ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
糊で固められた部分を剥がす。
誰から送られたものらしいし、丁寧に。
何か文字が書かれているが……。
「読めない……アルメット、通訳お願い」
「嫌です」
「え? なんで?」
アルメットから通訳を断られたのは初めてだった。
こいつ、いつも判断が瞬時なんだよな。私にもその思い切りの良さが欲しい。
「これは私ではなく、アリス様が読むべきものだからです。私の言葉では、彼らの文章に込められた気持ちまで上手く再現することができません」
筆跡の癖まで感じ取ることに意味があるのか?
デジタルネイティブだから、手書きに愛情なんて……。
そうは思いつつも、アルエットの言うとおり祈ることにした。
「文字を読めるようにしてください」
そこそこ祈るのには時間がかかった。
ただ読みたい気持ちだけは漠然とあったので、そこまで苦ではなかった。
祈りが叶う感覚。
女神さまは微笑んでいた。
「じゃあ、読むね」
文字の内容、ニュアンス、書き方で何となくのその人の情報までもが分かるようになった。最初に手に取ったのは、おそらく文字を書きなれている男性。スラスラとしているが、力強さがあった。
『聖女アリス様へ。
自分は街でポーション屋を営んでいる者です。
家族には赤ん坊がいて、もう一日と持たない状況でした。
ですが、アリス様が迅速にエリクサーを量産してくれたお陰で助かりました。感謝してもしきれません。本当にありがとうございました!』
感謝、されている……。
いつもなら飛び上がって喜ぶこと。
いや、勿論嬉しいんだけど――気分が。
ただ、なぜかそれでも次の手紙に手を伸ばしていた。
次の人はおそらく女性だろう。
丁寧で読みやすい、ただ、少しだけ癖があるような。
『聖女アリス様へ。
私には持病を患っている夫がいます。
瘴気病に感染して、もう長くないから殺してくれと言われました。
だけど、その時、アリス様が製造してくれたというエリクサーのお陰で最悪のことにならずに済みました。ついでに持病まで治ったので、夫は生き生きしています。
もう長くはない人生ですが、夫と楽しく過ごせそうです。
ありがとうございます。本当はお会いしてお礼をしたいのですが……お手紙にて失礼させていただきます』
私は気づけば涙があふれて来ていた。
なんでかは本当に分からない。
自分は間接的に人を死に追いやってしまった。アルメットは悪くないというし、マグノリアさんですら、そこを責めたいわけではないだろう。
悪くないと言われても、自分が罰されたい気持ちがある。
例えとして適切かは知らないが、夜道の中央に人が寝ころんでいて気付かずに轢いてしまった。そりゃ道のど真ん中で寝ている方が悪いかもしれないが、もう少し気をつけていたら……とは思わずにはいられない。
多分、適切じゃない例えだろう。
でも、今の私はそういう気持ちなのだ。
なのに、感謝の手紙を見ると涙が止まらない。
なんでかは一切分からない。
嬉しいのか、自分によって救われた人がいるのを実感できるのか。誰かが死んだ事実を忘れられるからか。
でも、私は無我夢中で手紙を読み漁った。
全て、私への感謝が書かれている。更に、私がエリクサーの量産というスピードが出る手法を取ったから助かった旨も多く書かれていた。
そんな中で、気づけば最後の手紙に辿り着いていた。
あまり上手い字ではないが、それは筆がのっているせいだからだろうか?
『聖女様へ。
よお、アリス様、俺はフランク。分かるか? ポーション屋のおっちゃんだ。
迷惑な話かもしれねえが、俺はアリス様に心酔しててよ。サバサの住民たちに声をかけて、感謝の手紙を送ろうって企画したんだ。
アリス様にとっては何となくかもしれねえが、初めに作ったエリクサーを俺にくれただろう? あれが実は、すげえ嬉しくてよ……。
それにエリクサーの量産なんてことも史上初だって聞いてよ。すげえ人だって思ってるんだ。アリス様は頭良いのか分からねえところがあるから、ちゃんとご自身の凄さに気づいて欲しくてな。
あ、因みにエリクサーの量産法を口外したものは投獄されるらしいんだよ。俺、色んな奴にアリス様の凄さ語っちゃってるし、この感謝の手紙企画もバレたら投獄かもな! まあ、別にかまわねえよ。それだけの凄さがあんたにはある! よっ、稀代の聖女様!』
ポーション屋のおっちゃんはそこまで私のことを……。
投獄の危険まで冒して。
本当に捕まっていたら、何とかして助けよう。
「分かりましたか、アリス様。貴女様のやり方でなければ、助からなかった者たちも沢山いたんです。だから、自分はダメだとご自身を否定しないでください。あなたは凄い人なんです。アリス様は稀代の聖女です。少なくとも私もそう思っています」
胸の中にはとても暖かいものが流れていた。
亡くなってしまった人たちには申し訳ないけど、前を向き始めていたから。
「いいのかな?」
「何がです?」
「このまま、私らしくやっていって」
アルメットは見たことないくらい眩しい笑顔を向けてくれた。
「いいんですよ! 前も言いましたけど、ブレないでください。それでこそ、アリス様なのですから! 足りないところは私も全力でサポートしますので!」
アルメットが言ったように、色んな人を頼る。
自分にはサボるための悪知恵を絞る脳しかないのだ。だから、それ以外のことは欠けてしまうこともある。でも、誰かに協力してもらえれば見えなかったことだって、見えるようになるはずだ。
「わかった……。今度はもう失敗しない」
自分のだらしなさで、救える人もいる。
ドパガキのまま頑張ろう。それが、私――ドパガキ聖女としての歩く道だ。