ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
私は馬車から出て、騎士さんに話しかけた。
「騎士の皆さんが戻ってきたら伝えたいことがあります」
「はっ、了解です」
本当は私一人でもできたらいいけど、難しいと思う。
祈りを短縮することは多分できるはずだけど、その後には騎士たちの力が必要だ。
◆ ◆ ◆
「アリス様の護衛騎士一同、ただいま帰還しました!」
元気よく報告してくれたのは異世界にやってきたばかりのときに助けたエールちゃんの兄、シラドルさんだ。他の騎士たちも整列している。
「申し訳ありません、森では魔物を発見できず。次こそは探し出して見せます!」
嘘だからね。
ちょっとだけ心が痛い。無駄な事させてしまってごめんなさい。
それはそれとして、嘘はこれから現実になる。
「いいんですシラドルさん。何故なら森に魔物はいないからです」
「そうなのですか!? では、どこに……」
「地中にこの土地をダメにしている魔物がいます。それを今から祈りで召喚します」
「なんと!」
土の中に魔物がいる? そんなわけない……とは言い切れないか。
ただ、私はその魔物を地上に引っ張りだしたいわけではない。
辺り一帯の瘴気を集めて、魔物として形作る。
瘴気よ集まれ! 魔物よ現れろ。
瘴気よ集まれ! 魔物よ現れろ。
瘴気よ集まれ! 魔物よ現れろ。
体が震えてくる。
これなら短い祈りでも行けそうだと思ったのに……まだなのか?
頼む、瘴気集まって、魔物になって!
脂汗が滲んでくる。
もうちょっと、もうちょっとな気がする! だから――。
すると、辺りが眩い光に包まれた。
◆ ◆ ◆
「じゃ、邪道! とんでもなく邪道!」
女神さまは私のことを渋そうな顔で見ていた。
なにが邪道なのか(すっとぼけ)。
「アリスさんは聖女なんですよ! 聖女なのに、瘴気を集めて魔物を生成するって本末転倒もいいとこじゃないですか! 怖いですよ!」
「成功してたんですね。よかった~」
「よかった~じゃないですよ!」
いや、私としては成功してよかったから。
女神さまの気持ちとか関係ないから。
「いや、ありますけど!?」
「どう祈ろうがこっちの勝手じゃないですか?」
「それはそうですけど! 内心は自由ですけど!」
女神さまは大きくため息を吐いた。
そして、やれやれと言った感じで口を開いた。
「それで、どう考えたらあの結論にたどり着いたんです?」
「閃きです」
「だから、どう閃いたかを聞いてるんですよ!」
地団駄を踏む女神さま。
それもそうか。
まあ、発想のとっかかりになったのは――。
「祈りの時間差は何から生まれるか? って考えたからですかね」
「それはそうなんでしょうけど……」
「多少の傷って放っておいても治るじゃないですか? だから、自然に起こることを祈りで起こすのは難しくないんじゃないかなって。魔物は瘴気から生まれるそうですし」
そう、だから私の祈りとしては――。
意識としては瘴気を一点に集めることの方が気持ちの比重としては大きかった。
軽傷の切り傷なら自然になおるように。瘴気から魔物が自然と発生するように。
「切り傷を治すだけでそこまで……」
「そんなわけないじゃないですか~。まだ閃きの要因はありますよ」
「そうなんですか?」
これでも私は聖女として二週間ほど、この世界で祈っているのだ。
そしてそれが死ぬほど嫌だったのだ。
ず~~~~~~っと何とかできないか考えてはいた。スマホ弄りながらだけど。
「煙草です」
「あの不敬な煙草?」
「あれ、復元するのめちゃくちゃ速かったじゃないですか? でも、酔い止めは数分祈っても出てこなかった。つまり、ゼロから何かを生み出すよりも、元があるほうが早いと言う話っぽいなと思ったんです」
具体的な原理は分からないが、そういう傾向はあるんじゃないか。
要するに――。
「まあ、瘴気を集めて魔物を召喚>土地の浄化だと思ったので」
「まとめ方雑過ぎ!」
なんか色々考えて、魔物召喚の方が簡単そうだと思っただけだ。
集中力ないので、まとめるのは無理。
「女神として嫌は嫌ですけど……まあ、認めます」
「よっしゃあ!」
女神様公認!
これからも抜け道探そう!
「……アリスさん。でもまだお仕事は終わってませんよ」
「分かってますよ! 魔物倒さないと終わらないんですよね、それくらいはどうにかしますよ、騎士たちが!」
「だったら良いんですけどね……頑張ってください。色々言いましたけど、アリスさんには期待していますよ」
女神さまが微笑んでくれた。
ただ私は期待に応えようなどという人間性ではない。やらなきゃいけないことは渋々やるけどさ!
◆ ◆ ◆
現実世界に帰ってくる。
さて、どれくらいの魔物が出てきたのかな!?
目の前にいたのは全長五メートルはありそうな巨大なゾウ。
あまりに大きさに思わず腰を抜かしてしまう。
それが私を踏みつぶそうと……。
「アリス様、危ないっ!」
シュテルネちゃんが私を抱きかかえて何とか、その足を回避した。
「だ、大丈夫ですか? アリス様?」
「だ、だじょうび……」
ちょっとちびりそうになったけど、怪我はないはず。
「みんな! 行くぞ! 聖女様が活躍の機会を与えてくださったぞ!」
シラドルさんが騎士たちを率いて突撃していった。
よし! これで後は見てるだけ!
そう思っていたのに――騎士たちが蹴散らされていた。
幸い死んではいないようだが……。
「あ、あれ?」
もしかして、ヤバい?
今、象の魔物と戦っているのはシュテルネちゃんだけだ。
冷静に考えてあの巨体を引き付けてるのすごいな……。
ただそんなカッコよくて馬鹿強い彼女も押されているような。素人目だから良く分からないけど。
「アリス様! どうにかしてあの魔物倒さないとマズいですよ!」
アルメットが珍しく焦っている。
そんなことは私も分かってる!
ただ村にも戦力になる人なんていないだろうし、ここでどうにかして勝つしかない。勝たなきゃ村も踏みつぶされて終わる。
「アリス様! 騎士たちを復活させてゾンビアタックしましょう!」
ゾンビアタック。
やられた騎士たちを私の祈りで復活させて戦わせる。またやられた、私が復活させて戦うを繰り返す。確かに聖女としてはポピュラーなやり方かもしれないけど……?
何回も祈らなくちゃいけないよね! それ!
「別のやり方で勝つ!」
アイデア自体はあるのだ。
やる意味も機会もないから、やらなかっただけで。やってみかった祈りが。
「シュテルネちゃん! ちょっと耐えてて、すぐに助けるから!」
「え……はい!」
一瞬だけ嫌そうな顔をされた。
まあ、楽しそうだったもんね。見てればなんとなく分かるよ。
「祈ります!」
私を剣なんて軽々振るえるくらい強くしてください。
私を剣なんて軽々振るえるくらい強くしてください。
私を剣なんて軽々振るえるくらい強くしてください。
こんなにもワクワクする祈りは初めてだった。
人助けもいいけど……やっぱり自分に得がある方がいい。
これで強くなったら聖女辞めてもこの世界で生きていけるんじゃね?
シュテルネちゃんみたく、強くなって無双するぞ!
妄想が膨らんでいるせいか、いつもより長い時間祈っている気がするが、それでも祈り続けた。恐らく難易度が高い願いに分類されるのだろう。
すると、光が私を包み込んだ。
女神さまにため息を吐かれたのだけ聞こえた。
自分勝手な願いなのは十分わかってますよ!
「お、おおおおおおおおおお! なんか体がめちゃくちゃ軽い!」
「あ、アリス様、一体何を?」
「祈って自分を強くしてみた! ちょっと戦ってくる!」
「アリス様!? 危ないですって! アリス様!」
今なら百メートル九秒台くらい余裕で行けそう!
私は落ちていた騎士の剣を拾って、瘴気から生まれた巨大象にジャンプして斬りかかった。
ひょえええええ! すげええええええ!
あり得ないくらい跳んでる!
「えーい!」
そのまま剣がゾウを切り裂く……なんてことはなかった。
途中で刃が止まって、私は宙ぶらりんになる。
「パオーーーーーー!」
ゾウが私を振り払おうと暴れ始める。
「あわわわわわ! 落ちる! この勢いで振り払われたら大怪我するか、死ぬううううう!」
なんか瘴気でできた? どす黒い血も流れてくるし!
折角の聖女衣装が台無しになってしまう!
だが、急にゾウの姿勢が崩れる。
「わわわ!」
「気持ちいい……!」
シュテルネちゃんが満足げにゾウの足を斬っていた。
ゾウの方は右前足を切られても、なんとか踏ん張っているようだ。
「シュテルネちゃ~ん、頑張って!」
暴れ続けるので、私も手を離して着地なんてことができない。
ちょっとだけ状況は優位にはなっているけど。
ほんとうは私が斬って終わりのはずだったのに。
ぶら下がってるだけの人になっている。
まあ、でもあとはシュテルネちゃんがどうにかしてくれるでしょう!
そんな風に思っていたら――。
「み、見ろ……聖女様が、聖女様が戦っておられる!」
「そ、それなのに我らが、倒れていることなど!」
「ああ、死力を尽くして、あの魔物を倒さねば……!」
なんかよく聞こえないけど、騎士たちが立ち上がり始めた。
そして、全員が魔物たちに突撃する。
「うおおおおおおおお! 聖女様の為に!」
いきなり復活した騎士たちにゾウも驚いている。蹴散らそうとして、体を高速で回転させた。
「わあああああああ!」
もちろん私の目も回る。
騎士たちも吹き飛ばされる。
だけど、空には太陽を光でキラリと光るものが見えた。あれは――シュテルネちゃんが構えた剣。
ゾウは回転したせいで頭上に注意を払っていない。
だけど、万全を期すには――。
「せいや!」
私は剣を引きぬいて、もう一度突き刺した。
ゾウが痛みに悶えているところを。
「その首、イダダキ!」
シュテルネちゃんが頭から首にかけてを一閃。顔が地面に落ちる。
「やったね! シュテルネちゃん!」
ゾウの魔物が息絶えると同時に、姿自体が消滅。
私は空中に放り出される形になる。
あ、そういう感じ?
ただ変な態勢で投げ出さてしまった。
勿論、受け身なんて取れない。
硬い地面にぶつけられることを覚悟していたのだが……。
「ふー間に合った。アリス様、好き勝手やりすぎです」
「アルメット……!」
なんと頼れるメイドがお姫様だっこで私を受け止めてくれた。
こいつマジで何でもできるな……。
「あ、ごめん。なんか疲れちゃった。寝ていい?」
「そりゃそうですよ。まあ、今はゆっくりお休みください!」
昨日も遅くまでショート動画見ていた弊害だ……これ。
早く寝た方がいいのは分かってるけど、遠足の前の日とか寝られないじゃん。
だから――スマホ見ちゃうんだよ。
私はアルメットに体を預けた。
まあ、でも何とかうまくできたでしょ……ねむ。