ドパガキ聖女は祈らない   作:創作中毒のおっさん

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第三話 メイドから見たドパガキ聖女

―アルメット視点―

 

 私は、聖女――アリス・フゼ様にお仕えしている。

 聖女の側付として、彼女の身の回りのことをお世話する役目だ。

 

 聖女の朝は早い。

 私は、一応朝の六時に起こしに行く。

 

「アリス様、起きて! 起きてください!」

「……む、無理、うるさいよアルメット」

 

 アリス様は寝言のように呟いて背を向けてしまう。

 肩をゆすってみるが、起きる気配はない。

 

 ベッドに置かれているのはスマホなる道具。

 これが何なのか、詳しいことは分からないのだが、アリス様は暇さえあればこれを見ている。

 

 今も尚、動画なるものが流れ続けている。

 これを見ながら寝落ちしてしまったのだろうことは簡単に想像ができる。

 

「はあ……また起こしに行かないと」

 

 幸いにも今日の仕事は九時からだ。

 寝かせていても問題はないはず。

 

 八時ごろになり起こしに行こうとすると、アリス様がリビングに降りてきた。

 もう朝食は作ってあるので、食べてもらう。

 

 彼女は席について尚、スマホを見続けている。

 食事のマナーも何もあったものではない。

 もしかすると異世界では普通なことなのかもしれないが。

 

「ねえ、アルメット……たまには納豆が食べたいんだけど」

「な、なっとう?」

 

 アリス様は目を合わせてくれないことも多い。

 特に朝はボケッとしているせいか、ずっとスマホである。

 

「そのニュアンスだとこの世界にはない感じか……」

「そう……ですね。少なくとも私は知りません」

「ちょっと作り方調べてみようかな……」

 

 そう言ってアリス様はスマホを見せて来た。

 何度も触らせてもらっているので、操作方法自体は分かる。

 

「納豆菌の入手……稲藁は田舎の方に行けば入手できそうですね」

「ってことは王都で手に入れるのはちょっと難しいか……」

 

 アリス様はスマホで色々と調べながら唸っている。

 

「……アリス様、そろそろ急ぎましょう。間に合いませんよ」

「なんで私は異世界に行っても時間に縛られてるんだろう」

 

 悲しそうな顔をしながら、私が作った目玉焼きを急いで食べてくれた。

 それからは身支度を整えて、その間もアリス様はスマホを弄り続けている。

 だけど、メイクが終わると必ず。

 

「ありがと、アルメット」

 

 それだけは、必ず鏡越しに目を合わせて言ってくれる。

 ダメなところはたくさんあるけど、こういう律義さは好きだ。

 

「仕事ですから、さあ、行きましょう。アリス様」

「もう帰りたい……」

「まだ家から出てすらないですよ!?」

 

 そんな聖女様と一緒に馬車に乗り込んで、仕事先へ。

 ここ最近は病院に行くのがアリス様に与えられた仕事。

 

 上はとにかく仕事や祈りに慣れてもらおうと思っているのだろう。

 病院に着くと大勢の患者さんたちに歓迎される。

 

 アリス様はにこやかに手を振りながら歩いていく。

 性格から考えて鬱陶しいと思っていてもおかしくないのに、嫌な顔を見せない。

 

 今日回復させる患者さん。

 幼い男の子だった。

 

「私はアリス。君の名前を教えてくれないかな?」

 

 アリス様は祈りをする前に必ずコミュニケーションを取る。

 本人曰く、これをすると祈りやすくなるらしい。

 他愛無いことも含めて、一時間ほどは談笑する。

 

 個人的にこれはあんまり良くなんじゃないかと思っている。

 その理由は見てれば分かる。

 

「じゃあ、元気になろう」

 

 アリス様は男の子の手を取った。

 彼女はいつも苦しそうに祈っている。

 

 数分後、光が男の子を包んだ。

 

「胸の苦しさが無くなった……」

「元気になった? よかった~! また病気にならないように手洗いうがいをしっかりね!」

 

 そしてアリス様は病室から急いで立ち去ろうとする。

 だけど、男の子が大きな声を上げた。

 

「お、お姉ちゃん! ほ、ほんとうにありがとう!」

 

 彼の瞳にはとても強い感情が籠っている気がする。

 アリス様に救われた人は、そうして魅了されてしまうのだ。

 男女も年齢も問わずにみんな。

 

 やっぱりあの雑談がね。

 聖女様が一対一で一時間も話を聞いてくれるという体験がね……。

 

 私は男の子に礼をして、アリス様を追いかける。

 彼女が向かうのは人目のつかない場所だ。

 

「祈り、無理! もうほんと無理! ドーパミン出ない! 家に帰って、ずっとスマホ弄ってたい!」

 

 はあはあと肩で息をしながら、気持ちをぶちまけていた。

 人を救った後は、いつもこうやって愚痴を吐く。

 しかしながら――。

 

「でもアリス様って、患者の人に文句言ったりはしませんよね」

「そんなの当たり前でしょ。悪いのは病気! 私だってそのくらいは分かる」

 

 嫌々と言いながらも、人を救うことに躊躇が無い。

 アリス様はそういうお方で、紛れもなく聖女たる志を持っている。

 傍から見ていて、私はそう感じる。

 

「で、この後は教皇様との面会だっけ?」

「そうですね。何かお話があるらしく……」

「絶対面倒ごとだよこれ……」

 

 グダグダ言いながらもアリス様は立ち上がった。

 

「アルメット、帰ったら次郎系ラーメン作って」

「じろうけいラーメン? 分かりました! アリス様が喜ぶなら、何でも」

「楽しみだなあ……はあ」

 

 私は少しでもアリス様のストレスを軽減できるようにするしかない。

 意外にも責任感強めなご主人様のために。

 

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