ルッケンスの三男坊   作:康頼

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第十一話

 汚染獣———老生二期との戦いが始まって丸一日程が経過した頃。

 未だ戦場では、一つのミスすら許されない生死を賭けたまさに死闘が繰り広げられていた。

 並みの武芸者なら、汚染獣を前にして丸一日戦い続けることは絶対に行わないことだろう。

 しかし、レイフォンとセヴァドスは未だ疲れを見せることなく、老生二期という化け物を相手取っていた。

 

 「ははははははっ!! 空は濁り、風は腐り、大地は荒れ果てている。 まさに戦い日和ですね、今日というこの日はっ!!」

 『うるさいですね。 そんな騒ぐ暇があったらさっさと倒してください』

 

 振り下ろされる老生二期の尾を潜るようにして躱すと、セヴァドスは右腕を振り抜き、その巨体を殴りつける。

 一度のミスが死を招く戦場でも、彼は———セヴァドス・ルッケンスはいつものようにワラッていた。

 そんな彼を見るフェリの表情はまさに気味が悪いものを見ているようなものだろう、とレイフォン自身もよくここまでこの状況で騒げるものだと感心してしまった。

 恐らくこの状況を楽しむ変態は、世界中を見渡してもルッケンス兄弟ぐらいだろう。

 だが、頭の中が狂っていたとしても武芸の腕前は天剣級と謳われるぐらいに確かなもので、状況判断、戦闘勘には狂いがなかった。

 

 「動きを止めます。 狙ってください」

 「わかりました、っと」

 

 少ない言葉から意味を読み取り、大地を駆けるセヴァドスは、この状況においては最高のパートナーと言っていいだろう。

 現在援護側に回っているレイフォンは、巧みに無数の鋼糸を操り、汚染獣の六本の足に絡ませる。

 鋼糸の師に当たるリンテンスならば、老性二期の動きを完全に止めることは可能だっただろうが、レイフォンには一瞬程の隙を作るしかできなかった。

 だが、その一瞬の隙さえあれば問題はない。

 

 旋剄により距離を詰めたセヴァドスは、老生二期の二対のハサミの内の一つに狙いを定めると両手に剄を巡らせる。

 

 外力系衝剄の変化、剛力徹破、咬牙。

 

 名門武門ルッケンスの技の一つで、強力な衝剄と徹し剄によって対象物を内外から破壊する秘技は、老性二期の強固なハサミにクモの巣状のヒビを入れ、衝撃とともに付け根部分ごとハサミを吹き飛ばした。

 片方のハサミを吹き飛ばされ、悲鳴と流血が吹き出る老性二期に対して、今度はレイフォンが頭上から迫る。

 

 外力系衝剄の変化、針剄。

 

 剣先から振るわれた衝剄は、鋭い槍となり、汚染獣の片目を貫いた。

 動きが停止しつつある老性二期に向けて、セヴァドスが巨大な衝剄の砲弾を放つ。

 

 外力系衝剄の変化、剛昇弾。

 

 放たれた衝剄弾は寸分の狂いもなく老性二期の顔面を捉えると、その巨体を後方へと仰け反けた。

 

 老性二期は、全身の至る所に傷を負っており、最初の頃の敏捷性は見る影もなかった。

 しかし、そんな姿を見てもレイフォンとセヴァドスは気を抜くことはなかった。

 一撃でも食らえばこちらが負けるという条件が変わったわけではない。

 

 「ふむ、老性二期にして少し物足りない気がしますが……まあ、いいでしょう。 そろそろ飽きてきました」

 

 体中から鮮血を噴き出す汚染獣を見て、セヴァドスはつまらなそうに呟く。

 物足りないと意見はレイフォンには理解できないものだが、早く仕留めることだけは意見が一致している。

 倒せるときには倒す。

 それが戦場の基本であり、守るべきルールである。 

 もし、手を抜き反撃をされでもすれば、こちらの命を失いかねない状況となる。

 

 「油断はしないでください。 仮にも老生体です」

 「わかっています。 幼性体だろうと手を抜くつもりはありませんから」

 レイフォンの警告に頷きながら、セヴァドスは破損した錬金鋼を投げ捨て、四個目の錬金鋼を弓に復元させる。

 油断のない鋭い目つきで目標を捉えると、弓を射った。

 弓から放たれた無数の勁弾は汚染獣を包みこむようにして捉えると土砂を巻き込みながら爆裂した。

 幼性体なら数十は吹き飛ばすその威力のせいで、辺りには砂埃が舞い上がり、汚染獣の姿を見失う。

 

 その瞬間、レイフォン達は突然、横へと飛ぶ。

 その半秒後、そこに振り下ろされたのは汚染獣の尾である。

 常人なら間違いなく直撃のタイミングを、レイフォンは前に踏み込むようにして躱す。

 

 「はっ!!」

 

 汚染獣の尾を避けたレイフォンは、躱し際にそのまま老生二期の傷だらけの尾を斬り裂いた。

 悲鳴を上げる老生二期からレイフォンが距離を取るように後方へ飛ぶと、頭上からセヴァドスの衝剄の矢が降り注ぐ。

 必殺の一撃を誇るほどの威力はあったが、それでも老生二期は歩みを止めない。

 だが確実に老生二期は弱っていた。

 段々と動きが鈍くなった老生二期を見て、レイフォン達はここが決め時だと長年の戦闘勘から判断した。

 とどめを刺そうと剣に剄を流したその時、フェリの声が聞こえた。

 

 『レイフォン、隊長が此方に向かっていると、そう伝えましたよね?』

 「え? そうでしたか?」

 

 フェリにそう言われて、レイフォンは思考を巡らせる。

 確かにそういうことは聞いていた気がするが、こちらも極限の状態だったため、どうフェリに答えたかまでは思い出せなかった。

 

 『貴方は、後方に下がれと言ってました』

 「えっと、そんなことを言った気がしますね」

 

 レイフォンがフェリと会話をしていると、突然、セヴァドスが珍しく大声を上げた。

 

 「レイフォンっ!!」

 「っ!? ちっ!!」

 

 その呼びかけに咄嗟に反応し旋剄で横へと跳ぶと、その寸前のところを老性二期の体が通過した。

 着地と同時に戦闘へと集中すると、傷だらけの老性二期が宙に浮いていた。

 ———その背に巨大な羽をつけて、

 

 「羽?」

 

 背から伸びる翅は、全部で四枚。

 半透明なソレは、昇る朝日の光に乱反射し、不気味に輝いていた。

 ハサミに尻尾と、様々な武器を破壊したことにより、老生二期も最後の武器を取り出したのだろう。

 突然の変貌に一瞬、虚を突かれることとなったレイフォンだったが、やるべきことに変わりはなかった。

 

 「なら、その羽を斬り飛ばしてやる」

 

 剄を錬金鋼へと流し込んだその時———レイフォンの視界の端にそれは現れた。

 前方にそびえ立つ崖の上から現れたのは、間違いなく人影であった。

 そして、その人影はレイフォンには見覚えがある。

 ニーナだ。

 何故、隊長がここにいる、レイフォンの思考が一瞬停止し、同時に隣には同小隊員のシャーニッドが何かに魅入られたように固まっていた。

 

 「フェリ先輩っ!!」

 『わかっていますっ』

 

 思考停止状態から復帰したレイフォンの言葉よりも早く、フェリが動き、そしてそれ以上に汚染獣が崖の上にいる獲物の存在に気がついた。

 標的をレイフォンからニーナに変えた老性二期は、素早く翅を使って空へと舞い上がると、そのまま一直線に崖の上のニーナへと向かう。

 

 内力系活剄の変化、旋剄。

 瞬時にレイフォンもその後を追うが、距離の差から老生二期の方がニーナへと辿りつくのが早かった。

 目の前の餌を捕食するために、老生二期は大きく口を開ける。

 その光景にレイフォンは、右手に握る複合錬金鋼に向けて壊れる寸前までの莫大な剄を流し込むと、そのまま飛来する老性二期に向かって———投擲した。

 

 「何をやっているんですかっ!?」

 「レイフォンっ!」

 

 凄まじい速度で放たれた大剣が、宙を舞う老生二期の身体に突き刺さりその巨体を吹き飛ばすと、その間にレイフォンは、ニーナのいる崖の上へと駆け上がり、ニーナとその近くにいたシャーニッドを抱きかかえてその場から距離を取る。

 レイフォンの機転により、ニーナとシャーニッドを救うことができたが、その代償は決して小さなものではない。

 複合錬金鋼は汚染獣に突き刺さったままで、レイフォンの攻撃手段は、腰に差さった青石錬金鋼の鋼糸のみとなってしまった。

 

 「フェリ先輩、彼は、セヴァドスはどこにいますか?」

 『彼は、現在汚染獣と交戦中です』

 「錬金鋼は?」

 『先程、汚染獣により破壊されているのを確認しました』

 「おいっ!! 聞いているのか、レイフォンっ!」

 

 フェリとの会話に割り込んでくるように入って来たニーナに、流石にレイフォンも声を荒げてしまう。

 

 「何ですか? 今は戦闘中ですっ!」

 「わかっているっ!」

 

 自分達に黙って戦場に出かけたレイフォンに対してニーナは怒っているようだが、レイフォンからしても忠告を無視して危険な場所に現れたニーナの能天気さには苛だちが隠せなかった。

 

 「まあ、落ちつけって」

 

 そんな二人の間に仲裁に入る者がいた。

 シャーニッドである。

 

 「ニーナ、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ?」

 「……わかっている」

 「ふぅ、こいつもお前が心配だったんだ。 いくらお前が馬鹿強ぇってもな」

 「はい……」

 

 珍しく真面目なシャーニッドの言葉に二人とも思うところがあったのだろう。

 バツが悪そうに顔を上げると、互いに目が合い———

 

 「すまなかった」

 「いえ、こちらこそすみません」

 

 互いに頭下げることにより、この場は落ち着くことになった。

 だが、危機的状況は今だ打破できてはいない。

 武器を失くした以上、汚染獣の撃破が難しくなった。

 

 どうするべきか?

 鋼糸では、あの老生二期を倒すことはできないだろう。

 そうなると、セヴァドスが主体となって、レイフォンが援護するという方法しかない。

 だが、セヴァドスも手持ちの錬金鋼を幾つも潰しているため、レイフォンと同様に錬金鋼を失う可能性がある。

 この決断をするには当人との話が必要である。

 レイフォンがフェリにセヴァドスを呼んでもらおうと、声を出そうとした時———頭上から黒い影が降ってきた。

 

 「ふぅ、流石に老生体を一人で相手するのは疲れましたね」

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

「倒したのですか?」

「いえ、戦っていると突然、何処かへ飛んでいきましたよ。 ツェルニのいる方向とは真逆だったので追い打ちはしないでおきましたが?」

 

 疲労した体をほぐす様に体を動かしていると、レイフォンが近寄ってきた。

 その手には、巨大な複合錬金鋼はない。

 先程破壊されたのをセヴァドスは確認していたが、やはり勿体無いと思ってしまった。

 天剣授受者ではなかったセヴァドスだが、保有している剄量も天剣級と言っていいだろう。

 故に自分自身の全ての力を振うことができない通常の練金鋼では微かな不満を覚えているのだ。

 そのため、ハーレイ達が開発している複合錬金鋼について強い興味を抱いていた。

 『確かに、進行方向はツェルニの逆方向ですね』

 端子を飛ばして確認したのだろう。

 フェリの言葉に、レイフォンも肩の力を抜き、大きく息を吐いた。

 流石のレイフォンも疲れたのだろう。

 とはいえ、セヴァドスの体にも疲労が溜まっていた。

 ここまで命がけで戦ったのは、長い人生においても数回しかないだろう。

 セヴァドス自身はまだまだ戦えるつもりだが、汚染獣が引いてくれたことは有難かったかもしれない。

 この戦闘で白金錬金鋼を四つも破壊しており、現在持っているものが最後の五個目であるため、これ以上の戦闘は死を意味する。

 戦闘狂と呼ばれるセヴァドスだが、別に死にたがり屋でもなく、武器がない状況で戦うという命知らずな考えも持ってはいない。

 それにだ、いくら傷を負ったとはいえ、戦っていたのは老性二期である。

 レイフォンが万全であれば、追撃をしてもよかったかもしれないが、流石にこの状況下で一人で戦うにはリスクが大きすぎる。

 そんな蛮勇で命を失う気はない。

 死んでしまえば、もう二度と戦うことができないのだから。

 

 帰還したら、ハーレイさんに私用の錬金鋼を作ってもらいましょう。

 

 そんなことを考えるセヴァドスの隣では、シャーニッドが緊張からか地面に腰を下ろした。

 

 「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ」

 『それならこんなところに来ないでください。 お荷物』

 「むぐっ」

 フェリの辛辣な言葉にニーナ達は顔を引き攣らせるのを、セヴァドスは隣で眺めていた。

 シャーニッドはこの前練武館で顔合わせを行っていたが、隣にいる女性と会うのは初めてだった。

 セヴァドスが見た限り、明らかに彼女は本調子ではなさそうだったが、こんな所まで来ているを見て、物好きな人ですねーと考えていると、騒いでいる三人(一人は念威端子越しだが)の会話を聞いていると、ふと、レイフォンが疑問を口にする。

 

 「しかし、汚染獣は何処に行ったのでしょうね?」

 

 レイフォンの疑問は最もなことであった。

 何故、老性二期はこの場から逃げるようにして立ち去ったのか?

 向こう側からしてみれば、脱皮をして腹を空かし、傷を負って栄養の補給が絶対に必要なはずなのに、目の前の餌を放置して逃げだした。

 もしセヴァドス自身が汚染獣ならば、ここでの後退はあり得ない。

 この場で栄養の補給をしなければ、間違いなくあの消耗なら近いうちに命を失うことになるだろう。

 老生二期の行動に微かな違和感を覚えたセヴァドスは、自分よりも汚染獣戦の経験があるレイフォンの方に視線を向けてみる。

 するとレイフォンも同じように考えていたのか、首を横に振って答えた。

 

 「わかりません。 フェリ先輩、何かわかりませんか」

 『ちょっと待ってください。 ……これはっ』

 

 深刻そうな声を上げたフェリに、その場にいた全員の警戒が高まる。

 その沈黙の中、レイフォンが代表して尋ねた。

 

 「何かわかったんですか、フェリ先輩?」

 『汚染獣の進行方向に放浪バスが確認されました』

 「なんだってっ!!」

 

 フェリの言葉に、一番驚き反応したのはニーナである。

 それとは対照的にセヴァドスと、レイフォンの表情は冷静だった。

 これから起こりうるだろう惨状すらも全て理解して。

 

 「なるほど、ツェルニの捕食は諦めて、近くにいた餌へと向かいましたか」

 

 餌を前にしてこの場から逃げるような形で見逃した理由、それは近くに大量の餌があったからである。

 その答えを知ったセヴァドスは、なるほど、と疑問が解消されたことに小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 感心したように、そして他人事のように。

 冷静な声色でそう言ったセヴァドスの姿に、ニーナは怒りを覚えた。

 

 「何を呑気なことを言っているっ!! 早く追わなければ!!」

 「ふむ……何故です?」

 

 全く焦ることなく、不思議そうに首を傾げるセヴァドスの返答が、ニーナには一瞬理解できなかった。

 この男は何を言っているんだ、と。

 目の前で危険に晒されている人間がいるのなら、助けるのが人として、武芸者として当たり前のことである。

 

 「何故だとっ!? 汚染獣が放浪バスに乗っている人達を襲おうとしているのだぞっ!!」

 「そうですね。 確かに汚染獣に補給されれば面倒です」

 

 早くここを逃げるべきですね————とセヴァドスの言葉は、ニーナが考える信念とはまるで別物でだった。

 

 「っ! 貴様っ!!」

 

 冷徹に、ただ状況を述べるセヴァドスに怒りのあまり、ニーナは右手を伸ばす。

 

 「落ち着いてください、隊長」

 

 セヴァドスの首元を掴もうとしたニーナの手を止めたのは、同僚であり部下であるレイフォンである。

 

 「レイフォン、お前も何か言って……」

 「追うのは不可能です」

 

 レイフォンなら———こいつならわかってくれる。

 そう抱いたニーナの希望は、レイフォン本人によって打ち砕かれる。

 レイフォンが考え抜いて出した結論もセヴァドスと同じであるということに、ニーナはその時初めて気がついた。

 ただ、違う点を上げるとするならば悔しそうに歪める表情だけである。

 

 『あの汚染獣の速度から換算すると、私達が追いついた頃には、もう……』

 

 その発言に同意するようにフェリのいつも以上に感情のない声が端子越しに響く。

 

 「元々、外の世界は大地が荒れ果てているうえ、この辺りは、崖や谷などの高低差がありすぎます。 ランドローラーを走らせるには不向きですし、もし追うなら自分の足で追いつくしかありません」

 「そうなればこちらの消耗は免れませんし、ランドローラーも置き去りにしなければなりませんね。 それにレイフォンの錬金鋼が壊れている状態で戦うのは無謀ですよ?」

 

 レイフォンとセヴァドスの二人の説明を聞いて、ニーナはこの状況がようやく理解でき始めた。

 周りを見渡すと、今までニーナが過ごしてきた中で一番と言っていい劣悪な環境で、恐らく自分では追いつくことすらできない、ということを痛いほど理解してしまった。

 頼れる部下も、ニーナ自身のせいで武器を失い、戦うことすらままならない状況に追い込んでしまった。

 感情に反して、ニーナはそのことは理解してしまったのだ。

 ただ、生き様が、在り方が、その結論を許容できない。

 

 ゆえに吐き捨てるようにありきたりな言葉を吐くことしかできなかった。

 

 「っなら、どうするんだっ?」

 「老生二期が獲物を食っている間に、私達はツェルニに向かいましょう。 あのダメージからしてすぐに追ってくるということはしなさそうですから」

 「獲物だと? 貴様、人の命を何だと思っているっ!?」

 

 セヴァドスの言いように、ニーナは思わず睨みつけてしまう。

 だが、目の前にいる男はニーナの激情の一片すら感じさせないほど、顔を顰めて溜め息をつく。

 

 「その議論に意味があるのですか? 汚染獣が向こうに行ったといえ、あんまりのんびりしていると追いつかれますよ?」

 

 再び声を上げようとしたニーナは、全身を刺すようなセヴァドスの鋭い眼光に言葉を失う。

 

 「それに貴方、何か勘違いしていませんか? 編入した私がロス会長から言われたこと、それはツェルニを守れということです。 決して汚染獣を倒せや見知らぬ人のために命を賭けろというわけではありません。 それとも私に老性二期に単独で仕掛けろと言っているのですか?」

 「っ!? 私は別にそんなつもりでは……」

 「別に私は構いませんよ、貴方にそれを私に命令できる権限があるかは別にして。 ただ、私が追って汚染獣を倒したとしても、どのみち放浪バスの中の人達を救うことは不可能ですよ?」

 

 セヴァドスの言葉がニーナの心に突き刺さる。

 そして同時に理解してしまう。

 ニーナ・アントークよりも、セヴァドス・ルッケンスの方がツェルニのことを考えている、と。

 ニーナのせいで、勝機を失い、そのせいで犠牲を生むことになった。

 さらに自分自身の言葉が、この場にいる仲間を危険な目に合わそうとしている。

 

 『それ以上は近づくな。 もっと後方へ退避しろ、だそうです』

 

 レイフォンの言葉が今になって痛い程に理解ができた。

 ニーナは無力で、弱くて、足手まといだ。 

 

 見捨てたくなかった。

 だが、見捨てなければならない。

 

 自分自身が、あの時から成長していないことを痛感し、ニーナは悔しさのあまりに声を詰まらせ———

 そして、慟哭の声をあげた。

 ————それでも悲劇が変わることはなかった。

 

 

 

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