ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
「エリクサーの量産、よくぞ成し遂げました。あれは今後の瘴気病への対処を根底から覆すものになると、教皇様は仰っていました」
マグノリアさんのからのお褒めの言葉きたあああー!
ママ味あるけど、ママに褒められるよりテンション上がる。
そりゃね! 汚染された土地を浄化したときとか、エリクサーを量産したときにも感謝はされました。勿論、嬉しい。
だけど、同業者から評価されるってなんか違うじゃん。
プロに認められたんだよ? 聖女歴が長そうな。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
私とメテオールちゃんは互いに喜んだ。
どちらかと言えば私の方がよりテンションが高いが。
「マグノリアさん、それで瘴気病への対処方法はどう変わるのですか?」
そう質問したのはメテオールちゃんだった。
私が聞かなかったのは、特に興味がなかったから。
だって、元々の対処方法に詳しくないし。
「基本的には聖女の派遣自体を取り止めるそうです。聖女が住民たち分のエリクサーを量産して、当該の場所に送る方向性で調整するそうです」
「なるほど……それなら祈るだけで済みますね!」
よく分からんが、聖女を派遣しないことに意味があるのか。
まあ、確かに聖女が基本的に住んでいるのはこの聖都だし……共祈願のために暇な聖女を集めれば対応は楽になるかもしれない。
自分で適当に考えてみたが、頭良いのでは……?
当たっていても当たっていなくても、どっちでもいいんだけどさ。
「ただ、それで良いのかを私はアリスさんにお聞きしたいのです」
「へ? 別にいいですけど?」
「それについて個人的なお話があるので、少しよろしいでしょうか?」
マグノリアさんが立ち上がった。
これは、なんかついて行った方が良い感じだな?
プレゼントが用意されてたりとか……? おほ。
連れられて廊下に出た。こんなところで二人きっりなんて……!
「教皇様にはお伝えするなと言われているのですが……それでもアリスさんには知っておいて欲しいことがあります」
「な、なんでしょう」
マグノリアさんの視線は真剣そのものだった。
思わず唾を飲みこむような、迫力ではないけど……何かを感じた。
「エリクサーの量産――あれの陰で死人が出ています」
「どういうことですか?」
純粋に意味が分からなかった。
ポーション量産してくれていた人が過労死したとか? そういう話なのか? それとも、もっと何か別の……。
「量産されたエリクサーはサバサの領主アミラル・リューゼ氏の主導で、各家庭に訪問する形で配られました。それ自体は問題なかったのですが、口減らしや借金返済のために貰ったエリクサーを飲ませない家庭があったのです。数自体はそこまで多くはありませんが……」
マグノリアさんの言っていることは分かる。
しかし、なんでそんなことをする輩がいるのか全然理解できなかった。
「え、エリクサーを飲ませないでどうするんです? 余ったエリクサーはどこへ」
「闇で売るのです」
「売る? まさか――」
「その、まさかです。エリクサーは非常に高価なもの、売れば高値で買い取ってもらえます。しかもサバサは闇市場がとても活発です。交易都市という多方から商人が集まる関係上、いくらでも取引をする機会がある。そういう環境でもあるのです」
交易都市だから云々という話は頭に入ってこなかった。
弱っている家族を放置、見捨てて金を得る。
何か理由があったとしても、それは――現代人として理解しがたかった。
「ただ、これは防げた可能性があります」
「そ、それは……?」
もう二度とこんなことが起こっちゃいけない。
ただグルグルと渦まく感情と思考では、それくらいしか思えず。
「エリクサーを職員の前で飲んでもらう。そうすればエリクサーの転売は防げたはずではあります」
「そ、そうですね」
たったそれだけだった。
それならエリクサーを売るなんてことはできない。
「本件は領主アミラル・リューゼ氏の見通しが甘かったせいでもあります。ただ、エリクサーを量産して配るなどという歴史上存在しなかった対処法……ミスは起こり得るでしょう」
ミスは起こり得るって、それで死人が出ている。
私は領主さんを責めたいわけではないが、行き場のない感情だけが残る。
「アリスさん、あなたの発想力は素晴らしい。けれど、今までにない方法を選択することで別のリスクが生じてしまう可能性があります。それは覚えておいてください」
私は何も言うことができなかった。
土地の浄化の時だって、騎士さんたちが傷ついた。
今回は死人まで出てしまった。
「さあ、アリスさん、戻りますよ。これから新しい仕事の話をします」
「は、はい」
私は重い足を動かして、部屋の中へと戻った。
楽しいお茶会みたいな雰囲気が、一気に自分の中で崩れてしまった。
「今日この四人に集まって頂いたのは、今月末に行われる聖都の結界の張り直しのためです。そのために少しでも、親睦を深められたらなと思った次第です」
どうしても集中できないが、結界という言葉には聞き覚えがあった。
「一応の説明ですが、結界は瘴気の侵入を防ぐ唯一のものです。ただ一月ほどで崩壊してしまうので、張替の必要性が毎回あります。今月のメンバーが私たちなのです」
そういう面子だったのか。
マグノリアさんが色々と説明してくれたが、ほぼ頭に入らない。
ただでさえ集中力がないのに、辛い話があって……頷くことしかできなかった。
◆ ◆ ◆
そんなお茶会が終わった。
フェルトさんは「じゃあな!」と言い残して、誰よりも早く去っていった。お菓子の類の半分は彼女が食べていた記憶がある。
「メテオールちゃん、今日は早めに帰らせてもらうね」
「……アリスさん、大丈夫ですか?」
この場で一番幼い少女は心配そうに私を見つめてくれている。
同じ街に派遣された同士だし、彼女と気持ちを共有できたら楽になれるかもしれない。けど――。
「だ、だいじょうび……ちょっと眠いだけ」
「……本当ですか?」
メテオールちゃんの純粋無垢な心配が私を貫く。
疑われている。だけど、この子には話せない。
自分たちの聖女としての行いで、間接的に死人が出てしまったこと。そんなことを言って傷つけたくないのだ。恐らくマグノリアさんも同じ気持ちなんだろう。
「ほんとに、眠いから帰る……」
「……話したくなったら、話してくださいね」
「うん、ありがとう」
本当にこの子は優しい。
こちらに何も背負わせないような言葉選びだ。
私は帰ろうと廊下に出た。
そこには、アルメットが待っていてくれた。
「どうかしました?」
「……いや、ちょっとね」
「アリス様がちょっとって、相当じゃないですか!? 何があったんです? もしかしてマグノリア様に文句言われたとかですか? 正式に抗議しましょう」
勘が良いのに、火力の高い提案を同時にするな。
そこはまずは心配だけにしてくれ。
「そんなことしなくていいから」
「あ、あれ? マグノリア様に文句言われたのは事実!?」
「マグノリアさんから言われたのはそうだけど……文句とかじゃないよ」
「じゃあ何を?」
アルメットのテンションは変わらない。
本当にありがたい。
「家に帰りながら説明するね」
「どんとこい!」
私はアルメットにエリクサー生産の裏で起きていたことを話した。
エリクサーを使わないで売りに行こうとする輩がいて、そのせいで死人が出てしまったこと。もしかしなくても自分が――。
「いや、一番悪いのはその家族ですよ。アリス様が悪いわけないです」
「でも、目の前でエリクサーを飲んでもらえば、こうはならなかったって……私がそれに気づければ」
そうだ。
何が一番胸に引っかかっているのかと言えば、どうにかできた可能性があること。
自分がエリクサーの量産だけを考えずに、その先のことまで想定できれば……。
「……アリス様、何かとんでもないこと考えてません?」
「もっと色々なことを先まで考えられたら良いって、とんでもないこと?」
これでも真剣ではあるのだ。
どうしたら良かったのか考えたい。考えなくちゃいけない気がする。
「いえ、ご立派ではあると思います。だけど――向いてないと思います」
「む、向いてない!?」
その発言こそがとんでもないだろ。
確かに私は頭の良い方ではないけど、悲しくなるかもしれない。
「向いてないというか、アリス様が一人で背負うことが間違ってます」
「どういう意味?」
「これは私の失態でもあると思うのですが――アリス様の発想は素晴らしいのです。ただ、あくまでアリス様は祈りをサボりたいという気持ちがあるからこそ輝くと私は考えています」
これ誰かにも言われた気がする。
……あ、思い出した女神さまだ。
あの全てを俯瞰していそうな神様が言うのなら、間違いではないのだろう。
「それで……?」
「逆に言えばアリス様はそれ以外は凡庸……下手したら平均以下です」
「まあ、はい」
否定はしきれない。
他の聖女というか、人として欠点が多いのは理解してる。
「だから、足りないところは誰かと協力しましょう。発想をどう実現するか、実現した後どうするか? 私も一緒に考えます。今までは力になれず、申し訳ありませんでした」
アルメットの提案は最もだ
ただ、それでも私のやり方でもう誰かが死ぬなんてことは起きて欲しくないのだ。
「でも……!」
「…………悔しいですね。アリス様に私の言葉が響かないことが、ん?」
もうそろそろで家だというところで、ロバを連れた郵便屋が家の前に留まっているのが見えた。アルメットがちょっと大きめの声を上げる。
「恐らく聖女アリス様への手紙ですよね? 貰います」
「聖女様への手紙なんですけど……数が膨大で」
郵便屋さんはパンパンになったバッグをそのまま渡してきた。
え、本当に膨大じゃない?
な、なんだ、殺害予告か?
「あと、これは直接渡すようにと」
「分かりましたけど……え、教皇様からですよ。アリス様」
「わ、わかった」
私は金がかかって良そうな封蝋をひっぺがす。
そこには教皇様からの簡素な一文が。しかも日本語なんだが……。
『教皇フェロー・アンジェルです。
実はお忍びでサバサに行ってきたんですが、そこでアリスさんへの感謝の手紙を沢山いただいてきました。お暇なときにお読みください』
私は何となく一番上にあった手紙を手にとった。