とある科学の独立番号《Nevermind》   作:シングルアクション教

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今週末ハジマザですね…
アクセスが終わってること以外はとても良いフェスなんで是非皆さん行きましょう。


Territorial Pissings

高速道路。

 

灰色の道路を切り裂くように、青いスポーツカーが走っていた。

 

運転席には木山春生。助手席には佐天涙子。その膝の上には初春飾利が乗り、両手で端末を操作している。

 

そして、車の屋根の上。

 

「ちょっと!もっとスピード出せないの!?」

 

御坂美琴が、電撃による磁力操作で車体に張り付きながら叫んだ。

 

「既に限界だ!というか、これ以上出すと制御が効かない!」

 

木山は冷静に答えるが、ハンドルを握る手には力が入っていた。

 

「御坂さん、後方から再接近!距離、約二十メートルです!」

 

初春の声が車内に響く。

 

「二十メートルって、もうすぐそこじゃん!」

 

佐天が後ろを振り返った。

 

そこには、黄色い巨大な機動兵器がいた。

 

人間に似た二本の脚。異様に太い腕。頭部には操縦者の姿など見えず、機械の塊のような胴体が載っている。

 

準人型のパワードスーツ。

 

その巨体が、高速道路を揺らしながら追いすがってくる。

 

「逃げても無駄だぜェ?!そのまま大人しく捕まれば、痛い思いをしなくて済むんだからよォ!」

 

拡声器越しに響く声。

 

テレスティーナ=木原=ライフライン。

 

つい先ほどまで、子供たちを救う正義の救助隊長を演じていた女の声だった。

 

「……ッ…!あの女ッ!!」

 

木山が呟く。

 

その表情には怒りがあった。

 

子供たちを救うために協力してやると連れ去った挙句、裏切られたのだ。

 

「木山さん!前方に分岐があります!左側のルートなら、MARの施設に近づけます!」

 

「分かった。初春君、道案内を頼む」

 

「はい!」

 

美琴が後方へ振り返った。

 

「だったら、あいつをここで止める!」

 

彼女の掌から電撃が迸る。

 

しかし、黄色い機動兵器は腕を振り上げ、道路標識を引き剥がすように薙ぎ払った。

 

金属片が飛び散る。

 

美琴は咄嗟に身を伏せ、標識を避けた。

 

「このっ……!」

 

電撃を撃ち込むものの、機体の装甲に弾かれる。

 

「ちょっと、硬すぎでしょ!」

 

「御坂さん、右腕の動きが変です!何かを発射するつもりかもしれません!」

 

初春の警告とほぼ同時に、巨大な右腕が分離した。

 

「はぁ!?」

 

腕そのものが、ロケットのように射出される。

 

高速で飛来した巨大な拳が、青いスポーツカーの頭上をかすめた。

 

美琴は磁力を操り、かろうじて車体への直撃を防ぐ。

 

だが、巨大な腕はそのまま前方へ飛び去ってしまった。

 

「ロケットパンチって、現実にやる奴がある!?」

 

佐天が叫ぶ。

 

「感想を述べている場合ではないぞ、佐天君」

 

「分かってますけど、普通びっくりするでしょ!」

 

その時だった。

 

後方から、別のエンジン音が近づいてきた。

 

高い。

 

MotoGP等では聞き慣れた排気音が、巨大な機動兵器の足音さえかき消す。

 

「……ん?」

 

美琴が振り返る。

 

黄色い機動兵器の脚の間を、黒いフルカウルバイクが駆け抜けていった。

 

ライダーはフルフェイスヘルメットに黒い革ジャンで風を切り、巨大な兵器を見上げる。

 

そして、片手を上げた。

 

「よう、デカブツ!随分と派手な散歩じゃねえか!」

 

「なんなんだァ!コイツはァッ!」

 

テレスティーナの声が、拡声器から響いた。

 

ライダー――独立番号は、愉快そうに笑った。

 

「聞こえてるか、黄色いの!と、ミサカは新規参戦のご挨拶をしてみるぜ!」

 

そのまま、巨大な機体の足元へと突っ込んでいった。

 

「ちょっと!アイツ、何やってるの!?」

 

美琴が叫ぶ。

 

「御坂さん、あのバイク……!」

 

初春が端末を見た。

 

「登録情報がありません!ナンバーも一致する記録が……あれ?そもそも照合できません!」

 

「つまり、怪しい奴ってことね!」

 

「御坂さんも人のこと言えないと思うけどなぁ……」

 

佐天の呟きは、エンジン音にかき消された。

 

独立番号は、巨大な機動兵器の周囲を蛇行していた。

 

右へ、左へ。

 

巨体の足元をすり抜け、踏みつけを避け、振り下ろされる腕をぎりぎりでかわす。

 

普通なら、一度でも接触すればバイクごと押し潰される。

 

だが独立番号は、機体の動きを見極めるように走り続けた。

 

「チョロチョロと……鬱陶しいッ!」

 

テレスティーナが機体を旋回させる。

 

「そんなに構ってほしいなら、踏み潰してやんよォ!」

 

巨大な脚が、バイクの進路へ振り下ろされた。

 

独立番号は車体を傾け、路面すれすれをすり抜ける。

 

その瞬間、手袋越しの指先から微弱な電流が流れた。

 

狙いは、機体の脚部に組み込まれた電子制御系。

 

「まずは足元から、ってな」

 

一瞬の接触。

 

外から見れば、ただ車体が装甲の近くを通り過ぎただけにしか見えない。

 

だが、その内部では制御信号に異常が生じ始めていた。

 

「……何?」

 

テレスティーナが操縦系統の警告表示を見る。

 

「脚部の応答が遅れてやがる!なんなんだァこれはッ!!」

 

独立番号は、さらに機体へ接近する。

 

「おいおい、せっかくの高級品だろ?メンテナンスはちゃんとしとけよ!」

 

「このバイク乗りぃ……!」

 

機体が腕を振り回す。

 

独立番号はアクセルを開け、タイヤを滑らせながらその攻撃を回避した。

 

そして、後輪が路面を捉えた瞬間、もう一度だけ電流を送り込む。

 

今度の標的は、制動系統だった。

 

「ブレーキってのはな。止まりたい時に止まれなきゃ、ただの飾りなんだよ」

 

機体の足元で、火花が散った。

 

電子制御に異常が走る。

 

制動機構が正常な応答を返さなくなり、巨大な機体は速度を落とせなくなった。

 

「はァ!?ブレーキが効かねェ!?」

 

テレスティーナの声が裏返る。

 

「ッ……チッ…!何なんだこのポンコツ!」

 

独立番号は機体から離れ、道路の端へとバイクを走らせた。

 

「お前が言うな。と、ミサカは整備不良の責任を操縦者に押し付けてみるぜ!」

 

機体は減速できないまま、道路の中央へとよろめいた。

 

「今だ、御坂君!」

 

木山が叫ぶ。

 

「分かってる!」

 

美琴は屋根の上で姿勢を低くした。

 

「黒子!」

 

「はい、お姉様!」

 

はね上げられた道路の瓦礫の中に彼女は居た。

 

黒子の能力は、空間移動。

 

そして、数十秒前に射出された巨大な腕は、はるか道路の後ろにあった。

黒子が能力を発動する。

 

遠く離れた場所にあった巨大な腕が、空間を越えて出現した。

 

その位置は――美琴のすぐそば。

 

「私が飛ばせるのはコインだけじゃない!」

 

美琴の周囲に電磁力が集束する。

 

巨大な金属の腕が、超電磁砲の弾頭となった。

 

「これが私の全力ッッ……だぁぁぁ!!!」

 

轟音。

 

巨大なアームが、超高速で射出される。

 

それは制御を失った機動兵器の胴体を易々と貫いた

 

激しい衝撃。

 

黄色い巨体が大きく傾き、路面を滑りながら停止する。

 

煙が上がり、機体の動力が落ちた。

 

静寂。

 

やがて、独立番号がバイクを寄せてきた。

 

「いやあ、見事なホームランだったな。と、ミサカは観客席から拍手を送りたいところだぜ」

 

「誰が観客席よ!」

 

美琴が屋根の上から睨む。

 

「ていうか、あんた結局何者なのよ!?」

 

「通りすがりのバイク乗り。と、ミサカは華麗に自己紹介してみるぜ」

 

「嘘が雑なのよ!」

 

「失礼な。バイクは本物だぞ?」

 

「そういう問題じゃない!」

 

その時、木山が車を止め、降りてきた。

 

「助かった。君がいなければ、あの機体を止めるのは難しかっただろう」

 

「礼はいい。子供たちがまだ向こうにいるんだろ?」

 

独立番号はヘルメットのシールドを上げた。

 

「ここで終わりにするわけにはいかねえよ」

 

美琴の表情が引き締まる。

 

「……そうね。今度こそ決着をつける」

 

独立番号はエンジンを吹かした。

 

「じゃ、先に行くぜ。と、ミサカは置いてけぼりを食らう前に出発してみるぜ!」

 

「待ちなさい!まだ名前も聞いてないんだけど!」

 

「ミサキ。と、ミサカは名乗るだけ名乗っておくぜ!」

 

「またそれなの…?」

 

美琴がその名を繰り返す。

 

しかし、独立番号はすでに走り去っていた。

 

残された一同は顔を見合わせる。

 

「……なんか、すごい人だったね」

 

佐天が呟く。

 

「すごいというより、無茶苦茶ですわ……」

 

黒子は額に手を当てた。

 

美琴だけは、遠ざかるバイクの音を聞きながら、どこか釈然としない顔をしていた。

 

あの口調。

 

あの電撃の使い方。

 

そして、正体を尋ねられた時の、あの不自然なほど軽い返答。

忘れるはずもない。バイクは少し違ったが、一緒にAIMバーストと戦った彼女だ。

 

それでも美琴は確信を持っていた。

 

「……絶対、何か隠してるわね」

 

──────────────────

 

MAR研究所。

 

一行は、施設内部へと乗り込んだ。

 

木山の案内で進んだ先には、子供たちを収容している研究区画があった。

 

「この先に、あの子たちがいる」

 

木山が扉を見つめる。

 

「必ず連れ戻す」

 

だが、その時だった。

 

廊下に、不快な高周波が響き渡った。

 

キィィィィィィィィ――。

 

「っ……!?」

 

美琴が頭を押さえる。

 

黒子も膝をつき、初春は端末を取り落とした。

 

「な、何……これ……!」

 

佐天が耳を塞ぐ。

 

音はただ大きいだけではなかった。

 

頭の奥を直接かき回されるような感覚。

 

吐き気を催すほどの不快感が、容赦なく襲いかかる。

 

能力者たちの身体から、力が抜けていく。

 

「能力が……うまく、発動しない……!」

 

美琴が歯を食いしばった。

 

「これが……キャパシティダウン……!」

 

独立番号が耳を抑える。

廊下の奥から、ゆっくりと足音が近づいてきた。

 

紫色のパワードスーツが姿を現し、テレスティーナが顔を覗かせる。

 

「やーっと静かになったなァ」

 

その声には、もう救助隊長としての優しさなど欠片もなかった。

 

「まったく、手間をかけさせてくれるじゃねェか。せっかく助けてあげようと思ったのに、どうしてこう、余計なことばっかりするのかしらァ?」

 

木山が睨みつける。

 

「テレスティーナ……!」

 

「甘かったなァガキ共、キャパシティダウンは私の成果物だァ、ンじゃァMARの施設であるこの研究所のそこかしこに仕掛けてあることくらい考えなかったのかよォ!!!」

 

「ぐッ!」

 

「そこで見ときゃア面白いモン見せてやるよ」

 

テレスティーナは笑った。

 

「能力体結晶。このガキ共の限界を超えた脳波から、最高のサンプルを作り出す。そのためには、まだ頑張って貰わねぇとなア!!」

 

「……お前はッ!!」

 

木山が一歩踏み出す。

 

「手間掛けさせんな!」

 

だが、抵抗虚しく、その無防備な腹に蹴りが突き刺さる

 

美琴も黒子も、能力を使えない。

 

初春は意識を保つだけで精一杯だった。

 

テレスティーナは満足げに頷く。

 

「そうそうその顔だよ!能力が使えなければ、テメェらはただの人間。それどころか従順なモルモットだ!パワードスーツにすら負けるようななァ!!」

 

巨大な腕が振り上げられる。

 

その時、廊下の隅から声がした。

 

「……あー、なるほど。こいつは確かに、気分のいい音じゃねえな」

 

全員が振り返る。

 

独立番号は壁に片手をつき、頭を押さえていた。

 

「ミサキさん……!」

 

佐天が声を上げる。

 

「アンタ、まだいたの!?」

 

美琴が叫ぶが、その声にも苦痛が混じっていた。

 

「帰ろうと思ったんだけどな。どうにも、後味が悪そうでね。と、ミサカは残業を強制されてみるぜ……」

 

独立番号は耳元のイヤホンを取り出した。

 

スマートフォンを操作する。

 

そして、音楽を再生した。

 

耳の中で鳴り始める、激しいギターとドラム。

 

耳を塞ぐだけでは、キャパシティダウンを完全に防ぐことはできない。

 

それでも、音楽をイヤホンで聴くことで、不快な高周波に意識を支配される感覚を少しでも和らげようとしていた。

 

「……よし。多少はマシだ」

 

独立番号は壁から手を離す。

 

だが、足元はまだ覚束ない。

 

テレスティーナが機体を向けた。

 

「ああ?テメェ、まだ動んのかよ?」

 

「まあな。しぶとさには自信があるんでね」

 

「だったら、てめェも一緒に潰してやるよ!」

 

機体が迫る。

 

独立番号は一歩下がり、拳を握った。

 

だが、今の状態では電撃による身体強化も安定しない。

 

能力を使えば頭痛が増し、まともに動けなくなる可能性があった。

 

ここで正面から戦うのは得策ではない。

 

独立番号は周囲を見回した。

 

そして、佐天涙子に目を向ける。

 

「佐天!」

 

「は、はい!?」

 

「悪い、肩を貸してくれ!」

 

「えっ、私!?」

 

「頼む。中央管制室まで連れてってほしい!」

 

佐天は一瞬だけ戸惑った。

 

だが、独立番号の声に、ふざけた調子がほとんど残っていないことに気づく。

 

「……分かった!」

 

彼女は独立番号の肩を支えた。

 

「ちょっと、ミサキさん、ちゃんと歩けます!?」

 

「歩ける歩ける。たぶん。と、ミサカは自分の足腰を信じてみるぜ……」

 

「その『たぶん』が怖いんですけど!」

 

二人は壁伝いに歩き始めた。

 

その背後で、テレスティーナが笑う。

 

「逃がすわけねェだろ!」

 

パワードスーツが動き出す。

 

だが、その進路を塞ぐように、美琴が立ち上がった。いつの間にか独立番号から受け取っていた音楽プレーヤーとそのイヤホンを耳に挿して。

 

「……まだ、終わってないわよ」

 

「御坂さん……!」

 

「佐天、そいつを連れて行って!」

 

美琴は頭痛に耐えながら、テレスティーナを睨みつけた。

 

「こいつは、私たちが引き受ける!」

 

4.管制室

 

中央管制室へ続く廊下。

 

佐天は独立番号の肩を支えながら、必死に歩いていた。

 

「ミサキさん、もう少しです!頑張って!」

 

「……ああ。と、ミサカは年下に励まされる自分の情けなさを噛み締めてみるぜ」

 

「そんなこと言ってる場合ですか!」

 

「冗談だよ。……助かってる。ありがとな」

 

その言葉に、佐天は少しだけ目を丸くした。

 

独立番号が素直に礼を言うとは思っていなかったらしい。

 

「……どういたしまして」

 

やがて、二人は中央管制室へたどり着いた。

 

扉を開けると、複数のモニターと制御端末が並んでいた。

 

「ここなら、キャパシティダウンの制御系統にアクセスできるはずだ」

 

独立番号は端末へ近づく。

 

佐天は彼を支えながら、心配そうに尋ねた。

 

「本当に止められるんですか?」

 

「止められるかどうかじゃない。止めなきゃ、みんながやられる」

 

独立番号は頭痛に頭を抱えながら、端末の配線を確認した。

 

高周波の発生装置は、研究所内の複数のスピーカーへ接続されている。

 

そして、その制御信号は中央管制室へ集約されていた。

 

「……なるほど。親玉を潰せばいいってわけだ」

 

「でも、どうやって?」

 

「電子制御なら、このミサカの領分だ」

 

独立番号は端末の外装を開けた。

 

指先から、ごく小さな電流が走る。

 

だが、頭痛はまだ消えていない。

 

視界が揺れ、指先の感覚が鈍る。

 

「……っ、くそ」

 

「ミサキさん!」

 

「大丈夫だ。ちょっと頭が割れそうなだけだ」

 

「それ、大丈夫って言わないです!」

 

「細けえことは気にすんな。と、ミサカは佐天の心配をありがたく受け流してみるぜ」

 

独立番号は、制御基板の配線を追った。

 

高周波の発生そのものを止めるには、発振器と制御回路を切り離す必要がある。

 

能力で無理やり焼き切ることもできるが、今は出力を上げすぎれば自分まで動けなくなる。

 

ならば、必要最小限の電流で、制御信号の流れだけを狂わせる。

 

独立番号は呼吸を整えた。

 

「……よし」

 

指先に電気が集まる。

 

一瞬、制御基板のランプが明滅した。

 

モニターにエラー表示が走る。

 

そして――

 

キィィィィィィィィ――。

 

耳障りな高周波が、唐突に途切れた。

 

静寂。

 

独立番号は、深く息を吐いた。

 

「……はい、終了」

 

佐天が目を見開く。

 

「止まった……?」

 

「止まったな。と、ミサカは自分の仕事に拍手を送りたいところだぜ」

 

佐天は、ほっとしたように笑った。

 

「すごい……!」

 

「褒めるのは後だ。みんなのところへ戻るぞ」

 

二人は管制室を飛び出した。

 

──────────────────

 

キャパシティダウンが停止したことで、再び能力を使えるようになった御坂達はテレスティーナを打倒し、木山は研究所の制御システムを確認し、子供たちを目覚めさせるプログラムを準備していた。

 

「急ごう。あの子たちをこれ以上、実験に利用させるわけにはいかない」

 

美琴は頷いた。

 

「ええ。今度こそ、終わらせる」

 

黒子も、初春も、佐天も。

 

それぞれが自分のできることを果たしながら、子供たちのもとへと急いだ。

 

独立番号は少し離れたところで、彼女たちの背中を見守っていた。

 

今の自分にできることは、もう多くない。

 

頭痛はまだ残っているし、能力を使い続ければ倒れる可能性もある。

 

それでも、子供たちが救われる瞬間を見届けたかった。

 

やがて、木山が治療用のデータを確認し、子供たちの状態に変化が現れ始める。

 

長い昏睡状態にあった子供たち。

 

その中の一人が、ゆっくりと目を開けた。

 

「……先生……?」

 

木山は息を呑んだ。

 

「……絆理……!」

 

彼女は駆け寄り、子供の手を握った。

 

「よかった……本当に、よかった……!」

 

その声は震えていた。

 

周囲でも、次々と子供たちが目を覚ましていく。

 

春上衿衣は、友人の目覚めを見て涙を浮かべた。

 

初春は顔をくしゃくしゃにしながら、佐天に抱きつく。

 

「佐天さん……!よかった……!」

 

「うん。ほんとに、よかったね……!」

 

美琴は、ほっと息を吐いた。

 

黒子も、普段の軽口を挟むことなく、その光景を見守っていた。

 

独立番号は、少し離れた壁際で腕を組んだ。

 

「……これで、ひとまず一件落着か」

 

誰に聞かせるでもなく、呟く。

 

「と、ミサカは今回ばかりは平和な結末を歓迎してみるぜ」

 

その時、スマートフォンが震えた。

 

画面に表示された名前を見て、独立番号は小さく笑う。

 

「……お迎えが来たか」

 

 

────────────────────────

 

 

研究所の外。

 

夜風が吹き抜ける駐車場に、一方通行が立っていた。

 

片手には、白いフルフェイスヘルメット。

 

白い髪を風に揺らしながら、彼は不機嫌そうに独立番号を見た。

 

「……テメェ、何時間待たせりゃ気が済むンだ」

 

「悪い悪い。ちょっと子供を助けてた」

 

「知らねェよ。誰がアッ君だ」

 

「まだ何も言ってねえだろ。と、ミサカは先回りするアッ君にツッコんでみるぜ」

 

「死ね」

 

「はいはい」

 

独立番号はヘルメットを受け取った。

 

フルフェイスを被り、顎紐を締める。

 

一方通行は、停めてあったフルカウルバイクを見た。

 

「……また盗ンだのか」

 

「借りたんだよ」

 

「誰からだ」

 

「それは聞かない約束ってことで」

 

「ブッ殺すぞ」

 

「怖い怖い。と、ミサカはアッ君の愛情表現を適当に受け流してみるぜ」

 

「テメェの耳は都合よくできてンのか」

 

一方通行はバイクの運転席にまたがった。

 

「さっさと乗れ。帰るぞ」

 

「いや、運転するの俺じゃねえのか?と、ミサカは友人の意外な行動におどろいてみるぜ。」

 

「うるせェ。テメェ、まだ頭痛ェンだろ。俺が運転する」

 

「……あら、優しい」

 

「死ね」

 

「はいはい」

 

独立番号は後部座席へ移り、一方通行の腰に手を回した。

 

「じゃ、頼むわ。と、ミサカはアッ君の運転技術に期待してみるぜ」

 

「振り落とされても文句言うンじゃねェぞ」

 

一方通行はクラッチを握り、右手でアクセルを捻る。エンジンの唸りが一段と高まり、クラッチを繋いだ瞬間、フルカウルバイクは力強く地面を蹴って走り出した。

 

エンジン音が夜の街に響く。

 

しばらくは、二人とも何も話さなかった。

 

やがて、一方通行が口を開いた。

 

「……で。何があった」

 

独立番号は、ヘルメットの中で笑った。

 

「聞きたい?」

 

「聞かなきゃ、テメェは帰り道ずっと喋り続けンだろ」

 

「正解。と、ミサカはアッ君の理解力に感心してみるぜ」

 

そして、この事件での一連の出来事を語り始めた。

 

廃研究所のデータから辿り着いた実験の痕跡。

 

布束砥信との接触。

 

木山春生と協力して、子供たちを救おうとしたこと。

 

テレスティーナの正体と、黄色いパワードスーツとの戦い。

 

キャパシティダウンを止め、子供たちが目覚めるのを見届けたこと。

 

一方通行は、黙って聞いていた。

 

やがて、低い声で言った。

 

「……ガキを実験台にして、能力体結晶を作ろうとしたってわけか」

 

「ああ。統括理事会の関与もある。まだ全部が分かったわけじゃないけどな」

 

「クソみてぇな話だ」

 

「まったくだ」

 

独立番号は、夜空を見上げた。

 

「でもまあ、今回は気が乗った。それだけの事だ。」

 

「……テメェ、また首突っ込む気か?」

 

「さあな。と、ミサカは明日の自分に判断を丸投げしてみるぜ」

 

「絶対にまた首突っ込むだろうが」

 

「よく分かってんじゃん」

 

一方通行は舌打ちした。

 

だが、それ以上は何も言わなかった。

 

バイクは夜の道路を走り続ける。

 

学園都市の明かりが、遠くへ流れていく。

 

子供たちは目覚めた。

 

木山は、もう一度教え子たちと向き合うことができる。

 

そして、独立番号はまた一つ、学園都市の闇に触れた。

 

それでも、今夜くらいは。

 

ほんの少しだけ、平和な気分で帰ってもいいだろう。

 

「……なあ、アッ君」

 

「何だよ」

 

「帰ったら飯、奢ってくれ」

 

「死ね」

 

「ケチくせえなあ。と、ミサカは恩人への報酬を要求してみるぜ」

 

「テメェ、いつ俺を助けたンだよ」

 

「精神的に?」

 

「死ね」

 

夜の道路に、二人の声が響いた。

 

やがてバイクは街の明かりに溶け込み、その姿を消していった。




描写が雑でほんとにすみません、やっぱりテレスティーナの野郎こっちの執筆意欲をガンガン削ってくるのであんま好きません……

一応この小説は一方通行陣営をメインとして色々なところに首突っ込んでいく予定なので、これ以降は描写を詳細にしていきます。

タイトルは『NIRVANA』より『Territorial Pissings』です。
ミサカが美琴に渡した時に流れてるイメージです。
この曲は現代のドパガキにぶっ刺さると思ってますので、我こそはドパガキって方は是非聞いてみてください。

日常回はどのタイミングで入れるべき

  • 日常の章を作るべき
  • 時系列に沿って入れるべき
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