Infinite Stratos:Archetype border   作:ぱらさいと

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01-15

「残量を確認しろ」

 織斑千冬の声に、一夏は視界の隅へ目を動かした。

 九八・六。

 訓練用に統一された表示では、実習機のシールドエネルギーが百分率で示されている。開始時は百だった。まだ誰からも撃たれていない。目の前にいるのも敵機ではなく、床に固定された標識と、天井から吊られた訓練標的だけである。

「……少し減ってます」

「少し、とは何だ」

「一・四パーセントです」

「そうだ。最初にそう答えろ。次は理由だ」

 一夏は口を開きかけて止まった。学園の実習場に入ってから、機体を装着し、指定位置まで進んだ。武器は出していない。相手に攻撃されてもいない。ならば何がシールドを減らしたのだろう。

「……起動するときに使った分、ですか」

「それも含む。だが、それだけではない」

 千冬は見学席の下に設けられた教官用卓へ指を向けた。大型画面には一夏の機体と箒の機体が映っている。二人とも学園の実習用《打鉄》だ。装備の使い方にまだ慣れない一夏の前で、箒は指定位置からほとんど動かずに待っていた。

「今日の授業は、攻撃を当てる練習ではない。相手に一発も撃たれずに、どれだけエネルギーを使うかを知る」

 千冬が操作すると、画面に幾つもの色の違う線が増えた。推進器、姿勢制御、光学観測、音響観測、操縦支援。その横へ別の項目が畳まれている。

「織斑。シールドエネルギーは何のためにある」

「攻撃を受けたとき、操縦者を守るためです」

「間違いではない。だが、それだけでは五十点にもならん」

「半分も……」

「防護に使える残量と、機体を運用するための資源が、無関係だと思っているならな」

 数字は画面の片隅にあった。普段なら目立つ警告が出るまで気に留めない小ささだ。一夏は視界の中心へ意識を戻しかけ、千冬がそこへ指を向けたので踏みとどまった。

「先生、最初からずっと表示されてたんですか」

「そうだ。表示の配置は授業前に確認させただろう」

「はい。でも、動かすのに夢中で」

「だから今の授業をやっている。残量の数字を見つけただけで使い方を覚えたことにはならん」

 一夏は口を閉じ、目の端で数字を確認し直した。動かしている最中でも、視界から機体の状態が消えないようにする。教科書の図で眺めたときには簡単そうだったが、機体を着けると見るべき場所がいくつもある。

 一夏はもう一度、九八・六という数字を見た。教科書には被弾時のエネルギー消費が大きく書かれていた。攻撃を受けて減るから、零になれば負ける。最初に覚えた説明は単純だった。

「スラスターで加速する。姿勢を戻す。センサーを走らせる。射撃管制で目標の位置を予測する。戦術支援で警告と推奨行動を出す。どれも無料ではない」

 千冬が項目を順に指す。

「外部から奪われるばかりが消耗ではない。自分で使った分も消える。実機では機体ごとに構成も効率も違う。今日見るのは、この実習機と訓練補助装置の数値だ。全機の標準値だと思うな」

 真耶が教官用卓の脇から声を掛けた。

「まずは移動です。織斑さん、前方の白い線まで低速で進んで、止まってください。高度は上げなくて大丈夫です」

「はい」

 一夏は目印を見た。直線で十数メートル。前回、浮いただけで右へ傾いた距離よりはずっと短い。上昇しないならできると思った。

 推進を入れる。床の線が近づいた。足を揃えて止まるつもりで入力を弱めると、思ったより長く滑った。

「……っと」

 慌てて逆向きへ補正した。身体が一度前へ持っていかれ、遅れて停止する。線は踵の後ろに残っていた。

「位置が違うな」

 千冬が言う。

「はい。行き過ぎました」

「今の間、前進と減速のために何度推進を使った」

「二回……あ、止めようとして、もう一度」

「補正はさらに入っている。自動姿勢制御の分もだ。機体が動いた回数を数えても、自分で判断した回数にはならない」

 画面の線が折れ曲がった。推進器の負荷が上がった直後、姿勢制御も短く跳ねている。一夏の目の前では、残量が九七台へ落ちていた。

「……まだ、誰も撃ってないのに」

「だから何度も言っている」

 千冬は呆れた声を出したが、一夏が数字を見ていることは止めなかった。

「篠ノ之。お前もやれ。同じ距離だ」

「はい」

 箒の打鉄が動いた。脚の角度を変え、低い位置でまっすぐ進む。減速に入るまで一夏より時間を使ったが、停止線を越えなかった。機体の向きもほとんど変わらない。

「……お前、上手いな」

「今のは移動距離が短い。私もまだ無駄はある」

 箒は前を向いたまま答えた。実習機の重心を感じ取るように一度足を動かし、表示を見た。

「先生。停止までの姿勢制御の回数も評価に含みますか」

「当然だ。到着位置が同じでも、そのために資源をどれだけ使ったかで結果は変わる」

「分かりました」

 箒は足の位置を戻した。素早く動くより、狙ったところで止まることに集中していたらしい。一夏は前回の剣道の稽古を思い出した。打ち込む勢いがあっても、最後に足が残ると箒には見抜かれた。今はその癖を機体が数字にしている。

「二人とも、次へ行く」

 千冬が中央の標的を表示した。丸い訓練標的が三つ、異なる高さへ動き始める。

「光学センサーを起動。目標の輪郭を追え。音響センサーは待機のままでいい」

 一夏は教えられたとおりの項目を開いた。画面の右側に三つの枠が現れる。最初は揺れていた線が、標的の動きに合わせて滑らかになった。

「見えます」

「目視でも見えているな」

「はい」

「ならば、どちらを使っている」

「……両方?」

「そうだ。人間の目で見ているだけなら、機体の光学系まで動かして追尾する必要はない。追跡精度を上げるほど処理と駆動の負荷は増える」

 千冬の声に合わせて負荷表示が伸びた。一夏は残量へ目を戻す。九六台に入っている。

「今度は音響センサーも起動しろ。標的の移動音を拾わせる」

 耳の奥で短い電子音がした。画面に新しい細い線が走る。頭上に近い標的と奥の標的が、音の違いで示された。

「……これ、便利ですね」

「便利だ。便利だからこそ、必要な場面を選べ」

 千冬が標的の速度を上げた。一夏の視界では、光学系の枠が動きを追い、音響系がその外側に予測位置を示していた。人間の目だけでは追い切れなくなると、急に心強い。

「索敵機器は、電源を入れたら同じだけ使うわけではない。常時観測するか、対象を絞るか。高精度処理を何系統動かすか。稼働率が変われば消費も変わる」

「じゃあ、切れば残量は減りませんか」

「その状態で標的が実弾を撃ってくるなら、どうする」

 一夏は口を閉じた。センサーを止めれば減らない。だが、その代わり見失う。単純な解決策ではなかった。

「必要なものまで切るな。戦闘を続けられるだけの情報を、必要な範囲で得ろ。まずは二番目の標的だけを追跡しろ」

「了解です」

 選択する前に、どの表示が残るのか一夏は指示を読み返した。消してもよいのは周囲の二つの高精度追跡で、目の前にある中央標的の枠は維持する。さっきより見るものが少なくなっても、標的の動き自体は止まらない。

「先生、いま音の方はどうしますか」

「必要になったら戻せる状態で待機させろ。今日の課題は、何でも切ることを競うものではない」

「了解です」

 一夏は決めた項目だけを変えた。指先が別の設定欄に触れそうになり、いったん止めてから押し直す。直前までいくつもの窓が重なっていたため、どれを閉じるか見失いかけたのだ。

 一夏は中央を選択した。外側の二つの枠が薄くなる。待機に切り替わった音響系の表示が一段減った。残量の数字はその場で増えなかったが、減り方は緩くなった。

「……戻らないんですね」

「一度使った分が、命令一つで戻るなら誰も苦労せん」

 見学席で笑う声がした。一夏も苦笑しかけ、すぐに標的へ戻った。中央の円が左右へ動いている。

「次は射撃管制と弾道予測の模擬負荷を加えます」

 真耶が補足した。

「打鉄には、こうした用途に必要な実用的な火器管制機能がありません。今日は機体へ一時接続した訓練用計算モジュールで弾道予測だけを再現します。実射用の火器管制には繋がっていませんが、計算装置を動かすためのエネルギーは実際に使われ、その負荷が記録されます」

 一夏は頷いた。ミーシャが先日、打鉄の火器管制機能のなさを指摘していた。借り物の銃を使うために追加で教わっているのも、その不便さがあるからだ。

 右下に距離と相対速度が現れた。標的が曲がるたびに弾道予測線が伸びては消える。射撃そのものはしない。画面で当たる位置を計算するだけだ。

「目標へ銃を向けていないのに、計算してるんですか」

「目標の次の位置を予測し続ける設定になっているからだ。銃口を向ける瞬間だけ処理すれば間に合わない場合もある。だから常時動かす設計もある。だが、その分だけ負荷を払っている」

 予測線が二本、三本と増えた。一夏は一つも撃っていないのに、画面の色が次々変わるのを見た。

「さらに戦術支援。接近経路の候補、敵弾の予測、回避方向の提案。これらは操縦者の代わりに判断を終えるものではない。情報を集め、候補を計算し、操縦者が選ぶ時間を作るためのものだ」

「たくさん出てきますね」

「全部を読もうとするな」

 千冬の返事は速かった。

「今のような初歩的な標的追跡でさえ、役に立たない提案は捨てなければならん。敵が二機、三機となればなおさらだ」

 画面に経路が増えた。左から迂回、下から接近、上昇して交差。どれも親切そうな線だが、一夏にはどれを選べばいいか分からない。迷っている間にも残量が落ちた。

「織斑。今、お前は何をしている」

「……考えてます」

「機体も考えている。複数の経路を計算し続けながらな。お前が何も操作しなくても、ソフトは働いている」

 一夏は残量を見る。九二台。さっき止まっていたときから随分減った。

「こんなに使うんですか」

「今日の訓練条件ではな。実用機の数値と混同するな。重要なのは増減の理由だ」

 千冬は教官用卓から操作を一つ送った。

「標的が一機に減った。ならば不要になった戦術支援の候補を消せ」

 表示を閉じようとして、一夏は危うく追跡そのものを停止するところだった。項目の階層がよく似ている。下にある「推奨経路の自動更新」を切り、中央の標的だけ残す。

「できました」

「よし。篠ノ之はどうだ」

「光学は中央目標の低負荷追跡。音響は必要時だけ再起動できるよう待機。予測処理は停止しました」

「理由は」

「射撃せず位置保持を続ける課題なので、常時の弾道計算は不要と判断しました」

「そうだ。だが別の課題なら変わる。射撃を求められているのに計算だけ止めても失点だ」

 箒の返答には余計な言葉がなかった。一夏は隣の機体を見た。剣道では間合いに入るまでよく見て、それから動く。目を使うこと自体は同じなのに、使い続ける装置を選ぶという発想まではまだ身についていない。

「それでは、最後の課題だ」

 千冬が手元の操作を戻す。標的が一つになり、実習場の奥へ移動した。

「指定地点まで進め。標的の位置を保ち、残量をできるだけ残して戻れ。ただし、監視を止めて接触や衝突の危険を増やした場合は失格とする」

「……速く行った方がいいんですか」

「速度は評価項目ではない。制限時間内に戻ればいい」

 一夏は前方へ目を向けた。最初の移動で線を越えたことを思い出す。慌てて減速すれば、また無駄な補正が増える。速く行って失敗するより、止まれる速さを選べばいい。

 推進を弱めに入れた。少しずつ床が近づく。中央の標的は光学系の枠の中で動き続けていた。音響は待機、弾道予測は停止。戦術支援の経路候補も、今は必要な一つだけが薄く表示されている。

「残量は」

 千冬が尋ねる。

「九一・八です」

「進め」

 標的に近づくと視界の端から右へ逃げた。一夏は反射的に機体を捻ろうとした。脚に力が入る。そのまま追えば大きく旋回することになる。

 そこで入力を弱めた。先に速度を落とす。標的は機体の前を横切っていったが、光学枠は離れない。視界の中央へ無理に戻さず、枠が追えていることだけ確かめた。

「……追い掛けなくていいのか」

 独り言が漏れた。

「質問か」

「はい。目で追うだけなら、機体ごと向きを変えなくても」

「視野と任務による。今は照準を合わせろとは言っていない」

 一夏は機体を正面へ向けたまま、右へ滑っていく標的へ視線を送った。センサーの追尾枠は標的を捉え続ける。身体の角度を変えずに済んだ分だけ推進の修正が減った。表示が動くのを見て、千冬が照準を合わせろと言わなかった意味をようやく理解した。

 進路の終点へ着く。残量は九〇台だった。最初のように線を大きく越えずに止まれた。一夏は息を吐いたが、すぐに帰還を思い出す。まだ課題の半分だ。

「織斑。ここで敵から撃たれたと仮定する」

 千冬が言う。

「防護に使える残量を残しておく理由は分かるな」

「はい。攻撃を受け止められなくなるからです」

「では、残量を守るために全センサーを停止して戻るか」

「……いえ。衝突するかもしれないし、撃たれる方向も分からなくなるので」

「何を残す」

「近くの障害物を見る分と、標的の追跡。あとは、戻る向きが分かる表示です」

「それで十分かは状況次第だ。だが理由を言えたなら、動け」

 千冬は課題を易しくしなかった。一夏は後退せず、広い弧を描いて向きを変えた。推進の入力を短く区切るたびに姿勢制御が少し働く。残量は減る。それでも無闇に反対方向へ噴かす回数は少なくなった。

 戻る途中、横から警告音が鳴った。訓練用の低出力弾が一発、定められた経路で放たれたらしい。事前に伝えられていなかったので一夏は一瞬固まった。

「回避しろ」

 千冬の声が落ちる。

 一夏は右へ推進した。思った以上に身体が動き、足元の床が斜めに流れた。透明なシールドに光が弾ける。弾は避けきれず、正面装甲の外側に着弾した。

「……当たった」

「残量」

「八六・二です」

「直前は」

「八九……八九・いくつだったか」

「記録を表示しろ」

 画面に折れた線が出た。着弾の場所で大きく落ちている。だがその少し前にも、急加速した推進器の負荷が立っていた。

「撃たれた分だけではないですね」

「そうだ。回避機動と被弾。その両方の代価だ」

 一夏はシールドの光が消えた場所を見た。弾は安全な訓練用のものだ。実習場の設備も教官の管理下にあり、停止信号があれば動作を止める。それでも今、一夏の頭には被弾したことばかり残っていた。

「さっき、警告の瞬間に加速を強く入れました」

「理由は」

「避けることしか考えてなかったからです」

「避けられなかった上に余分に使った。それが今日の結果だ」

 千冬は容赦なく言った。だが失格とは告げなかった。

「戻ってこい。最後まで機体を運べ」

 一夏は遠くなった白い線を探した。機体を向け直し、さっきよりゆっくり進む。センサーを切らなかったおかげで障害物は表示されている。弾道予測を止めたままでも戻る道は分かる。

 最後の線へ近づくころには、脚に加えた力まで意識できるようになっていた。一夏は速度を少し落とし、床の印が通り過ぎないようにする。足を着けたあと、姿勢の表示がゆっくり水平へ戻った。

「停止を確認しました」

 真耶が教官用卓で読み上げる。

「お疲れさまです。戻るまでに使った項目を、あとで一つずつ見てくださいね」

 一夏は返事をした。被弾した瞬間ばかりが頭に残っているが、戻る間にも何度か無駄な補正を入れた気がする。最初から最後までの記録を見る必要がある。

 線の上へ辿り着いたとき、数字は八四台になっていた。最初から十数パーセント減った計算だ。大半は攻撃を受けるより前と後の、自分が動かすための消費だった。

「停止。記録を保存しろ」

「はい」

 一夏は機体の停止操作に入った。重く感じていた脚が、床へ触れた瞬間にようやく落ち着く。教官用の表示で箒の残量を見ると、自分より多く残っていた。差は見て分かる程度にあった。

「……やっぱり箒の方が残ってるな」

「私の方は被弾していない。比較するなら、そこも分ける必要がある」

 箒は機体を止めて答えた。自分の成績を誇る様子はない。

「それに、最初の移動で私はお前より時間を使った。時間が長ければ基礎消費も増える。速ければいいという話でもない」

「……そんなところまで見てたのか」

「表示されていたからな」

 箒は当然のように言う。一夏は笑いたくなったが、自分の画面も最初から同じように表示されていたと思い出して笑えなかった。

「織斑」

 千冬の声がした。

「はい」

「今の課題をもう一度やったとして、お前は何を変える」

 一夏は画面の記録を見た。被弾直前の大きな山より、その前の細かな山が幾つも目に入る。止まるたび、追うたび、見えていたはずの数字だ。

「最初の加速を弱くします。目標を追うとき、身体まで一緒に振らない。それから……必要ない予測は止めておきます」

「警告が来たら」

「見えている方向と距離を考えて避けます。……今の俺に、毎回できるとは言えませんけど」

「それでいい。できると分かったふりをするな」

 千冬が頷いた。一夏は少し驚いた。もっと厳しい言葉が来ると思っていた。

「残量を残す目的は、数字を立派に見せることではない。必要なときに加速し、防護し、操縦者を帰すためだ。節約のために危険を増やすようなら、何も分かっていないのと同じだ」

 千冬は二機の記録を並べた。被弾のない箒の線、着弾で大きく折れた一夏の線。そこへ推進とセンサーの負荷が重なり、同じ残量表示が何種類もの理由で動いていると分かる。

「代表候補生は、移動する前から残量の使い道をいくつも用意している。相手が射線へ入れば、照準と防護のどちらを優先するかを即座に選ぶ。お前たちも、まず消費の理由を読め。それから次に必要な機能を予想しろ」

 セシリアの機体が目の前に現れたような気がした。青い光、遠くから飛んでくる攻撃。見えるところだけでも避けるのは難しそうだ。それなのに、相手は武器だけでなくセンサーも支援機能も管理している。

「……一発も撃たれなければ、安心ってわけじゃないんですね」

「ようやく最初の質問に戻ったな」

 千冬の口元が僅かに動いた。

 一夏はもう一度、八四台の残量を見た。大きな被弾の落ち込みばかり目で追いかけそうになる。だがその前にも、線はずっと少しずつ下がっている。

 次の練習では、撃たれる前の自分も見なければならない。そう考えて記録の表示を切り替えると、そこには最初の移動で無駄に反転した、小さな推進負荷の山が残っていた。

「……まず、ここからか」

 さっき真耶に教わった通り、まだ理由の分からない項目へは疑問符も残す。映像だけでは、自分がどの瞬間に身体を傾けたのか分からない。次の授業で確認するには、その時刻を一つ書いておいた方がよかった。

「山田先生、これ、あとで一緒に見てもらえますか」

「はい。終了後に記録を送ってください。ご自分で気になったところに印を付けてくれると助かります」

「じゃあ、ここと、こっちも」

 一夏は被弾の前後に付いた小さな山を二つ選んだ。画面の数字は今すぐ増えない。だが次に同じ課題が来たとき、見直す場所はもう決めてある。

 一夏は保存した記録に印を付けた。今度の印は、失敗したから消したい場所ではなかった。

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