Infinite Stratos:Archetype border 作:ぱらさいと
借用申請の紙へミーシャは銃の型式を書いた。機体に載せる追加装備の一覧には照準器と予備の弾倉も並んでいる。
一夏は隣からその紙を見ていた。《打鉄》には火器管制機能がないと、ミーシャは教室で言った。その機体で銃を使いたい理由を管理担当は改めて尋ねた。
「剣だけを持って近づくより、自分で練習して確かめたいからです。使えないなら、その結果も見て装備を決めたい」
「実銃を扱ったことは」
「ありません」
返事は早かった。一夏はミーシャの顔へ目を向ける。
「昔の小銃の名前はあんなに出てきたのに」
「読んで知っているだけだよ。撃ったことまでは増えない」
一夏は管理担当の言葉を聞きながら、申請書を覗き込んだ。机の端には予約時刻と借りる装備の一覧があり、下の欄には立会人の名前が入るようになっている。
「これ、銃を使うだけでこんなに必要なんですね」
「生徒が初めて扱うときは特にね。用途も、返却する先も、途中で判断を変えた理由も後から確かめられるようにしておく」
管理担当は一夏の方へ紙を向け、署名欄だけ示した。
「見学する君も説明を聞いたことを確認してくれ。実際に使う生徒の後ろへ勝手に回らないこと」
「分かりました」
一夏は文字を読んでから名前を書いた。今の自分には機体の停止すら難しい。そこへ道具を増やすために覚えることがどれほどあるか、少し想像がついた。
ミーシャは一覧を読み直していた。型式の横に使用区画の番号を加え、何かを確かめてからペンを置く。いつもの早口の説明は出てこない。相手の返事を聞いてから、一項目ずつ進めていた。
管理担当は手元へ視線を戻し、申請の横に注意事項を書き足した。まず整備区画での取り扱い、次に固定された射撃位置での練習。その結果を見て移動を含む使用を許可するという。
「今日来てすぐ、試合用に借りて帰るわけにはいかない。分かったな」
「はい」
銃はまだ、固定台に載っていた。ミーシャは指示を受け、機体を出さずに安全装置の位置を確かめる。指を掛ける場所、掛けない場所。人がいる方へ向けないこと。弾倉を外しても薬室を自分で確認すること。
管理担当は説明を聞いたあとにミーシャ自身が一つずつ言い直すのを待った。言い間違えたところはその場で戻して確かめる。
見学用の床には二本の線が引かれていた。一本は通路の端、もう一本は射撃区画へ入るための境界だ。境界の先へ行けば近くで見られそうだったが、今はそこで止まっているよう言われている。
「何か分からないことはありますか」
管理担当が尋ねた。
「ミーシャがやってること、ここからだと手元までは見えません」
「見えなくても大丈夫。今日の君の仕事は安全に待つことだ。説明が要るところは後で聞けばいい」
一夏は頷いた。焦って手伝おうとしたところで、どこへ触れてよいのかも知らない。視線を床へ戻し、立つ位置を確かめる。
音が一つすると、ミーシャは必ず動作を止めて指示を聞いた。真剣な顔つきだった。教室では古い銃の名前を冗談交じりに並べていたのに、今は見たことのある名を口にする場面すらない。
一夏は待機場所の印から動かなかった。見やすいからと脇へ寄ると、銃口の向く先に近づいてしまう。係員に先ほど指で示され、その線を覚えた。
打鉄を展開すると、ミーシャの肩の位置が高くなった。銃床を当てる場所を探し、首を傾けて照準器へ顔を寄せる。動かすと、脚部の向きも一緒に変わった。
「身体ごと向きを変える前に指を離す。射撃位置では足を動かす向きも指示を聞いてからだ」
「はい」
ミーシャは一度銃を下ろした。確認のたびに動きが止まり、さっき説明された項目へ戻る。自分の都合で早送りできる部分は一つもなかった。
一夏は少し離れた床の線で停止の練習をした。管理担当が射撃区画へ顔を向けている間は自分も勝手に次の操作へ進まない。二人で使う一枠の中には待っている時間も含まれていた。
ようやく最初の一発を撃ったときミーシャの肩は僅かに上がった。標的の円へ穴が一つできる。中心からは外れていた。
「思っていたより、右に」
「今自分で原因を決める前に同じ構えを作れるか見よう。銃床の当たっていたところを覚えているか」
ミーシャは返事をする前に左手の位置を少し戻した。自分の構えが動いたことに撃ったあとで気づいたらしい。
次の一発は前の穴から下へ離れた。機体を着けていても引き金を引く瞬間の手元までは勝手に揃わない。ミーシャは射撃記録を開き、標的から目を離す時刻を係員に確認した。
試合まで使えるかどうか。その答えを急ぎたかったはずなのに本人は借用申請を握りしめて無理を言おうとはしなかった。
少し遅れて、真耶が来た。一夏の停止記録を確認し、銃の取り扱いも管理担当から引き継ぐ。
「次は二人が使う区画を分けてみましょう。織斑君は3時側、グラハムさんは9時側です」
真耶は天井の基準表示を指した。表示の正面を12時、右手側を3時、反対を9時とする。場内に時計の文字盤を重ね、機体が向きを変えても基準は動かさない。自分から見た右左だけでは、旋回した途端に指示が食い違う。
真耶は二人がそれぞれの持ち場へ向かう前に、天井の表示がどちらを向いていても読めるか確認した。
「自分の身体が回っても、ここでは十二時の印が基準です。声を出すときは、分かる言葉を使ってくださいね」
「自分の右を言っちゃ駄目ですか」
「相手と向かい合っていたら、どちらが右か迷うでしょう。言い直す時間があるならいいですが、今日は最初から共通の目印を使ってみましょう」
一夏は天井へ指を向けた。十二時、三時、九時。指した方向に同じ印が見えた。床へ目を戻すと、そこにも小さな数字が書いてある。
「俺は三時。ミーシャは九時」
「うん。僕の九時は、君から見れば向こう側の区画だね」
「そこへ行く、って伝えればいいんだな」
二人は交互に言ってから所定の線へ立った。真耶が銃の使用停止を確認し、この時間は移動と意思疎通だけを評価すると告げた。
一夏は3時側の停止線へ立った。ミーシャが9時側からこちらを見る。機体を着けたまま首だけ向けると、銃まで流れそうになり、すぐ下げた。
「ごめん。まだ構えたまま話すのは難しい」
「うん。こっちも急に動かない」
真耶は二人を見比べ、空の手で移動する練習から始めようと言った。射撃の許可はまだ出ていない。
互いに動く先を告げ、一人が止まってからもう一人が進む。ただそれだけでも一夏の声は何度か長くなった。
「俺、あっちの、向こうの線まで行って……」
「3時側の端、でいいですよ」
真耶が言い、一夏は口を閉じてから言い直した。ミーシャも短く了解を返す。
同時に動くと、相手の到着を待っているうちに自分の位置がずれた。自分の停止線を見ていると、向こうからの声を聞き落とす。
「今どこへ行くって言った?」
「9時側の奥。もう一度伝える」
聞き返してよいと分かると、一夏は曖昧なまま動かずに済んだ。ミーシャも返事のない間に先へ進まなくなった。
真耶の打鉄が中央へ入った。
真耶が手を上げると、二人とも足を止めた。
「こちらの機体が前へ出ます。いま何が見えますか」
「真ん中に先生がいます。ミーシャは……少し重なってます」
「一夏の機体の左に、先生の肩が見える」
答えながらミーシャが身体を動かしかけた。
「グラハムさん、そこで待ってください。見える場所へ自分から動く前に、どちらが通るか決めましょう」
「はい」
「織斑君も、いまの向きを覚えておいてください」
一夏は画面の中心にいる真耶の機体を見た。見えているのは灰色の装甲の一部だけで、その向こうでミーシャが何をしているかは分からない。互いが動いているなら、見えていない相手も次の位置を考えているはずだった。
短い声を一つずつ返す。自分が進むなら先に言う。相手が止まったと確かめてから移る。それだけの手順が、映像で見た試合の掛け声よりずっと身近に感じられた。攻撃をせず、二人の間をゆっくり移動する。一夏とミーシャはその一機を正面に置いたまま、距離を保ってついていった。
一夏が近づきすぎる。ミーシャの視界へ白い肩が入り、中央の機体が隠れた。
「一夏。今見えない」
「あ、ごめん」
一夏はすぐ横へ出ようとして、真耶に止められた。
「聞いてからどこへ動くか伝えてくださいね。グラハムさんが、今の場所に居続けるかも確かめましょう」
謝ったついでに動けば済むと思っていた。自分が空けた場所へ相手がもう移動しようとしているかもしれない。
「俺、3時側へ戻る。ミーシャは」
「ここで待つ」
短いやり取りが済んでから一夏は動いた。やり直すときにはずいぶん簡単な操作に思えた。だが、突然見失った瞬間にはその順番まで飛んでしまう。
休憩の合図が出た。一夏は床へ降り、機体を収める。ミーシャも銃を受け取りに行く前に汗を拭いた。
銃の練習が再開されるとき、一夏は真耶から改めて説明を受けた。移動区画の演習では銃を持つことができても発砲しない。標的へ弾を撃つのは、管理担当が射線を確保した固定位置に戻ってからだった。
「つまり、いま俺たちが動きながらやってるのは、互いの立つ場所を知る練習なんですね」
「そうです。お二人とも、まずは安全に止まるところまで。次の課題は今日の記録を見て決めます」
一夏は先ほどまでの行き違いを思い出した。相手が見えなくなったら、慌てて横へ動こうとする。そんな状態で銃を持つと、目と手の動きも揃えなければならなくなる。銃を借りたことだけで試合の準備が一気に進むわけではなさそうだった。
ミーシャは隣の区画で打鉄を展開していた。大きな肩部装甲の下に盾を収めた腕がある。もう片方には実弾式の訓練銃を持っていた。
「持って飛んでみて、どうだった?」
「取り付けは問題なかった。機体が狙ってくれる機能はないから自分で照準器を覗く」
射撃区画へ向け、弾倉を外してみせた。近接訓練をしている人の方へ銃口が向かないよう、身体の向きも変える。
打鉄の火器管制機能が増えたわけではなかった。照準器付きの銃を手で扱うだけで発砲の許可も安全装置も別に確かめる。標的が止まっていれば当てられる。動くものを追いながら飛ぶと、銃身まで揺れた。
標的が動く前の練習でミーシャは一度、構え直した。照準器の中では丸い中心がゆっくり揺れていた。止まったと思った瞬間に引き金へ力を入れると、銃の先まで下がる。
真耶は弾を入れずに動作を見せるよう頼んだ。ミーシャが繰り返すと、手首だけで最後の向きを変えていたことが分かった。
「まず持つ姿勢を決めましょう。見えた印へ毎回手だけで合わせ直すと、大きく動きやすいんです」
肩を少し下げ、肘を支える位置を変える。自分では同じ姿勢のつもりでも照準器の中へ入る範囲が変わった。ミーシャは最初から覚え直すように標的の下から中心へ銃を上げた。
一夏は隣で機体の動きを止めて待った。銃を持つ姿は教室で見たことがあるが、引き金を引くまでにこんなに何度も位置を直すとは思わなかった。
許可が出て、一発。標的の端に穴が開いた。真ん中へ入らなかったことより、狙っている間に自分が動いた感触をミーシャは気にしていた。
「いま、撃つ前に足が浮きました」
「はい。記録でも見えています。次は低い位置で足をつけた状態から始めましょう」
床へ足を置き、同じ標的へ向く。二発目は一発目より内側だった。三発目は外れた。真耶がそこで止め、当たった一発だけで形を決めないよう伝える。
「良かったときの感触だけを覚えるのは難しいね」
ミーシャが記録へ目を落とす。
「いま、最初と二番目のどちらで肩が上がったのか、もう曖昧になってる」
「忘れないうちに、分かるところだけ書きましょう」
真耶は確認用の欄を指した。
「銃口を向けていた時刻と、身体が動いた時刻は記録で追えます。迷ったところをあとから比べればいいんです」
一夏は停止線へ腰を落とし、ミーシャの書く文字を遠くから眺めた。手順を間違えずに進めるだけでかなり時間がかかる。今日使える枠には終わりがある。上手く当てたことだけを覚えて帰るより、次に何を確かめるか書いておいた方がよさそうだった。
ミーシャは空の弾倉を外した。一夏が、手応えはどうだったと尋ねる。
「飛ばない間は何を間違えたか少し分かる。動くと、まだ一緒になる」
「当てながら飛ぶって、難しいんだな」
「今は持って飛んで止まってから向けるところまで。勝手に追いかけて撃たないようにする」
言いながら、ミーシャは照準器の覆いを戻した。練習の相手が前を横切れば、そちらへ銃を向けない動作も要る。自分が狙っていないつもりでも、銃口の先には誰かが来る。
一夏は次の確認で横切る役を引き受けた。弾を入れない状態でミーシャが構えを止める。声を聞いた一夏もその場で止まった。
「今は下げた」
「うん。再開していいって聞いてからもう一回向ける」
すぐには撃てない時間も二人の練習には必要だった。
「一発ずつ、狙ってください。次の弾を急ぐと、最初の姿勢も崩れますよ」
真耶が射撃記録を見せた。ミーシャは外した位置へ目をやる。
「三発目から右へ寄っていますね」
「肩を上げています。支える位置をもう一度」
何度も同じところへ銃床を戻した。昼休みに教室で見たような、楽々と答えを出す顔はしていなかった。
射撃の練習が終わると、銃は管理担当へ返された。ミーシャは取り外した弾倉を一つずつ置き、残数の確認を受ける。手順を終えるまで隣の一夏へ話を向けなかった。
確認の印が付いてからようやく息を吐く。
「使った分、全部、数えるんだな」
一夏が言うと、ミーシャは頷いた。
「借りたものだから。どこへ行ったか分からない一発があったら、困ると思う」
管理担当が紙へ記入した。次回もまず同じ射撃位置から始める。銃を持ったまま飛ぶ練習は安定してからだった。
廊下へ出ると、箒が壁の時計を見ていた。部活の顔合わせを終えてきたらしい。手には道場の予定表がある。
「二人とも長かったな」
「待ち時間もあったからな。箒の方は?」
「礼法と、道場を使う順番の説明だ。いきなり試合をしたわけではない」
その言い方に一夏は少し笑った。どこの部屋へ入っても使い始める前に覚えることがあるらしい。
箒は二人の手元を見た。銃がないのを確かめ、借りられなかったのかと尋ねる。
「今日は返した。続けて練習したいかはもう一度考えてくれって」
ミーシャが答えた。
「でどうするんだ」
「続けたい。ただ、明日すぐ飛びながら当てられるとは思わない。そこは先生に見てもらって決める」
箒は頷いた。使っているところを見せてほしいとも、今は言わなかった。代わりに一夏の腕を指した。
「そっちは今日はどうだった」
「止まる方は少し。けど二人で動くと、また忘れる」
「なら、刀の稽古を入れるにしてもそこへ全部重ねない方がいいな」
一夏は肩を回した。腕に痛みはなかったが、首を向けると、機体を着けていたときの視界を思い出す。標的が増えると、目もすぐ動かしたくなる。
箒は廊下の端を指した。通行の邪魔にならない位置へ三人で寄る。
「例えば私がお前の前に立つ。ミーシャが横にいる。そのときお前は私だけ見ていればいいわけではないだろう」
そう言われ、一夏は二人の位置を見た。機体がなければ、どちらもすぐ分かる。箒が半歩横へ出ると、ミーシャの肩が隠れた。
「お前は今、顔を追ったな」
「ああ」
「竹刀を持っていても同じことをする。相手が動くと、見ている場所ごと連れていかれる」
箒はそこで話をやめた。廊下で稽古を始めるつもりはないらしい。ミーシャが時計を見て、食堂の混む前に行こうと言った。
廊下の向こうから次の実習班がやってきた。全員が同じ番号の札を持っている。係員が名簿を確かめ、装備の受け渡しを行うまで入口で待っていた。一夏は壁に掛かった時計を見た。二人の練習が終わると、すぐ次の人たちが使い始めるらしい。
「銃の申請、明日も同じ場所へ出すのか?」
「うん。今日の記録を添えて、次にやっていいことを確認してから」
「分かった。俺の方も移動の記録を出しておこう」
ミーシャは頷いて端末を閉じた。箒は明日の予定表を見て、二人が同時に空いている時間に印を付けている。実習場を借りられることと、その時刻に三人で集まれることまで確かめなければならない。
一夏はバッグを持ち直した。今日何度も言われたことが、別の相手の口からも聞こえていた。全部を覚えるにはもう一度書く必要がありそうだった。
食堂ではミーシャが先に空いた席を探した。箒と一夏は献立を見て、トレーを取る。
「今日は何にする」
「肉。動いたら、やっぱり腹が減った」
「野菜も付けておけ」
「分かってるって」
いつもの返事をし、皿を一つ増やした。食事の前には手を洗った。銃に触れていなくても機体の内側や器具へ何度も手を当てた日だった。
食堂の窓から午後の光が差していた。いつも座る席の一つ向こうに、実習を終えた生徒が二人並んでいる。会話は機体のことから夕食の献立へ移っていた。一夏もトレーを置くとようやく肩の力が抜けた。
『三時側へ戻る』
声に出さず口の中で言ってみた。床に引かれた基準を思い出す。明日になったら忘れてしまいそうで、一夏は鞄のノートに小さな時計の絵を描いた。
「飯の前にまだ勉強か」
箒が苦笑する。
「今描いたら忘れにくいだろ」
「なら、食べてから続きを書け」
「分かった」
一夏はノートを鞄へ戻した。ミーシャはそのやり取りを見て、明日の集合場所を確かめるだけに留めた。三人で食事を取る時間は、練習の予定表には書かれていなかった。
ミーシャはすでに箸を揃えて待っていた。今日使った弾の数を聞こうとした一夏へ、先に湯呑みを渡す。
「話す前に飲もう。さっきずっと声を出してたから」
一夏は受け取り、一口飲んだ。自分が何度も叫びかけた声を思い出す。大きく言えば届くと思っていたが、聞く側にも返事をする時間が必要だった。
テーブルの端へノートを置いた。食べ終えるまでは開かない。箒がその上へ小さな紙を一枚置く。
次に道場を使える時刻が書いてあった。明日の二人の追加実習とは重ならないようにしてある。
「先に取ってしまったが、都合が悪ければ変える」
「大丈夫。俺もそこでやりたい」
ミーシャが自分の予定表を確かめた。手伝えるのは最初の三十分だけだという。一夏は頷き、足りないところは二人でやろうと箒へ顔を向けた。
箒は場所を確かめ、剣道場の片づけが長引いたら連絡すると言った。一夏は頷き、連絡が来る端末の音を切らないようにする。
「待ちぼうけにはしないからな」
「お前も遅れるなら先に言え」
箒に返され、分かってると答えた。手伝ってもらう相手にも終えてから来る用事があった。
少しずつ予定が埋まっていった。一つ覚えるたびに新しい用事が増える。それでも何を待っているかだけは、昨日より分かるようになっていた。
鞄を持ち直す前に一夏は手の中が空になっていることを確かめた。借りた装備は返した。自分のノートは入れた。明日は今日できなかったところから始められるよう、最後の頁へ小さな印をつけておいた。