ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
馬車に揺られて教皇様が住んでいる宮殿に着く。
いつ見てもデカくて煌びやか。
やはり宗教というものは、金が集まってくるものなのだろう。
私も聖女としてアイドル売りしたら儲かるかな?
この顔じゃ無理か……。
「アリス様、降りましょう」
「分かってる、けど、足が重い……!」
全くもって乗り気じゃない。
理由はいくつかあるが、まずは気まずさだ。
「……懇親会、行くべきだったんじゃないですか?」
「うぐっ……! ま、まあそうなんだろうけど、知らない人いっぱいだし……私、この世界の常識とか知らないから、迷惑かけたら嫌だし」
「ただ家でゴロゴロしたいだけですよね?」
教皇様が私のために開いてくれた懇親会、全部断ってる。
私がこの世界に慣れるためという優しすぎる理由で開催してくれているが、当の本人である自分は他の聖女たちに会いたくない。
人間性が終わっている私と聖女の話が合うと思うか? 合わないだろ……。
ただ、仕事として呼び出されては行くしかない。
「な、なに言われるんだろう……」
受付のシスターさんに案内されるままに進んでいく。
通りかかる他の人は礼をしてくれる。
聖女だからってそんなに畏まらないで欲しい。
そして、案内された一室。
こういう時は何回ノックだっけ、多分二回だろう。
「失礼します」
「待ってましたよ。アリスさん」
そこにいたのは教皇様ではなかった。
ピンク色のふわふわとした長い髪、あまり体の起伏が分からない服装なのに分かる柔らかそうな身体。穏やかな目線には、ママ以上の母性を感じてしまう。
「初めまして、わたしは聖女のマグノリア・オールと申します」
「布瀬有栖です。えっと、私、教皇様に呼ばれて来たんですけど、多分間違えたみたいですね。失礼します」
間違えた部屋に案内されたのだろう。
私はアルメットを連れて退散――。
「ちょ、ちょっと待ってください! 教皇様に頼んで、わたしが連絡役を引き受けたんです。だから間違ってませんよ」
一瞬だけ嫌な顔をしそうになった。
こんな見るからにキラキラ聖女様が何の用なのか?
「わかりました……」
「どうぞ、椅子に座ってください」
これは話が長くなりそうな予感。
サッと帰って、ゲームやりたいのに!
「アリスさん……異世界での暮らしはどうですか?」
「ぼちぼちです」
「何か困っていることはありませんか?」
「……強いて言えば日本食が恋しいことくらいですかね」
何だろう、この会話。
まるで面談のような……。
「ほ、本当ですか……?」
「本当ですよ。慣れないことはありますが、まあどうにかなってます」
「なにかあったらすぐに相談してくださいね! 力になりますから」
もしかして、私を心配してくれているのだろうか。
感じた母性は嘘ではなかった……?
「それでオールさんが、受けている連絡って何なんですか?」
「マグノリアで構いませんよ」
「じゃあ、マグノリアさん」
マグノリアさんは、一枚の紙を取り出した。
そこには何かの文字が書かれていた。
異世界人だから読めないのもしれない。スマホ中毒だから視力が落ちてるだけという可能性もある。
「一つは懇親会に誘っても来ないので、何かあったんじゃないかと教皇様や私が心配で……事情をお聞きしたかったのです」
聖女と呼ばれる人たちとドパガキたる私で話で合うわけがないと思っていたので、いけませんでした。って言ってもいいかな? あとは懇親会より家でダラダラスマホ弄っているほうが楽しそうとかいう理由。
どっちにしろ言えねえ……。
「どうしても祈りで疲れていて……ごめんなさい」
「……! そうでしたか。そうですよね、いきなりこの世界に召喚されて聖女のお仕事の後に懇親会なんて大変ですよね。こちらこそ申し訳ありません」
あ、良心が……。
別に嘘をつくまでは良いと思ったが、それで相手に謝ってもらうとか最悪すぎる。
今度誘われたら行こうかな――すいません、やっぱり別問題ということで。
「それでお仕事の方は……」
「ここに詳細は記載してあるのですが、瘴気に侵された土地を浄化していただきたいと思っております。馬で一週間ほどの距離にある農村です」
「な、なるほど」
馬で一週間の移動がキツいな……祈って酔い止めを処方してもらおうかな。そうすれば、馬車の中でもスマホをいじれるかもしれない。
農村自体に行くことは楽しみだ。稲藁が手に入って食べたかった納豆を作れるかもしれない。そもそも異世界の農村に稲があるかは分からないけど。
「それで土地の浄化って何をしたらいいんですか?」
「祈りです。もう既に土地に瘴気をバラまいていた魔物は討伐しているので、土地を元に戻す祈りをしていただければ、それで完了です」
じゃあほとんどは移動時間かあ。
やっぱり暇つぶしは必要かな。ずっと馬車に揺られるだけとか耐えられない。
「参考までに聞きたいんですけど、土地の浄化ってどれくらいの時間祈るのが普通なんですか? 病気を治すのと同じくらいですか?」
ドパガキとはいえ多少は祈りに慣れてきた。
ただ祈りが五分を超えると、震えが止まらなくなってくる。
虚無に対する拒否反応がでてくるのだ。
「いえ、病気を治すのとは比べものになりません。一時間以上はかかります」
「は? 一時間……?」
五分で震えが出てくるのに一時間……?
私、禁断症状で死んじゃうよ? 死ねって言ってるのかな、この人?