ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
ただ勿論仕事を断ることもできずに出発当日を迎えた。
そうだ、超強力な酔い止めだけ出してもらおう。そうしよう。
「祈る!」
酔い止めください!
酔い止めください!
酔い止めください!
三十秒ほど祈ったが、何か起こる気配すらない。
「なんで?」
この前に煙草を未使用品に戻したときは三十秒ほどで願いが成就した。
それなのに、酔い止めを召喚することはできない。
なんの差があるんだろう?
「アリス様、そろそろ出発の時間ですよ!」
「分かってる!」
クソッ! 移動に一週間耐えないといけないなんて!
そうだ、この一週間を使ってどうにか一時間の祈りを避ける方法はないかを考えよう。集中力はないけど、私にはスマホがあるし。
「ポジティブに行こう! もしかしたらいい景色見れるかもしれないし!」
私は気分を上げてアルメットが待っている外へと飛び出した。
◆ ◆ ◆
家の外に出ると庭には騎士たちが並んでいた。
え、何の用ですか?
隣にいたアルメットが耳打ちしてくる。
「アリス様、説明しましたよね? 今回は護衛の騎士たちが同行するって!」
「え、聞いてない……けど?」
本気で聞いた覚えがなかった。
優秀なアルメットでも連絡ミスとかするんだ……意外!
「ちゃんと言いました! そしたらアリス様は『ギャハハ!』ってながらスマホしながら笑ってました」
SNSやら動画やらを見て笑うことはある。
しょっちゅうのことではあるので、いつのことなのか思い出せない。
「アルメット……ごめん、それ、多分私が悪い」
「ですよね! とにかく今は騎士の皆さんにあいさつをしてあげてください」
護衛の騎士たちって言ってたもんな。
ここで舐められたら終わりか……?
それとも聖女らしく慈愛に溢れた姿を見せるべきか?
一週間ずっと一緒にいるわけだし、ここはフレンドリーに行こう。
聖女っぽい言動を保てるか怪しいし。
「初めまして騎士の皆さん。私は布瀬有栖と言います。異世界から来たばかりで不慣れではありますが、聖女をやらしてもらってます。これから一週間よろしくお願いします。もしよければ、皆さんの名前も教えてもらえませんか?」
フレンドリーフレンドリー。
騎士の人たちは十人くらいだし、名前覚えることくらいはできるだろう。
上下関係は得意じゃない……というか中学では帰宅部で下級生と関わる機会がなかった私にはよく分からないのだ。アルメットは別枠だし。
「はっ、自分はシラドル・ジュラーレと申します! 先日――」
「もしかしてエールちゃんのお兄さんですか?」
異世界に初めて来た日に治した女の子の隣にいたような気がする。
そうでなくても、エールちゃんの下の名前もジュラーレだったはず。
似てるかどうかは分からないけど。
「はっ、はい! そうです。先日は妹が大変お世話になりました! 貴女様がいなければ、妹は……本当にありがとうございました! 何度感謝してもしきれません」
熱量のある感謝。
確かにこのお兄さんの気持ちは分かるが、自分は大した人間ではない。
ドパガキだよ?
「改めてこれから一週間、よろしくお願いします」
「はい! 命に変えてもお守りいたします!」
忠誠が重いっ!
もっと気楽でいてくれないと、聖女っぽい振る舞いをする必要性が出て来てしまう。その展開は息が詰まりそうで嫌だ。
私はスライド移動で、隣に並んでいた騎士さんに挨拶をする。
「僕は――」
そんな風にして顔を合わせを済まし、目的地を目指して出発することになった。
もうちょっと馬車の椅子を改良して欲しいな。
女神回線でゲーミングチェアとか買えないかな?
◆ ◆ ◆
「アルメット……聞いて欲しいんだけどさ」
私は王都から離れた木々の間に作られた街道の景色を見ながら話しかけた。
緑を見ると目に良いらしい……のは今はどうでもいいんだけど。
「聞きますよ」
「いやさ、私に土地の浄化なんてできると思う?」
「それ何回も聞いてますよ? 少なくとも他の聖女様はできているみたいですし、能力的には問題ないのでは?」
何回も聞いたっていいでしょ!
それだけ私は不安だし、一時間以上の祈りなんて絶対嫌なんだから!
「いや、私、集中力ないじゃん」
「はい」
「暇さえあればスマホ弄ってるじゃん」
「はい」
「そんな私が一時間も祈れるかって話なんだよ」
「無理ですね」
考えるまでもなく即答された。
もう一週間も一緒に過ごしてるし、それくらいは分かってくれるようになったか。
「でしょ! なんか能力足りなくてできなったことにして帰ろうと思うんだけど、アルメットも誤魔化すの手伝ってくれない?」
私だけだとサボったと思われるかもしれない。
だが側付きメイドである彼女が口添えしてくれれば納得を得られるかもしれない。
「それも無理ですね」
「なんでさ!」
「うーん、私だけの問題ではないので――」
「どういう意味?」
「着けば分かります」
もったいぶるなあ……。
煙草を復元したときくらいのキラキラ忠誠心見せてよ!
内心で愚痴っているといきなり馬車が止まった。
シートベルトがない馬車でバランスを崩して、アルメットに抱き着いてしまう。
「痛っ!」
「いや、私が盾になったので痛くないはずですよね?」
「なんかイメージの問題」
アルメットは細いのでぶつかったら痛そうだと思ってしまった。
まあ、私のせいでカロリーの高いもの食いまくってのでそのうち太るだろう。
アルメットは私を抱きしめたまま、窓を開けた。
横で護衛している騎士に話しかける。
「何が起きたのですか?」
「魔物が襲ってきました。対処するので、少々お待ちください」
その騎士さんは冷静だった。
恐らくそんなヤバい魔物じゃないのだろう。
「よいしょ」
なので、私は馬車の外に出ることにした。
「アリス様!?」
「見るだけ! 見るだけだから!」
刺激の少ない旅だ。
これくらい楽しんでも損はない。
「おお……!」
馬車の外に出ると騎士たちが魔物と戦っていた。
数匹の狼みたいな……よく見ると額に紫色の宝石がくっついている。
騎士たちは八人ほど対応しており、残りの二人は馬車を守っている。
私は馬車を守っている騎士に話しかけることにした。
「シュテルネちゃん……あれ、何ていうの?」
「へ? 聖女様? 危ないですって!」
シュテルネ・クアドラード。
護衛騎士の中では唯一の同年代の女の子。
仲良くしたいとは思ってたし、多分どこかで話すことにはなっていただろう。
「いいじゃん、守ってくれるんでしょ~」
「ま、守りますけど! 危険がないとは言い切れませんって!」
シュテルネはより近くで見物しようとする私を押しとどめた。
小柄なのに力強っ! これが騎士になる女の子かあ……。
「じゃあ、ここら辺で止まるけど……あの魔物はなんて言うの?」
「あ、あれは瘴気狼です」
名前的に、やっぱり狼なんだ。
マジで他人事感覚で騎士たちの戦いを眺める。
一進一退の攻防とかには全く見えず、騎士たちが優位に立ちまわっているように見えたからだ。
「……そもそも魔物って何?」
「に、二種類います。瘴気に侵された動物たちが魔物に変貌するものと、瘴気から生まれた化物の二種類です。ってわたしを解説役にしないでください!」
「いや~いいじゃん、この調子なら暇そうだしさ~」
私はシュテルネにグイグイ顔を近づけた。
半日以上歩いていたからか、少し汗臭いぞ~。
「ちょ、止めてくださいって! これじゃあ――」
「シュテルネ! そっちに一匹行ったぞ!」
騎士たちが戦っていない方角から瘴気狼たちが飛び出してきた。
一瞬で私たちのところまで迫り、その凶悪な牙で襲ってくる。
もしかしなくても、これって。
だがシュテルネは私を突き放した。
「…………」
一瞬彼女の口元が楽しそうに歪んだような。
抜刀して狼の首を一刀両断した。
目の前に倒れた魔物の傷跡からは血が噴き出していた。
ぐ、グロッ!
シュテルネは剣を振って返り血を一滴残さず飛ばしていた。
その剣の速度は凄まじく、空気が揺れていた。
「あ……! 聖女様、申し訳ありません! いくら貴女様をお守りするためとはいえ、突き飛ばしてしまうなんて」
シュテルネから手を差し伸べられた。
その手のひらには沢山のタコができていた。努力の証がすごい!
「しゅ、シュテルネちゃん、スゴっ! かっこよすぎる!」
「そ、そうですか? こんなの普通だと……」
彼女は困ったように眉を下げて謙遜している。
この表情……本当に大したことだと思って無さそうだ。
「そんなことないでしょ! みんなはまだ戦っているのに、シュテルネちゃんは一刀両断だよ? 普通なわけないって、特別な才能ってこういうのなんだろうなあ……」
「…………そ、そんなに褒められても」
シュテルネはそっぽを向いてしまった。
「もっとシュテルネちゃんのいいとこが見たい! 馬車の護衛は良いから、シュテルネちゃんが活躍してるとこ見たいなあ。お願い!」
女神様……私聖女じゃなくて騎士になりたいっす!
だって祈りとかより、絶対ドーパミン出る! 私に向いてる。
「そ、そこまで言うなら、やって来ますけど」
「お願いします!」
シュテルネはもう一人の騎士に私を預けると楽し気に前線に出て行った。
そして、目にもとまらぬ速さで瘴気狼を切り裂いていった。
「す、スゲー! カッコいい!」
ありがとう弟。
お前が好きな漫画とかのお陰で、ロマンが分かる。
全てを切り伏せたシュテルネは満足げな顔でこちらに戻って来た。
「お、お気に召しましたか?」
「すごい面白かった! ショート動画みたいで!」
「しょーとどうが? 聖女様が満足したなら良かったです」
私は一旦馬車に戻る。
荷物も積んであったそこには――。
「みなさんお疲れ様です! これ冷たい水なので、どうぞ!」
一人一人にお水を渡すことにした。
何もしてないからこそ、何かお返ししたい。
打算もあるけど。
「聖女様からお水をいただけるなんて……!」
「ありがとうございます!」
「大切に飲みます!」
騎士たちは喜んでくれた。
こういうコミュニケーションが一番大事だったりするんだから。
◆ ◆ ◆
一日目の移動は日が暮れると共も終了となった。
今日は野宿をするらしい。
異世界の夜空は綺麗で吸い込まれてしまいそうになる。
ただドパガキなので、ちょっと眺めていればもう満足になる。
もう夕食を食って寝るだけだけど、私にはやりたいことがあった。
「シュテルネちゃん、ちょっといい?」
「あ、聖女様! なんでしょう?」
シュテルネはさっきからご機嫌のようだった。
魔物と戦うのが楽しかったようにしか見えない。
「シュテルネちゃん、ちょっと剣貸してくれない?」
「良いですけど、何のために……?」
「シュテルネちゃんのカッコよさに憧れちゃった! だから、私も剣を扱えるようになりたいなって」
「そ、そんな……! わ、わかりましたけど、扱いには気を付けてくださいね。刃物ですから」
ママは私には包丁を握らせてくれなかった。
集中力ないから怪我するでしょって。
そうなんだけど、私は絶対に聖女より剣士の方が向いている!
シュテルネちゃんは剣を貸してくれた。
思っていたよりは軽い。
「これどうやったら使えるようになる?」
「とりあえず……一般的には素振りだと思います」
「なるほど、そりゃ!」
剣を振るう。
思ったよりもできた。
「これ何回くらいやればいいの?」
「型? ができるようになるまでです」
「百回くらい?」
「普通なら年単位? で時間がかかるそうですよ」
ドパガキ絶望。
それ多分、全然ドーパミンが出ない修行じゃん!
地道な努力とか無理!