『カストロに転生した俺は、死の結末を知っている』   作:火烏

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第9話 同じ土俵に立つために

ダブルを極めることが、目的ではない。

 

ヒソカに勝つことが目的だ。

 

そのことを忘れないようにしながら、俺は鍛錬場に立っていた。

 

目の前には、俺と同じ姿をしたもう一人の俺がいる。

 

まずは、これまで試してきた連携を実戦に近づける。

 

分身が正面から踏み込む。

 

その動きに合わせ、俺は側面へ回り込んだ。

 

分身を警戒すれば、俺への対応が遅れる。

 

俺に意識を向ければ、分身が攻める。

 

二つの脅威を同時に意識させ、相手の対応を難しくする。それがダブルの強みだった。

 

だが、頭の中で考えたほど簡単ではない。

 

分身の攻撃に合わせて自分の動きを組み立て、相手が回避した場合の次の手まで考える。

 

一つひとつの動作は難しくない。それでも、複数の動きを組み合わせ、状況の変化まで考慮すると、わずかな遅れが生まれた。

 

分身に意識を向ければ、自分の身体への注意が薄れる。

 

自分の攻撃に集中すれば、分身の動きが遅れる。

 

そのわずかなずれが、連携を崩してしまう。

 

俺は何度も同じ動きを繰り返した。

 

分身を先に動かす。自分を先に動かす。二つの動きを同時に始める。あるいは、あえて時間差をつける。

 

試行錯誤を重ねるうちに、少しずつ動きが滑らかになっていった。

 

習熟によって改善できる部分は、確かにある。

 

今の俺がダブルを使いこなせていないのは事実だ。練習を続ければ、もっと自然に動かせるようになるだろう。

 

だが、どこまで鍛えればいいのか。

 

実戦で十分に使える水準に達するまで、どれほどの時間が必要なのか。

 

そして、そこまで習熟したとき、どれだけ強くなれるのか。

 

今の俺には分からない。

 

分からないまま、時間を注ぎ込むわけにもいかなかった。

 

俺はダブルを解除した。

 

原作のカストロは、ダブルを完成させ、それを使いこなすために努力した。

 

二つの身体を操り、ヒソカと戦えるところまで鍛え上げた。

 

それでも、敗北した。

 

もちろん、ダブルそのものが弱かったわけではない。使い方次第では、強力な能力だ。

 

問題は、その能力を極めることが、ヒソカに勝つための最善の選択だったのかということだ。

 

ダブルを鍛えれば、強くなれる。

 

だが、その時間を別の修練に充てることもできる。

 

身体能力を高める。虎咬拳を磨く。反応を速くし、判断を正確にする。念の運用を洗練させる。

 

どれも戦闘に必要な要素だ。

 

ダブルを使いこなすことと、戦士として強くなること。

 

その二つは、必ずしも同じではない。

 

では、何を優先すべきなのか。

 

考えようとして、俺は一つの戦闘を思い出した。

 

ゴトーとヒソカの戦いだ。

 

ゴトーはコインを利用し、ヒソカに連続攻撃を仕掛けた。

 

速度と威力を備えた攻撃を重ね、相手の動きを制限する。

 

それに対して、ヒソカは対応してみせた。

 

攻撃を避けるだけではない。相手の攻撃手段を利用し、反撃へとつなげていく。

 

あの戦いで印象に残ったのは、ヒソカが速いということだけではなかった。

 

相手の動きに対応しながら、次の手を打つ。

 

こちらが攻撃を仕掛けている間に、攻撃への対処だけでなく、その先の反撃まで成立させる。

 

もちろん、漫画の描写だけで、実際にどれほどの速さで判断しているのかまでは分からない。

 

それでも、結果は明らかだった。

 

ゴトーは攻撃を重ねたが、ヒソカを仕留められなかった。

 

そして、最後には倒された。

 

俺が同じように攻めたら、どうなるだろう。

 

虎咬拳で攻撃する。ダブルを使い、別方向からも攻める。相手の注意を分散させ、連携で隙を作る。

 

どれも理屈の上では有効だ。

 

だが、攻撃の手数を増やすことと、攻撃を当てることは違う。

 

ヒソカがこちらの攻撃に対応できるなら、手数を増やしたところで決定打にならない可能性がある。

 

むしろ、二つの身体を操るために意識を割いている間に、反撃を受けるかもしれない。

 

ダブルは攻撃の選択肢を増やしてくれる。

 

しかし、それだけで相手との速度差が埋まるわけではない。

 

俺は拳を握った。

 

ならば、基礎修行に時間を使えばいいのか。

 

身体を鍛え、動きを速くし、虎咬拳の精度を上げる。ダブルの習熟に費やす時間を減らし、その分を自分自身の強化に充てる。

 

それは有効な選択だろう。

 

だが、それでヒソカと戦えるようになるのか。

 

俺はヒソカの能力を思い浮かべた。

 

バンジーガム。

 

伸縮自在で、接着性を持つオーラ。

 

攻撃に使うだけではない。対象に付着させ、引き寄せ、反動を利用することで、通常の身体能力だけでは生み出しにくい動きを可能にする。

 

距離を取ったつもりでも、引き戻される。

 

攻撃を避けても、付着したガムによって動きの軌道を変えられる。

 

こちらが想定した間合いや動きが、そのまま通用するとは限らない。

 

ゴトー戦で見た対応力を考えれば、なおさらだった。

 

単純に速くなればいい、という話ではない。

 

相手の動きを認識し、状況を判断し、次の行動を選び、身体を動かす。

 

その一連の過程を、戦闘の中で途切れなく続けなければならない。

 

しかも、ヒソカはバンジーガムによって、こちらの予想を外す動きを作り出せる。

 

俺が通常の鍛錬を続け、身体能力を伸ばしたとして。

 

その成長だけで、ヒソカの攻撃に対応できるようになるだろうか。

 

確証はない。

 

むしろ、間に合わない可能性を考えるべきだった。

 

ダブルの操作技術を磨く。

 

身体能力を鍛える。

 

虎咬拳を磨く。

 

念の扱いを洗練させる。

 

どれも必要だ。だが、限られた時間の中ですべてを十分に伸ばせるとは限らない。

 

原作のカストロは、ダブルを使いこなす方向へ進み、その先で敗北した。

 

俺が同じ道を歩けば、同じ結末に近づく危険がある。

 

ならば、どうする。

 

ダブルを捨てるのか。

 

そこまでの結論は、まだ出せない。

 

ダブルには確かな強みがあり、習熟によって改善できる部分もある。

 

問題は、どこまで鍛えるべきなのか。

 

何に時間を使い、何を後回しにするのか。

 

そして、通常の修練だけでは埋められない差があるのなら、どう補うのか。

 

俺は再び、ダブルを具現化した。

 

目の前に立つ、もう一人の俺。

 

こいつを使いこなせば、確かに強くなれるだろう。

 

けれど、それだけでは足りないかもしれない。

 

ヒソカと戦うためには、まず同じ土俵に立たなければならない。

 

そのために必要なのは、ただ鍛錬を重ねることなのか。

 

それとも、鍛え方そのものを変える必要があるのか。

 

まだ、答えは出ない。

 

俺はダブルを解除した。

 

今はまだ、捨てるものも、残すものも決められない。

 

ただ一つ、はっきりしたことがある。

 

時間をかければ強くなれる。

 

だが、俺には無限の時間があるわけではなかった。

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