ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
「無理です」
「は?」
足早に領主さんの館に戻ってエリクサーのことを説明した。
回復ポーションからエリクサーを作れるんです!
だから、商工ギルドにお金出して、回復ポーションの大量生産をお願いします。
みたいなことを説明した。
勿論、私に交渉じみたことはできない。
というか、する必要なんてないと思っていた。
「無理な理由を聞いてもいいですか?」
「実は瘴気病に対応するために、かなりのお金を使っていて……回復ポーションを数万本買うほどのお金なんてとても……」
ほんとか?
実はお金あるんじゃないんですか?
と言いたくなるが、そんなこと言ったら間違いなく話が拗れる。
「で、でもその方が早く住民さんたちも回復できますし、街の復興だって……」
「そういう問題じゃないんですよ。聖女様の提案は確かに素晴らしいと思います。しかし、お金を用意するのは手間がかかるんです。私財を投げうったところで、買い取りしてくれるような業者も、今この街にはいない。国から補助金を貰おうにも、手続きに時間がかかる」
業者がいないというか、恐らく経営がストップしているだけだろう。
瘴気病にかかった街に外から商人が来るのは控えるだろうし、街の古物商なんかも病気でまともに経営ができない。そんな感じなのかな?
というか国も国だ。
こういうときにすぐに動けないのは、いわゆるお役所仕事というやつだろう。
教皇様、私にポンとお金くれよ。
……どうしたもんかねえ。
一番お金がかからない方法は、私とメテオールちゃんが祈ること。
国だって、その方法での事態鎮火を想定しているはず。
ただ、私は嫌だ。
祈る時間を大幅に短縮できる方法を何か……。
そんな風に考えていると、領主さんの執務室の扉が乱暴に開けられた。
うわっ、ビックリした。
「久しぶりだな、領主さんよ!」
「ぎ、ギルド長!」
なんか強そうな老人だ。
実際に筋肉モリモリマッチョマンおじいちゃんって感じだ。タンクトップだし。
「金出せば、回復ポーションの生産に協力してやらんこともないぜ?」
「い、今は金がないんだ! だから、どうか無償で協力してくれないか?」
「まあ、いいが。その金の担保はあるのか? ねえなら、お前んところの私財を仮差押えする形でもいいぜ?」
「お前らの鑑定に信頼が置けるか! 協力する気がないなら、帰れ!」
なんか領主さんとギルマスさん、仲悪いな。
言葉の端橋というか、普通に棘を感じる。
おっさん同士の喧嘩は迫力がありますなあ……(京言葉?)。
そう思っていたら、ドアの隙間からポーション屋のおっちゃんが手招きした。
私はそちらにスッと移動した。
「おっちゃん! これマズいよ。というか、なんで仲悪いの? あの二人」
「す、すまねえ……。商工ギルドと領主はずっと対立関係にあるんだ」
「対立……? なんか理由あるの?」
じゃあ最初から無駄足だったってこと……?
違うな。まだ無駄になるとは決まったわけじゃない。ここからよ。
「領主様は悪い人じゃねえんだが、この交易都市は他より税金が高いんだ。街道の整備だったり、登録業者の管理に金がかかるのは分かるんだが……。それにギルド長は反発しててよ。で、起ったのが今回の出来事だ。
その対立関係があるから、領主様は商工ギルド側に大金を渡したくねえんだ。ただでさえ瘴気病の対処に金を使ってて、復興時に商工ギルドの方が圧倒的に金を持ってるとなれば、誰も領主様の言うことなんて聞かなくなるしな」
ポーション屋のおっちゃんは長々と語ってくれた。
当方ドパガキ、長い話はよく分からん!
「じゃあ、どうするのが最善なの?」
「やっぱり国が後腐れない金を出してくれるのがいいんじゃねえか? どっちかが金使うってなると、どうしても問題が出てくるしなあ」
おっちゃん頭良いな。
私もこれくらいスマートになりたいものだ。
それは、さておき……話が繋がった感覚がある。
領主さんは国に申請するやり方だと時間がかかると言っていた。
でも、頼まないと中立なお金は手に入らない……でいいんだよね?
誰か、金持ちいないか――っている!
ここにもう一人金持ちがいる!
私はにらみ合っている二人の間に割って入った。
「もしよかったらなんですけど、私のお金使いませんか?」
そう私は聖女!
この国で三番目に偉いとか誰かが言っていた。
一か月しかまだ働いてないけど、私が金出せばよくね?
後腐れない金だし!
「「せ、せせ、聖女様のお金を!?」」
さっきまでいがみあってたのに、驚くときだけ息ぴったりじゃん! なんなんだこいつら……。
「はい。それならあと腐れないかなと思いまして……どうせ私の賃金も税金から出てますし」
国会議員が給料を自主返納するやつ。
あれと同じ扱いにしてくれ、その方がカッコいいから。
「さ、流石に聖女様の個人的なお金は……」
さっきまで敬語すら使わずに領主を煽っていたギルマスが恐れおののいてる。
権力持ってそうなやつに、私の人徳で解決するの気持ちええ。
「そ、そうですよ! アリス様! こんなこと前代未聞ですよ」
「ふ~ん、他の聖女は民のためにお金出したりしないんだ~」
まさかのアルメットからも批判だ。わお。
王道的な聖女の振る舞いだぞ! 何が悪い。
そんな気持ちをジメっとした発言に込めておきました。
「い、いや。そんなことはないですけど……寄付したりとか」
「じゃあ、私も寄付って形で! すぐには渡せないけど、それならいいでしょ」
「は、はい……かしこまりました」
そんなやり取りをしたのち、アルメットが近くに寄って来た。
これはいつものこしょこしょ声で言いたいことがあるパターンだ。
「ほんとうに良いんですか? 一か月の給料パーですよ?」
「だって私、今、この世界に来て欲しいものとかないし……必要なものはアルメットが用意してくれるし、何か欲しいものできたらお金はまた溜めればいいし」
そう、特にこの世界で欲しいものはない。
そりゃね? なんか煌びやかな服とか家具とか武器とか見たいなとは思うよ。
けどさ~、別に急務じゃないから。
それやるくらいなら、スマホ弄ってるほうが楽しいよ。多分。
自分で考えてて、依存症ヤバいな……。そのことは今はいいや。
「あ、アリス様……!」
「え、なんで泣いてんの? こわっ……」
アルメットが涙をこぼしていた。
どこか感動するところあった?
こいつも大概変なところあるからな~多分ドライアイなんだろう。
「うちの側付からも許可取れたんでいいですか? 領主さんとギルマスさん?」
そう言うと、二人はもじもじし出した。
トイレでも行きたいのか? と思っていたら――。
「な、なあ、やっぱり俺、金いらねえよ。街が大変なのに、さ……」
「や、やっぱり報酬は領主から出しますよ。それが自然なはずです」
「俺が……」
「私が……」
なんか急にしおらしくなってしまった。
最初から、その謙虚さを二人とも見せてくれ!
ただ、もう今更なので。
「二人ともいいですから! とりあえず私が担保しますから!」
「「いやでも……」」
「死にかけてる人、いっぱいいるんですから! とにかく動いてくれませんかね!」
「はい!」「ご、ごめんなさい……」
なぜ、私はいい年した大人を叱っているのだろう。
しかも仕事に関することで。やる気の無さには一家言ある、私が……。
「とにかく、今、街にある回復ポーションをギルマスさんは集めてきてください」
「わかった」
「領主さんは、街の人口などのデータを教えてください。必要な数のエリクサー生産するので」
「かしこまりました」
私に叱られたせいか、二人とも背筋がビシッとしている。
これで後、私は――。
祈るだけ。
「はあ……」
やりたくねえ!
けど、これで祈る時間は大幅に減ったはず。
「あ、そうだ――メテオールちゃんは今何をしてるんだろう」
あの子には、領主さんのところで働いてる人たちの回復を任せてしまった。
やりたくはないが、私も手伝わなくては。やりたくないが。
◆ ◆ ◆
治療を待つ大勢の勤め人たちがいる広間へ。
するとそこには――。
「二人だけ?」
壁に寄りかかっている二人の女性――メテオールちゃんが膝枕で寝かされていた。
もう一人は恐らく。
「あ、あの~聖女の布瀬有栖です」
「初めまして、聖女メテオール・ジャストの側付をさせてもらっているステラ・ポールスと申します」
アルメットとは違って穏やかさを感じる。
マグノリアさんほどではないが、ママ味を感じる。
このひざはママの匂いがしそうだ(?)。
「見ての通りメテオール様は寝ています」
「祈りで疲れちゃった感じですよね……すいません」
そりゃ、広間一杯にいた人たち全員を回復させるなんて大変な集中力を使ったはず。眠ってしまうのもしょうがない、私だったら途中で逃げてる。
「謝らないでください。メテオール様はアリス様を慕っております。貴女の役に立ててうれしいと思っているはずですよ」
なんて言葉を返したらいいのか分からん。
慕われている理由もよく分からないのはそうなのだが……それ以上に、自分のために頑張ってくれた人に対して何を言ったらいいのか分からない。冗談抜きで、私なんかのために……みたいな。
できることは言葉よりも行動か……。
私はメテオールちゃんの頭を撫でた。そして、祈る。
「メテオールちゃんの疲れが取れますように」
ほんの少しだけ祈っていると、光が少女を包んだ。
回復を祈られた本人が目を開けた。
「……もしかして、私のために祈りを?」
「うん。メテオールちゃんのためにできること、それくらいしかなさそうだから。もしかして、迷惑だったりした?」
因みに私がこれをやられたら迷惑だ。
いくら奇跡で疲れが取れたとはいえ、また働かされてまう。
それだったら、寝てたい。
「いえ、とても嬉しいです! これでまた人を助けられます!」
聖女らしさと真っすぐな少女らしさのハイブリット。
輝かしすぎるぜ!
「あ、そうだ。アリスさんも気絶するまで祈ったら、わたしが回復させてあげます! 今回の瘴気病が解決するまでは、そうやって互いを補いませんか?」
え、なにその? ドカ祈り気絶部みたいな……。
私はその善意からの天安にイエスともノーとも言えなかった。
真っすぐすぎて、全部ぶち抜いていったよ……。