ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
農村とその周辺の土地は救われた。
私に詳しいことは分からないが、どうやら瘴気を具現化させた魔物を倒したことで土地も元に戻ったようだ。復興に時間はかかるかもしれないが、私以外がどうにかするはずだ。え? お前の祈りの力があれば、もっと早く復興できる?
割とマジで疲れてるんで、そこには目を瞑っていただけないでしょうか……。
数日程休ませてもらい、今日は農村を発つ日。
その間、村民たちが聖女様に一言感謝言いたいと押し寄せていたらしいが、アルメットが全て断っていた。
出発するために借してもらっていた家から出ると――。
村民たちでごった返していた。
「聖女様ありがとう!」
「うちの金品全部持っていてくれ~!」
「ついでに工芸品も持って行ってくれ~!」
「俺を雇ってくれ~! ただで良いから!」
「息子を婿にやるから、また来てくれ~!」
なんか変な声援も混じっているが、ここまで好感情をぶつけられると頬が緩みまくる。承認欲求、爆上がり! この刺激に慣れちゃったらダメ人間さが加速しそう。
「せ、聖女様……これを!」
好青年っぽいのが渡してきたのは指輪だった。
緑色に輝く宝石が埋め込まれている。
「あ、あり――」
私は遠慮なくそれを受け取ろうとしたが、アルメットが割って入ってきた。
「申し訳ありません。聖女様に直にプレゼントを渡すのは禁止となっております」
「な、なぜですか?」
青年は困り眉を浮かべていた。
そうだそうだ! もっと言ってやれ! 折角の私への貢ぎ物やぞ!
「暗殺用の毒などが仕込んである可能性。または聖女様を不快にさせるようなものが含まれている可能性があります。身の安全を第一に考えておりますので、どうかプレゼントの類は、側付の者や騎士たちへ」
そういうことか……。
推し活とかよくわからんが、アイドルとかにプレゼント送るのが安全上の経緯で禁止になる話は聞いたことある。
地球も異世界も不審者対策は大変だわ。
まあ、でも自分がそういう地位にいるってことが再確認できるので悪くはない。
ごめんね、お兄さん。
ほくそ笑んでるとアルメットが私にも耳打ちしてきた。
「聖女様はそのお力の関係上、トラブルが起きやすいです。対外的には安全上の理由と称していますし、その懸念もありますが、聖女様が賄賂で買収されることも防ぐための施策です。ご理解ください」
人前だとはいえ他人行儀だな~。
ってもしかして、私が賄賂で買収されるような安い女だと思われてる?
そんなわけ…………ないとは言い切れないな。
だって自分が欲望に弱いのは、分かり切ってるし(・ω<)。
「アルメット、私を舐め過ぎだよ」
「そういうことにしておきましょう……」
そんなこんなで村人たちに声をかけられながら帰路に着いた。
どうせ給料は国から出るし、金品はいいんだけどさ……いいんだけどさ。
因みに旅の後半はマァ~~~ジで退屈だった。
だって見る景色は同じだし!
折角身体強化した? のに、魔物は出なかったしね!
◆ ◆ ◆
―護衛騎士シラドル・ジュラーレ視点―
聖女様を無事に帰還させ、任務を終えた。
下町の居酒屋を隊のみんなで貸切って、今日は一杯やろうと思っている。
「聖女アリス・フゼ様に乾杯!」
かんぱい! とみんなが樽ジョッキでビールを仰ぐ。
一部未成年の隊員もいて、彼らは果実のジュースだったりミルクを飲んでいる。
酒に弱い若手騎士が、酔っ払って大声を出した。
酔うの早すぎないか?
「俺は見たぞ! 聖女アリス様が戦うお姿を!」
「ああ、あれ凄かったよな! まさか、聖女様が戦われるなんて」
普通の聖女は戦わない。
いや、戦う聖女様もいるにはいるが、そういう方は一部だ。
国の方針としては聖女に戦って欲しくない。
なぜなら国に十数名しかいないし、いつ素質を持った者が現れるかも分からない傑物たち。死なれたら本当に困るからだ。
だが、それはそれとして。
高貴な方が前線に出られれば盛り上がる。当然だ。
自分としても心躍ったし。
「それに、聖女さまは我らに活躍の機会を与えてくださったのですぞ」
「そうだよなあ~。瘴気を一点に集めて魔物として召喚して、それを打ち倒すことで土地を浄化するなんて……! 護衛しかできなかった我ら騎士を信頼してくれていたからこそです!」
そうなのだ。
本来、騎士は聖女様の護衛が主な仕事。
土地の浄化をするにあたっては、祈り続ける聖女様を守ることしかできない。
しかも一時間以上にわたって祈り続けるのは大変、精神に負荷がかかる。
終えた後は倒れてしまう人もいると聞く。
「やっぱり、あの方は凄いんだ……!」
シラドルは見ている。
異世界から召喚されて、自分の妹が奇跡で治癒するところを。
アリス様はそれを覚えていてくださったし、活躍の機会まで与えてくださったのだ。それなのに、情けなく倒れていたのは申し訳ないが。
彼女が、他の聖女様よりも偉大な方になるだろうという確信があった。
そうなったときに、自分は騎士として身近に置いていただけるだろうか。
「みんな、アリス様のためにもっと励むぞ!」
「隊長……!」「明日からは訓練の量を二倍にしましょう」「ですね!」
衝動的に発した言葉にみんなも頷いてくれた。
「アリス様万歳!」
「「「「万歳!」」」」
そして皆、どんどん酒を飲む量が増えていくのだった。
―教皇フェロー・アンジェル視点―
私は聖女アリス・フゼ様が書かれた報告書を見て、その内容に驚いた。
恐らく彼女本人ではなく側付であるアルメット・リーフが書いているはずではあるが、嘘などはないだろう。
「こんな方法が……」
驚きで手が滑ってしまい思わず報告書を落としてしまった。
近くにあるソファに座っていた聖女マグノリア・オールが心配して駆け寄ってきてくれた。
「教皇様……どうかしましたか?」
「……異世界から召喚された聖女アリス様による土地浄化の報告書を見たのですが、予想外のことが書かれていて」
「予想外……私も読んでみていいですか?」
聖女マグノリアは拾った報告書を読み始めた。
そこに書かれていたのは――。
「なるほど! 土地にばら撒かれた瘴気を集めて魔物にする。そして、それを倒すことで瘴気を払うやり方ですか……興味深いですね」
聖女マグノリアは興味深いと言った。
いつでも素直で他人を褒めることに定評がありすぎる彼女。つまり、聖女アリスのやり方を好意的に思っていないのだろう。
「私も面白いとは思います」
「教皇様は素直にどう考えてらっしゃいます?」
微妙に空気の悪さを感じる。
教皇というか、ソレイユ神聖国の頂点に立つ者としては可能性を感じなくもない。
「良い点は聖女への負担を減らせる点ですね」
「確かに報告書では八分ほどで魔物の生成に成功したとありましたね」
聖女の祈りは、実はかなり負荷伴うを行為だ。
女神の権能を祈りという行為で借用させてもらっている。
それゆえ、女神と繋がれない人間は祈りで奇跡を起こせない。繋がれたとしても、神の力を行使させてもらうことには負担を伴う。
「一般的に奇跡の規模が大きくなればなるほど、負荷も大きくなります。魔物を召喚するという奇跡が、土地の浄化に比べて簡単な奇跡なのかは疑問が残りますが」
「理屈的には簡単な奇跡になるのではないでしょうか。魔物は瘴気から生まれるので自然の摂理ではあります。瘴気に侵された土地を戻せるのは聖女の祈り……つまり奇跡だけです。筋は通ります」
自分も理屈は分かるつもりなのだ。
ただ、それでも納得しづらいことはある。
「ただ、瘴気を発生させているのは邪神です。女神の権能で同じことをしているような、魔物の生成なんてことができるのかと」
「……邪神も女神も、同じ神だからなのでしょうか」
そう納得できるような気もするが……。
勝手に女神様のほうが力を持っていると思い込んでいただけかもしれない。
「逸れましたね。話を戻します……勿論、デメリットもあります。まずは生まれる魔物の危険度が事前に予想しきれないことです。実際、アリス様も、それで苦労した旨が報告書には書かれています」
倒れる騎士たちの代わりに自分自身で戦ったという。
そのお陰で最近では、騎士たちの間でアリス様の人気が強くなっている。
「ただ、これに関しては経験の問題でしょう。瘴気に侵された土地をアリス様の考案した方法で何度か浄化すれば、出現する魔物の強さは予想できます」
ここまで言って私は後悔した。
聖女マグノリアは優しく微笑んでいるように見えるが、眉間に皺が寄っている。
「やはり、教皇様はアリスさんのやり方を好意的に見ているのですね」
「否定はしません。異世界から召喚したのです、期待はしています」
聖女マグノリアは置いてあった果実ジュースを飲みほした。
「――私は、聖女アリス・フゼには聖女足らん精神が欠けていると思っています。教皇様が主催してくれた懇親会にも来ない。聖女なのに、騎士たちや村民たちを危険にさらすようなやり方をする」
彼女は微笑みを崩さない。
聖女としていつ何時も、揺られない精神的な強さを持っている。
「ただ、一番気になるのは女神さまを軽んじていること。普通の聖女だったら、邪神がするような魔物の生成なんて祈りはしません。今後も似たようなことをするのであれば――不信感が募るだけです」
聖女マグノリアは優しい。
ここで指導とか苦言とか言い出さないところが、彼女の美点だ。
「しかし、魔物を召喚できたのは女神さまの同意もあったからではないですか?」
「……それはそうでしょうけど、女神さまが嫌々やった可能性もあります」
「……うーん」
異世界召喚を主導した側としてはアリス様にぜひ活躍して頂きたいところ。
彼女には沢山活躍してもらって、次の異世界召喚につなげたい。
「聖女マグノリア、今日は帰りなさい。もう遅いですし」
「いえ、もう少し書類仕事をしたいと思います。民のためにも」
真面目過ぎる……。
それは悪いことではないけれど、聖女なんだから身体を大事にして欲しい。
「では、私はこれにて失礼します」
「はい、おやすみなさいませ。教皇様」
いずれ聖女マグノリアと聖女アリスが一緒に仕事をする機会が訪れるだろう。
少し怖いが、女神の加護を受けし彼女たちなら問題ないはず。
そうですよね? 女神様。
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土地浄化編はこれでお終いです。
明日からは別のお仕事編となります。
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