Infinite Stratos:Archetype border 作:ぱらさいと
新年まであと二時間。
居間の時計から座卓へ視線を戻す。
湯呑みは二つ。急須と茶菓子の皿も置いてある。対面の座布団の角度が気になる。立ち上がって畳縁と比べる。揃っているような、ズレているような。
解決される悩みではないと気づいてやめた。
「……何をしているんだ、私は」
呟き、箒は台所へ戻った。
薬缶の湯は沸いた。客間に布団を出した。
ミーシャからこちらの家に泊まりたいと言われ断るか悩んでいるうち、話がまとまってしまった。断るための口実を探すのもおかしい。家主の広瀬氏には一言断りを入れたところ、先方は箒の判断を信用してくれた。
そうこうして現在。まだ何か忘れている気がする。
知人が家を訪ねてくるなど滅多にないことだった。全国を転々としてきた。人間関係を築く間もなく、次の土地へ。すべて国の都合である。杜王町へ移り一年が過ぎたのだと気づくと妙な感慨すら覚える。引っ越しが珍しくなくなったとはいえ箒のそれはあまりに多い。その意味では『友人』と言える関係性を得たのも久方ぶりに思えた。
大晦日の夜は静かだった。
杜王町の旧市街。この辺りは武家屋敷や古い洋館が多い。
生け垣ならぬ漆喰塗りの壁に囲まれた、広い敷地。立派な庭園には池もある。かつてこの家は吉良という古い名士の所有であったという。現在は広瀬夫妻へ権利が移っている。箒は夫妻の好意により破格の家賃でいっときの住まいにさせてもらっている。
初めはどこも広すぎると思った。果てしない廊下にも慣れた。
朝、稽古前に縁側の雨戸を開く。使わない部屋も、月に一度か二度は掃除する。池や植木の手入れは家主が手配した庭師が受け持ってくれている。
箒の中で屋敷とのつきあい方はほぼパターン化されていた。
客を招くことも、待つことも、その中には含まれていなかった。
最初に言及されたのは冬休みに入る前だった。
放課後、ミーシャから年越しの予定を尋ねられた。
『特に何もしない。家にいる』
箒が答えると、彼女は少し考えてから言った。
『それなら一緒に過ごさない?』
箒にはついぞなかった発想だった。
稽古、食事、学業。日付が変わる前に就寝。一人暮らしが始まってから毎年同じ。大晦日だからといって、誰かを招待した覚えはない。
『二人で何をするんだ』
『食事をして、話をして、年が変わるのを待つ』
『それだけか?』
『うん。楽しそうだろう?』
箒は即答しなかった。
ミーシャも説明を重ねなかった。通学鞄を手に提げ、何気ない様子だった。
結局、箒が折れた。どこで過ごすのか尋ねたところ「泊まりたい」と言われた。
客間は広いし、いくつもある。元旦早々に寒い道を帰る必要もない。
そう説明すると、ミーシャは嬉しそうに頷いた。
あのときはそれで済んだ話だった。
約束の時刻が近づき、状況は変わった。こんなに落ち着かないとは思わなかったのだ。
時間ちょうどに呼び鈴が鳴った。
箒は廊下へ出た。玄関に着いてからいつもより足早だと気づく。
引き戸を開けると、師走の空気が足元へ入り込んだ。
「こんばんは、箒」
マフラーに顎を埋めたミーシャが立っていた。
黒髪は上着の襟に押され、不揃いな毛先が外へ跳ねている。頬が少し赤い。手には大きな紙袋と、箱を入れた保冷袋を提げていた。
肩には、もう一つ小さな鞄が掛かっている。
「……引っ越してくるつもりか?」
「一晩の予定だよ」
「その量を見て言っている」
「食べ物の分が多いんだ。荷物自体は、これだけ」
ミーシャは肩の鞄を示した。
箒は紙袋へ目を落とした。瓶の首が口から覗いている。
「何を持ってきた」
「年越し用に、少し」
「お前の『少し』は当てにならん」
「中でもいいかい? ずっと持っていると、腕が疲れそうだ」
「そうだな。早く入れ、寒いだろう」
箒が袋の一つを受け取ると、ミーシャは礼を言って戸をくぐった。
上がり口でまた足が止まる。
磨かれた木の床と、その奥へ続く廊下。太い柱から天井へ目を移す。靴を脱ぐことまで忘れたように、しばらく立っていた。
「……すごい家だね」
「古いだけだ」
「立派な柱だ。贅沢なつくりだと思わない?」
「私に聞くな。家を建てたことはない」
ミーシャは少し笑い、ようやく靴を脱いだ。
脱いだ靴の向きを揃えてから、また顔を上げる。
「写真で見るよりずっと広いね。家のつくりが錯覚させるのかな」
「住んでいれば、いちいち気にはしなくなる」
「そうだろうね。僕は今日が初めてだから」
箒は返す言葉を失い、先へ歩いた。
居間へ向かう途中でも、ミーシャは何度か歩みを緩めた。
襖の縁を眺め、部屋の上にある欄間へ視線を止める。
「あの彫刻は『欄間』でいいんだよね?」
「ああ」
「左右で、少し模様が違うんだな」
言われて、箒も見上げた。
毎日通っている廊下だった。欄間があることは知っている。だが左右の形状が一致しているかなんて、確かめたことはなかった。
「手で彫ったものなのかな」
「知らん。私が来る前からある」
「ずっと箒の家だったわけじゃないんだ?」
「生憎、借家だ。いつ建てられたのか私も分からん」
ミーシャはこっくり頷いた。
一人暮らしの理由は聞かなかった。
箒が重い袋を持つ手を変えると、そちらへ気づいて歩き出す。
「ごめん。先に荷物だったね」
「分かったなら進め」
「あとでもう一度見てもいい?」
「構わん。廊下を塞いだままでなければな」
ミーシャは満足したように頷いた。
箒はその横顔を見た。
魚売り場でも、料理の本を開いたときでも、気になったものを前にすると同じ顔になる。食べ物以外にまで、こんなに熱心なのだとは知らなかった。
「家を見るのも好きなのか」
「うん。使うものが、どうできているのかを見るのは面白いよ」
「料理と同じ、というわけか?」
「そうだね」
「お前は、何でもそこへ戻るな」
ミーシャは否定せず、少し笑った。
居間へ入ると、箒は受け取った袋を座卓の脇へ置いた。
ミーシャが上着を脱ぐ。その間にハンガーを渡すと、少女は、先にこちらを見た。
「ここへ掛けていい?」
「そのために出した」
「ありがとう」
礼を言ってから、ミーシャは部屋を見回した。
畳敷きの居間に、低い座卓。障子の向こうには縁側があり、その先の暗がりに庭木の枝が見える。
用意しておいた二つの湯呑みへ目が留まると、ミーシャの表情が緩んだ。
「お茶も、用意してくれたんだ」
「冷えただろう。先に飲め」
「うん。でも、その前に、冷やしておきたいものがある」
紙袋から取り出した瓶は如何にも高級に見える。首の部分に銀色の飾りが巻かれている。
箒が眉を上げると、ミーシャはラベルを向けた。
「ノンアルコールのスパークリング。乾杯するときに、ね」
度数ゼロ。ならば酒ではない。未成年が購入するのも、口にするのも、問題ない。
箒は薄緑色のガラス瓶を受け取った。
「……これを開けるために、零時まで待つのか」
「その方が年越しらしいだろう?」
「お前が、途中で飲みたくならなければな」
「そこは待てるよ」
ミーシャは、今度は保冷袋の口を開けた。
中にある箱は立派な箱だった。透明なフタのおかげで中が覗ける。
色とりどりのソーセージやハムが詰まっている。縁を黒胡椒で覆われたもの。薄切りのまん丸なもの。燻製肉やペースト状のものもある。あとはオリーブの実やトマトの酢漬け。
薔薇のように盛りつけられたものから色彩のグラデーションを意識した並びまで多様だ。
箒は少し身を乗り出した。
「……洋風の、肉おせちか?」
「そう。デパートで予約しておいた。ここのハムはどれも美味しいから、気になってね」
「お前が選ぶとおせちもこうなるのか」
「普通の重箱も気になったけど、せっかく食べ比べするならこっちがいいかなって」
ミーシャの指が添えられた品書きを辿った。
「パストラミに、合鴨ロースト。ローストビーフ。そっちのプロシュートは少し塩気が強いかもしれない。あとはレバーパテ」
「食べ慣れているようだな」
「全部は流石にないよ? 高級品だもの」
当然のように言われ、箒は箱をもう一度見た。
贈答品と言われれば納得する。それくらい、一品一品の放つオーラが圧倒的だった。
中学生が常食するものではないだろう。
「これを、二人で全部食べるつもりか?」
「今夜食べる分と明日の昼食で分けよう。冷蔵庫、少し空いてる?」
「空けてある。食べ物を持ってくると言っただろう」
ミーシャは箒を見た。
少し意外そうな顔をしてから、嬉しそうに笑う。
「ありがとう。それじゃあ早速だけど、取り分けていこう」
「どれもこれも今日食べてしまうなよ」
「自制する」
「私もそうしよう」
ミーシャはクスリと笑い、箱を座卓へ置いた。
冷蔵庫へ持っていくものを分け、二人で食卓を整える。
箒は取り皿を。ミーシャは割り箸と個包装のお手ふきを。用意しておいた茶菓子の皿は、重箱が来ると少し窮屈になった。
箒が端へ動かすと、ミーシャも自分の座布団を少し引いた。
「狭くはないか」
「大丈夫。箒の方は?」
「問題ない」
短いやり取りで十分な場所ができた。
一人のときは黙々とこなしていた。
箒は取り皿を並べ、向かい側を見た。
ミーシャは品書きと実物を見比べていた。
「箒、グラスは借りられる?」
「食器棚の上の段にある。私が出そう」
箒が立つとミーシャもついてきた。
棚を開けるとグラスよりも小鉢へ興味を示す。
「それ、普段使っている器?」
「ああ」
「縁の模様がきれいだね。今夜、それを使ってもいいかな」
「何を入れる?」
「野菜のマリネ。白と青ならよく映えると思う」
箒は小鉢を取り、掌へ載せた。
買い物のとき、器で見え方が変わると話したことを思い出す。あのときのミーシャはメモ紙へ懐石と会席の字を書き分けていた。
「あの話を覚えていたのか」
「器の話? 覚えてるよ。今でも本や映像に出てくると見比べる」
箒は小鉢を二つ渡した。
自分は、透明なグラスを取る。
「落とすなよ」
「うん」
ミーシャは両手で受け取り、座卓へ戻っていった。
細い湯気の立つ湯呑みを両手で包む。しばらく指先を労ってから、口をつけた。
「……温かい」
「この寒さにあの荷物だ。徒歩でなくとも、タクシーがあるだろう」
箒は関心よりも呆れが勝った。
杜王町の市営バスは運転の荒々しさで悪名高い。箒も通学に使おうか悩んだ末、あまりの危なっかしさから自転車と徒歩を使い分けている。だがミーシャの住まいは町の中心地にある。タクシーくらいすぐに捕まえられるはずだ。
「タクシーはピンキリだ。それに、一人で運べたよ。玄関が見えてからは重く感じたけど」
「やはり買いすぎだ」
「年に一度だからね」
ミーシャは、卓の上を眺めた。
箒は湯呑みを置いた。
「何故そこまでして年越しを一緒に過ごそうと思った?」
ミーシャが顔を上げる。
「そこまで、というと?」
「無論、心躍る気持ちは分かる。だが負担も並々ならぬものだろう。普段どおりにしてもよかったはずだ」
「そうだね」
ミーシャは少し考え、湯呑みを卓へ戻した。
「一人でも、好きなものは食べられる。でも、これを友達と開けたら、楽しそうだと思ったんだ」
品書きの端を、指で軽く押さえる。
「僕が美味しいと思っても、君は別のものが好きかもしれない。そういう話もできるだろう?」
「また、食べ物か」
「それもあるよ。それに、箒なら、何か話し続けなきゃと思わずに済むから」
箒は黙った。
客を呼んだのだから、退屈させてはいけないのではないか。用意をしている途中で、何度かそんなことを考えた。
何を話せばよいかは、結局決まらなかった。
ミーシャは、その心配をしていないらしい。
「ただ待つだけでも、いいというのか」
「うん。君が嫌じゃなければ」
箒は、湯呑みの縁を見た。
断る理由を探したときより、今の方が、何を言えばよいか分からない。
「……嫌なら、呼んでいない」
「そうだね」
ミーシャが笑った。
箒は顔をそらし、時計へ目を向けた。
まだ、年が変わるまでには時間があった。
「庭を見てもいい?」
少しして、ミーシャが尋ねた。
「庭?」
「玄関まで入るとき少し見えた。とても立派だったから」
箒は障子へ目を向けた。
冬の庭に目立つ花はない。葉を落とした木と、低い植え込み。箒にとっては見飽きた殺風景だった。
「寒いぞ」
「縁側から、少しだけ」
「お前は少しと言いつつ長い」
言いながら、箒は立ち上がった。
居間と縁側を隔てる障子を開け、雨戸を少し動かす。細い隙間から冷たい空気が流れ込む。
ミーシャが隣へ来た。
ぽつんとした石に室内の明かりが薄く届いた。
風が吹くと、枝の影が静かにぶれた。
「……いいね」
「何も咲いていないだろう」
「うん。けれど風情がある。枯山水にも通じる、侘び寂びだ」
ミーシャは縁側へ腰を下ろした。
足を庭へ下ろすことはせず、手を膝へ置いて眺めている。
「石の配置について尋ねられると思った」
箒の言葉にミーシャも振り返る。
「もちろん気になる」
「やはりな」
「でも、理屈抜きにきれいだと思うことはあるよ」
箒は口を閉じた。
ミーシャの視線は庭へ戻る。
答えを探している顔ではなかった。先ほどまで重箱を覗いていたのと違い、何かを説明しようとする気配もない。
箒も少し離れて腰を下ろした。
戸口の近くは、畳の上より冷える。膝へ手を置くと、指先が少し冷たかった。
「箒は、この家が好き?」
唐突に聞かれた。
「何故だ」
「ここでの暮らしはどうなのかなと思って」
箒は庭を見た。
望んで移り住んだわけではない。この家もそうだ。担当官とかいう役人が関連機関とやらの意見を元に選定した。広瀬夫妻の寛大さには頭が下がる。あの見るからに善良そうな家主にまで余計な迷惑を掛けていると思うと素直に喜べない。
無論。まったく配慮がなかったとも言い難い。
こうした純日本風の古民家で暮らせているのだ。箒の実家は神社である。現代的な洋風建築よりも、ずっと馴染みがある。
あの庭園も、雪解けとともに彩りを取り戻す。
素足で廊下を歩くと木材の冷たさが伝わる。秋になれば僅かなりに紅葉が見える。
不満もある。不満は、ある。数え切れないほどある。
だが。心のどこかで善意に触れる感覚にも気づいている。
「……落ち着くとは思う」
箒の答えは肯定だった。
「広すぎることもあるがな」
「掃除?」
「それもある」
ミーシャが少し笑った。
「もっと小さい方がよかった?」
「分からん。ここと実家のほかは、長く暮らしたことがない」
「そっか」
ミーシャは深掘りをしなかった。
箒はその横顔を見た。
この家へ来て彼女は何度も足を止めた。柱を見、器を見、今は庭を見ている。
自分ではこうはならない。日用品に対しては実用性ばかり気になる。ああ、柱に傷痕がある。ああ、この食器は食洗機が使えない。ああ、また庭に落ち葉が溜まっている。
目に映るものすべてに美を見出す感性は、まだ備わっていなかった。
「また、昼間にも見せて」
「まだ見足りないのか」
「夜と違うだろうからね」
ミーシャの返事は真面目だった。
箒は小さく息を吐いた。
好奇心のまま動き、呼ばれれば「あと少し」と粘る。けれど普段は周囲の様子を微細に観察している。
どこまで世話を焼いてよいものか判断が難しい。
……妹がいれば、こんな感じなのだろうか。
ふと考えて、相手も自分と同じ十四歳だったことを思い直した。
教室では、むしろミーシャに言い返せなくなることの方が多い。
「ほら、そろそろ戻れ。茶も冷める」
「あと、少しだけ」
「さっきも聞いたぞ」
ミーシャの黒い目がこちらを見た。
箒は立ち上がり、座ったままの少女へ手を差し出した。
「続きは昼間だ」
少し間があって、ミーシャがその手を取った。
「分かった。楽しみにしてる」
居間へ戻ると同じ部屋がより温かく感じられた。
箒は戸を閉め、冷めかけた茶を淹れ直した。ミーシャは重箱の蓋を取り、手際よく二日分に取り分けていった。
冷蔵庫には十分な余裕がある。大皿二枚に重箱をすんなり入れられた。
箒は「蕎麦の支度をするか」と言った。大晦日の年越し蕎麦である。
ミーシャはすぐに振り返った。食欲と好奇心の両方を刺激されたようだ。
「具は何かな。学食だとコロッケやかき揚げが人気と聞いたよ」
「私はかけ蕎麦だ。かまぼこと揚げ玉、あとは刻みネギだな」
「シンプルだけど素敵だね。出汁の味をしっかり楽しめる」
いよいよアメリカ人の発言に聞こえない。つい面白くて箒の口元が緩んだ。気づいたミーシャは不思議そうに見つめ返す。そんな様子は黒猫のようでますます笑いを誘う。
「どうかした?」
「いや、すまん。思い出し笑いだ」
「そう。それじゃあ早速作ろう。もう数時間で年が明けるよ」
落ち着きながらも浮き足立つ。
矛盾を器用に両立させながらミーシャは台所へ向かう。
急かされた箒は「蕎麦を一からから作るつもりか」と苦笑した。
年越し蕎麦はするりと丼から消えた。
かまぼこもネギも事前に用意していた。おかげで片づけもすぐに終わり、二人は大晦日の特番もそこそこに座卓を囲んでいる。
時計は十一時に近づいていた。
冷蔵庫の瓶は、まだ開けていない。二つのグラスも、座卓の端で待っている。
「年が明けたら何かしたいことはあるか?」
箒が尋ねると、ミーシャは箸を置いた。
「初詣には行ってみたい。町の神社へ行くんだよね」
「六壁神社だな。あそこは、街の外れだったかな」
「箒も一緒に来てくれる?」
「ああ。土地勘はないが、地図アプリがある。迷うことはあるまい」
そう答えるとミーシャは頷いた。
「縁日の出店も気になっていたんだ」
箒は、向かいの座布団を見た。
客を迎えるために、畳の目へ合わせておいたものだった。今はミーシャが少し斜めに座り、端がずれている。
直す必要は感じなかった。
「それまでは何をする」
「食べて、話して、年が変わるのを待つ」
「誘ったときと同じだな」
「まだ年は変わってないからね」
箒は小さく笑い、手で剥いたみかんを一房食べた。
廊下の向こうで、風に押された建具が鳴った。
いつもなら夜の静けさを意識しながら床についている。
今夜は、ミーシャがどこから鳴った音だろうと周囲を見渡す。
箒は戸の方を示し、明るく返ってきた声を聞いた。
新年まで、残り一時間。
箒が次に時計を見るまでには、少し間があった。