とある科学の独立番号《Nevermind》   作:シングルアクション教

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推敲が普通にしんどいって問題にぶち当たり増した。書き溜めまだあるのに…


Missing

夏祭りというものは、どうしてこうも人が多いのだろう。

 

学園都市第七学区。夕暮れの空に提灯が灯り、屋台からは焼きそばやたこ焼きの匂いが漂っている。浴衣姿の学生たちが行き交い、どこか遠くでは祭囃子が鳴っていた。

 

そんな賑やかな通りの真ん中で、学園都市第一位の『一方通行(アクセラレータ)』はひどく不機嫌そうな顔をしていた。

 

「……で?」

 

「で、とは?」

 

「何で俺がこんなところにいンだ、クソッタレ」

 

「夏祭りだからだろ」

 

「質問に答えろっつってンだよ」

 

「いやぁ、アッ君にも夏の風情ってもんを味わってもらおうと思ってな。ミサカの粋な計らいってやつだぜ、とミサカは慈悲深く説明してみる」

 

「慈悲深い奴は人を無理やり連れ回さねェンだよ」

 

「えー?でも来たじゃん」

 

「テメェが帰り道を塞ぎやがったからだろうが!」

 

「人聞きが悪いなぁ。ちょっと道を譲ってくれなかっただけじゃねぇか」

 

「その道を塞いでたのはテメェだろォが!」

 

独立番号はけらけらと笑った。

 

白い髪に赤い目。人混みの中でも妙に目立つ男と、黒いマスクに覆われた顔の独立番号。

 

傍から見れば、ずいぶんと奇妙な組み合わせだろう。

 

もっとも、独立番号にとっては今さらどうでもいい話だった。

 

「ま、せっかく来たんだ。楽しもうぜ。ほら、りんご飴とかあるぞ」

 

「いらねェ」

 

「射的もある」

 

「興味ねェ」

 

「金魚すくい」

 

「ガキじゃねェンだぞ」

 

「じゃあ、わたあめ」

 

「テメェ、俺を何歳だと思ってやがる」

 

「さあ?少なくとも、わたあめを食べるのに年齢制限はねぇと思うけど」

 

「……一発殴らせろ」

 

「やだね」

 

そんなやり取りをしながら、二人は人波を進んでいった。

 

正確には、独立番号が先を歩き、一方通行が仕方なくついていっているだけだったが。

 

そのとき。

 

「……おい」

 

「ん?」

 

一方通行が足を止めた。

 

独立番号は数歩先で振り返る。

 

「どうした、アッ君。金魚すくいに興味が湧いたか?」

 

「違ェよ。……つゥか、何だその格好」

 

「おっ、ようやく気づいたか?」

 

独立番号はその場でくるりと回ってみせた。

 

黒を基調とした浴衣。帯はやや雑に結ばれているが、柄は落ち着いていて、祭りの雰囲気にはよく馴染んでいる。

 

ただし、その上にはいつもの黒い革ジャンが羽織られていた。

 

浴衣に革ジャン。

 

足元は履き慣れたブーツ。

 

さらに顔には黒いマスク。

 

和装とバイカー装備が、互いに一歩も譲らず同居している。

 

「どうよ?」

 

「……どうよ、じゃねェ」

 

「感想を聞いてるんだが?」

 

「浴衣の意味がねェだろうが!」

 

「何言ってんだ。浴衣だけじゃ夜風が冷てぇかもしれねぇだろ?」

 

「どこの夜風が革ジャンを必要とするほど冷てェンだよ!」

 

「ファッションってのは自由なんだぜ、アッ君」

 

「ファッションを言い訳にすンじゃねェ!」

 

独立番号は満足そうに頷いた。

 

「なるほど。つまり、似合ってるってことか」

 

「耳まで都合よくなってンのか、テメェは!」

 

「照れんなって。褒められ慣れてないのか?」

 

「殺すぞ」

 

「はいはい、物騒なことで」

 

独立番号は笑いながら再び歩き出す。

 

一方通行は盛大に舌打ちしつつ、その後ろを追った。

 

浴衣の裾が歩くたびに揺れ、革ジャンの裾がその上でばたばたとはためく。

 

本人が満足している以上、もう何を言っても無駄なのだろう。

 

そう判断した一方通行は、これ以上の追及を諦めた。

 

少なくとも、今は。

 

*

 

祭りの中心から少し離れた場所。

 

御坂美琴は、屋台で買った飲み物を片手に、隣を歩く白井黒子たちと話していた。

 

「それにしても、すごい人ね。はぐれないようにしないと」

 

「お姉様、わたくしがついておりますからご安心くださいませ!」

 

「いや、アンタの場合は別の意味ではぐれたくないんだけど……」

 

「お姉様ったら、そんなにわたくしと離れたくないだなんて!」

 

「そういう意味じゃない!」

 

黒子がいつもの調子で美琴にまとわりつく。

 

初春飾利は困ったように笑い、春上衿衣はその隣で屋台の明かりを眺めていた。

 

「春上さん、何か食べたいものはありますか?」

 

「……ううん。大丈夫なの」

 

「遠慮しなくてもいいんですよ。せっかくのお祭りですし」

 

「ありがとう、なの」

 

春上は小さく微笑んだ。

 

その表情は穏やかだったが、時折、何かを探すように視線をさまよわせている。

 

美琴はそれに気づいていた。

 

「春上さん、さっきから大丈夫?少し顔色が悪いみたいだけど」

 

「……大丈夫なの。ちょっと、声が聞こえる気がするだけだから」

 

「声?」

 

「……ううん。何でもないの」

 

春上は首を横に振った。

 

初春が心配そうに顔を覗き込む。

 

「無理はしないでくださいね。何かあったら、すぐに言ってください」

 

「うん……ありがとう、初春」

 

そのときだった。

 

春上の足が、ぴたりと止まった。

 

「……どこなの?」

 

「え?」

 

初春が振り向く。

 

春上は俯き、両手でこめかみを押さえていた。

 

「どこなの……どこなの……」

 

か細い声が、祭りの喧騒に紛れていく。

 

「春上さん?どうしたんですか?」

 

「……どこなの……」

 

その声は、誰かに問いかけているというよりも、何かを必死に探しているようだった。

 

少し離れた屋台の前で、一方通行はその様子を見ていた。

 

最初は、体調でも悪くなったのかと思った。

 

だが、春上が同じ言葉を繰り返すにつれて、彼の眉がわずかに動く。

 

「……どこなの、」

 

独り言のように呟く。

 

その直後。

 

地面が揺れた。

 

*

 

――ゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

「きゃっ!?」

 

地面が大きく波打ち、屋台の棚から商品が落ちる。

 

悲鳴が上がった。

 

提灯が激しく揺れ、電線が軋む。立ち並ぶ建物の窓が震え、路上に停められた自動車の警報音が一斉に鳴り響いた。

 

「また地震!?」

 

美琴が体勢を立て直す。

 

「お姉様、こちらへ!」

 

「みんな、落ち着いて!建物から離れて!」

 

黒子が周囲の人々を誘導し、初春も必死に声を上げる。

 

だが、揺れは収まらない。

 

それどころか、街のあちこちで奇妙な現象が起こり始めた。

 

屋台の看板が宙に浮き、積み上げられた箱が誰も触れていないのに崩れ落ちる。

 

「な、何なのこれ……!」

 

初春が息を呑んだ。

 

春上は頭を押さえたまま、ふらふらと立ち尽くしている。

 

「どこなの……どこなの……!」

 

「春上さん、危ない!」

 

初春が彼女の腕を掴み、揺れる地面から離れようとした。

 

その瞬間、すぐ脇に立っていた街灯が大きく傾いた。

 

根元の舗装が割れ、金属の支柱が二人の頭上へ倒れ込んでくる。

 

「初春!春上さん!」

 

美琴が叫ぶ。

 

黒子も動こうとしたが、揺れで足場が崩れ、瞬間移動の狙いを定められない。

 

間に合わない。

 

誰もがそう思った。

 

――だが。

 

「おいおいおい。祭りの最中に、そいつは洒落になんねぇだろ!」

 

横合いから、黒い影が飛び込んだ。

 

独立番号だった。

 

地面を蹴る。

 

電流が全身を走り、筋肉の動きを瞬間的に補助する。

 

倒れてくる街灯との距離は、ほんの数メートル。

 

独立番号は初春と春上の前へ滑り込み、身体をひねった。

 

「どっせぇいッ!」

 

革靴が、街灯の支柱を捉えた。

 

――ガァンッ!

 

鈍い金属音が響く。

 

街灯は二人の頭上から軌道を逸らされ、道路脇へと吹き飛んだ。地面に叩きつけられた支柱が舗装を削り、火花を散らす。

 

独立番号は着地すると、浴衣の裾を払いながら振り返った。

 

「お二人さん、生きてるか?」

 

「は、はい……!」

 

初春が震える声で答える。

 

春上は呆然としたまま、独立番号を見上げていた。

 

「……ありがとう、なの」

 

「礼は後でいい。まずは安全なところまで移動しな」

 

独立番号は二人を促し、近くの建物から距離を取らせる。

 

そのとき、美琴が駆け寄ってきた。

 

「あっ!アンタ!?今の、あなたがやったの!?」

 

「他に誰がいるんだよ。街灯が勝手に吹っ飛んだように見えたか?」

 

「いや、そうじゃなくて!あんなのを蹴り飛ばすなんて……!」

 

「細けぇことは気にすんな。ほら、アンタも避難しろ」

 

「細かくないわよ!」

 

美琴が声を荒らげる。

 

だが、再び地面が揺れたことで、言い返す暇はなくなった。

 

「……っ、また来る!」

 

黒子が叫ぶ。

 

「お姉様、皆さんをこちらへ!」

 

「分かってる!」

 

美琴は電撃を放ち、周囲に倒れかけた看板を弾き飛ばして退路を確保する。

 

独立番号も、道路に停められた車の制御系統へ電気的に干渉し、勝手に動き出そうとしていた車両を停止させた。

 

祭りの会場は、たちまち混乱の渦に飲み込まれていった。

 

*

 

一方通行は、少し離れた路地の入口から、その一部始終を眺めていた。

 

独立番号が街灯を蹴り飛ばした瞬間には、思わず眉をひそめた。

 

「……あの馬鹿、浴衣で何やってやがる」

 

もっとも、あの状況で見ているだけという選択肢を取ったつもりはない。

 

彼は周囲の人々の動きを見ながら、崩れかけた看板や飛んでくる小物を避け、避難の邪魔にならない場所へ移動していた。

 

独立番号があの三人を救助したことで、少なくとも街灯の下敷きになる人間は出ずに済んだ。

 

だが、一方通行の意識は、別のところに向いていた。

 

地震が起こる直前。

 

あの少女は、確かにこう言っていた。

 

――どこなの。

 

――どこなの。

 

「……偶然、かァ?」

 

赤い瞳が細められる。

 

RSPK症候群。

 

能力者のAIM拡散力場が干渉し合い、大規模な現象を引き起こす。

 

先日、彼女が話していた内容が頭をよぎった。

 

もし今回も同じ現象なのだとすれば。

 

あの少女の様子は、ただの体調不良で片づけられるものなのだろうか。

 

「……チッ」

 

彼は小さく舌打ちした。

 

確証はない。

 

あの少女が原因だとも、事件の中心にいるとも言い切れない。

 

だが、地震が起こる直前に、何かを探すような言葉を繰り返していた。

 

そして、その直後に異常現象が発生した。

 

偶然だと片づけるには、少しばかり気になる。

 

彼は浴衣にジャケットを羽織ったの方へ目を向けた。

 

当の本人は、初春と春上の無事を確かめたあと、美琴に何やら文句を言われている。

 

「……あいつに話すかァ?」

 

そう呟いたものの、一方通行はすぐに口を閉じた。

 

まだ、情報が足りない。

 

憶測だけで騒ぎ立てるのは、あの馬鹿の役目で十分だ。

 

*

 

しばらくして、揺れは収まった。

 

アンチスキルが到着し、祭りの会場は避難誘導と安全確認のため、騒然としていた。

 

幸い、独立番号が救助した初春と春上に大きな怪我はなかった。

 

「本当にありがとうございました!」

 

初春が深々と頭を下げる。

 

「いや、気にすんな。あそこで見捨てたら寝覚めが悪いだろ」

 

「でも、あんな危険なことを……」

 

「危険だからって、何もしない理由にはならねぇさ」

 

独立番号はそう言って、肩をすくめた。

 

春上も小さく頭を下げる。

 

「……助けてくれて、ありがとうなの」

 

「おう。次からは、もうちょっと周りを見て歩きな」

 

「……うん」

 

春上は頷いた。

 

その表情は、先ほどまでの不安げなものに戻っていた。

 

美琴が腕を組み、独立番号をじっと見つめる。

 

「それで、あなた。前にも見かけた気がするんだけど」

 

「へぇ。奇遇だな。こっちもアンタを見たことがある気がするぜ」

 

「……その言い方、絶対に覚えてるでしょ」

 

「さあな?」

 

「ちょっと!」

 

美琴が詰め寄る。

 

独立番号は、わざとらしく視線を逸らした。

 

「おっと、連れを待たせてたんだった。じゃあな、お嬢さん方。祭りの続きはまた今度ってことで」

 

「待ちなさいよ!まだ話は――」

 

美琴の声を背中に受けながら、彼女はそそくさと歩き出した。

 

その先では、一方通行が露骨に不機嫌そうな顔で待っている。

 

「遅ェ」

 

「悪い悪い。人助けしてたもんでね」

 

「浴衣で街灯を蹴り飛ばす人助けがあってたまるか」

 

「おっ、見てたのか?どうだった、格好よかった?」

 

「……帰るぞ」

 

「感想は?」

 

「帰るっつってンだよ!」

 

独立番号は満足げに笑い、駐車していたバイクの方へ向かった。

 

*

 

夜風が、少しだけ涼しくなっていた。

 

祭りの会場から離れた道路を、一台の大型クルーザーが走っていく。

 

運転しているのは独立番号。

 

その後ろには、一方通行が不機嫌そうに乗っていた。

 

「……なァ」

 

「んー?」

 

「テメェ、さっきのガキのこと、どう思う」

 

独立番号はアクセルを調整しながら答えた。

 

「ガキ?花頭の子かその子に庇われていた方かどっちだ?」

 

「後者だ」

 

「春上さん、だったか。あの子がどうした?」

 

「地震が起きる直前、妙なことを言ってやがった」

 

独立番号の目が、わずかに細くなる。

 

「妙なこと?」

 

「『どこなの』ってな。同じ言葉を何度も繰り返してた。まるで、何かを探してるみてェに」

 

「……へぇ」

 

独立番号はそれ以上、すぐには何も言わなかった。

 

エンジン音だけが、二人の間を埋める。

 

「それで?」

 

「その直後に地震だ。前にテメェが話してたRSPK症候群と、無関係だと断言するには妙なタイミングだった」

 

「つまり、春上ちゃんがポルターガイストに関係してる可能性がある、と」

 

「可能性の話だ。あのガキが原因だと決めつけるつもりはねェ」

 

「そりゃそうだ」

 

独立番号は、前方の信号が青に変わるのを確認してから、ゆっくりと車体を走らせた。

 

「本人だって、何が起きてるのか分かってないのかもしれねぇしな」

 

「……」

 

「むしろ、あの様子だと何かに巻き込まれてるようにも見えた。少なくとも、あの子を犯人扱いするのは筋違いだろ」

 

一方通行は返事をしなかった。

 

ただ、独立番号の言葉を否定もしなかった。

 

「ま、明日になれば何か分かるかもしれねぇ。アンチスキルだって調べるだろうし、あの子の周りにも何か手がかりがあるかもしれない」

 

「……余計なことに首を突っ込むなよ」

 

「それ、今日だけで何回聞いたかな?」

 

「何回でも言ってやる。テメェは自分の立場を理解してねェ」

 

「理解してるさ。だから、こうして正体を隠してバイクに乗ってるんだろ?」

 

独立番号は冗談めかして答えた。

 

だが、その言葉には、いつもの軽さとは違う何かが混じっていた。

 

一方通行は、それを聞き逃さなかった。

 

「……まァ、好きにしろ」

 

「おう。そうさせてもらうぜ」

 

しばらくして、独立番号がふと思い出したように口を開いた。

 

「ところでアッ君」

 

「何だ」

 

「結局、浴衣の感想は?」

 

「まだ言わせンのかよ!」

 

「いやぁ、気になっちゃって。ほら、せっかく着てきたんだし?」

 

「浴衣の上に革ジャン羽織ってる奴に、何を評価しろってンだ!」

 

「独創性とか?」

 

「悪趣味だろうが!」

 

「おっ、ようやく感想が出たな」

 

「褒めてねェ!」

 

「はいはい。ミサカはアッ君の率直な意見をありがたく受け取っておくぜ、とミサカは感謝の言葉を述べてみる」

 

「感謝する気があるなら二度と俺を祭りに連れ出すな!」

 

「それはまた別の話だな」

 

「テメェ……!」

 

夜の道路に、一方通行の唸りが響く。

 

独立番号は楽しそうに笑いながら、バイクを走らせ続けた。

 

しかし、その頭の片隅には、先ほどの少女の姿が残っていた。

 

――どこなの。

 

あの声は、いったい何を探していたのだろう。

 

そして、なぜ地震の直前に。

 

答えはまだ、どこにもない。

 

ただ一方通行が抱いた小さな疑念は、確かに二人を次の事件へと導き始めていた。




一方通行と独立番号の出会いはそのうちやります。

あとすみませんがテレスティーナ出すの面倒くさすぎて原作改変しました。お許しください。

タイトルは『ELLEGARDEN』から『Missing』です。心ここに在らずな春上さんのことでもありますし、木山先生の生徒たちのことでもありますね。

ELLEGARDENは私をロック沼に突き落とした三大バンドのひとつなので皆様も是非。

日常回はどのタイミングで入れるべき

  • 日常の章を作るべき
  • 時系列に沿って入れるべき
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