ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
私はアルメットとシュテルネちゃんを連れて外に出ようとした。
「アリス様? ほかの騎士は連れてく? 個人的はいらないけど」
一応という感じで、シュテルネちゃんがかったるそうに声をあげた。
確かに他の騎士……シラドルさんたちの姿も見えた。
「……シュテルネさんの言う通り供を沢山連れるのは愚策だと私も思います」
「それは分かった」
「あと、変装することをお勧めします」
「なんで?」
折角聖女の仕事で来たのだ、正装はしたほうがいいんじゃないか?
ただ単に着替えるのがかったるいだけなんだけどさ!
「いいから着替えてください!」
「あわっ!」
アルメットに変装用の服を投げ渡されたので仕方なく着替えた。
なんで今回も男装なんだよ!
「行きましょう、我が君」
「我が君呼びは止めて、なんだかむずかゆい」
「じゃあ、坊ちゃん?」
「両方嫌だ……まあ何でもいいや」
「じゃあ、ドパガキ」
なんかどれも微妙に蔑称っぽいのは何?
とは思いつつも、適切に呼んで欲しい言葉が思いつかない。
「……真面目な話ですけど、外に出る際は少々お覚悟ください」
「……は、はあ」
なんだろう、治安が悪化してスリが横行してるとか?
それに関してはシュテルネちゃんが何とかしてくれるはずだし。心配ないと思うんだが……。
というわけで、私たちは裏口から外に出ることにした。
「……え?」
私は出入り口から見える光景に声を失った。
鍵を閉められた門の先にいたのは、多くの住民たち。
だが、体の一部が変化している。
人間ではなく魔物のような手足、頭には角が生えているような人もいる。
そんな彼らが私たちを見て。
「た、助けてください……」
「私、魔物になって死にたくない!」
「も、もう体が動かないんだ……今にも乗っ取られそうで」
「魔物になった息子を殺したんだけど……俺はどうしたらいいんだ!」
門越しに助けてくれと叫んでいる。
ちょっと状況を舐めていた。
体が変化するほどの瘴気の力、それに何もしなければ必ず死んでしまうという未来。しかも魔物になって。
それがどれだけの不安を呼び起こしているのか。
思わず立ちすくんで、私は膝を――。
「ドパガキ、行きますよ」
だが、アルメットが私の手を引っ張った。
それにシュテルネちゃんが剣を抜いた。
「早く門からどかないと斬っちゃいますよ? さあ、どけ!」
本当に斬ってかかりそうな勢いに群衆は退いていった。
小さくシュテルネちゃんが舌打ちした。ええ……。
「ど、ドパガキって――」
「アリス様、貴女らしくないですよ。今、祈ろうとしてましたよね?」
アルメットは強い目で私を見ている。
そんな真面目で圧がある彼女に嘘をつける余裕など、今の私にはなく。
「は、はい……」
素直に認めてしまった。
私はドパガキで性根が腐っている自覚はある。
ただ、だとしても目の前で苦しんでいる人々を放っておけない。
私は目の前に人が倒れていて救急車を呼ばないという選択が取れるようにはできていない。ある意味で弱いのだ。
ましてや自分には何でも治癒ができる力があるのに。
「で、でも私が助けないと……」
この人たちは死んでしまう。苦しみ続けることになってしまう。
「アリス様……あなたは普通の聖女を目指しているんですか?」
「……い、いや」
「そうですよね。あなたはそんなものを目指していない」
アルメットは強く私の手を引っ張った。
前へ進めというように。
「自信を持てなんて言いません。というか普段のアリス様なら自信たっぷりでしょうし……だから、ブレないでください。その方が私としては嬉しいです」
アルメットの言葉にハッとした。
そうだ、私は今何をやろうとしていた。
普通の聖女のように、祈って治そうとした。それは決して悪いことじゃない、寧ろ良いことなのだ。だが――。
「ブレてた……」
「いや、ブレてたというかショックを受けてたんでしょう?」
「自分で言っておきながら、そこツッコむんだ!?」
ただ、アルメットとの会話で少し落ち着いた。
聖女らしくないほうが彼女は嬉しいらしい。
まあ、私は他人の言うことに簡単に惑わされたりするような女ではないが。
今は――。
「祈りかったるいー、やりたくない!」
「それでこそ、アリス様です」
私は私らしく。
どうせ、あの場で一人一人助けるために祈っても集中は続かなかった。
「あと、ああいう場で祈るのはマジで止めた方がいいです」
「理由は?」
「評判を聞いた民たちが列を作るくらいならマシですが、アリス様を巡って暴動が起きかねません」
た、確かに。
それくらいみんな不安におびえている。
「なので、領主様のところの職員たちが復活するまで民を救うのは止めておいた方がいいですよ。だから、ちゃんと自制してくださいね」
「う、うん……」
自制、この世で一番嫌いな言葉だ。
ドパガキたる私にできると思うか?
「とりあえず、シュテルネさんが人を追い払ってくれたのでとっとと行きましょう」
「そうだね」
私たちは門から外に出て、ポーション製造業者のところを目指す。
それが普通の聖女じゃない、私なりにできることのはず。たぶん!
街中に出ると人影がない。
ほとんどの住民は家の中で病魔に耐えているのだろうか。
「アルメット、そういえば瘴気病ってどういう風に感染するの?」
「瘴気を直に浴びるとですかね……」
「直ってことは、家の中にいれば感染を防げる?」
「それが、小さい隙間からでも入っていくので……あんまり意味はないです」
じゃあ瘴気に街が襲われた時点で、その街は壊滅……?
無法すぎるだろ。
「因みに、防ぐ手段がないわけではないです」
「おおっ! でも、なんでこのサバサはその防衛手段を取ってないの?」
エリクサーを十本程度持っているくらいだし、金はあるはず。
もしかしてお金じゃどうにもならないことなのかな?
「瘴気を防ぐ方法というのは――聖女が張れる結界のみです」
「なるほど?」
「一か月ほどで壊れますし、そもそも張るのに四人の聖女が必要なので、中々難しいんですよ」
確かこの世界の聖女は十数人くらいと聞いた。
地方都市全てに結界を張るのは現実的じゃない。
「ままならないねえ……」
「そうですね……」
教皇様たちが異世界召喚なんて手段にも頼るわけだ。
そもそも絶対的な聖女の数が足りてない感じはある。
そのくせ最初に召喚されてのが、聖女敵性ゼロの女ですよ?
「あ、領主様に紹介していただいたポーション店、あそこじゃないですか?」
「……営業してる?」
なんでか普通に営業してる。
店が閉まっているという感じではない。
住民全員が瘴気病にやられていると聞いてたけど、何かあるのか?
「いらっしゃい」
店に入ると普通に店主らしきおっちゃんが歓迎してくれた。
なんかあんまり病気に罹っているようには見えないが。
「どうせあんたも回復ポーションが欲しいクチだろ?」
「いや、回復ポーションじゃなくてエリクサーについて知りたいんですけど……」
「そもそもウチはエリクサー置いてないんだ。それにどうせお前にゃ買えねえ」
買えますけど? 一か月分の給料ぶん投げればいけるが?
でも、なんだこのおっちゃん、まるでみんなが回復ポーションを求めているかのような。なんかちょっと引っかかる。
「他のみんなはどうして回復ポーションを買っていくんです?」
「ん? そりゃ瘴気病に効くからだよ」
「え? そうなんですか?」
私はアルメットに目をやると、首を横に振った。
彼女も知らないらしい。となると――。
「本当に効くんですか?」
「そんなのも知らないのか? もしかしておめえ……サバサの住民じゃあねえな」
「所要あって外から」
「この大変な事態に外からねえ……なるほど」
おっちゃんは私とアルメットと、店の外で待機しているシュテルネちゃんを見た。
なんとなく正体がバレたか。
でも、この人は冷静だしそんな問題にもならなそうだ。
「一回見してやるよ」
おっちゃんはカウンターから出て来てくれた。
その手に持っている瓶には何か液体が――多分ポーションなのだろう。
腕まくりをすると、肘には魔物のように黒々とした皮膚が見えた。
思わず唾を飲みこんでしまう。
「よく見てろよ」
おっちゃんはポーションを患部にかけた。
すると、みるみるうちに変形した肘が人間の形へと戻っていった。
「というわけだ――勿論、完治したわけじゃねえがな」
一瞬だけエリクサーも聖女の祈りもいらんじゃん! と思ったが、そういうわけでもなかった。期待させやがって!
「おっと、この分のポーション代はもらうぞ」
「分かっていますよ」
アルエットが銀貨一枚を渡した。
あ、そのポーション、この間食べた肉と同じくらいの値段なんだ。
「で、なんでエリクサーについて知りたいんだ?」
「量産したいから」
実現する気しかないので、真顔で答えた。そしたら――。
「エリクサーを量産!? ガハハハっ! お前、面白いな」
「……結構本気なんですけど!?」
もしかして、そんなに難しい?
おっちゃんはひとしきり笑った後に、何故か肩を組んできた。
「それで、お前、エリクサーの何が知りたい?」
「製造方法」
「せ、製造方法も知らないのに量産!? やっぱ面白ぇな!」
そしてまた笑われた。
今は割と真面目モードだから笑われるとちょっと腹が立つ。
「そう怒るなって。いいぜ、教えてやるよエリクサーの生産方法」
「早くしてください」
「でも、俺にはあんまり説明できなんだよな。なにせ、エリクサーは生産するものじゃねえんだ」
「は?」
「だから怒るなって」
よく分からないがエリクサーって錬金術的な何かで作ってるんじゃないの?
なんか素材をどうこうして、とか?
「エリクサーは神秘の泉って場所から取れる聖水のことなんだよ」
「天然水みたいな?」
「そうだ。その聖水をそのまま使ったものがエリクサー、逆に薄めたものが回復ポーションなんだ」
じゃあ原料は一緒ってこと?
値段の違いはどこから来てるんだろう……。
「んで、回復ポーションの希釈は一万倍だ。エリクサーが高い理由は分かったか?」
「?????」
「もしかしなくてもお前、馬鹿だな……。つまり、価格も一万倍違うんだよ」
エリクサーたっっっっっっっか!
ポーションが千円だとしたら、一千万円ってマジ?