ルッケンスの三男坊   作:康頼

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第四十四話

 戦闘。

 それはセヴァドスにとって捨てることのできない感情の発露である。

 

 「はっはははははっ!! 楽しいですね、兄上!!」

 「そうだねっ!! セヴァッ!!」

 

 互いの拳と拳がぶつかり合い、衝剄は放射されたかの如く、辺りのアスファルトを抉り、細かい土砂が宙を舞う。

 耳の中の鼓膜が震える感覚に浸りながら、セヴァドスの頬を拳が掠すめていく。

 当たれば、自身の顔も陥没する恐怖を楽しみながら、ただ只管に目の前の兄を見据える。

 サヴァリスの眼は自分の姿から逸らされることはない。

 ただそれだけのことが嬉しく思えた。

 こうして兄弟水入らずの再会は、1時間ほどで周囲の廃墟を更地にすることができた。

 一通り暴れた二人は、手頃な瓦礫に腰を下ろした。

 

 「ありきたりな言葉だけど、セヴァ、強くなったね」

 「兄上こそ、やはり貴方は私の目標です」

 

 サヴァリスからの称賛の声は正しく本心であった。

 セヴァドスの資質や才能を認めていたサヴァリスだが、学園都市という微温湯に入れられることで、その腕が錆びついてしまうのではないかと心配していた。

 だが、それは無用な心配であった。

 セヴァドスがグレンダンにいた時よりも、さらに強くなっていた。

 その力は、間違いなくサヴァリスだけではなく、他の天剣授受者や女王陛下も認めることになるだろう。

 そんなことを考えるサヴァリスの目の前で、セヴァドスは久しぶりに全力で戦えたことに満足し、ここ最近浮かべることがなかった笑顔で、頬についた血を腕で拭う。

 

 「しかし、こうなるとあの話は決まりと見ていいかな?」

 「あの話、ですか?」

 

 妙に嬉しそうに、そして納得するように頷くサヴァリスに、セヴァドスは首を傾げる。

 そんなセヴァドスを見て、サヴァリスは何でもないように話を続ける。

 

 「ああ、まだ陛下から聞かされただけで、知ってるのは僕と陛下とリンテンスさんくらいじゃないかな?」

 

 そう前置き、サヴァリスは真っ直ぐな眼でセヴァドスを見た。

 

 「セヴァ、君は天剣授受者になるんだ」

 「え?」

 

 その言葉に、セヴァドスは全身の血が止まった気がした。

 何処か他人事のように聞こえた事実は、セヴァドスが目標としてきたものであった。

 

 「セヴァドス・ヴォルフシュテン・ルッケンスとなり、最後の一席が埋まることになる」

 

 『ヴォルフシュテン』それはレイフォンの持っていた最後の天剣である。

 その称号をセヴァドスが得るという、現実味がない話だった。

 

 「私が天剣を?」

 「うん、そういうことだね。 元々、レイフォンが退任した時点で話には出てたらしい。 他にクラリーベル様が候補として挙がったみたいだけど、天剣を掴むほどの力はない。 それに対しセヴァ、君の実力を疑う者は天剣授受者を含めて、グレンダンにはいないだろう」

 

 天剣を得る。

 それはセヴァドスにとって悲願とも言える大切な目標であった。

 兄であるサヴァリスは、こういう冗談を言わない、そして女王陛下も天剣については冗談にしない。

 つまりは、ほぼ確定事項と言ってもいいだろう。

 だが、それでもセヴァドスの中では、歓喜という感情が沸き立つことはなく、ただ戸惑いと何か風穴があいたような空虚な何とも言えない感情があった。

 

 「私が……天剣を」

 「弟が天剣授受者になることは、兄として嬉しいものだね。 そうしたら、もっとお互いに全力で戦うことができるよ」

 

 本当に嬉しそうに笑う兄の姿に、セヴァドスも――笑った。

 

 「そうですね。 私もそうなればいいと思います、兄上」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイフォンのお見舞いの帰り道、リーリンはグレンダンから付き合いのある、もう一人の友人にばったりと出会った。

 

 「セヴァ!!」

 「リーさん?」

 

 リーリンが声をかけたのは、幼馴染のレイフォンの後を追うように、このツェルニに入学したセヴァドスである。

 こうして会うのは、レイフォンと同じく久しぶりなはずなのだが、レイフォンよりも遥かに筆まめなことと気安い内容の手紙のせいか、あまり新鮮な気分はない。

 ほんの数日しか会っていないような感覚を覚えたリーリンに対し、セヴァドスは不思議そうに首を傾げた。

 

 「はぁはぁはぁ……疲れた。 セヴァ、やっと会えたよ」

 「あれ、リーさんはどうしてここに?」

 

 グレンダンにいたのでは? というセヴァドスの疑問は尤もなことだろう。

 リーリンもこうして、遠いツェルニに来るとは思ってもいなかった。

 勿論、来たくなかったと言えば、間違いなく嘘であるが。

 

 「えっと、レイフォンに届け物、かな? ここまでは貴方のお兄さんに連れてきてもらったの」

 「ああ、なるほど。 兄上が言ってた仕事ってそのことですか?」

 

 疑問が解けましたと頷くセヴァドスを見て、既にサヴァリスと出会ったことにリーリンは気が付いた。

 

 「お兄さんには、もう会ったの?」

 「ええ、先程まで一緒に遊んでました」

 

 そう言って嬉しそうに笑うセヴァドスを見て、リーリンも思わず笑みを零す。

 

 「あー、なんていうか、セヴァは変わらないね」

 

 セヴァドスはグレンダンにいる頃から変わってなかった。

 人懐っこい笑みも、真っ直ぐにピンと立った背筋も、そして――

 

 「あれ? 何か……」

 「どうしましたか?」

 

 微かに感じた違和感は、気のせいとしたリーリンは何でもない様子でセヴァドスを見る。

 やはり、そこにいたのは変わり映えのないセヴァドスである。

 

 「……ううん、なんでもないよ。 ところで、セヴァは学校には慣れた?」

 「そうですね……友人もできましたし、そう悪いところではなかったですね」

 「そうなんだ。 セヴァは勘違いされやすいけど、凄くいい子で、特に心配してなかったけど、友達ができてよかったよ」

 「ありがとうございます、リーさん」

 

 笑みを浮かべて、満足げに頷くセヴァドスを見て、リーリンは、自分が抱いていた不安が杞憂だったことに安心した。

 レイフォンのような根暗でない分、初対面の印象は良いが、グレンダンにいた時の弾けようから、一般的な都市の人間には理解はされないのではないか、と思っていたが、どうやら取り越し苦労だったらしい。

 よく考えると、レイフォンでも友人ができたのだから、同じようにセヴァドスもできるだろうと、リーリンは一人で納得した。

 故にリーリンは例の件を聞くことにした。

 

 「ところでさ、レイフォンとのことなんだけど、さ」

 「ああ、そのことでしたら大丈夫です。 全て解決しました」

 

 あっさりと何でもないように答えるセヴァドスに、一瞬リーリンは違和感を感じた。

 しかし、先日この地に来たリーリンにとって、二人の喧嘩がそれ程重大なことになっていると思わず、グレンダン時代にも似たようなことがあったので特に気にしていなかった。

 

 「そうなの? でもそれならよかった。 男の子同士だから、喧嘩とかあると思うけど、やり過ぎは駄目だよ」

 「そうですね。 今後はこのようなことが絶対に起こらないことを約束しますよ」

 

 口頭での簡単な注意を行ったリーリンに、セヴァドスが頭を下げていると、

 

 「セヴァちーん!!」

 

 聞きなれた声がセヴァドスを呼んでいた。

 声の方を振り返ると、小走りで此方に手を振りながら近づく女性を見つけた。

 そんな彼女を見てセヴァドスも嬉しそうに手を振り返す。

 

 「おや、その声はミィフィさんではないですか?」

 「そう、ミィフィさんです! ってあれ、もしかして邪魔しちゃった?」

 

 元気そうにぴょこぴょこ跳ねるように現れたミィフィは、セヴァドスとハイタッチを行うと、リーリンの方に視線を向けた。

 

 「うん? ああ、そういえば初対面でしたね。 リーさん、紹介します。 彼女はミィフィさん、賑やかし担当の友人です」

 「ミィフィ・ロッテンです! 賑やかしなら任せてください!」

 

 明らかにそのままの説明をするセヴァドスと、そのノリについていくミィフィに、リーリンは少しだけ圧倒されながらも頷き返す。

 

 「そしてミィフィさん、紹介します。 彼女は故郷からの友人でリーさんです。 簡単に説明すると、メイさんと同じ思いを持つ者です」

 「それ、どういう説明? えっと、リーリン・マーフェスです。 セヴァとはグレンダン時代からの友人です」

 

 意味不明なセヴァドスの紹介を見て、リーリンは呆れながらも自己紹介をした。

 しかし、意味が解らなかったのはリーリンだけだったようで、ミィフィは眼を見開いて驚いた表情でリーリンを二度見する。

 

 「メイっちと一緒? つまり、それってまさか……」

 「はい、修羅場襲来です」

 

 二人でひゃーと声を上げる姿を見て、少しだけ疲れが溜まってきたリーリンは大きくため息をつく。

 

 「あー、何となくミィフィさんのことがわかったわ」

 「あ、ミィフィでもいいですよ、えっと……」

 「私もリーリンでいいよ」

 

 こうして自己紹介を終えた二人だが、リーリンは先程の会話で聞き逃せなかったことをセヴァドスに確認した。 

 

 「ところで、メイ、さん? その子ってまさか……」

 「はい、あとフェリさんって方もいますよ」

 「そのひときのうあいました」

 「既に修羅場ってる?!」

 

 それだけで全てを理解した。

 思わず怒りの波動に目覚め、片言になるリーリン対し、ミィフィは大声を上げるが、その顔はとても嬉しそうである。

 というより、レイフォンは女友達ばかり作ってどういうつもりなのだろうか? と先日の怒りが再熱する。

 この分だと他にもいるかもしれないと、負の思考に入るリーリンの横で、セヴァドスが口を開く。

 

 「ところでミィフィさん、もしかして何か私に用でもあるんですか?」

 「おっと、忘れるところだったよ」

 

 衝撃的な出会いがあったので忘れてた、と呟き、ミィフィは満面な笑みを浮かべてこう言った。

 

 「私とデートをしよう!」

 「「……はい?」」

 

 その言葉に本人であるセヴァドスと隣で急展開な場面を目撃したリーリンが漏れた言葉である。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

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