ルッケンスの三男坊   作:康頼

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第二十一話

 試合の始まる意味をする音と共に、ディン・ディーは戦場を駆けだした。

 敵の狙撃手に捕まらぬように、念威操者から報告される情報を聞きながら、慎重かつ迅速に相手の陣へと攻めいる入る。

 先頭を切るのは、相棒であり、第十小隊の副隊長を務めるダルシェナ・シェ・マテンナ。

 突撃槍を構えて疾走するダルシェナは、ツェルニ屈指の破壊力を誇る武芸者である。

 そんなダルシェナの後に隊長のディンが続き、そして周囲に三人の小隊員がディン達二人を守る。

 彼らは盾であり、ディンは援護と指揮。

 そして先頭のダルシェナが、主攻となり標的である相手の旗を折る。

 それが第十小隊の―――現在の攻撃スタンスであった。

 

 そんな彼らの相手は、勝率で同率三位の第十四小隊。

 言ってみれば、この試合は絶対に負けることの許されない試合であった。

 勢い果敢にディン達は、十四小隊の陣へと入ろうとしたその時―――ヤツが現れた。

 

 「ふっふっふっ……よくここまできたな」

 

 倒れた丸太を椅子にして仰々しい言葉を使う男―――セヴァドスに構うことなく、ディンはダルシェナに突撃を命ずる。

 

 外力系衝剄の変化、背浪剄。

 

 背中から発せられた衝剄を推進力とし、そのまま加速したダルシェナは槍を突き出して、セヴァドスに迫る。

 迫り来るダルシェナに対し、セヴァドスは右手を翳し、衝剄を放った。

 ただ一発の衝剄により、ダルシェナの身体は容易に持ち上がると、そのまま後方へと吹き飛ばされて後方にディン達の頭上を飛び越える。

 地面に叩きつけられて、そのまま動きを止めたダルシェナをディン達はただ呆然とした様子でみていることしかできなかった。

 あっさりとダルシェナを戦闘不能に追い込んだ―――セヴァドス・ルッケンスはゆっくりと翳した右手を下ろすと徐にポケットから一枚のカンニングペーパーを取り出した。

 

 「ふむ、やはり口上の途中でしたね。 この場合はどういう風にすればいいんでしょうか? なんといいますか、とても意味不明な言葉が書かれているので覚えにくいですね」

 

 戦意を微塵に感じさせることもなく、ただ丸太に座っているセヴァドスに対し、ディンを除く第十小隊の三人の小隊員が囲むように襲いかかる。

 だが、それはまるで無意味であった。

 セヴァドスが大きく右手を天へと突き翳すと、その際に生じた衝剄により、三人の小隊員は上空へと弾き飛ばされ、そして地面へと叩きつけられた。

 

 「ふむ、これは失敗ですね。 仕方ありません、魔王系キャラの練習はこの試合を終わらしてからおこないましょうか」

 

 お遊びは終わりだ、と立ち上がったセヴァドスに、ディンは本能的に後方へと下がってしまった。

 既にこの場にいるのはセヴァドスとディンの二人だけ。

 しかし、第十四小隊員は誰一人脱落をしていなかった。

 つまり、ここから劣勢を巻き返す手段は、第十小隊には存在しなかった。

 圧倒的で理不尽なまでのセヴァドスの力に、ディンは思わず歯を食いしばせる。

 ―――何故、その力が俺になかったのか?

 ―――何故、このようなふざけた者に、天は力を与えたのか?

 己の無力さに、そして目の前の者に対し、憎悪を混じらせた嫉妬を抱いたディンの激情は、この場では無意味であった。

 強いものが勝つ。

 ただそれだけの話である。

 こうして、ディンは何もすることもできず、ものの数秒でセヴァドスの手により地面へと叩きつけられた。

 

 試合終了のサイレンが鳴り響く。

 それは第十四小隊の勝利を、第十小隊の敗北を意味することだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ、流石はセヴァちんだね」

 

 賭けに勝ち、ご満悦のミィフィの笑みは止まらないでいた。

 そんな彼女の隣で、その行為を苦々しく思うナルキが思わずため息をつく。

 

 「賭け試合とは、ね……」

 「都市警察が認める正式な奴だからいいじゃん」

 

 ミィフィの言う通り、小隊戦では大規模な賭けが行われている。

 無論、法外的な金額などではなく、生徒達が娯楽感覚で賭けるほどの金額であったが、真面目なナルキが良い顔をするはずがなかった。

 

 「認めてはいない。 ただ取り締まっていないだけだ」

 

 顔をしかめるナルキの言う通り、賭け自体は都市警察では取り締まっていない。

 全てを取り締まってしまえば、生徒の不満を溜める結果になるということで、カリアンからも止められていない。

 節度を持って行え。

 賭けをしていて、何をそんなと言いたくなるが、現状賭け事が大きな問題になることはなかった。

 そんなナルキの複雑な心境を気にすることもなく、ミィフィは温かくなった懐を叩きながら隣を歩くセヴァドスに笑みを向ける。

 とても悪い笑みを。

 

 「それはそれで同じじゃん。 しかし本当に儲かったね、これもセヴァちんのおかげだよ」

 「ふふふ、報酬はホールケーキ一個分で構いませんよ」

 「ふふふ、お主も悪よの~」

 「ははは、貴方ほどではございませんよ」

 

 コントのような掛け合いを繰り返すセヴァドスとミィフィはとても楽しそうに笑う。

 だが、そのそばで巻き込まれる形になったナルキからすると、まったく笑えない状況である。

 馬鹿二人に対し、ツッコミは一人。

 心労の絶えない状況下であった。

 しかし、そんなナルキ以上に不運だったのが、今日の試合相手の第十小隊の面々でだろう。

 

 「まったく……相手の小隊が不運だな」

 「まあ、セヴァちんは一部で有名だったけど、レイとんの知名度には負けているからね」

 

 戦慄デビューを果たしたレイフォンに対し、知名度は劣るセヴァドスだったが、実力は伯仲だということはミィフィ達は知っていた。

 何より、セヴァドスはレイフォンと違い、最初から完全に相手を倒す気でいたため、レイフォンのようなハンディは抱えていない。

 故に第十小隊は、開始三分でセヴァドスと遭遇し、そして遭遇から十秒ほどで敗北したのだった。

 その光景は、ナルキにとって―――いや武芸者にとって許容できない理不尽な光景に見えた。

 絶対的な力、それがセヴァドス・ルッケンスの姿だった。

 

 「新たな新鋭現るっ!! って、週刊ルックン、売れるわよ~~」

 「ミィちゃん、嬉しそう……」

 

 そんな悩みは、一般人であるミィフィとメイシェンには無縁なもので、特にミィフィに至っては、完全にこの状況を楽しんでいた。

 有り金全部をセヴァドスのいる第十四小隊にかけるのはどうかと思うが、それはミィフィのセヴァドスへと信頼と言ってもいい。

 無論、強さへの信頼もあるが、友人への信頼もある。

 だからこそ、ミィフィは全賭けを行い、ナルキはそれを止めようとはしなかった。

 そう考えると少しだけ重荷が軽くなった気がしたナルキは、一つ気になっていることを尋ねることにした。

 

 「しかし、セヴァ。 お前はずっと第十四小隊にいるのか?」

 「そうですね。 隊長のシンさんが中々愉快な方ですから、退屈はしないですね。 もう少しお世話になろうかと」

 

 そう言って笑うセヴァドスに、ナルキも思わず頷いてしまう。

 確かに第十四小隊は、小隊特有の重々しい空気はない。

 メンバー全員がのびのびと生き生きとしている唯一の小隊と言ってよかった。

 特に隊長であるシンは、中々愉快な方だとセヴァドスに気に入られた程のものであった。

 

 「ということはいつかは辞める気か。 他の武芸科の人間が聞いたら怒り狂いそうな話だな」

 「そうですか? 確かにシンさん達と訓練するのは悪くはないですが、こうしてナルキさん達といっしょにいるのも楽しいですからね」

 「……それはどうも」

 

 小隊という名誉を簡単に手に入れ、そして簡単に捨てるセヴァドスの姿は、ツェルニの武芸者たちにとって怒りを覚えるかもしれない。

 だが、こうも嬉しいことを言ってくれるのは、実に友達甲斐のある奴だと、ナルキは思った。

 

 「しかし、メイさん、メイさん」

 「えっと、どうしたの……セヴァくん?」

 

 そんなナルキの考えを知るよしもなく、セヴァドスはミィフィの後ろを歩くメイシェンに話しかけた。

 

 「レイフォンが来れなくて残念でしたね」

 「ふぁっ!!」

 

 セヴァドスの興味の矛先を向けられた哀れな羊であるメイシェンが、上手く反撃もできるはずなく、想定通りの反応を見せた。

 顔を赤く染める愛らしい姿に、ファンを抱えるほどのメイシェンだが、現時点で彼女と話せる男はツェルニにおいて二人しかいなかった。

 そしてその一人がこのセヴァドスというのは、本当に悲しい話であった。

 メイシェンの反応を楽しんでいるセヴァドスから、姫を救うべく騎士であるナルキが助け船を出す。

 

 「あんまりからかうなよ、セヴァ」

 「これは失礼しました。 しかし関係を発展させるには攻めの一手も必要ですよ」

 

 ニヤニヤと笑うセヴァドスの言葉に、メイシェンは顔をリンゴのように真っ赤に染める。

 

 「か、関係……」

 

 まるで湯気が出そうなくらいに顔を真っ赤に染めるメイシェンの足元がふらつき始めると、ナルキが慌ててその肩を支えた。

 

 「おい、メイ大丈夫か? 本当に顔が真っ赤だぞ?!」

 「けど、セヴァちんの言う通りかもね。 実際、レイとんは凄まじく鈍感だし」

 

 メイシェンを支えるのをナルキに任せ、冷静に分析するミィフィの言う通り、レイフォンの女性に対する鈍感ぶりは病気と言っていいほどであった。

 そのことについては自称親友であるセヴァドスも心配に思っていた。

 

 「そうですね、昔から彼はそういうところがありましたね」

 「あー、やっぱりそうなんだ」

 「はい、ある女の子からナイフを振りかざされるほどでした」

 「刃傷沙汰っ!?」

 

 ある女性とは、セヴァドスの友人であるクラリーベルのことであり、彼女自身も変わり者であったが、ある意味セヴァドスが言っていることも間違いではなかった。

 真実ではなく、事の表向きだけを聞いたナルキは動揺を隠せない様子で言葉を続ける。

 

 「つ、つまりは、レイフォンはモテるということだな」

 「そういうことですね。 ですからライバルが増える前に決着をつけるべきかと」

 「なるほど、兵は神速を尊ぶっていうからね」

 

 恋は戦争そのもの。

 愛憎トライアングルで学んだセヴァドスの恋愛学が次なる一手を導き出していた。

 

 「はい、ですから私は、レイフォンを落とすには色仕掛けを仕掛けるべきかと愚考します」

 「色っ?!!」

 「おい、セヴァ。 いきなり何を言っているんだ?」

 「そう、セヴァちん―――貴方もその結論に至ったんだね」

 

 少し顔を赤くするナルキと対照的に、ミィフィの目は真剣そのもので笑み一つ浮かべることはなかった。

 そんなミィフィに釣られて、セヴァドスは笑みを消して、珍しいほどに真剣な眼差しで答える。

 

 「ええ、性欲を刺激しましょう」

 「人の三大欲求である食欲、睡眠欲に続く、性欲を攻めるんだね?」

 「はい、レイフォンを落とすには性欲を刺激するしか方法はありません」

 

 妙に真剣な二人だったが、話している内容は最低だった。

 寧ろ真剣なのがシュール過ぎて、笑えてくるほどである。

 だが。それは第三者の話で、自分のことであるメイシェンは、今にも倒れそうなほどにフラフラと身体が揺れており、武芸者らしい潔癖感のあるナルキの表情はだんだんと顔を林檎の如く真っ赤にさせていく。

 

 「なるほどね、確かに理にはかなっているわ。 いくら鈍感とはいえレイとんも男の子。 故に性欲攻めを行うというわけね」

 「ええ、性欲…「お前らさっきから性欲言いすぎだろっ!!!」

 

 そんな下世話なキャッチボールを遮ったのは、遂に我慢の限界に達したナルキであったが、その声は間違いなく辺りに響き渡った。

 そのことに気付いた時は既に遅し、ナルキに向かって無数の視線が突き刺さるように飛んで来る。

 視線を感じたナルキは、一瞬気遅れしてしまうように口を閉ざす。

 

 「その……ナルキさん。 そんな大声で『性欲』って叫ぶのはどうかと思うな……」

 「ナルキさんも女の子なんですから、恥じらいを持った方がいいですよ?」

 

 ナルキから微妙に離れた位置で、他人事のようにこちらに視線を向けるセヴァドスとミィフィに、ナルキは大声で叫んだ。

 

 「だぁぁぁぁぁっ!! それは私の台詞だよっ!! あとミィ、何でお前は私に対してさんづけしてんだよっ!! それにセヴァ、それこそ私がお前達に言いたいよっ!!」

 「ナ、ナッキ……」

 「ふむ、怒らせてしまいましたね」

 「まあ、普通に考えたら怒るよね」

 

 凄まじいほどの怒りを発するナルキに、メイシェンは少しだけ怯えと同情の視線を、セヴァドスとミィフィは呑気にいつの間にか購入していたアイスクリームを食べていた。

 

 「はぁはぁはぁ……」

 「ごめんって、少しセヴァちんと二人で遊んでただけだよ」

 

 少しだけ落ち着いてきたナルキに、ミィフィは買っていたアイスクリームを手渡す。

 それを心底疲れた表情で受け取ったナルキは、ゆっくりとした手つきでアイスクリームを口へと運ぶ。

 

 「もういい……しかし、セヴァ、お前ってそんなこという人間だったか?」

 「ふふふ、それはあまりに甘い考えというものですよナルキさん。 私は常に進化を続けます……この『愛憎トライアングル3』とともにっ!!」

 

 ナルキの言葉に、セヴァドスは自信に満ちた表情で懐から取り出した愛用書を天へと翳した。

 

 「それは進化じゃないだろっ!! ってことはミィのせいかっ!!」

 「ぐはっ!!」

 

 怒りのあまりにナルキは手渡されたアイスクリームをミィフィの顔面にぶつけた。

 そんな二人を呑気に眺めていたセヴァドスはアイスクリームを食べながら一言。

 

 「というわけでどうでしょうか、メイさん?」

 「ここで私に振るの?!」

 

 セヴァドスのあまりの無茶ぶりに、メイシェンは人生の中でも五指に入る大声を上げた。

 

 愉快で痛快な日常。

 それがセヴァドスの日常であり、グレンダンだろうとツェルニだろうとそれだけは変わらなかった。

 だが、ツェルニでは新たな事件が起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 「んー、思った以上に楽しめなかったな」

 

 ここはツェルニから遠く離れた地、グレンダン。

 セヴァドスとレイフォンの故郷であり、最強都市と呼ばれる武芸都市である。

 その都市の頂点に立つ女王から剣を与えられし十二人の天剣授受者の一、サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスは、余りの退屈さにため息一つ落として、目の前の残骸を一瞥する。

 拳程度の肉塊、それがガハルド・バーレンの末路の姿であった。

 ミクロサイズの老性体討伐のために、その触媒という名の生け贄とされたガハルドは、その身を人外と化し、唯一残った憎悪の感情と共にレイフォンの育った孤児院を襲ったものの、同門であるサヴァリスの手により、その一生を終えた。

 そんな彼に対し、サヴァリスが思うことは一つもない。

 強ければ生き、弱ければ死ぬ。

 この世界ではありふれたことであり、ありふれた出来事であった。

 故に、サヴァリスが今考えているのはガハルドという敗北者のことではなく、遠く離れた地に行ってしまった末の弟のことであった。

 

 「セヴァがいなくなって絡む相手がいなくなったかな? 陛下もリンテンスさんも全然乗ってこないし、こうなるとリヴァースさんにでもちょっかいを出して、カウンティアさんとやりあってみようかな?」

 

 最も気の合う相手である弟のセヴァドスがいないことは、サヴァリスにとって落胆すべきことだった。

 ガハルドのような紛い物ではなく、セヴァドスは間違いなく本物の武芸者であり、数少ない拳を交えることができる存在だった。

 だからこそ、サヴァリスは貴重な相手がいなくなったことに肩を落として落ち込むほどであった。

 

 「それとも、僕もツェルニに行ってみようかな? 向こうにはセヴァの他にもレイフォンもいることだし、もしかすると放浪バスを汚染獣とかが襲ってくれるかもしれないしね」

 

 逆転の発想だ、とグレンダンからいなくなったセヴァドスとレイフォンを追いかけるのも面白いと考えた。

 向こうでも確実に遊び相手が二人もいる上、グレンダンのように邪魔が入ることなく戦えるはずだ。

 他にもゴルネオもいることだし、久々に鍛えてみてもいいかもしれないと考えたサヴァリスの背後に何かが着地した音が聞こえた。

 

 「貴方は、さっきから何を言っているんですか?」

 

 心底呆れたようにそう言ったのは、天剣の一人であるカナリスであった。

 殺剄の名手であるカナリスに背後を取られたサヴァリスは、思わず顔をにやけてしまう。

 

 「おや、珍しいですね、カナリスさん。 もしかして僕に用事ですか?」

 「不本意ながら、陛下がお呼びです」

 

 楽しそうなサヴァリスとは対照的に、カナリスの反応は至って冷静であった。

 勿論、カナリス本人が同僚のサヴァリスと仲好く挨拶を交わす仲ではないこともそうだが、今は陛下の命を優先すべきことだったため、カナリスはさっさとサヴァリスを連れていきたかった。

 だが、サヴァリスはそんなカナリスの心境すら楽しんでいるのか、その場から動こうとしない。

 

 「陛下が? 面白い話だと嬉しいんだけどね」

 「無駄口を叩いてないで、早く行きなさい」

 

 再度カナリスが警告紛いに伝えると、サヴァリスはようやく動き出した。

 そしてその場から立ち去ろうとしたサヴァリスだったが、何か思い出したかのようにカナリスに声をかけた。

 

 「はいはい、ってそうだ。 一つカナリスさんに聞いておきたいことがあったんです」

 「何ですか?」

 

 普段ならサヴァリスの質問に答える気はないカナリスだが、現状、サヴァリスがごねる時間すら惜しかった。

 振りかえったカナリスにサヴァリスは口を開く。

 

 「―――セヴァを見てどう思いました?」

 「―――貴方よりも素直でいい子だと思っていますよ」

 

 カナリスはサヴァリスの問いかけに、交じりっ気のない本心で話す。

 セヴァドスは、サヴァリスと同じく戦闘狂であるが、兄とは違い純粋さがあるセヴァドスの方がカナリスは好ましく思っていた。

 実際、自分を慕ってくれるセヴァドスを、カナリスが気にかけているというのは嘘ではない。

 しかし、そんなカナリスの答えはサヴァリスの求めているものではなかったようで、首を傾げるサヴァリスはもう一度口を開いた。

 

 「ふむ、これは聞き方が悪かったようですね」

 

 ―――セヴァドス・ルッケンスはどう見えましたか?

 

 その言葉にカナリスは、ようやくサヴァリスの真意が理解できた。

 それはセヴァドスという存在の意味を指していた。

 

 「―――そうですね。 はっきり言って異常だと思います」

「なるほどね。 何故そうだと?」

「あの若さでという意味もありますが、そのこと自体はグレンダンでは珍しくありません」

 

実際に、カナリスは十七で、サヴァリスは今のセヴァドスと同じ年齢である十五歳で天剣を授かっている。

何よりレイフォンという歴代最年少で天剣を授かった天才もいる。

だが、それでもカナリスはセヴァドスを異常と言った。

 そして、その答えは正解に近いものであった。

 

「まあ、その評価は正しいかな? 実際、セヴァはルッケンス史上最高の素質を持っていると思うし」

 「確かにそうかもしれませんね。 あのレイフォンと争った最後の天剣の授受戦は見事なものでした」

 

 それは五年前の話であり、グレンダンでも歴史上初めてとなる十歳と十歳の武芸者による激闘。

 試合時間は過去の天剣授受戦にて最長となる二時間。

 それほどまでにセヴァドスとレイフォンの力は均衡していた。

 

 「観客が総立ちになった死闘の末、勝ったのはレイフォンだったよ」

 「どちらが天剣を得てもおかしくないほど、実力は伯仲でした」

 

 勝敗が別れた要因はサヴァリス達にも解らないほどであった。

 もし何が左右したかと言えば、まさしく天が味方したのがレイフォンだったということだろう。

 

 「そうだね。 もしもあの時セヴァが勝っていれば、ルッケンスは二本の天剣を得る快挙になっていただろうね」

 「―――その割にはどうでもよさそうに話しますね」

 

 セヴァドスが天剣を手に入れていたら、サヴァリスにとって最高の遊び相手を得ることになっていたはずだが、当のサヴァリス本人の反応は至って冷静であり、冷淡な一言であった。

 そんなサヴァリスの反応にカナリスが不審な者を見るような眼を向けると、サヴァリスは苦笑いを溢す。

 

 「僕は大歓迎だったんだけどね、親父殿は間違いなく反対するだろうね」

 「何故です? 天剣を二本を得るということはルッケンスにとって栄誉なことでは?」

 

 天剣を同じ武門が同時に二本得たことは今までかつてない。

 そもそも天剣級の人間が、同じ武門に、そして同じ時代に生まれたことはそうそう無い話である。

 だが、その栄誉すらルッケンスの現当主は望んでいなかった。

 カナリスには、理由は分からなかったが、サヴァリスの様子からして何かあるに違いなかった。

 そして、考えた末に一つ思い出したことがある。

 

 「そう言えば、貴方の母上であるルマリア殿は……」

 

 カナリスの脳裏に浮かぶのは、約十五年前に起きた悲劇である。

 サヴァリスの生みの親であり、セヴァドスを生んでこの世を去った天才武芸者―――ルマリア・ルッケンスのことである。

 天剣を得ること間違いなしと言われた武芸者は、武芸よりも家庭をとった規格外の人物。

 カナリスも幼い頃に、敬意を払った人物の一人である。

 

 「ははは、まったく、母上は凄まじい忘れ形見を産み落としたものだ」

 「どういうことです?」

 

 サヴァリスの含みのある笑みに、カナリスは眉をひそめて答える。

 

 「さあ? ただ少し話し過ぎたようだね」

 

 サヴァリスはカナリスの問いに答えることなく、その場から去っていく。

 王宮の方へと飛んでいくサヴァリスの後ろ姿に、カナリスは少し嫌な予感を感じていた。

 

 「少し調べてみますか……」 

 

 グレンダンのために、すべきことを。

 真面目な天剣授受者は、都市のことを思い、敬愛する陛下のことを想い、可愛い弟分のことを心配しながらカナリスは、この場を後にした。

 

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