『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第22話 戻れない選択

紙の端に書いた文字を、俺は何度も見返していた。

 

ダブルを、二度と使えなくする。

 

たった一行。

 

だが、それを実行すれば、今まで積み重ねてきたものの一部を、自分の手で永久に失うことになる。

 

ダブルは、俺が長い鍛錬の末に完成させた能力だった。

 

全身を具現化し、自分とは別の場所から攻撃する。

 

本体と分身で相手を挟み込み、複数の方向から圧力をかける。

 

必要なときに現れ、役目を終えれば消す。

 

使い方を磨けば、戦術の幅はさらに広がる。

 

それを捨てる。

 

単に使わないと決めるのではない。

 

使いたくなったときにも、二度と使えないようにする。

 

俺は目を閉じた。

 

ヒソカの姿が浮かぶ。

 

あの男を前にすれば、今の俺は恐怖で動けなくなるかもしれない。

 

だからこそ、ダブルを完成させたときには希望があった。

 

分身を使えば、有利に戦えるのではないか。

 

自分の代わりに危険を引き受けさせれば、生き残れる可能性が上がるのではないか。

 

ダブルは、単なる戦闘手段ではなかった。

 

俺が積み重ねてきた努力であり、死の結末を変えるための手段でもあった。

 

それを手放して、本当に勝てるのか。

 

答えは出ない。

 

新しい能力がダブルより優れている保証などない。

 

制約を増やしたところで、望んだ強化が得られるとも限らない。

 

選択を誤れば、俺は自分の武器を失っただけで終わる。

 

それでも、今のダブルを磨き続けることにも危険はある。

 

習熟には時間がかかる。

 

戦術を組み立て、相手の反応に対応し、二つの身体を連携させる技術を磨く。

 

そのすべてを、ヒソカと戦うまでに身につけられるとは限らない。

 

俺には、いくらでも準備に時間を費やせるわけではなかった。

 

俺は立ち上がり、ダブルを発動させた。

 

目の前に、もう一人の俺が現れる。

 

互いに構えを取り、踏み込む。

 

分身が拳を繰り出すのに合わせ、俺は別の角度から攻めた。

 

一方が相手の意識を引きつけ、もう一方が死角へ回り込む。

 

一人では作れない攻撃の角度。

 

相手が対応すべき対象を増やすこと。

 

本体とは別の位置に、もう一つの身体を置けること。

 

ダブルには、確かな強みがあった。

 

動きの精度には、まだ改善の余地がある。

 

それでも、鍛錬を重ねれば、連携をさらに洗練させることはできるだろう。

 

俺は動きを止めた。

 

目の前にいる分身を、じっと見つめる。

 

「……本当に、これでいいのか」

 

呟いても、答える声はない。

 

当然だ。

 

この選択をするのは、俺自身なのだから。

 

ダブルが弱いから捨てるのではない。

 

使いこなせないから、逃げるのでもない。

 

俺が必要としている強さと、ダブルが持つ強みが、必ずしも一致しない。

 

今の俺には、その違いを無視できなかった。

 

俺は分身を消した。

 

静かになった鍛錬場で、自分の両手を見下ろす。

 

これから作る能力は、もう一人の自分を生み出すものではない。

 

自分の身体を、より精密に扱うためのものだ。

 

必要な機能を選び、不要な自由を手放し、その代わりに戦闘で必要な力を求める。

 

そのためには、ダブルの仕組みそのものを変えなければならない。

 

俺は、紙に書いた制約をもう一度確認した。

 

外部に全身を具現化する自由を捨てる。

 

自分の身体から、限られた役割の腕だけを具現化する。

 

その腕は、選んだ動作を終えるまで自由に消せない。

 

そして、ダブルそのものを封じる。

 

最後の一行に、視線を戻した。

 

怖くないわけがない。

 

この先、選択を後悔する日が来るかもしれない。

 

それでも、ダブルを残したまま新しい能力を作るつもりはなかった。

 

二つの能力を都合よく使い分けるのでは、捨てると決めた意味がない。

 

俺は、紙を折って脇へ置いた。

 

まだ、能力の細部は完成していない。

 

どの機能をどこまで強化できるのか。

 

腕の制約が、どのような力につながるのか。

 

実際に組み立て、確かめる必要がある。

 

だが、一つだけ決めた。

 

俺は、ダブルを封じる。

 

その自由を取り戻せないことも含めて、選ぶ。

 

胸の奥には、まだ恐怖が残っていた。

 

それでも、俺は目を逸らさなかった。

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