俺は、紙に必要な機能を書き出した。
頭。情報を捉え、判断する。
胴体。頭で決めた動きを、身体へ伝える。
脚。必要な位置へ踏み込み、攻撃を届かせる。
腕。相手を攻め、攻撃を受け流し、時には動きを封じる。
どれも、戦闘に欠かせない働きだ。
だが、すべてを同じように強化できるとは限らない。
能力に使えるオーラにも、俺自身が扱える情報量にも限界がある。
何を強化するかだけでなく、どの機能に、どれだけ力を割くのか。
それも決めなければならなかった。
俺は、まず頭の項目を丸で囲んだ。
ここは削れない。
相手の動きを捉え、わずかな変化を見分け、そこから次の行動を判断する。
この働きがなければ、ほかの機能を強化しても、その力を十分に活かせない。
それに、情報を処理する能力が高まれば、鍛錬から得られるものも変わるはずだ。
これまで見落としていた動作のずれに気づく。
思いどおりに身体が動かなかった理由を、より細かく分析する。
同じ一度の鍛錬から得られる情報が増えれば、技術を身につける速度も変わってくる。
もちろん、知識も経験も、実際に身体を動かす鍛錬も必要だ。
ただ能力を強化しただけで、知らない技術を使えるようになるわけではない。
それでも、長い時間をかけて積み重ねるなら、この差は無視できない。
俺は頭の項目に線を引き、基盤として残すことにした。
次に、胴体と脚を見た。
胴体に求めるのは、単純な筋力や姿勢の安定だけではない。
頭で決めた動きを、身体へ速く、正確に伝えること。
脚に求めるのは、長く走り続ける力ではなく、必要な瞬間に踏み込み、位置を変える力。
この二つも、戦闘の土台になる。
ただし、常にすべての機能へ最大限の力を割けるとは限らない。
もし、その時々に必要な機能へ強化を集中できるなら。
相手の動きを読む場面では頭へ。
一瞬の踏み込みが必要なら脚へ。
複雑な動きを正確に通したいなら、身体への指令伝達へ。
状況に応じて配分を変えられれば、限られた力を有効に使えるかもしれない。
だが、選択肢を増やすほど、運用も複雑になる。
切り替えの判断を誤れば、必要な場面で強化が間に合わない。
頭の働きを基盤として維持しながら、ほかの機能へどこまで力を回せるのか。
そこは、まだ検討が必要だった。
俺は紙の下に、新たな項目を書いた。
腕。
ここだけは、身体の内側を強化する話とは分けて考える。
俺が必要としているのは、単に自分の腕を強くすることではない。
攻撃の手数を増やし、防御の選択肢を増やすことだ。
そのために、外部へ具現化する腕を残す。
ただし、ダブルのように全身を再現することはしない。
具現化する場所は、自分の身体につながった位置に限る。
腕にできる動作も、あらかじめ選んだものだけに絞る。
俺は、候補を書き並べた。
打突。
振り回し。
受け流し。
掴み。
爪撃。
虎咬拳につながる動作を残しながら、攻防に必要な機能を確保する。
それ以外の動きは捨てる。
何でもできる腕をもう一本用意するのではない。
限られた役割を果たす腕を生み出す。
それが、この能力の方向性だった。
さらに、具現化した腕を好きなタイミングで消すこともできなくする。
選んだ動作を終えれば、自動的に消える。
ダブルなら、必要に応じて具現化し、好きなタイミングで消すことができた。
その自由も手放すことになる。
俺は、書いた条件を見直した。
自分の身体から離れた場所には出せない。
全身ではなく、腕だけ。
動作は五種類に限定する。
一度具現化した腕は、動作を終えるまで自由に消せない。
ダブルが持っていた自由を、いくつも失うことになる。
だが、制約を増やしたからといって、望んだ強化が自動的に得られるわけではない。
どれほどの力を得られるのか。
その力が、俺の望む機能に向かうのか。
実際に能力を組み立て、確かめる必要がある。
俺は紙を置いた。
まだ、完成ではない。
頭、胴体、脚の機能をどう配分するか。
腕の動作を、どのような条件で発動させるか。
そして、ダブルを本当に手放す覚悟があるのか。
残された問題は、どれも軽くない。
それでも、ようやく能力の形が見え始めていた。
もう一人の自分を作り出すのではない。
自分の身体を、戦うために作り変える。
その方向へ進むなら、最後に決めなければならないことがある。
俺は紙の端に、短く書き加えた。
ダブルを、二度と使えなくする。
その文字を見つめたまま、しばらく動けなかった。