ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
「驚きすぎだろ……」
顔が超引きずってしまった私に店主のおっちゃんはドン引きしている。
でもさあ、庶民感覚からしたら高すぎるって!
「ごほん……情報のご提供ありがとうございます」
「ああ、確かにポーション代は頂いたし、これくらいどうってことはねえよ」
優しい。
私が店員だったら、とっと帰って欲しいと思ってる。
もうちょっと甘えたくなってきたな……いや、父性的なあれではなくね! ご厚意にね!
「名乗るの遅れたんですが、私は聖女の布瀬有栖と言います」
「せ、聖女!? まあ、お偉い方関係だとは思っていたが、まさか聖女とはなあ」
私のような人間性では聖女に見えないってことですか?
いや違うわ、男装してたからだったわ。
「で、どうして今更になって名乗ったんだ?」
店主のおっちゃんはカラっとしてるなあ。
だからこそ信頼ができそうなんだけど。
「ちょっと今からエリクサー作るので、出来を見てもらえませんか?」
「エリクサーを作る?」
「まあ、ちょっと待ってください。あと空の瓶をいただければ」
「あ、ああ。分かったよ」
すぐに空の瓶を渡してくれた。
入れ物があるかないかで、多少祈りの時間も変わってくるはずだし。
「ちょっと店の裏に行かせてもらっていいですかね?」
「構わねえよ。というか、聖女様相手に文句は言わねえ」
おおっ、カッコいい。
私もこれくらい心が広くなりたい。
動画のコメ欄見てイライラしてる私じゃ無理か……?
それはさておき、バックスペースで私は祈る。
エリクサーください!
エリクサーください!
エリクサーください!
まあ、これだけじゃ出てこないか。
それからしばらく見たこともないエリクサーのことを考えていると。
「キタキタ!」
光が空の瓶に集まっていく。
この瞬間だけは脳汁出る。
逆に言えば、そこまで一切の虚無である。それはずっと変わらん!
少し経つとなんかキラキラしたとした透明な液体が瓶の中を満たしていた。
私はそれを持って、店頭に出ていく。
「おっちゃん、これエリクサー?」
「お、おおっ! 本当にできたのか!? この輝きはまさしくエリクサーだ! 効能まで一緒かどうかは試してみないと分からねえけどよ」
試すといってもどうしたらいいのか。
見ず知らずの人に使うわけにもいかないし……アルメットがさっき言ってみたいに大混乱! みたいなことが起きても困るからなあ。
「じゃあ、おっちゃん使いなよ」
「いいのか……? もっとお偉いさんとか金持ちが……」
「いいのいいの! ていうか、おっちゃんそういうキャラじゃないでしょ?」
「あ、ありがとう……!」
おっちゃんの瞼には涙が浮かんでいた。
そこまで!? いや、命がかかってるから当然か……。
「じゃ、じゃあ飲むからな。本当に飲むからな。いいんだな!」
「早くしてください」
「わ、分かった」
おっちゃんは意を決したように一口で飲み込んだ。
なんかヤクルトみたいなサイズ感だなと今更ながらに思った。飲みっぷりもそれっぽいし。
「体中の痛みが消えた……ちょっと裏で確認してきていいか?」
「別にいいけど、何をです?」
「魔物化してるところが治ったどうかをだ」
「私も見たいです!」
「そ、それは止めておけよ……見せられないところとかにも魔物化してるとこがあったからよ」
見せられない……? あっ。
これはセクハラか……まことに失礼しました。
「ご、ごめんなさい」
「いいけどよ……ちょっとは気をつけろよ」
マジで反省してます。
こういうのはちゃんと気をつけないと、聖女がセクハラとか炎上しちゃうって。
少し待っているとおっちゃんが裏から帰って来た。超ニコニコだった。
「な、治ってた! ありがとう、聖女様!」
「いやいや、当然の務めですよ」
定型文である。
この世界に来たばかりの頃、そう言ってくださいとアルメットに教えられた。
「つまり、祈りで生成したエリクサーも本物と同程度の効果を持つってことか……アルメット、生成のために私、どれくらい祈ってた?」
「五分程度ですね……普段の病人を癒す時間と大差ない印象です」
「だよね~」
そう、これでは何も効率化できていない。
病気を治す祈りと、病気を治すための生成物を作る祈りが同じ時間だ。
人相手に祈らなくて良いと言うのはメリットではあるが。
いちいち笑顔を作らなくて済む。
「さて、どうしたものかね~」
今回はマジで緊急だ。
とっととアイデアが浮かばないなら、私も治療に参加するしかない。
エリクサーの生成方法。
回復ポーションの作り方。
そして、この世界の祈りのシステム。
この間の土地浄化案件のことも思い出して……。
「やってみるか……おっちゃん! 回復ポーションを頂戴!」
「あいよ!」
おっちゃんからもらった回復ポーションに向かって祈る。
すると、数十秒で。
「え、エリクサーができた?」
「違うぜ、おっちゃん……これは復元したんだ」
私はそう言ったが、二人は理解できなかったようで。
「復元って言っても、中身は回復ポーションだぞ?」
「そうですよ、アリス様」
ポーション屋のおっちゃんとアルメットが二人とも首を傾げていた。
確かに、私のやり方はどちらかと言えばこじつけのようなものだ。
「いや、復元です。私は、女神さまにこう願ったんです。
このエリクサーを元の状態に戻してください、って」
それでも二人は?を頭上に浮かべていた。
まあ、自分だけが分かってればいいことではあるけど、ここはドヤりたい。
「アルメットはたばこを復元した話を覚えてる?」
「覚えてますけど――あっ!」
ようやくそこで、彼女は理解に至ったらしい。
ふっ、なんか私が頭が良いみたいだ。これは気持ちがいい。
「そう。聖女の祈り時間は、元の物質があった方が早くなる。たばこの復元が早かったみたいに、回復ポーション――薄めたエリクサーを薄めていない状態に戻すように祈れば、早く祈れるはずなんだよ」
回復ポーションが希釈したエリクサーだということを聞いて閃いたのだ。
これが完全に別で作られているものであれば、そうはいかないはず。
「で、実際にやってみたら早く祈れたと」
「そういうこと」
ただ、まだまだ問題はある。
私はおっちゃんに声をかけた。
「おっちゃん、回復ポーションの在庫ってどれくらいあるの?」
「九割方消費してる。つまり、ほとんどないぞ。このサバサにはいくつかポーションを取り扱っている店もあるが、どこも同じだと思う」
「マジか……」
短い祈りでエリクサーを作るのを発明したはいいが、その材料が無かった。
さてどうしたもんかね。
「俺も一肌脱ぐとするかあ! 聖女さまばっかりにいい顔はさせられなしな」
「お、まさか、おっちゃんが何かしてくれるの?」
正直手詰まり感があったので、かなりありがたい。
仕事ができる人ってカッコいいなあ……!
「商工ギルドに行って、ギルド長との話をつけてくる」
「なんの話を……?」
「聖女様は頭が良いのか悪いのか、よくわかんねえな……」
おっちゃんは呆れていた。
自認は天才、でも傍から見れば理解されないこともある。
私はそういう風にありたい。
「だからよ、回復ポーションの量産を要請してこようと思うんだ。聖女様の作ったエリクサーを見せて、街が団結できるように」
「おおっ! 助かります!」
じゃあ、私とメテオールちゃんはその出来た回復ポーションをエリクサーに変えていけばいいだけの話。祈りの時間は大幅短縮! 勝ったな!
「じゃあ、商工ギルドの人に見せつけるようにエリクサーいくつか作るよ。回復ポーションありったけ頂戴」
「あいよ。頼むぜ」
店主のおっちゃんが渡してきたポーションは1ダースだった。
ほんとに在庫が尽きかけていたのか……。
「じゃあ、祈ります!」
私はさっきと同じように。
このエリクサーを元の状態に戻してください、と祈った。
複数だから多少時間はかかるが――それでもすぐに女神の光が発生した。
女神さまが微笑んでいるのが分かる。
今回は割とお喜びらしい。
「できたっ!」
「じゃあ、俺はこれを商工ギルドに持って行って、上を説得してくる!」
「行ってらっしゃい! 私は――」
私は疲れたのでちょっと休む。
久しぶりに頭使ったし、何か甘いものでも食べてリラックスしたい。
「アリス様? やることはいくらでもありますよ?」
「で、ですよね……はい」
休む時間があるなら、その時間で一人でも治すべきですよね?
分かってるけど、しんどいんだよ!
「……いや、いくらでもはねえけど、聖女様に頼みてえことがある」
そんなとき、店主のおっちゃんが申し訳なさそうに私を見ていた。
え、なに? パパにおねだりしたら高くて買えないと言われてときと同じ、ちょっとした虚しさを覚える表情は。
「領主様から予算を取ってきてくれねえか?」
「予算って、何のための?」
「……そりゃ俺だって気まずいのは分かるが、商工ギルドは情だけじゃ動かねえ。だから、この交易都市側から回復ポーション代を貰いてえんだ。聖女様は、その交渉をしてきてくれねえか?」
え? 私が予算の交渉?
この街の人口がどれくらいか知らないが、それは結構揉めそうな……。
「わ、分かりました。何とかやってみせます」
まあ、領主さんも優しそうだったし、お金くらいポンと出せるでしょ!