ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
「……それで次の仕事はなんだっけ?」
決意新たに――というほど何か心変わりしたわけでもないが、次の大仕事が良く分からない。メンタルにダメージを受けてたせいでちゃんと話を聞いてない。
まあ、いつもの長いお話は集中力がなくて聞けないのもあるが。
「アリス様のスケジュールを見ると、今月末に結界を張り直す大仕事が入ってますね。マグノリア様は仰っていませんでしたか?」
「言ってたような気がする……けど、何するかまでは聞いてないや」
「いや、絶対説明してると思いますよ。新顔のアリス様がいるんですから」
「……覚えてない」
「はあ」
その、はあ、結構効くんだが?
今の私は弱ってるんだぞ! もっと丁重に扱え! 実際扱われても困るがな!
「ご説明します」
「よろっぴ」
「なめてます?」
「ある程度は――っていいから、説明してよ」
「はいはい」
なんかいつもの空気になって来たな。
やっぱりメンタル病むと碌なことにならないぜ!
「では、まず結界とは――」
結界は瘴気を防ぐ唯一の防御策。
瘴気は壁を密閉しようが何しようが防げないが、聖女の奇跡で作る結界だけは破れないことが昔から知られている。らしい。
「で、なんでそれに四人も必要なの?」
「お気づきでしたか」
「まあね。流石にただのお茶会じゃないのは知ってる」
「おお」
何がおおだよ。
「で、聖女が四人必要なわけなんですけど――」
街の端、東西南北に聖女を配置して共祈願をする。
その強い祈りを使い、聖都全体を覆うような結界を張る。
「それだけ?」
「そうですね。ただ――アリス様の大嫌いな長時間の祈りです」
「うん。そうだよね? このデカい聖都を覆うような結界、しかも瘴気だけを阻むようなものを作るなんて簡単じゃないよね? 知ってた」
「知らないから、説明したのでは?」
うるせーよ。
そうなんだけど、そうじゃないの! なんとなく分かってただけなの!
「じゃあ、サボるために頑張りますか」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、何からします?」
「何から、ねえ……」
正直なところは何もしたくない。
そうじゃなくても、もう明日からは通常通り病院巡りだし。
「……結界って四人いないとできないのかな?」
「良い観点ですね! でも、その答えを私は知りません」
塾講師みたいな反応したのに、知らないのかよ。
まあでも、こればっかりは実地経験がないと分からない気もする。
「はあ、祈りたくないけど、祈るわ。一センチ四方くらいの結界を作ってみる」
「がんばれ♥がんばれ♥」
なんか卑猥じゃないか……いや、私がネットに毒されすぎてるだけか。
目を瞑って――祈る!
一センチ四方くらいの結界ができますように。
一センチ四方くらいの結界ができますように。
一センチ四方くらいの結界ができますように。
そうず~っと心の中で祈り続けたが……。
集中力の欠落もあるが、まだ少し精神の落ち着きを取り戻せないようですぐに目を開けてしまった。
「……どれくらい経った」
「五分くらいです」
「なるほどね……」
異世界聖女生活ももう一か月と半月くらいが経過した。
多少は祈る時間が増えてきていたのだが、心の乱れによって異世界に来た時と同じくらいの集中力に戻ってしまったらしい。
う~ん、これは本気で策を考えないとマズい。
聖都で瘴気病が発生したら、この国は冗談抜きで終わりそうだし。結界を張るのは、想像以上に大事な仕事のはず。
なのに祈れない私。
「つまりアリス様は、こう言いたいわけですか?」
「? どうぞ」
「一センチの結界は五分祈っても作れない。病気を治すよりも結界を作ることの方が、より高度な奇跡なんじゃないかと!」
アルメットは鼻を高くして語っていた。
彼女は恐らく、私が結界についての考察をしていると思い込んでいたのだ。それは、私の発想に協力してくれることの表れではあると思うのだが――。
「ごめん、別のこと考えてた」
「え!? ま、まさか、もっと高度なことを?」
「い、いや……集中力落ちたなって」
「自分の能力の検証だったんですか!? 結界の話は?」
「それは今から考えようと思ってた」
アルメットは明確に肩を落としていた。
ご、ごめんて。
「だけどアルメットの言うとおりだね。一センチ四方の結界でも、祈りで作るのは相当時間がかかりそう。だけど――それ以外の可能性もあると思う」
「考えをお聞かせください」
アルメットが真面目に聞いてきた。
そこはボケを入れてくれる方が、自分としてはありがたいが……。
「いくつか考えられるけど――まずは結界そのものの生成に馬鹿みたいに時間がかかる説。これは四人の共祈願で四倍のスピードにしないと結界の実現が現実的ではないから、四人必要」
「なるほど……」
「二つ目は、そもそも結界は一人では生成できない。共祈願でしか作れないものという考え方」
この世界の祈りは万能が過ぎる。
そりゃ祈りという対価はあるけど、それにしたって何でもできる。
結界には、もしかしたら――条件があるかもしれないという考え方だ。
「分かりました。明日はメテオール様に協力していただきましょう! 私がアポを取ってきます!」
アルメットは私を置いて出かけていってしまった。
協力してくれるとは言ってたけど、頑張りすぎじゃないか?
そんな私のことが好きか?
◆ ◆ ◆
今日は疲れたしさっさと寝よう。
そう思っていたのに……玄関のベルが鳴る。
こんな時間に誰だよ?
ま、まさか。強盗!? これが闇バイトってやつですか?
「アルメット、よろしく」
「言われなくても行きますよ」
そんなアルメットが玄関で何か対応をしていると思ったら。
私の部屋をノックする音。
「なに? 今、動画見てたんだけど」
「アリス様、メテオール様がお越しになられました」
「ま、マジ? ちょっと待って」
来るの明日じゃなかったっけ?
早すぎないか?
「ど、どうぞ」
「失礼します」
メテオールちゃんはどう見ても寝間着姿と言った感じだ。
なんだ、私と添い寝にしに来たのか? やめておいた方がいいぞ……。
「明日は聖女としての仕事があったので、来ちゃいました」
「ご、ごめん」
私はアルメットに軽く視線を飛ばした。
まさか、おめえがこの子に圧をかけたんじゃねえだろうな? と。
そんな私の意図を察したのか、彼女は首をぶんぶんと横に振っていた。
「それで、協力して欲しいことって何ですか?」
「いや、結界のことについて知りたくて。ちょっと実験したいなあ、と思って。それだけだったんだけど、ほんとごめん」
この聖都の治安が如何ほどかは知らんが、流石に子どもがうろついて良い時間であるまいのは分かるぜ。
「良いんです。アリスさんのお力になれるなら、それで」
メテオールちゃんは優しいなあ。
さっき落ち込んでた時だって、無理に踏み込んでこなかったし。ほんまに凄い子。
「メテオールちゃああああん、ありがとう」
「いつもお世話になってますし、それに……アリスさんは私の英雄なので」
英雄? そ、そこまで私のことを尊敬してくれてるの?
それとも聖女のこと全般をさして英雄って言ってるのかな?
気にはなるけど、本題から逸れ過ぎてしまう。今度聞こう。
「それで結界について検証したいんだけど、手伝ってもらっていいかな?」
「検証……もしかしてエリクサーの時みたく、別の結界生成方法を考えているんですか!?」
メテオールちゃんのお目目がキラキラしている。
エリクサーの話はちょっとだけトラウマになっているが、とりあえずは。
「まあそんな感じ。できるかは分からないけど」
「さ、流石です! 何でも手伝わせてください!」
滅茶苦茶乗り気なのは助かる。
何か新しいことを考えるってワクワクするよな。分かる。
「一センチ四方くらいの結界を作りたくて……一人でやっても作れなかったから、メテオールちゃんと二人での共祈願なら作れるか試してみたい」
「了解です……あ、でも私、マグノリアさんから聞いたことがあるんですけど――うーんと」
「そ、それは……?」
別にもったいぶってるわけではないだろうが、凄く気になる。
メテオールちゃんは思い出したかのように、自信なさげに語りだした。
「関係あることかは分からないんですけど、結界は三人でも作れるって」
「ほお~ん」
三人でも、ねえ。
その言い方的に四人で作るのが基本のような。
「参考になりそうな情報ありがとう!」
「お役に立てたなら幸いです」
メテオールちゃんが微笑んでいた。やっぱり可愛いのお。
「一応、さっき言ってた結界の生成を試してみてもいい?」
「はい、勿論です!」
「じゃあ、祈る内容は、一センチ四方の結界を作ってください、で」
「了解しました」
「いくよ、せーの」
一センチ四方の結界を作ってください。
一センチ四方の結界を作ってください。
一センチ四方の結界を作ってください。
メテオールちゃんと心を共にしているからか、一人でやったときよりかは長い時間祈れたような気がする。病みそうなことは思い出さないようにしよう。
ただ、それでも……。
「中々できないですね」
「みたいだね」
「もっと祈ります?」
メテオールちゃんは祈りに対してあまりにも拒否反応がない。
現代人もこの集中力は見習った方がいい。一番は私かもしれないが。
「いや、大丈夫」
「そうですか……? もっとやりません?」
祈りジャンキーかよ!
そこまでしたくないから私はやってるのに。
「今日はありがとうメテオールちゃん――その、泊って行ったら?」
「そのつもりで来ました!」
恰好から何となくそんな気はしていた。
「じゃあ、お客さん用の部屋を用意するから――」
「いえ、大丈夫です。アリスさんと一緒に寝ます」
「な、なぜに?」
正直嫌だ。
いや、そりゃね。メテオールちゃんを抱きながら寝たら気持ちいいとは思うよ。
けどさあ、スマホ弄れないじゃん! 苦痛!
「い、嫌ですか……?」
そんな彼女は目をうるうるとさせて見つめてくる。
この罪悪感の無さよ! うおー、逆らえねえ。
「わ、分かった。一緒に寝よう」
「はい、ありがとうございます。アリスさん」
そして二人で一緒に寝ることになった。
朝起きれない姿は見せられないな……そうだ。
女神さま……私を朝六時に起こしてください。
女神さま……私を朝六時に起こしてください。
あ、来た。祈りが通じた。
女神さま、キレてたな。私を目覚まし時計に使うなって。
それはそれとして――明日の仕事終わりに寄りたいところができた。
マグノリアさんに聞きたいことがある。