わりに、分身を前へ出すことも可能だ。

 

ヒソカとの戦いでも、十分に役立つ可能性がある。

 

それでも、俺は考えてしまう。

 

本当に必要なのは、もう一人の自分なのだろうか。

 

俺が求めているのは、分身を操ること自体ではない。

 

ヒソカの攻撃に対応し、隙を作り、虎咬拳を届かせることだ。

 

その目的を達成するために必要な機能を得られるなら、全身を再現することにこだわる必要はない。

 

俺は分身を消した。

 

今度は、背中から腕を一本だけ具現化する。

 

拳を突き出す。

 

腕を横へ振る。

 

何かを掴むように、指を閉じる。

 

腕には、もともと多くの動きが備わっている。

 

打つことも、振ることも、受け流すことも、掴むこともできる。

 

虎咬拳のように、指先を使って相手を引き裂くこともできる。

 

だが、そのすべてを自由に行えることが、必ずしも能力の強さにつながるとは限らない。

 

もし、使える動作をあらかじめ限定したら。

 

もし、腕を具現化できる場所を、自分の身体から離れられないようにしたら。

 

もし、一度具現化した腕を、好きなタイミングで消せなくしたら。

 

それらは、ダブルが持っている自由を失うことになる。

 

その代わりに、限られた動作へ能力を集中させられるかもしれない。

 

もちろん、制約を加えれば、必ず望んだ強化が得られるわけではない。

 

ただ不便になるだけなら、意味がない。

 

何を捨てるのか。

 

何を得たいのか。

 

その二つを結びつける必要がある。

 

さらに、制約は一度決めれば簡単には取り消せない。

 

後から条件を追加することはできても、失った自由をそのまま取り戻せるとは限らない。

 

だからこそ、決める前に考え抜かなければならない。

 

俺は具現化した腕を消し、自分の両手を見つめた。

 

頭の働き。

 

身体へ指令を伝える仕組み。

 

脚の踏み込み。

 

そして、腕による攻撃と防御。

 

どれも、今の俺には必要だった。

 

しかし、必要な機能を列挙するだけでは、能力は完成しない。

 

どの機能を強化の中心に据えるのか。

 

どの自由を手放すのか。

 

そして、何を失うことなら、自分自身が納得できるのか。

 

俺は、ダブルを完成させたときの感覚を思い返した。

 

あの能力は、俺の努力の結晶だった。

 

それを手放すことに、迷いがないわけではない。

 

ヒソカと戦うための希望でもあり、自分の代わりに危険を引き受けてくれる存在でもあった。

 

だからこそ、失うことが怖い。

 

だが、その恐怖だけを理由に、今の能力に固執するわけにはいかなかった。

 

俺は、ゆっくりと拳を握った。

 

必要なのは、何もかもを残すことではない。

 

限られた時間で生き残るために、何を選び、何を捨てるのか。

 

その答えを出すのは、ほかでもない俺自身だった。

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