ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
「初めまして、私は聖女の布瀬有栖と申します」
「私はメテオール・ジャストです。同じく聖女です」
挨拶は大事だ。
学生時代はめんどくさ! と思っていたが、これがあるのとないのじゃ印象が違って見える。ちゃんと挨拶しよう!
「私はこの交易都市サバサの領主を務めておりますアミラル・リューゼと申します。自己紹介はこのくらいにして、本題に入りましょう」
歓迎ムードという感じでもない。
今更気づいたが、周りにいるのは先に派遣された騎士たちだけだ。
この領主さんの使用人みたいな人たちは、どこに行ったのか?
「聖女様たちには、瘴気病に罹った者たちを救っていただきたいのです」
「勿論です」「が、頑張ります!」
私は聖女っぽく澄ました顔で答える。
メテオールちゃんはというと、気合が入りすぎているように見えた。
「それで、患者さんたちはどこへ?」
「今からご案内いたします。こちらへ」
領主さんが案内してくれたのは館の一室。
広間のような空間には、沢山の人たちがいた。
壁に寄りかかっている者もいれば、床に寝かされている者、なんとか立っている人もいる。ぱっと見るだけでは分からないが、元気さに差がありそうだ。
「まずは、我が使用人たちを治していただきたいのです」
「わかり――」
メテオールちゃんがすぐに祈りを始めようとするが、私は――。
「もっと重傷な人たちがいるなら、先にそちらから助けた方がいいのではないですか?」
これって私利私欲では? と疑ってかかってしまった。
私は聖女らしい聖女ではないが、この人の言うことに従う理由もない。貢ぎ物の類は禁止されている以上、領主の使用人さんたちを優先する意義がないのだ。
「確かにそういう考え方もあるかもしれませんが……私の下で働く者たちを回復させて、街の復興を先導させたいのです」
なるほど……それは妙案だ。
確かに街の復興の指揮を取れるものを増やした方がいいのは分かる。
「申し訳ありません。リューゼさんの言う通りです」
「分かっていただけて何よりです。それではよろしくお願いいたします!」
そう言って領主さんは広間から出ていった。
おそらく他にやることもあるのだろう。
「じゃあメテオールちゃん、頑張ろうか!」
「はい!」
私はとりあえず近くにいた男性に近づいて……。
瘴気病よ、治れ!
「……アリスさん、アリスさん!」
「う、うわっ、何? メテオールちゃん?」
祈っている最中にメテオールちゃんが話しかけてきた。
集中していたせいか、思わずビックリしてしまう。
「ここは私が受け持ちます。アリスさんは、他のやりたいことがあるのではないですか?」
「他?」
本気で何のことか分からずに首を傾げてしまう。
そんな私のことを見てメテオールちゃんは頬をふくませていた。
「もう、からかわないでください! 私には分かってますから! アリスさんは、やりたいようにやってください」
「……わ、わかった。行ってくるよ」
「ご武運を!」
どうしてメテオールちゃんが仕事を引き受けてくれたのかは分からないが、私は広間から出ることにした。
すると、廊下にいたのは。
「あ! アルメットにシュテルネちゃん!」
「この前ぶりです……聖女アリス様。ふぁあ」
シュテルネちゃんは見るからに退屈そうだった。
壁に寄りかかっているし。
一方のアルメットは走ってこちらに寄って来た。
「アリス様、遅れて参上しました。何かご不便などはありませんか?」
「何か普段とキャラ違くない……?」
「外行きモードです」
「堂々と言うなよ……」
それはさておき、私の右腕と頼れる騎士たちもいる。
メテオールちゃんに何かを期待されているようだが、何をしようか。
本当なら何もしたくないが、そういうわけにもいかない。
「というかアリス様はここで何をしてるんですか?」
「う~ん、何してるんだろね? でも何かしないと……」
メテオールちゃんの期待に応えたてあげたいような気もするが、どうしたものか?
ただ教皇様や騎士たちから期待されている方向性から言えば、私は頭を使うことを望まれているはず。メテオールちゃんもそういう考えなのかは知らんが。
「う~ん、気になることはあるし、それから潰してみようかな? アルメット、シュテルネちゃん、行くよ!」
「どこへ……?」
「領主さんのところ! ちょっと聞きたいことがあってさ」
私はさきほど召喚された領主の部屋に向かうことに。
扉をノックして領主さんの執務室に入った。
彼は書類と向き合っていた。傍には誰もおらず、一人で。
「聖女アリス・フゼ様、どうかいたしましたか?」
「ちょっとお聞きしたいことがありましてえ……」
シュテルネちゃんが何故か、剣の柄に手をかけていた。
カチコミに来たわけじゃないから!
「わ、私、悪いことはなんにも……!」
「分かってます。シュテルネちゃん! ストップ!」
「ご、ごめんなさい! つい!」
つい、じゃなって!
この子が戦闘狂というか、何かを斬りたい癖があるのは何となく理解してる。
だけど、今回のお仕事が上手くいけばそんな機会は訪れない。というか、来ないで欲しい。流石に罪悪感に負ける。
「それでお聞きしたいことなんですが……」
「ひっ! は、はい! なんでも答えます!」
シュテルネちゃんのせいで領主さんがビビりまくちゃってるじゃん!
でも、まあ……そんなに悪くないか? いや悪いわ。
ただ素直には答えてくれるだろう。
「領主さ――リューゼさん。他の使用人たちはどこにいるんですか?」
ずっと気になっていたことの一つはこれだ。
この館には人の気配が全然ない。
領主だと言うのと、リューゼさんに指示を仰ぎに来るような人もいなければ秘書のような人もいない。何かある。
「現状、私の元で働く者たちのほぼ全てが瘴気病に感染しています」
「じゃ、じゃあ仕事は全てリューゼさんが?」
「今は何とか自分一人で回しています。なので、一刻も早く人手が欲しいため、聖女様には職員たちの治療をお願いした次第です」
うえ~~ヤバッ!
瘴気がこの街を襲って一日と半日ほどだが、その間はこの人と少ない人員だけで?
大変にほどがある。さっきは――。
「変に疑ってしまい申し訳ありません!」
「い、いえ……重症で苦しんでいる民たちも多いのは重々承知しております。聖女アリス・フゼ様はそちらを優先したかったと考えるのも分かります」
ん? 私そんなこと言ったか?
確かに重症な人から優先すべきではみたいなことは言ったけど……まるで、私が聖女の鑑のようなことを言ってるみたいだ。勘違いされているが、悪い気はしない。
一旦そんな承認欲求でワクワクはしないで。
今は、仕事だ。
「瘴気病に罹っている人といない人ってなにか差があるんですか? 見たところリューゼさんは、元気なようですし」
目の前のリューゼさんは元気なのだ。
ほぼ全ての職員が瘴気病に罹患している……逆に少数は病気になっていない。
その違いが、私を祈りから遠ざけてくれるヒントになるかもしれない。
「いえ、私も瘴気病には罹りました」
「ん? どういう……?」
領主さまは机の中から何かを取り出した。
小さい香水かなんか入っていそうな瓶だった。
「これです」
「これとは……?」
瘴気に効く香水があるの? じゃあもう皆それをつけておけよ!
そんなことを思っていると、アルメットが口を耳元にあててきた。
「アリス様、あれは恐らくポーションです」
「ポーション?」
「平たく言えば特殊な効能がある薬です。異世界にはありませんか?」
「ないけど……聞いたことはある」
ポーション。
回復ポーションみたいな感じでHPを回復させるアレか。
「な、なるほど……ポーションですか。それで瘴気病を治したと」
「そうです。でもこれはただのポーションではありません、エリクサーです」
エリクサー……聞いたことはある。
何ができるのかはよく知らないが。
私が反応に悩んでいると再びアルメットが。
「アリス様、エリクサーは最上位のポーションです。ありとあらゆる病気を治す効能があります」
すっげー! 聖女いらないじゃん!
そういうのあるなら早く教えてくれよ!
「で、それを飲んだから瘴気病から回復した……ということでいいですか?」
「その通りです」
若干領主さまは顔をしかめていた。
わかってるよ! 聖女のくせに、この世界のこと知らない私が悪いのは!
でも! ショート動画で解説してくれないのが悪い!
出てくればちゃんと常識くらいは身に着けますよ!
やばい……また的外れな質問が飛び出そう。
だが仕方なし。恥も外聞も、祈り時間短縮のためならいくらでも!
「ど、ど、どど、どうしてそのエリクサーを大量に保管できなかったのですか?」
そのエリクサーあれば、私らいらないじゃん!
そう言いたい気持ちももちろんあるが、保有できない理由があるはず。
するとリューゼさんが答えるよりも早く。
「アリス様。エリクサーは滅茶苦茶高いのです。どれくらいの値段がするかと言えば、アリス様の一か月の給料くらいはします」
「……そもそも私の給料ってそんなに高いの?」
「逆に聞きますけど、この国で三番目に地位が高い聖女という役職の給料が安いとでも思っているんですか?」
「…………」
そりゃそうだ。
ただ、現状お金は余っているので何も考えていなかった。
「私共の財産ではエリクサーを数本程度しか保有することはできなかったのです。それ故、治療したのは私や有能な者だけに限ります」
「わ、わかりました……」
常識みたいな話を丁寧に話されると恥ずかしいな!
おい! アルメットにやにやしてるんじゃない!
でも、大体聞きたいことは聞けた。あとは――。
「リューゼさん。ポーション製造してる人ってこの街にいますか?」
「いますけど……」
「ちょっとその人たちにお話を聞きに行きたいんですけど、場所を教えていただけませんか?」
「分かりました」
リューゼさんは首を傾げながらもポーション製造業者を教えてくれた。
大体、頭の中ではやりたいことは出揃ってきた。
「ありがとうございます! それでは失礼します!」
「は、はい! また何かあれば!」
廊下に出るやいなや、アルメットが話しかけてくる。
「それでアリス様、どうするつもりなんです?」
「できるかは分からないけど、エリクサー量産する!」
エリクサーを街の住民分用意できれば、本当の意味で祈らなくてもいいのだ。
だったら、それを目指すしかないでしょ!