ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
―ポーション屋のおっちゃん視点―
「あの、なんで俺が呼ばれたんです?」
アリスからおっちゃんと呼ばれていた男――フランクは戸惑っていた。
なぜなら、領主と商工ギルド長のサシ飲みに呼ばれたからだ。
そもそも二人は仲悪ぃはずじゃなかったか?
どうして店を貸し切りにしてまで、一緒に酒を飲んでいるか。
一番の謎は――さっきも尋ねたとおりだが、自分が呼ばれたことだが。
「そんなん分かり切ってるだろうが。聖女アリス様のことだ」
「その通りです。聖女様も食事に誘ったのですが、遠慮されたので代わりに」
二人ともなぜだろう? みたいな顔をしているが別に当然のはず。
聖女様もおっさんたちと食事するのは嫌なんじゃないか? 俺含めて四人中三人がおっさんだぞ?
ギルド長がお酒を呷る。
この人は豪快だ。少し憧れる。
「いや、それにしてもすげえな聖女アリス様は。俺あ、他の聖女にあったことはねえけど、自分の財産を使ってまで人を助けようとするなんてよお」
「そうですね。非常に助かりました。お陰で商工ギルドに貸しを作らなくて済みましたし」
領主様がギルマスを睨みつけた。
何となく煽っている側であるギルマスは気にせずに氷を見つめている。
やっぱり俺いらねえよな? 帰っていいか?
喧嘩なら二人で勝手にやって欲しいんだが。
「そのことは今はいいさ。で、アミラルの坊ちゃんとフランクに話があるんだけどよ」
「はあ……」「な、なんですかい?」
ギルマスの鋭い瞳に光が宿っているように見えた。
まるで、大きな野望を抱いているような。
「あの聖女アリス様を説得して、エリクサーの量産で儲けねえか?」
その発言に、ようやく自分が呼ばれた理由を察した。
自分がこの街で誰よりもアリス様と親しい存在ではあるからだ。
「それは、神聖国の法に反します。聖女の力は私用に利用してはならないと」
「んなこた、分かってる。それでも夢がある話じゃなねえか?」
領主様は反対するが、確かに夢のある話ではあると思う。
ほぼ市場に出回らず高価なエリクサーを量産すれば、大儲け間違いなしだ。
「そこでよ、フランク……お前、あの聖女様と仲良いんだろ? もちろん、ただでとは言わねえ、売り上げの半分くらい渡してやってもいい。交渉できねえか?」
やっぱりそう言われてしまった。
ギルマスには顔が上がらないところもある。だが――。
「申しわけねえがお断りさせていただきます」
「ほおお前、俺に逆らってこの街で商売――痛って!」
ギルマスが怒りを露わにしようとしかけたとき、領主さまが手をつねっていた。
「な、なにすんでい!? 俺たちが殴り合う時は経済でって――痛いわ!」
「あなたが考えることなどお見通しです。私も考えたので」
「じゃあ、なんでつねるんだよ! 一緒にやろうぜ!」
なんでこいつら堂々と犯罪しようぜ! みたいなノリなのか。
商売は法の抜け目から始まることはあったりするが、今回は完全に違法だ。
それに、俺なんかに最初にエリクサーをくれたアリス様は裏切れねえよ。
帰る。ここにいても時間の無駄だ。
「実は今朝、お忍びで教皇様が来ていたのです」
「きょ、教皇様が……? 一体何のために?」
ギルマスが珍しくビビっている。
普通に地方都市を訪問することはあれど、お忍びでというのは聞いたことが無い。
そりゃ勿論、普通のポーション屋な俺が知るわけもないが。
「そこでお達しがありました。聖女の祈りによってエリクサーを量産する方法を知った者に緘口令を敷くと。破った者は、裁判の手続きを経ずに投獄だそうです」
「は? そこまですんのか? 教皇のヤロー、自分たちが聖女の力を独占したいからってよお……!」
ギルマスの額に皺をよせていた。
彼の怒りは最もではあるが、それよりも。
「教皇様は理由を仰っていました?」
「……私には詳しくお教えしてくれませんでした。ただ、聖女アリス・フゼ様に危険が及ばないためにと。そして、そう宣言された以上、この街には政府の間者が沢山送り込まれる、或いは動き出すはずです。下手な真似はできませんね」
もしかして自分はとんでもない事態に関わってしまったのではないか。
そんな風に思ったが――。
聖女アリス様が善意の塊なのは知っている。
この街のみんなも感謝している。
そんなあの人を守るためなら、しょうがない措置だ。
ただ、彼女の偉業が詳しく称えられないことだけが残念だった。
あの方こそ、稀代の聖女なのではないかと、俺は思っているからだ。
◆ ◆ ◆
―教皇フェロー・アンジェル視点―
今日は聖女アリスから交易都市サバサで買ったという紅茶を飲むことにした。
彼女は見る目がないせいなのか、それとも安物なのか渋みを感じる。
「教皇様、私も見ましたよ。聖女アリスが取った瘴気病への対処法」
そう優しく微笑んでいたのは聖女マグノリアだった。
彼女は聖女歴も長く、執務室にもよくやってきてくれる。
仕事を手伝ってくれて本当に助かる。
「それで、読んでみて如何でしたか?」
「賞賛に値すると思います。正直、交易都市サバサほどの都市人口の全てを聖女二人だけの祈りで、回復させることは不可能だったでしょうから」
そう、あの都市の人口は数万人は下らない。
仮に三万程度で見積もって、二人で一人ずつに五分祈ると……100時間かかる。
不眠不休で五日。
ただ、人間はそこまで稼働できない。
瘴気病は早ければ一週間ほどで、人を魔物に変えてしまう。
「そうです。今回は騎士を多く派遣したのも、魔物となった人々への対処をお願いする理由も含まれていました。まあ、幸いなことにほとんど活躍の機会はありませんでしたが」
費用対効果で見れば、騎士たちの派兵の方に遥かに金がかかっている。
送り出した側である聖女たちの疲れもあるし。
そんなことを考えていると、聖女マグノリアは何かに気づいたようで怪訝な瞳で私のことを見ている。
「待ってください。ほとんどということは……魔物化した人間がいたのですか!?」
「そうです。残念なことですか」
彼女は顔を真っ青にした。
聖女として正しすぎる反応だ。
「ど、どうしてですか? だって住民全員分のエリクサーを生産したんですよね? なのに、どうしてそんなことが」
「調べはついています。人命の代わりにお金を取った、そういう人もいるわけです」
「わ、わかりません。もっと詳しく説明してくれませんか?」
私は、他の聖女たちに渡すつもりのなかった方の報告書を手渡した。
そこに書いてある内容を見て、聖女マグノリアは涙を浮かべていた。
「口減らしや借金の返済のためにエリクサーを使わない人たち……!? こ、こんなやつらがいるのですか? 人として信じられません!!」
私はそこまで驚かなかった。
エリクサーを量産したとはいえ、ほとんどはその場で消費してしまっている。一度は大量生産されたが価格の暴落は起きない。
で、使わなかったエリクサーはどこか闇で売れば多量の金が手に入る。
交易都市だし、他の街から来る商人などに売るだけだ。
「しょうがないことです。それでも被害は最小限なのだから、聖女アリスは勿論、聖女メテオールも素晴らしい活躍でした」
「……素晴らしい活躍って、聖女たちがだらしないからそうなったのではないですか?」
「というと?」
確かに聖女アリス・フゼはだらしない。
そういう面があるのは、公私共に同意できる。
ただ、善性は確かだ。
「本来であれば、瘴気病を治すために一人一人と対面する必要があったはずです。従来のやり方であれば、そのような死者は生まれなかった」
聖女マグノリアは拳をグッと握っていた。
どこかやりきれない思いがあるかのように。
「でも、マグノリアさんも分かっているはずですよ。そのやり方では、もっと死者が出ていたことに」
「……ッ。それは、その通りです。あの二人の聖女たちがだらしないというのは、言い過ぎた発言でした。問題点に気づけなかった彼女たちに非がないとは言いませんが、活躍を否定するようなことを言ってしまい、申し訳ありません」
聖女マグノリアはすぐに謝った。
頭にかっと血が上ってしまったのを、自覚したのだろう。
「あと、緘口令を引いたのはどうしてですか? しかも強権的に」
見せるつもりのない報告書にはそちらのことも書かれていた。
気になるのは当然か。
「それは単純に聖女たちを守るためですよ。もっと詳しく言えば、未来の、ですが」
「やはりそうですか……」
聖女マグノリアは分かっていたことのように頷いていた。
「聖女の祈りは万能。何でもできてしまう。今回のエリクサー量産は、聖女のビジネス的な価値を一気に知らしめてしまいかねない。聖女メテオールのように幼い頃から女神と繋がれる少女もいる。そんな子どもが商会や反グレに狙われてしまう――ただでさえ聖女不足なのだから、他の団体に狙われては国が持たないのですよ」
「ですね。解説ありがとうございます」
反応が薄い。
まあ、これは一応聞いておこうレベルの質問だったか。
「それでは教皇様、今日はこれで失礼します」
「ああ、お疲れ様。あと――次の君の大仕事は聖女アリスもいます。君が彼女に対してどう思っているか分かりませんが、そこで見極めるといいと思いますよ」
「……失礼します」
聖女マグノリアはこちらに視線を向けずに去って行ってしまった。
彼女は悪い子ではないが、聖女らし過ぎる。
そんな聖女と、異世界の聖女が組むと何が起きるのか――少しだけ楽しみだ。
◆ ◆ ◆
―???視点―
「な、なに、これ? あ、あたしのからだ、治ったの?」
あたしは瘴気病を治すためのエリクサーを両親から貰えなかった。
借金を返すために死んでくれと言われて、荒野に捨てられた。
なのに、身体中を覆いつくしていた魔物の皮膚が無くなっている。
「こ、こえが……声が聞こえる。じゃ、邪神……さま??」
あたしは、誰か分からない声に導かれながら荒野を歩くことになった。
言うことを聞けば、食べ物と水が生えてきた。
色々上げる代わりに、聖都に行って欲しいらしい。なんでだろう……?
ここまでお読みいただきありがとうございます。
感想、誤字報告、ここすき、高評価、お気に入り、しおり等、何かしら小説にアクションしていただく度にドーパミン出てます。本当に嬉しいです。
本当に申し訳ないのですが、作者の体調不良で話のストックがほぼ尽きてしまいました。今後は隔日更新、或いは一話当たりの文字数を減らしての更新になる可能性が高いです。
これからもお読みいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。