ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
「やば……気づいたらもうこんな時間、ま、いっか」
いつものようにショート動画見続けていた。
気づいたら朝陽が上り始めていて、スズメがちゅんちゅんと鳴き出していた。
「寝よ……いやでも、もうちょっと動画見れるな……」
そしてベッドで横になりながら、動画を見ていたら――寝落ちした。
◆ ◆ ◆
『起きて……起きてください』
「んにゃ……うるさいなあ」
『う、うるさいなあ? め、女神に向かって? お、起きろって言ってるんです!」
脳内に直接響くバカでかい声で私は目覚めた。
目の前にいたのはギリシャ彫刻のような真っ白の体に、整い過ぎた女の顔。
白いロングドレスに、金色の装飾品を纏っている。
ソシャゲのSRくらいに出てきそうな女神キャラだ。
『ソ、ソシャゲのSRキャラ……? せめてそこはSSRとかURにしてくださいよ!』
「……思考盗聴?」
『当然です。わたくしは女神なので』
「マジか……」
このパターンはアレか。
異世界もののアニメで見たことあるような。二倍速だからあんまり内容は覚えてないけど……。
「つまり異世界転生? ってやつですか」
『いいえ、貴女は亡くなってはいません。厳密には異世界召喚です』
そこ気にしなくてもいいでしょ。
でも、どちらかと言えば転生の方がよかったな。
そしたら顔ガチャやり直せて、美人になれるかもしれないし。
『しょ、性根が……』
女神さまは引いていた。
清廉潔白じゃないといけないんか、ワレェ!
「それで女神さまは何をくれるんです? 何かあるんでしょう? 特典」
『貰えて平然のように……人選間違えちゃった』
女神さまはため息を吐いた。
「別に悪事はしたことないし……それでいいじゃん!」
『でも、貴女は聖女として、これから生きていくことになるので』
「おおっ! 聖女! 悪役令嬢とかじゃなくて良かった~!」
流石に断罪されるとか、悪者にされるとかは嫌だ。
ドーパミン出ないどころか、鬱になってしまいそうだし。
「で、なんかやっぱりあるんですよね? 特典!」
聖女が具体的に何するかよくわかってないが、流石に何の力もなしで異世界に放りこまれたりはしないだろう。女神さまは良い人そうだし。
『特典は向こうに着けば自ずと分かります。ただ、それ以外に何かあれば、一つに限り願いを叶えましょう』
やっぱり女神さまは慈悲深いと相場が決まっている。
ただ、願いか。
お金持ちになる当たりは定番だろうけど、他はあんまり思いつかないな。
「女神様、こういうとき、他の人って何を願うんです?」
『……実はわたくしも異世界召喚というのは初めてでして、よく分からないのですけど、家族に手紙を書き記すとかはどうですか?』
確かに家族かあ……。
ママのご飯、健康志向で味薄いけどいつも色々やってくれて感謝してる。
パパは加齢臭キツイけど、大抵お願いすれば何でも買ってくれるし優しい。
弟はうるさいけど、あの子がいなかったら男の子の遊びに興味も持たなかったし。
「女神様、ちょっと待ってもらっていいですか?」
私はポケットに入っていたスマホを取り出した。
電波は入っている。
女神さまがSSR、URとか言っている時点でソシャゲをしているのは分かっていたから、ここも圏内だと言うのは何となく分かっていた。
いつもの癖で動画アプリを開こうして……ちょっと待ったそうじゃない。
メッセージアプリを開く。
ここで、家族や友人に向けて別れのメッセージを書くのもいいけど。
「女神様、異世界でこのスマホが使えるようにできます? それも半永久的に」
『できますよ。なるほど――そうやっていつでも地球の皆さんと連絡が取れるようにするわけですね』
「そういうことです」
そうすればママやパパ、弟に友人も寂しがらないだろう。
……それでも寂しいか。
女神さまが近寄って来た。
そして私が持っているスマホに手をかざした。
『これでこちらの世界でもスマホを使用することができます。女神回線なので、データ無制限、OSも無限にアップデートできます。新規アプリのダウンロードは、ちょっと難しいかもしれませんが』
「ありがとうございます!」
十分すぎる。
てか、何なんだ女神回線って。
女神様だし、それくらいはできるってことにしておこう。
『ではわたくしの世界での活躍を願っています。すぐにまた会うことになるでしょうが――頑張ってくださいね』
「頑張るのはちょっと……」
『そこは頑張るって言ってくださいよ!』
そして、私は異世界に飛ばされることになった。
◆ ◆ ◆
「よくぞ、お越しいただきました異世界の聖女よ」
次に目を開けたら、そこは巨大な陣の中だった。
目の前の王冠っぽいものを被った人を始め、私を見ている多くの人たちを無視して周りを見渡す。
体育館並に広い空間。
しかし材質は日本では余り見たことのないような石造りだ。
ガラスが沢山あり、光を取り入れる構造になっている。一番前には祭壇のようなものが見える。パッと見る限り教会だ。
「私はこのソレイユ神聖国の教皇を務めさせていただいているフェロー・アンジェルと申します。貴方のお名前はアリス・フゼと伺っております」
「そうです。布瀬有栖と言います。えっと……」
「今、アリス様を召喚した理由を説明いたします」
やっぱり召喚なのか。
困ってることを解決するのかな? 聖女として……めんど、ちょっとだけテンションが上がらなくもないけど。
「この世界は現在、邪神によって世界が荒らされています。邪神の力に対抗できるのは女神様の力をお借りできる聖女のみであり――」
あ、やばい。
これは話が長くなりそうな予感。
ドパガキの私には、キツイ。
折角スマホを使えるようにしたんだし、弄りたい。
ガマン、ガマン、ガマン……!
「――というわけなのです」
「わ、分かりました」
教皇の話は十分くらい続いた。
正直、全然頭に入っていなかった。
「そこでまずは、貴女の聖女としての力を確かめたいと思います」
教皇の言葉と共に、横にあった出入り口から女の子が入って来た。
車椅子に乗っていて、見るからに体調が悪そうだった。
「彼女は不治の病を患っています。しかし、聖女の祈りがあれば、全ての病は治すことが可能です。さあ、聖女の力をお見せください」
見せろと言われても……。
まあ、女神さまが力は現地につけば分かると言っていたし。
「えっと、祈れば良いんですか?」
「その通りです」
「具体的には……どうやって?」
嫌な予感がする。
現代人だし、祈るという作業がいまいちよく分かっていないのもあるけど。
「その子の病を治すことを願い続ければ、女神さまがお応えしてくれるはずです」
「ど、どれくらい時間祈るんです?」
「聖女によって異なりますが……数分から十分程度でしょうか」
は?
祈りを十分間も?
ドパガキがそんな長い時間、祈れるわけないでしょうが!
こちとら集中力なんて皆無なんだぞ!
ただ、断れる状況でもなく。
「わ、わかりました。やってみます」
私は体調が悪そうな女の子に近づいた。
見るからに顔色が悪く、呼吸が浅い。
なのに、私を見て――目をキラキラさせていた。
「君は……お姉ちゃんが必ず助けるから」
「せ、聖女のお姉ちゃん」
私はその子の手を取った。
栄養を病魔に奪われているのか、骨ばった手。
如何に私がドーパミン中毒のガキと言えども、共感する能力はある。
この子を助けてあげたい……その力が私にあるのなら。
まあ、勿論……異世界から召喚されて聖女の力無し→追放とかなっても困る。折角スマホが使えるのだ、適度に聖女の仕事をしてショート動画見て暮らしたい。
「いきます!」
祈り始める言葉として「いきます」が正しいのかは分からないけど。
目を瞑る。
この女の子を病気から助ける。
病気から助ける。
完全に完治させる。
明日には元気に野原を駆け回ってもらう。
…………す、スマホを弄りたい。
ツイッターで四コマくらいで面白い漫画を更新してくれる人たちがいっぱいいるんだよ! それ見て真顔でいいね押したい。
いやいやいや、私はこの女の子を救うって決めたんだ。
集中しなきゃ……。
女の子の病気が完治しますように。
治ったら一緒にスポーツとかやりたいな……バドミントンとか。
あ、そういえば昨日スポーツの神業ショートを見たな……。
違う違う違う!
集中力が足りない!
注意力散漫!
チラッ。
周りにバレないように少しだけ目を開ける。
相変わらず女の子顔色は悪いままだ。
い、祈らないと。
この子の命は私にかかっているんだ!
ドパガキ卒業! ドパガキ卒業したい!
別に今までそんなに不便は感じなかったけど、自分のクソみたいな習性が嫌になってくる。女神様? 私にはなんか力があるんじゃなかったんですか!
女神さまを他責してしょうがない!
ああああああああ! だめだ、集中できない!
なんで、こんな私を聖女として召喚したんだよ!
これもまた、他責じゃん!
「落ち着け……落ち着け」
ほぼ発声しないで唱える。
お経でも覚えていたら、こういうときに精神集中できるのかな……。
お経……。
そういえば、昔四十度越えの熱を出したときがあったような。
小学校入る前のことで、ほぼ覚えていないが。
ママがベッドの脇で、何か唱えていたような気がする。
宗教に手を出したとかではないけど、神にも縋りたい気分だったのだろう。それだけ、その時のママは私を思ってくれていたわけで。
真剣に祈る。
ただ、この子を助けるために必死に。
押し寄せてくる誘惑。
スマホ弄りたい……別のことを考えたい。
私では、ママのように本気の祈りをすることはできない。
でも、己と向き合って、切に。
「……名前を教えてくれないかな?」
「エール……エール・ジュラーレ、です」
名前だって知らないのに、本気で祈れるわけもない。
どうしようもないドパガキだけど、それでもエールちゃんは本気で助けたい。
助けさせて欲しい……!
気づいたら、あたりに真っ白な光が満ち溢れた。
◆ ◆ ◆
同時に私の意識が体から飛んでいくような感覚があった。
これが幽体離脱ですか?
『いいえ、幽体離脱ではありませんよ。布瀬有栖さん』
目の前にはいつの間にか女神さまが立っていた。
私にSRと言われたのが癪だったのか、金色の装飾品を増やしてきた。
逆に成金みたいで、カッコ悪い。
『な、成金!? これは全て女神の力で作り出したのに……!』
女神さまはショックを受けていた。
ただセンスがないことは、理解した方がいいと思う。
『ひ、ヒドい!!』
「まあ、成金とかはどうでもいいんですけど、なんで私ここに戻って来てるんです? もしかして家に帰されるとか」
流石にまだホームシックにはなっていない。
帰れるもんなら帰りたい気もするが、まだ判断がつかない。
どれくらい祈ったか……うーん、一時間くらい祈ってそうだが、実際のところは分からない。くらいしか経っていないし。
『そういうわけではありませんよ。この場所に辿り着けたということは、あなたの祈りが女神に届いたということ。つまり願いが成就したということです』
「……あんまり難しい言葉を使われると、ちょっと」
『そんな難しいですかね!?』
女神さまはうーんと唸ってから、説明をし直した。
『要するにエール・ジュラーレの病は完治したということです。よくやりましたね、異世界から召喚されし聖女――布瀬有栖」
「よ、よかった~!」
これでエールちゃんが元気になったのか。
そんな喜びと同時に、これで祈らなくて済むという安心感。
『聖女としての祈りが何か奇跡を起こす度、あなたの魂はここに導かれます』
「正直、もう二度と祈りたくないんですけど……余りにも苦痛です」
『ふふっ……それでもあなたはまた祈ることになりますよ。それが聖女というものです』
女神さまは微笑んでいた。
私は思いっきり嫌な顔をしておいた。
◆ ◆ ◆
目を開ける。
すると、車椅子に座っていた少女が立ち上がっていた。血色も良く、深く息を吸い込むことができている。
どうやら本当にエールちゃんの病は治ったらしい。
「聖女のお姉ちゃん。ありがとう!」
そんな少女から感謝されて、頬の緩みが止まらなかった。
承認欲求が上がる! あと、助けられて嬉しい!
「……ところなんだけど、私どれくらい祈ってた?」
私はエールちゃんに耳打ちした。
あの苦痛な時間がどれくらいだったのか、ちゃんと知りたい。
「うーん……三分くらい?」
「え?」
あの無限にも思えるような祈りがたったの三分?
聖女は、もしかしてこれを日常的にこなしたりする……?
うん、無理!
聖女生活やっていける気がしない!
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