ドパガキ聖女は祈らない 作:創作中毒のおっさん
三週間ほどの出張が終わり、ようやく家に帰って来た。
「うおおおお! フカフカの布団! 美味しいごはん! 好きなだけできるスマホ! 日常が帰って来たぞおおおおお!」
「アリス様、テンション高いですね」
「そりゃそうでしょ! 野宿ばっかりとか、土地の浄化とか、現代人にキツくてしょうがないのよ。アルメットも同意して?」
「同意してって言われたので、はい」
なんだその適当過ぎる返事は。
もっと私のメイドなんだから、気持ち読み取って! 気持ちよく会話させて!
「アルメット、一人で出かけて来てもいい?」
そう言うと珍しいことに顔を顰められた。
たまには私も一人で出かけたいのだ。
「あまり許可したく無いんですけど……」
「なんで?」
別に私だって一人で外出したりはできる。
小学生じゃないだぞコラァ!
「聖女様を狙う連中がいないとも限らないので……そうじゃなくてもアリス様はこの世界に詳しく無いので不安です」
詳しくないから見て回りたいんだが。
それに偶には一人になりたい! 自由が欲しい。
「というか……聖女を狙う奴らなんているの?」
ただ気になったのはこともある。
この世界において聖女とは奇跡を起こす存在で、敬われるはずでは?
「いますよ……拉致して奇跡を起こしまくれば、いくらでも悪事に活用できますし。国を脅して身代金を要求したりとか、狙われる理由は沢山ありますよ」
治安悪いな~。
日本なんて夜遅くまで塾通いしてる小学生だっているのに。
これだから異世界は!
「じゃあ一人で出かけたいときはどうしたいいんだよ!?」
「急にキレないでくださいよ……」
「え? キレてないけど」
「情緒不安定かよ……」
少しストレスは溜まっているが、別に人に当たったりはしない。
ただ、これからずっと誰か一緒じゃないと動けないのはキツイ。
「……聖女だってバレないように男装でもします?」
「やるやる!」
男装か……したことないけど、それで単独行動できるなら!
「じゃあ、アルメットよろしく頼んだ!」
「はいはい」
「もっとやる気出してよ!」
そんなアルメットの提案にそって男装する。
かかった時間は、普段の身支度よりも短かった。なんでだよ。
「おお……!」
スタンドミラーで男装した自分を見る。
長ズボンに白いシャツを着て、その上にベストを羽織る。
髪はズラで隠して男らしく。
「滅茶苦茶お似合いですね! ちょっといいとこのお坊ちゃんって感じがします」
「それ褒めてる……?」
「褒めてますよ! 普段の聖女姿より似合ってます!」
そんな気は自分でもしてたけどさあ……。
パパの遺伝子が濃すぎたのか? 後で文句言っておこうかな?
「じゃあ何時間か街をぶらぶらしたら帰ってくるよ」
「危ないことあったら、大声で助けを呼ぶんですよ! あと、治安悪そうなところはいかないでください! 地図です。迷ったら見てください!」
「大丈夫! 迷わないから、行ってきます!」
「本当に気を付けてくださいね!」
聖都探索楽しみ!
詰まんなかったら木陰でスマホしてればいいしな!
◆ ◆ ◆
「ここが市場かあ……! 凄い人通り!」
聖都南にある市場にやってきた。
食べ物だったり、陶芸品だったり、色々なものが屋台で売られている。
とりあえずに目についたのは――骨付き肉だった。
ただ漫画とかで見るやつなんかよりも全然小さくて食べやすそうだ。
「おじさん! そのお肉頂戴!」
「ああ、一個で1000デッセね!」
1000デッセ――ってどれくらいだっけ。
お金は持たされているけど、どれがどのくらいの価値があるのかよくわからん。
とか言ってもなあ……とんでもない額渡しても。
ぼったくられる可能性とかも視野に入れないとさあ。異世界だし。
まあ、でもいっか!
とりあえず銀貨を一枚ほど渡してみた。
「丁度ね! 毎度あり! 熱いから気を付けろよ!」
骨の部分に紙をようなものを巻いて渡してくれた。
なんか映えそうだし写真撮っておこう。
よし、いただきます!
た、食べ応えがある!
思ったよりも中はレアな感じで、肉を食っていると感じさせてくれる。
食べながら市場を歩いていくと……誰もいなさそうな路地を見つけた。
とりあえずここで食べてから行こう。
だが、その路地裏の奥で――。
「や、やめて! 近寄らないでください!」
女の子の叫び声が聞こえた。
路地を進んでいくと、一人の女の子が悪そうな輩に囲まれていた。
この間までの私なら素直に助けを呼んでいたところだが……。
聖女だってバレないように低音ボイスで……!
「女の子が嫌がってるじゃないか! 多分、お前らワルだろ!」
前半は事実だが、後半言い切れるほどの自信はなかった。
だが、男たちがこちらを振り向いたことで、ちょっとだけ女の子の姿が確認できた。私よりも幼そうなのは確定だし。
「ああ、なんだお前? ボコられてえのか?」
「いや全く」
「なめてんじゃねーぞ!」
一人の男が殴りかかってきた。
騎士団の人たちよりも遅い動き、この間の祈りで強化してある体は――勝手には動かずに殴られてしまう。
「へっ雑魚が! そこで伸びてろ!」
だが全然痛くなかった。
戦闘経験がないから動けないだけで、肉体は強いのだ。知らんけど。
「正当防衛! 正当防衛ぃぃぃ!」
殴られたので、こちらも殴り返した。
そしたら一発でノックアウト。つ、つえええええええええ!
「な、お前ら全員でかかれ!」
「おら、行くぞ!」「覚悟しろよ! 坊主!」
チンピラたちを、簡単に倒すことに成功。
無双してる感! これはドーパミンが出る!
良くない成功体験だけど、楽しいぞい!
「あ、ありがとうございます! 助かりました!」
「それほどでも……」
どちらかと言えば、楽しかったのは私の方だ。
なんか戦闘狂みたいな考えになってきてるな。
「あ、顔が少し腫れてます。今、治しますね」
「治すってどうやって――」
そう言い終わる前に、女の子は私の傷に手を当てた。
数秒後、光が傷を癒していた。
まさか、この力――聖女の祈り?
「あ、ありがとうございます!」
女の子が私に頭を下げてきた。
見たところは中学生に上がりたてくらいか……。
若くて羨ましいぜ……私も若いと言われればそれまでだけどな。
「いやいや、困ってる女の子を放っておけないから」
「お名前、お聞きしてもいいですか?」
本名名乗れねえ……。
聖女としての布瀬有栖がこの世界でどの程度のネームバリューを持っているのか分からないが、お忍びで来ていることに変わりはない。
「クールマンと名乗っておきます」
「クールマンさん……覚えておきます!」
クールマンってなんだよ。
そりゃ、クールな男だろ? 男装してるし……。
「それでお嬢さんはこんな路地裏で何を? 危ないから帰った方がいいよ」
「……いえ、帰るわけにはいきません。この先に待ってる人たちがいますから」
可愛らしい子だが、その瞳から決意が伝わってくる。
どうやらここに迷い込んだわけではなく、自ら足を踏み入れたらしい。
「それでも危ないって」
「慣れてますし……行かなくてはならないのです。クールマンさん、助けていただきありがとうございました。それでは――」
そう言って彼女は更に路地を進んでいこうと私に背を向けた。
足取りは確かで、迷いもない。
危なっかしいとは思わないが、これはついていくしかないと思ってしまった。
また暴漢たちに絡まれてもアレだ。
「私の休日ぇ……しょうがないか」
そのまま少女についていくと辿り着いたのは一軒のボロ屋。
日本で見たら一見で空き家認定するくらいにはヤバい。ツタが壁を覆っているし、窓にはガラスが無い。雨風ですら凌げるのか分からないレベルだ。
ここで何をする気なんだろう。
少女がドアを叩くと。
「待ってたぜ~、一週間ぶりだな」
出てきたのは少女と同じくらいの少年少女たち。
服装はかなりみずぼらしい。着れるものがそれしかない……と言えるような。
もしかして孤児とかだったりする?
あ、もしかしてここらへんはスラムだったりするのか?
ごめんアルメット、治安悪い所来ちゃった!
「お兄さんは誰~?」
私のことにも気づいたのか、少年少女たちが首を傾げている。
お兄さんって呼ばれるの意外と悪くないな……。
「俺はクールマンです。この少女が心配でついて来ました」
「なるほど~メテオールのボーイフレンドかあ……」
少女たちはニヤニヤとしている。マセガキ共が!
一方の少年たちは特に興味はなさそうだ。お前らはもうちょっと関心持て。
「この人は私の彼氏じゃないよ。それに今の私は気楽に彼氏なんて作れないし」
「そうだった……ところで今日も治療頼んでいいか?」
リーダー格っぽく見える少年が治療と言い出した。
やはりメテオールと呼ばれる少女には聖女の力があるのか。
「う、うん。やるね……」
メテオールは少年の肩に触れて祈りだした。
目を瞑って集中している。
私なんかとは違って落ち着いているように見えるが……。
数分経てど、何も起こらなかった。
「ご、ごめん。今回も私の力じゃ治せなかったみたい」
「そうか……」
治せない? 聖女の祈りで?
私は数々の難病や大怪我を治してきたけど、そんなこと一度もなかったぞ。
何か変じゃないか?
「じゃ、じゃあ今日の分のお見舞金」
「ありがとう……確かに受け取った」
き、きき、金銭のやり取り!? 治せなかったからと言って?
やっぱりなにかおかしい。
よし、祈ろう。
私のお腹周りの肉ちょっとだけでいいから減らしてください!
私のお腹周りの肉ちょっとだけでいいから減らしてください!
小さく服の中が光始める。
◆ ◆ ◆
『あの、願いが私利私欲すぎません? 勝手に自分でダイエットしてくださいよ』
女神さまはため息を吐いた。
なんかかなりの頻度で呆れられているような気がする。
「それはそうなんですけど、聞きたいことがあって~」
『お答えしますよ』
「今、私の近くにメテオールという女の子がいるんですけど、彼女は聖女ですか?」
まずはこれを確かめないと、事は始まらない。
『そうですね。この国の最年少聖女です』
「やっぱり……その子が今、目の前で祈りに失敗して病気を治せなかったらしいんですけど、そんなことあります?」
『……メテオールの悪いところなんです』
「まさか、私と同じで集中力にかける感じですか?」
同族がいるかも! これは嬉しいぞ!
『なわけw』
女神さまは鼻で笑った。
流石に私を舐め過ぎでは……?
『冗談はさておき、そもそも治癒を祈られていた少年は健康です』
「は? つまりお金をだまし取られていると?」
『そういうことになりますね。アリスさん、なんとかしてきてください』
言われなくてもやるけどさ……なんか女神さま雑じゃないかな!?
◆ ◆ ◆
戻って来た。
ちょうどお金を渡そうとしていたので、私は――。
すっとメテオールからお金の入った子袋を奪った。
「メテオールちゃんダメだよ。その子は病気も怪我もしてない……君の弱みがあるように思わせてお金を詐欺しようとしてるんだ」
私が表情を険しくして(あんまり得意じゃない)で、少年たちを睨む。
「君たちがメテオールちゃんとどういう関係なのかは知らないけど、お金をだまし取るのは悪いことだよ。もう二度としないと誓うなら――」
「に、逃げろ!」「早く!」
説教して気持ちよくなろうとしたら、少年少女たちは逃げて行った。
こういうのは更生できそうにない。私のドパガキと同じように。
「ふえ、え、詐欺……私、みんなに騙されて……ひっく」
メテオールちゃんは静かにすすり泣いていた。
美少女が泣いてると、こっちまでつられそうになるからやめてほしい。
私は優しく背中をさすることにした。それからメテオールちゃんが落ち着いて。
「今日はありがとうございました。クールマンさん……助かりました」
「いやいや、こちらこそどういたしまして」
私はメテオールちゃんを表通りまで見送った。
なんか良いことしてしまった……。
それから一ヶ月後、またメテオールちゃんと再会することになるなんて。それも聖女業務で。
「初めまし――」
「クールマンさんですよね!」
一瞬で正体バレたぁ!