ルッケンスの三男坊   作:康頼

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第二十八話

 試合が始まる十分前。

 ステージへと続く選手通路でレイフォンはシャーニッドに呼び止められた。

 いつも以上に真剣に、そして覚悟を決めたかのような眼差しを向けられたレイフォンに、シャーニッドは話を切り出した。

 

 「頼みがある。 ディンとシェーナは、俺にやらせてほしい」

 「え?」

 「会長から話を聞かされた。 ディン達第十小隊員に今回の対抗戦に出れなくなるくれぇの怪我を負わせるんだろう?」

 「それは……」

 

 シャーニッドの言う通り、レイフォンはカリアンにそのように頼まれている。

 先日話した通り、封心突ならば、彼らに大怪我を負わすことなく試合を終わらせることができるかもしれない。

 だが、少しでもミスをすれば、彼らへの身体のダメージは計り知れないだろう。

 そんなレイフォンの気持ちを汲んだのか、シャーニッドは珍しくため息をついてレイフォンから視線を反らす。

 

 「命に別状はないって言っても、俺はお前にそういうことをしてもらいたくないと思っている。 恐らくニーナがいたら同じことを言って反対するだろう」

 

 確かにシャーニッドの言う通り、ニーナがいたならば、カリアンに直談判してでも取り止めようとするだろう。

 何より、ツェルニの仲間を愛するニーナならもっと真っ直ぐにぶつかっていったかもしれない。

 

 「だが、会長さんの言いたいこともわかる。 この事実が明るみになれば、武芸科全体へのダメージについてもだ」

 

 同時にカリアンの思惑も理解ができる、とシャーニッドは言う。

 違法酒であるディジーの服用が公になれば、責任として武芸長や生徒会長も解任されるかもしれない。

 いや、それだけではない。

 この事実が都市連盟にでもバレてしまえば、ツェルニは一巻の終わりだろう。

 

 「それでも、あいつらが救われない」

 

 ツェルニを守りたい、その気持ちに嘘はないが、同時に親友達を助けたいと思ってしまうのは人としての感情は決して間違いではない。

 

 「けど、どうする気なんですか?」

 「ああ、とりあえず腹を割って全力でやり合おうと思っている」

 

 シャーニッドにしては、力技すぎると怪しむレイフォンに、シャーニッドは苦笑いを返す。

 

 「お前の親友さんを見てると、悩んでるのが馬鹿らしくなっちまったんだよ、まあ、あと俺もそろそろ囚われちゃいけねぇなって思ってな、第十七小隊の一員として、な」

 

 そう言って笑うシャーニッドは、レイフォンの胸を拳で叩く。

 

 「だから頼んだぜ、エース」

 

 

 

 

 

 

 

 

  ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始のサイレンが鳴り響いて程なく。

 攻撃側にも関わらず、一向に姿を見せることのない第十七小隊に対し、ダルシェナは司令塔であるディンに視線を向ける。

 

 「ディン、これは?」

 「待ちの姿勢だな。 向こうは急ごしらえの隊だ。 この勢いで取るぞ」

 

 対戦相手である第十七小隊は、隊長であるニーナが不在で、現在は代理でシャーニッドが指揮している。

 指揮の慣れていない狙撃手では作戦は立てられない、そう考えたディンは一気に相手の王を取ることにした。

 狙撃手のシャーニッドが好みそうなポジションは既に抑えている。

 唯一の懸念材料の一年エースは、ディン自身とダルシェナで当たれば時間を稼ぐことも可能だろう。 

 陣から出ようとするディンに、仲間の小隊員が慌てて止めに入る。

 

 「しかし、向こうがこちらを釣って、その隙に旗を狙うのでは?」

 「それはない。 奴は絶対に俺達に狙いをつける」

 

 先日、会った時のシャーニッドの目を見れば、そのような策を取るとは到底思えない。

 逆に第十小隊は攻撃に特化したチームのため、守りに入った方が崩される、そう判断したディンはすぐさま小隊員に指示を出す。

 

 「シェーナと俺と残り三人で、シャーニッド達を急襲する。 アトロはここで念威操者(セレナ)を守れ」

 「了解っ!!」

 

 ディンの指示に、第十小隊の面々は行動を開始した。

 ダルシェナを先頭に、ディン、そしてその二人を守るように三人の小隊員が陣取る。

 これが第十小隊の必勝戦術である。

 木々をすり抜け、念威操者に索敵を任せて、一気に相手の陣営へと踏み込む。

 そろそろ仕掛けてくるな———ディンがそう思ったその瞬間。

 突如として前方に白い煙が舞い上がる。

 

 「なっ?! これは?」

 「煙幕……っ来るぞ!!」

 

 ディンと声と同時に現れたのは、第十七小隊のレイフォンである。

 レイフォンは一番近くの小隊に斬りかかり、第十小隊員の錬金鋼を砕く。

 

 「慌てるな、エゼル、ランセル、マグルス、奴を取り囲めっ!!」

 

 ディンの指示に、三人の小隊員はレイフォンに迫るが、卓越された剣技と圧倒的な剄量により、完全に圧倒していた。

 

 「三人全員を……」

 「っこの化け物め」

 

 圧倒的な才能に、ディンは苛立ちを隠せなかったが、冷静に戦況を読む。

 恐らく、レイフォンを討ち取ることはできないだろう。

 それはここでディンとダルシェナが加わっても同じである。

 

 「シェーナッ! シャーニッドを取りに行くぞ!!」

 「っ、ああっ!!」

 

 ———ならば、三人が時間を稼いでいる間に、自分達が相手に頭を取る、そう考えたディンはダルシェナを連れてこの場から離脱する。

 レイフォンからの追撃もなく、他に罠の仕掛けもない。

 高原地帯を抜け、再び森林地帯に足を踏み入れようとしたその時———前方から探し人が現れた。 

 

 「よっ、どうやらこっちの予定通りだな」

 「シャーニッドッ!!」

 

 現れたシャーニッドの手には、狙撃銃の代わりに見慣れない黒い双銃が握られていた。

 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるシャーニッドに、ディンとダルシェナは戦闘態勢を取る。

 

 「狙撃手のお前がこうして姿を現しているのは何かの策か?」

 「いや、そんなことは考えてねぇよ」

 

 シャーニッドは銃口をこちらに向けると、普段通りの不真面目そうな笑みを浮かべた。

 

 「ただ、俺が自分の過去と決着をつけに来た。 それだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてと、どうするか。

 レイフォンがきっちりと仕事を果たしたことに感謝しながらシャーニッドはかつてのチームメイトと対峙する。

 恐らく、シャーニッドがこうして目の前に現れることを想定していなかったのだろう。

 それも無理のない話だ、シャーニッドは狙撃が専門であり、白兵戦は専門外。

 公式戦においてシャーニッドが、こうして攻撃手(アタッカー)の目の前に立ちこと自体データになかったはずである。

 

 「舐めるなよっ!! シャーニッドッ!!」

 

 そんなシャーニッドの行動に、真っ先に反応したのがダルシェナである。

 彼女は、ランスを構えるとそのまま剄を纏って、目標物を貫かんと踏み出す。

 先手を取られることになったシャーニッドは、冷静さを保ち、ダルシェナの動き、そして背後のディンの動きを観察する。

 

 「なぁ!?」

 「それはこっちのセリフだぜ、シェーナ」

 

 そして、ぎりぎりのところまで引き付けて、そのまま前転してダルシェナの横をすり抜けると、そのまま双銃を構える。

 

 「がぁは……」

 「俺は狙撃手だぜ。 お前らの動きを一番見てきた自負がある」

 

 ダルシェナの背中に、ありったけの剄弾をぶち込む。

 背中に攻撃を受けたダルシェナの動きが止まったが、彼女の突撃の際に発する背中からの衝剄に威力が緩和される。

 できれば、一撃で仕留めておきたかった、思わず舌打ちをつくシャーニッドに背後からワイヤーが降り注ぐ。

 

 「ちっ黙れ!!」

 

 迫りくる攻撃に、シャーニッドの頭の中の仮定が確信へと変わる。

 

 「ああ、やっぱりな」

 

 降り注ぐワイヤーに恐れることなく、シャーニッドは前方へと足を踏み出す。

 ———駆け抜ける。

 そして驚愕の表情に歪むディンに迫った。

 

 「馬鹿なっ!?」

 「剄量が増えたかもしれねぇが、全然使いこなせてねぇな。 自分の力に完全に振り回されてやがる」

 

 ディンは迫りくるシャーニッドに応戦のワイヤーを放つが、それをシャーニッドは横へと飛んで回避する。

 

 「いくら力を得ようとも、それを操る身体がついてこれねぇんなら、こうなるわね」

 「ぐっ!?」

 

 シャーニッドは銃をディンに向けると、そのまま再び乱射する。

 ディンが慌てて、ワイヤーを使って防御を取るが、シャーニッドの弾丸の方が早く、数発はディンの身体を捉えた。

 

 「それにこの距離で俺と戦うことは想定してなかったろ?」

 「シャーニッドっ!!」

 

 よろめくディンに、追撃をしようとしたシャーニッドに、今度は背後からダルシェナが迫る。

 ダルシェナの動きは確かに早くなったかもしれない。

 だが、ディン同様に粗さが目立っている。

 それに、シャーニッドはこれ以上の速さの攻撃を何度も訓練で味わったことがある。

 振り向きざまに、シャーニッドは銃を撃つが、放たれた弾丸はダルシェナの足元へと着弾する。

 

 「何処を狙っているっ!?」

 「いんや、狙い通りだろ?」

 

 シャーニッドの弾丸に、足運び(ステップ)を乱されたダルシェナの動きが落ちる。

 その瞬間をシャーニッドはダルシェナの足元へ滑り込む。

 

 「シェーナの突撃槍は、距離を詰めれば取り回しが遅れる」

 「くっ!」

 

 シャーニッドの足払いに、足を取られて転倒としたダルシェナに、銃口を向ける。

 だが、シャーニッドの引き金を引く前に、ディンの攻撃が迫り、シャーニッドは後方へと飛びながら距離を取る。

 

 「相変わらず絶妙な判断だな」

 「黙れっ!!」

 

 距離を取ったシャーニッドに、ディンはワイヤーを天に這わせるとそのまま多方向から囲むように放つ。

 降り注ぐワイヤーの槍は、地面を抉るほどの威力を誇っていたが、肝心のシャーニッドを捉えることができない。

 

 「だが、威力は上がったかもしれねぇが、繊細さがかけたな」

 

 再び走り出したシャーニッドは、双銃を構えて、ディンとダルシェナに弾丸の雨を降り注ぐ。

 その攻撃をダルシェナとディンは、回避することができず、互いに防御態勢のまま耐え忍ぐ。

 

 「っ知ったような口を利くんじゃないっ!!」

 「知ったように言ってるんじゃねぇよ。 知っているんだよ」

 

 シャーニッドは、肩で息をする二人に銃口を向けながらゆっくりと足を進める。

 明らかに身体にまで影響が出ている。

 もう時間はあまり残されていない。

 故にシャーニッドは決着をつけなければならない。

 

 「なぁ、覚えているか。 昔、俺とお前でどっちが皿に乗った料理を先に空にするかって馬鹿なことしたよな」

 

 それは一年の頃の話だ。

 訓練中の動きに、ディンから指摘があったときの出来事だ。

 あの頃は、まだまだ大人しかったダルシェナを間において、馬鹿みたいな量の料理を二人で食べた時の思い出。

 結果、二人で次の日に仲良く入院したことを今でも思い出せる。

 

 「シェーナ、昔隊長の誕生日にケーキを作るって言って、材料買いに行ったことを憶えているか?」

 

 先代の隊長に何かしようと、二人でパーティの準備をしていたときのこと。

 シャーニッドとディンで、飾り付けをしていると、台所から凄まじい異臭がして、結果、隊長を喜ばせるどころかドン引きさせたのは、今となってはいい思い出だ。

 

 「三人で連携の練習した時に、俺がディンの頭部に模擬弾を誤射した時は笑えたよな?」

 

 やけに張り切っていたディンの後頭部に、シャーニッドが誤って真っ赤のペイント弾をぶち込んでしまったことがある。

 あの時のシェーナの笑った笑みは、今でも鮮明に思い出すことできる。

 

 「さっきから何を言っている?! 昔話でもしに来たのか!?」

 「ああ、そうだ。 俺達は仲間だった、そうだろ?」

 

 確かにシャーニッドとディン達は仲間だったのだ。

 同じ釜の飯を食い、苦楽を共にした戦友。

 袂は分けたとはいえ、それだけは絶対に変わることのない事実だった。

 

 「じゃあ、あの時何で隊を離れたんだ!? お前がいれば、ディンも……私も」

 「わからないのか?」

 

 いや、本当はわかっているのだろう。

 シャーニッドは、それが嫌で隊から逃げ出し、二人は気づかないふりをした。

 それが本当の間違いだったのかもしれない。

 

 「シェーナッ!! 裏切り者のっ」

 「ディンは隊長が好きだった」

 

 だからこそ、シャーニッドはもう終わらせることにした。

 

 「そんなディンをシェーナが好きで、俺はシェーナが好きだった……わかるだろ? 俺達は最初から間違えてたんだよ」

 

 嘘なんてつくべきではなかった。

 全員が本当の考えを口にすることができれば、こんなことにはならなかった。

 

 「誓いじゃない。 偽ったことが間違いだったんだ」

 

 そうすれば、ディン達とシャーニッドは共に戦うことができたかもしれない。

 だが、それは既に叶えることのできない願い。

 

 「っ確かに最初はそうかもしれないが、ディンや私はこのツェルニのことを想っている!! お前はそうじゃないのか?」

 

 ダルシェナから、攻撃の意志が消えた。

 と同時に、彼女の中で抱えていた感情が噴き出すように、言葉となって現れた。

 その眼には涙が溢れ、その姿にシャーニッドは胸を締め付けられそうになる。

 

 「いや、俺もこのツェルニを守ろうと思っている」

 「……なら、お前は何故俺達の邪魔をするっ!!」

 

 ダルシェナに続くように、今度はディンが胸の内の思いを吐き出す。

 そんなディン達に、シャーニッドはしっかりと前を向いて応えた。

 

 「お前達がやり方を間違えたからだ。 違法酒に頼り、越えちゃいけねぇ一線を越えちまった」

 

 ディン達の感情とは違い、犯した罪は許されることではない。

 この都市に住まう全員への裏切り行為だ。

 

 「なぁ、ディン、シェーナ。 そんなものに頼って勝っても、あの人にちゃんと報告できるのか?」

 

 報告なんてできるはずがない。

 彼女は絶対に悲しむはずだ。

 

 「ツェルニをぎりぎりに追い込んじまった俺達を、それでも応援してくれてる奴らに胸を張れるか?」

 

 張れるわけがない。

 今にも責任感や罪悪感に押しつぶされそうなディン達がそんなことをできるはずがない。

 ディン達自身がそんな自分を認めることができないだろう。

 

 「なら……なら、俺達はどうすればよかったんだっ!!!」

 

 それは苦悩の言葉だった。

 ディンもダルシェナも真面目で、優しく、そして責任感のある人間。

 誰かを頼るということができなかった。

 

 「綺麗事は何とでも言えるっ!! だが次に負ければ、俺達はっ、ツェルニは終わるんだぞっ!!!」

 

 ディンの言うことは正しくもある。

 ツェルニは、今崖っぷちに立たされている。

 今年の大会の成績次第では、以前訪れた廃都市のようになるかもしれない。

 

 「それでもお前はそんなことが言えるのかっ!!」

 

 ディンの言葉に、シャーニッドは力の籠った眼で答える。

 言ってやると———

 

 「お前らは自分の限界を見たことがあるのか? 間違ったやり方の末路を知っているのか? 俺はそんな馬鹿二人を知ってるぜ。 自分の限界なんて知らないと、ただ純粋に武芸に没頭する馬鹿と自分一人で全部抱えてついに支えきれなくなった馬鹿を」

 

 それは今年ツェルニに入学した二人の新入生の話。

 確かに圧倒的な才能があるだろう、だがそれでも膨大な練習量と日々の弛まぬ努力を重ねて、日々成長していくその姿は、確かに心が惹かれるものがある。

 

 眼の前の仲間を助けようと、汚れ仕事を買ってでても、最後にはその誤ったやり方により、名誉と信頼を失い都市を追われた事実を持つ少年の助けになりたいと思った。

 

 才能があっても、成功も失敗もする。

 そして、才能があろうとなかろうと、強くなるには努力しなければ強くなれない。

 そんな当たり前のことだった。

 

 「答なんかねぇよ。 俺達はこの都市を守るために、仲間達共に戦っていくしかない。 お前は一人で考えすぎなんだよっ!! 仲間を頼れっ、この石頭がっ!!」

 

 右手の銃を投げ捨てたシャーニッドは拳を握る。

 振りかざした拳は、呆然とした様子の親友に向かって振りぬいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーニッドとディン達の過去の清算に決着をつけている頃。

 試合会場から離れたホテルの周囲を取り囲む集団がいた。

 サリンバン教導傭兵団。

 その先頭には、目立ちやすい赤髪を、黒いバンダナで巻き付けるようにして隠したハイアがその時を待っていた。

 

 「試合が盛り上がって何よりさー」

 

 遠く離れた試合会場の方角に視線を向けながらハイアは笑みをこぼす。

 今頃、ツェルニの目は違法酒の取り締まりと使用者との試合に目が向けられている頃である。

 それがハイア達の狙いであった。

 

 「その間にこっちは、例のブツを頂くだけさー」

 

 数名の部下を引き連れ、残りの者にこの建物の周囲を囲むように指示する。

 中にいるモノを逃がさないように、外部からの邪魔を入らせないように。

 

 『二人とも試合会場にいるのを確認した』

 「それは何より、元天剣授受者様は試合でこっちに来れないと思ってたが、御曹司様も向こうに行ってるのはラッキーさー」

 

 カリアンの目をディジーに向けさせ、都市警察の大部分は会場に詰めかけている。

 最大の懸念材料であったグレンダン組の二人も、一人は試合中、もう一人は観戦という確認が取れた。

 たとえ、レイフォン達が待ち構えていようとも、ハイア自身は実行させるつもりでいたが、消耗はできるだけ避けるべきだというフェルマウス達の助言通りの展開となった。

 

 「団長、周りの目は全て取り除いた」

 「警備もザルで、楽な仕事になりそうさー」

 

 団員の一人が、警備に当たっている武芸者を後ろから殴って気絶させる。

 気絶させた武芸者達の身体を縛って、建物の陰に放置すると、ハイアを先頭に傭兵団員がホテル内へと侵入していく。

 このホテルは老朽化が進み、近くの湖にでも遊びに来ない限り、人が泊まることがないホテルである。

 人数も最低限であり、アレを置いておくには適した場所とも言える。 

 一階の裏手から侵入し、従業員用の階段を音を立てることなく、素早く上へと駆け上がっていく。

 周囲にはフェルマウスの念威端子が、探索を行い、目的の場所へと一つまた一つと確実に近づいていた。

 

 『しかし、まさかこんなところでアレの情報が手に入るとは思ってもいなかったな』

 「それもこれも、俺っちの日頃の行いがいいからさー」

 「ええー」

 

 ハイアとフェルマウスの会話の掛け合いに割って入るように第三者の声が響く。

 ミュンファ・ルファ。

 サリンバン教導傭兵団に入って七年も経とうとしているが、まだまだ半人前の弓使いである。

 幼馴染である彼女の言葉に、ハイアが目を細くさせて睨みを聞かせる。

 

 「何さ、ミュンファ」

 「い、いえ何でもありません」

 

 半笑いのミュンファに、これが終わったら説教してやろうと、団長としての責任を感じているハイアは遂に目的の階へと到着した。

 フェルマウスの念威にも、不審な点は見当たらず、邪魔者はいない。

 飛ぶように上ってきた足並みを、忍び足に切り替えて目的の部屋へと向かう。

 

 『たまたま念威を飛ばしていた時に、たまたま通りかかった人間が、たまたま廃都市に行った人間で、たまたまその話をしてたというのは、誰かの作為的にも思えてならないのだが』

 「考えすぎさー、フェルマウス。 俺っち達の役割を果たせ、そう誰かが言ってるのさー」

 

 不信感を露わにするフェルマウスだが、既にその件の裏は取っている。

 間違いなくあの時聞いたのは、本当の偶然と言える。

 

 ———これはリュホウの置き土産かもしれないさー

 

 先代から聞かされた教導傭兵団の悲願。

 グレンダンに連れ帰ることができれば、ハイアが天剣を得ることができるかもしれない。

 それこそ、ハイアの考えうる最高の親孝行であった。

 

 「では運命のご対面さー」

 

 扉を開く。

 そこには———廃貴族を宿したニーナが眠りについていた。

 中央のベットに横たわるニーナの周りには、監視カメラのようなものが見えたが、既にそれらはフェルマウスの念威により干渉されている。

 部屋へ一歩踏み入れたハイアだったが、目の前の光景に違和感を感じた。

 眠っているニーナにかけられた白いシーツが少しだけこんもりと盛り上がっている。

 まるでもう一人誰かがそこにいるような———

 

 「おや、本当に来ましたね」

 

 凛としたその声に、ハイア達傭兵団の目がベットへとくぎ付けとなる。

 めくれ上がったスーツから現れたのは、患者服に身を包んだ眠るニーナと完全武装した一人の少年。

 

 「初めまして、サリンバン教導傭兵団の皆さま」

 

 ベットから降りた少年は優雅な一礼をハイア達に向けた。

 

 「セヴァドス・ルッケンスといいます」

 

 こうして、ハイア達は次期天剣候補というツェルニの爆弾と遭遇した。

 

 

 

 

 

 

 

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