ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
稽古とはそもそも何か……。
普通に考えたら、技とか心持とかそういうのを教えてくれるやつだろう。
で、私が受けたものはというと……。
「ぼへっ!」
フェルトさんが私を殴った。
あんまり痛くないのは気を遣ってくれているからだろう。そうだと思いたい。
「いいか! 俺の指導は実戦形式だ。お前は手加減せずに殴ってこい!」
「無理ですって!」
フェルトさんがず~っと殴りかかってくるから、こちらは防御の選択肢しか取れない。恐らく隙を見て反撃しろという意図があるかもしれないが、私には無理だ。
舐めるなよ、運動不足を!
ただ、このまま殴られっぱなしというのも気に食わない。
足だって私にはあるんだよ!
「おりゃ!」
全くもって様になってない蹴りを放つ。
ちょっとはダメージ入ってくれ!
そして、今日はこれくらいにするか! って言ってくれ!
「甘いぞ! アリス」
へっぴりキック過ぎて、普通に足を掴まれた。
それで、足を掴まれて投げ飛ばされる。
「弱い! 弱すぎる! 身体強化の祈りをして、これか!?」
「んなこと言われても……」
口とか文字での喧嘩ならしたことあるが、殴り合いみたいのはちょっと……。
令和だし、一応女の子だし……。
弟とは小さい頃に少しやったかもしれないが、ノーカンだろ。
「……だが、これからは俺が鍛えてやる! 安心すると良い!」
「頼んでないんですけど!」
「戦えた方が何かとためになる。折角の聖女なんだしな!」
この世界の聖女に戦うイメージはねえよ!
そうツッコみたい。
なんか、この人に何を言っても聞いてくれないような感じがするので、逆にもう何でも言うことにしよう。
「お、そろそろ時間だな。二人とも行くぞ!」
「二人ともって私も入ってます?」
「当然だ。そこで、目を輝かせてるメテオールも」
聖女たちに何か用事があるのか?
時間ってなんだよ。私はそんなものに縛られて生きていない。
「休日なんで帰ってもいいですか?」
「ダメだ。俺が叱られる」
キリッと澄ました顔で情けないことを言う。
フェルトさんの首が上がらない相手ねえ……怖いなあ。
「別に私は関係ないの――引っ張らないでくださいよ!」
「俺だってあんまり行きたくねえよ。でも、マグノリアから、アリスとメテオールを連れて来いって言われてる」
聖女四人で一体何を?
あ、これ私がずっとサボっていた懇親会ってやつ?
とうとう主催者側がキレて、私を強制連行……。
なんか嫌な予感がしてきたので。
「仕方ないので行きます」
「分かればいいんだ」
「だったら、手を放してくれませんかね!」
そんな私たちの後ろから、フフッと微笑みながらメテオールちゃんもついてきた。
可愛いなあ。これだけが今の救いだよ……。
◆ ◆ ◆
「ようこそお待ちしておりました。マグノリア様は向こうでお待ちです」
やってきたのは高級感のあるお店。どこまでも真っ白だ。
なんの店と聞かれてもよく分からない。もしかしたらマグノリアさんの家の可能性も排除はしきれないが。
店員さんらしき人に案内されて一室に。するとそこにはピンクのゆるふわ髪のマグノリアさんが本当にいた。
もしかして懇親会ってこんなちゃんと準備してくれてた感じ……? サボってただけなら、相当にマズさを感じる。
「今日はアリスさんとメテオールさんの二人のお仕事の振り返りと、今度この四人でご一緒するお仕事のことをお伝えするためにお呼びしました。軽くお菓子でも食べながら、互いのことを知れたらなと思っています」
これはアレかパパが言っていた。
『なんか飲みに行くのに他社の偉い人が来るんだって……これじゃあ接待だよ』
つまりは接待お茶会!?
でもこの場合、接待されるのは自分じゃね?
一番新参だし……いや、逆か? 先輩方のジョッキにお酒注がないといけないのは私か!?
「さあ、どうぞ座ってください」
「し、失礼します」
座り終わると近くにいた店員さんがお茶を注いでくれた。
良かった、私が注ぐ係じゃないんだ。
そして沢山のお菓子が乗っかったスタンド? みたいなやつが運ばれてきた。
あ、これ見たことある……! なんて言うのか忘れたけど。
「では、どうぞ」
いただきますも忘れて、私は近くにあった小さなケーキを食べてみることに。
本当は写真撮ろうかなという迷いが一瞬あったけど、流石にそれがマズいのは分かる。ここ現代日本じゃないから。
「お、おいしい……!」
リアクションしたのは私だけだった。
程よい甘みとわずかな酸味がとても良い。
一方のメテオールちゃんはお行儀よく食べてる。
フェルトさんはバクバク食べている。味わうとかいう観念じゃなくて、カロリーしか考えていなさそうだ。
「みなさん、好評なようでよかったです」
「はい! とても美味しいです」
メテオールちゃんの返事はいかにも少女という感じで可愛らしい。
「では、この前の瘴気病のことについて……お伝えしたいことがあります」
あれは上手く行ったし、滅茶苦茶褒められるんだろうな……!
ワクワクが押し寄せてくるぜ!