ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
朝早いとかいう次元じゃない。
まだ太陽(?)すら登ってない。
事態が急を要するのは分かっているので仕方ない。
私は何とか欠伸をこらえて、大聖堂に出勤した。
「おはようございます! クールマ……アリスさん!」
「お、おはよう……」
朝から元気だなメテオールちゃんは……私は眠い。
「ん……?」
だが、よく見るとまぶたには隈が出来ている。
それにちょっと震えているようにも見えるのだ。
「メテオールちゃん……もしかして昨日、寝れなかった?」
「へ……? は、はい。大きな仕事の前は緊張してしまって」
分かる。
私もこの前の、土地浄化案件のときは上手く寝付けなかった。
そもそもお前はいつもスマホ見ながら寝落ちだろうが! と言われれば、それまでなのだが、本当に緊張していると寝落ちも難しい。
これから大仕事だし、着いたら休んでいいよ。みたいなことを言えたらいいのだが、私に大層な力なんてない。ただのドパガキだ。
「大丈夫だよ。メテオールちゃん、これまでだってどうにかして来たんでしょ?」
「一応は……」
「なら大丈夫! 自信持って!」
「く、クールマンさん……!」
メテオールちゃんの私への呼び名が変わった。
冗談を言うくらいの元気が出て来たということだろう……良かった。
そんな会話を交わしていると、後ろの扉から二人の聖女がやってきた。
一人はこの間話したことの聖女マグノリアさん。
ピンク色のフワフワした髪と穏やかな笑みからあふれ出るママみを感じる。朝からでもそれは変わらない。
もう一人は知らない聖女だった。
黒髪を後ろでまとめているだけで洒落っ気を一切感じない。
いや、まあ聖職者だしそれは問題ないと思うんだが。
なぜかミニスカ。手には金属光沢のある指輪をめちゃくちゃしてるし……なんかチグハグな印象を受ける。
「お久しぶりですね……メテオールさん、アリスさん」
「マグノリアさん、お久しぶりです!」
「おはようございます」
一方でもう一人のミニスカ聖女は私のことをじろじろと見つめている。
な、なんだ……?
そう思ったら、手につけていた指輪を全て外し出した。
そして――地面を蹴り、私に殴りかかってきた。
殴られるなんて思ってもおらず、そのまま吹っ飛ばされる。
床に投げ出されたのは痛くないが、頬がジンジンする。
え、痛い!
なにこの人……怖い! 圧倒的不審者じゃん!
「ちょっと! フェルトさん、新しい聖女見るたびに殴りかかるの止めてくださいって言ってますよね?」
そのミニスカ聖女――フェルトに怒ったのはマグノリアさんだった。
だが彼女はその注意を気にも留めていない。それどころか、フッと笑った。
「お前なんつったけ……異世界の女。中々やるじゃねえか」
「……?」
中々やらないから、殴られて吹っ飛ばされているのでは?
「殴って確信を得たが、お前……自分の身体を祈りで強化したクチだろ?」
「ま、まあそうですけど……」
素直に答えないとまた殴ってきそうだったので、認めた。
そしたら、この聖女は更に楽しそうに口角を上げた。
「良いじゃねえか! お前は戦う聖女になりてえってことだろ? 仕事から帰ってきたら稽古つけてやるよ」
このフェルトとかいう聖女のことが少し分かってきた気がする。
いわゆる戦闘狂というやつだ。そうに違いない。
「お断りします」
「ど、どうしてだ!?」
フェルトさんは私の言葉に肩を落としていた。
そんなに落ち込む? だったら急に殴られた私の気持ちになってくれよ!
「……暇な時もどうしたらこの世界の役に立てるか考えているので」
「この偽善者が! だが、俺は諦めねえからな!」
はい偽善者――それ以下です。
休日は家で、ゴロゴロしながらスマホ見てま~す!
ただ一方で私が毅然とした態度でフェルトさんからの意味不明な勧誘を断ったことに対して、メテオールちゃんが煌めくように見つめている。
う、嘘だから心が痛い!
「さて、そろそろ出発といたしましょう。騎士たちは先に送ってありますので、危険はないと思いますが……お気をつけて」
「はい!」「はい」
私はマグノリアさんに触れられる。
現地の問題を解決するのも重要だけど、ここは。
「お土産、何がいいですか?」
「……そういうのは大丈夫ですよ」
「了解です!」
本人が要らないと言うのに買ってきても仕方ない。
フェルトさんに何か買って帰ると勘違いされそうだし、これで圧はなくなった。
「アリスさん、聖女としての振る舞いを期待していますよ」
「分かりました!」
聖女としての振る舞いがよく分からないが、とりあえず返事だ。
詳しく聞いている時間も無いし。
ただ、土地の浄化のときは教皇様にも私のやり方は褒めてもらえたし、騎士たちからも評判と聞く。
あんな感じで好きにやっていいとのことだろう。
マグノリアさんも、そう言ってくれているに違いない。
「それでは――行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
マグノリアさんの祈りが届き、私は交易都市へと転移した。
目を開けるとそこにいたのは――いかにも権力者といった太ったおじさんだった。
「待っていましたよ! 聖女様!」
この人は元気そうで何より!
みんながみんな瘴気病ってわけじゃないのか!