ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
デカい仕事を終えた後には必ず休暇がある。
聖女の数少ないメリット。
休日、いや、休日じゃなくてもダラダラとスマホを見たいのが私だ。
それなのに――。
「クールマンさん、ありがとう!」
「暖かくておいしいです」
「こんなに若いのに、炊き出しなんて……感謝しています」
そう、私はメテオールちゃんに誘われて聖都の貧民街で炊き出しをしている。
正直内心は、なぜ休日なのに人助けをしなきゃ……みたいなところはある。
「あはは、ど、どうも」
あと、聖女じゃなくてクールマンとしての活動となっている。
またあのクソださ適当ネームを名乗る日が来ようとは……。
というか男装が板につきすぎている。
もはや外出するときは大体男装だ。
一方のメテオールちゃんは――。
「炊き出しが欲しい方はこちらに並んでください!」
「なあ、俺みたいなやつでもいいのか?」
「どうぞ! 誰でも歓迎ですから!」
滅茶苦茶イキイキしていた。
彼女が本来やりたいのは、こういうことだったのだろう。
ただ、聖女の権力を用いてまで貧民街をどうこうするなんてことも思っていなそうだし、逆に個人で動くには危険があった。
私はボディガードみたいなもんだ。
聖女の祈りで強制強化した肉体があるしな……使いこなせるとは言ってない。
そんなメテオールちゃんを見ながら、私はカレーをよそっていた。
炊き出しと言えばカレーだろ! というなんとなくのイメージでやっている。
幸いカレー粉は交易都市サバサのお土産で手に入ったので沢山買ってきた。
え? ほとんど消費したって? それは――悲しいなあ。
ちょっと悲しくなっている最中に、目の前に現れた女性。
この異世界で見かけないような短パン。
それに沢山の指輪をつけていて……。ん、待て、この人は。
「探したぞ! アリ――」
私はカレーの隣に置いてあった水をぶっかけた。
いや、何この人、私の本名をぶっちゃけそうになってるの!?
「な、なにすんだお前!」
「それはこっちのセリフですよ! 慈善活動は世を忍ぶ仮の姿なんですから! 今、私の本名を言おうとしましたよね?」
「言って何が悪い! ご両親からもらった大切なものだろうが!」
「そういうことじゃないです! 用事があるならカレー食いながら待っててください!」
「カレーか? まあ、おいしそうだから、食ってやるよ!」
馬鹿……単純な人で助かった。
ただでさえ今日はメテオールちゃんに休日を預けているのに、この変な人の相手もしなくちゃいけないのマジ? 本当に嫌なんだが。
カレーを配り終わって撤収。
しようと思ったら、例の人もちゃんと皿を返しに来た。
「カレーおいしかったぞ!」
「そりゃそうですよ。うちのママの秘伝レシピですから」
ママとは異世界に来てからも普通にアプリでやり取りしている。
あの人、自分の娘が異世界に行ったことにそこまで驚いていなかったな。
因みにママの秘伝レシピとは言ったが、普段はカレールーで作っているらしくカレー粉では作ったことが無かったらしい。送られてきたのは料理動画のURL。
それを参考にして作った。あれ、秘伝のレシピって?
「で、俺は言ったよな? 帰ってきたら稽古つけてやるって!」
「え、聞いてませんけど?」
「言った記憶はあるぞ! 女神さまに誓って」
まあ、そういわれてみればそうかもしれない。
聖女のくせに、雑に女神に誓うなあ……そこは好印象ではあるけど。
「だけど多分、私はフェルトさんの提案に同意してないと思いますよ」
「うるせー! このフェルト・シュラが直々に鍛えてやろうって言ってんだ。新米聖女なら、ありがたく受け取っておけ」
私はチラッとメテオールちゃんの方を見た。
彼女は黙々と片づけを進めていたが、私の視線に気づいてくれて。
「……アリスさん、フェルトさんに目をつけられたらお終いですよ」
助けて~って言おうと思ったら、もう既にお終いであることを告げられた。
私、絶望。
「そ、そんな~メテオールちゃんにもどうにもできないの?」
「私も聖女歴は浅いですし……それに、フェルトさん力強すぎて無理ですよ」
どっちの力? 権力? 筋力? どっちなんだい!?
そう思っていると、フェルトさんに引きずられていることに気づいた。
「ちょ、ちょ、ちょっと……どこ連れて行く気ですか?」
「そりゃ勿論、俺ん家だ!」
きゃー! 変態聖女に拉致られてる!
と叫ぶことはできずに、そのまま連れ去られることになった。
なんでか知らないけど、メテオールちゃんもついてきていた。
だったら、助けてくれよ!
そのまま連れれて着いたのは聖都の下町。
私でさえも高級住宅街っぽいところに住んでるのに、フェルトさんの家はいずこ?
「ここだ」
「道場って感じですね……」
デカい横長の看板に、これまた大きく文字が書かれている。
聖女の力で祈れば翻訳もできそうだが、面倒なのでしない。休日だしな!
「アリス様――あれは、シュラ総合武術道場と読みます」
異世界語が読めない私をアルメットがフォローしてくれた。
でももっとさりげない感じで頼みたい。
馬鹿そうなフェルトさん、年下のメテオールちゃん、どちらにも字が読めないことがバレちゃったじゃん。
「ありがとう――ていうか、フェルトさんはなぜ私をここに?」
「決まってるだろう? お前を鍛えてやるためだ!」
「いや、普通に嫌なんですけど……!」
抵抗を試みるが、聞いてないようでそのまま道場の中へと引きずり込まれてしまった。ほんと力強いな。
中は道場と名がつく通り、広い空間で動きやすそうだ。
そんなことより、目につくのは――。
「ぶ、武器がいっぱい!」
「そうだ。ウチは総合武術だからな! 剣も槍も斧も盾も、素手も、鎖鎌とかでも、何でも教えられる。それが俺んちの道場だ」
それはすごい。
恐らく、色々な武器に精通しているのだろう。
何か一つを極めてる人もいいけど、色々できる人もいいよね。
アレ、なんだかちょっとだけ過去の気持ちが蘇って来たぞ。
シュテルネちゃんを見て、剣士やりたいと思ったんだった。
継続した素振りが面倒だったからやめたけど……もしかしてチャンスか?
「私、やるなら剣がいいです! 教えられるなら剣がいいです!」
一人で黙々素振りはできないけど、個別指導があるなら別かもしれない。
というかこの人から逃げ切れるような気もしないし……。
やらされるなら、せめて好きなものを!
「剣か! 王道だな! だが却下だ」
「え?」
「聖女が戦うなら素手と決まっている! 俺が決めた!」
「私は剣がいいんですけど……」
「ダメだ!」
選択肢ないじゃん!
さっきまでの期待を返してくれよ!
「理由は教えててやる」
それでも私はシュテルネちゃんみたいに……!?
フェルトさんは置いてあった真剣(たぶん切れる)やつを手にとった。
「手を出せ、服は捲ってな」
「いやん、日焼けが……」
「室内だろうが!」
ちょっと冗談言っただけじゃん。
それにしても、手を出せって何をやらせるつもりなんだろう。
フェルトさんは上段に構えると、そのまま剣を振り下ろして――。
「って、何やろうとしてれてるんですか!?」
普段はとろい私だが、手を斬られそうな気がしたので逃げた。
マジでこの人、頭おかしいのでは!?
「え~、お前斬られるの怖いのか? 本当に斬れても祈りで治してやるからよ」
「いやいやいやいや! それでも嫌ですよ。痛いとかそういうレベルの話ですらないじゃないですか? 痛みでショック死しますよ」
実際にショック死するかは知らないが、やっていいことと悪いことがある。
許可なしにやるようなことじゃない。許可があったらいいんですか……という話にでもないが。
「じゃあ、アリス! お前が俺を斬ってみろ!」
そう言って彼女は腕まくりした。
いや、そのテンションで言うことじゃなくないか?
この人やっぱりおかしいよ……。
「嫌なんですけど……」
「イヤイヤイヤ、お前は何だったらいいんだ!」
「だから全部嫌なんですけど……」
ここに連れてこられたのも無理やりだし。
いきなり斬られそうにはなるし。
滅茶苦茶が過ぎるわ!
「では、私がフェルト様をお斬りしてもかまいませんか?」
会話に割り込んできたのは、アルメットだった。
「アリスの側付か……? 別にお前でも問題ないぞ!」
「では、失礼して」
アルメットはフェルトさんから剣を受け取った。
何回試すように素振りをしている。
え、コイツ、武術までできるの!?
本当に煙草依存症以外には完璧だ。私にはもったいないくらいだとは思う、教皇様ありがとう!
「行きますよ! 何かあってもアリス様が治しますから!」
「来い!」
剣が無防備なフェルトさんに振るわれた。
思わず目を瞑った。だが。
アルメットが振るった刃がフェルトさんの素肌を切り裂く――なんてことは起こらなかった。刃は手の表面で止まっている。
切れ味が悪いのかな……と思ったけど、刀身はピカピカだ。
何が起きてるんだろう……。
「聖女は祈りによって身体を強くすることができる。一度でも肉体を強化すれば、その強度は鋼鉄よりも強くなる。これが、聖女が己の肉体で戦った方がいい理由だ」
へえ~すっご!
確かに言われてみれば。メテオールちゃんを暴漢から助けた時、チンピラに殴られたが全然痛くなかった。つまりは最強の肉体になっちゃった?
「というわけだ、アリス! これから稽古みっしりつけてやるからな!」
「嫌なんですけど……! 努力嫌い!」
私は走って逃亡を図ろうとしたが――。
「逃がさねえよ!」
すぐにフェルトさんに捕まった。
そして、壁際に追いやられて。
「楽しい楽しい、聖女稽古の時間だ!」
絶対楽しくないよねえ!