とある科学の独立番号《Nevermind》 作:シングルアクション教
意味合いとしては音楽ジャンル的なオルタナティブですね。メジャー路線じゃなくて独自路線を行くジャンルのことです。
Come As You Are
学園都市、とある地下実験施設。
実験施設の白い部屋で、ミサカ9999号は目の前少女を見つめていた。
細い指。白い肌。額には、個体識別のための多機能ヘッドギア。
どれも、彼女にとっては見慣れたものだった。
見慣れているはずだった。
けれど、今日に限っては、自分の手がひどく頼りなく見えた。
次の実験が始まれば、あのミサカは死ぬ。
それは予測でも、可能性の話でもない。これまでの実験記録が示す、ほとんど確定した未来だった。
彼女の目の前に立つ青年。
白い髪。赤い瞳。痩せた身体。無造作な立ち姿。
一方通行。
学園都市第一位。
あらゆるベクトルを操る、絶対的な能力者。
彼女を殺すために、これから戦う相手。
そう考えただけで、胸の奥が縮こまった。
「……実験開始まで、あと三分です、とミサカは報告します」
隣に立つ妹達が、いつも通りの声で告げた。
平坦で、抑揚のない声。
彼女たちは恐怖を知らないわけではない。痛みも、死も、理解している。けれど、それらに対する反応は、どこか希薄だった。
少なくとも、9999号にはそう見えた。
自分は違う。
死にたくない。
嫌だ。
まだ、何もしていない。
まだ、聞いていない曲がある。
乗ってみたいバイクがある。
弾いてみたい楽器がある。
名前も知らないバンドが、世界のどこかで今も音を鳴らしている。自分の知らない道路が、どこまでも続いている。自分の知らない景色が、きっといくつもある。
それなのに、あと2ヶ月足らずで自分は死ぬ。
実験の成功率を上げるための、交換可能な部品として。
「……ふざけんな」
声が漏れた。
「どうしましたか?ミサカ9999号。」
「なんでもない、とミサカは訂正します」
慌てて口を閉じる。
こんなことを考える自分は、異常なのだろうか。
他の妹達と同じように作られたはずなのに。与えられた知識も、身体の構造も、基本的には変わらないはずなのに。
どうして自分だけ、こんなにも生きたいと思うのだろう。
その理由を、彼女は知らない。
ただ普通の人間であれば少しばかり生き汚い社会の歯車のひとつであったことだろう。
けれど、クローンであり実験動物の彼女には、自分の異常性はただの不運だった。
生きたいと願うから、死ぬことが怖い。
死ぬことが怖いから、実験が始まるたびに心が壊れそうになる。
そして、次の実験はもうすぐ始まる。
彼女は視線を落とした。
何か手段はないか。
逃げることはできないのか。
学園都市の科学者に助けを求める?無理だ。実験を管理しているのは、まさにその科学者たちなのだから。
他の妹達に相談する?彼女たちには、彼女たちなりの判断基準がある。自分が逃げるために協力を求めたところで、計画がミサカネットワークに共有されれば、すぐに発覚する可能性が高い。
ならば。
彼女は顔を上げた。
目の前にいる青年を見つめる。
一方通行。
自分たちを殺す側の人間。
けれど、彼のことを知らないわけではない。
ミサカネットワークに接続すれば、他の妹達が観測した情報を共有できる。彼の能力の性質、戦闘中の反応、実験における行動。それらを集め、分析することはできる。
そして、観測された彼の行動には、ひとつだけ奇妙な点があった。
彼は、実験を楽しんでいるように見える。
そう報告されている。
だが、本当にそうなのだろうか。
彼の言葉や表情、戦闘中の振る舞い。その断片を繋ぎ合わせても、9999号には、彼が心の底から実験を肯定しているようには思えなかった。
もちろん、確証はない。
彼は実際に妹達を殺している。
その事実は変わらない。
それでも。
この街の科学者たちに頼るよりは、可能性がある。
彼女は、ゆっくりと息を吸った。
実験終了のアナウンスが流れる。
「ミサカ9999号、実験の後処理をお願いします。とミサカは指示します。」
「……了解、とミサカは応答します」
彼女は歩き出した。
だが、指定された位置へ向かう途中、ほんのわずかに進路を変えた。
実験区画の出入口。
その前に立つ一方通行の姿が見えた。
青年は、こちらを見ていた。
9999号は足を止める。
逃げるなら、今しかない。
いや、違う。
逃げる前に、確かめなければならない。
この男が、本当に自分を殺すことしか考えていないのか。
彼女は一歩、前に出た。
「……あの」
「あァ?」
返事は短かった。
それだけで身体が強張る。
それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「お願いがあります、とミサカは申し出ます」
「実験の条件変更なら研究員に言え。俺に言われても知らねェよ」
「違います」
声が震えた。
それを誤魔化す余裕もなかった。
「ミサカを、殺さないでください」
青年の表情が、ほんのわずかに動いた。
9999号は、その反応を見逃さなかった。
「このミサカには、まだやりたいことがあるんです」
言葉が、堰を切ったように溢れ出す。
「まだ聞いていない曲も、乗りたいバイクも、弾きたい楽器も、まだまだあるんです。ミサカは、まだ何もしていません。生まれてから、ずっと実験ばかりで……このまま死ぬなんて、嫌です」
喉が詰まった。
涙が出そうだった。
それでも、彼女はの目を見つめた。
「お願いします。どうか、ミサカを見逃してください」
沈黙が落ちた。
施設の空調音だけが、やけに大きく聞こえる。
一方通行は、しばらく彼女を見ていた。
やがて、面倒くさそうに頭を掻く。
「……好きにしろ」
「……え?」
「聞こえなかったのか?好きにしろっつったンだよ」
9999号は言葉を失った。
今、なんと言った?
好きにしろ。
それは、見逃すという意味なのか。
それとも、逃げられるものなら逃げてみろという意味なのか。
彼女が判断できずにいると、一方通行は口元を歪めた。
「……あァ、そうだな。泣いて土下座したら考えてやるよ」
吐き捨てるように言って、青年は踵を返した。
「ま、せいぜい頑張れや」
それだけ残して、彼は実験区画の奥へ消えていった。
9999号は、その場に立ち尽くした。
「……」
助かったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
あの男は、妹達を何人も殺している。自分だけを特別扱いする理由などない。
ただ、からかわれただけかもしれない。
期待させてから、最後に殺すつもりなのかもしれない。
そう考えると、胸の奥が冷たくなった。
「……やっぱり、無理じゃん」
小さく呟く。
目の前が暗くなる。
けれど、完全に絶望するには、まだ早かった。
あの言葉は、妙だった。
見逃すとは言わなかった。
助けるとも言わなかった。
ただ、好きにしろ、と言った。
そして、泣いて土下座したら考えてやる、と。
まるで、こちらが何をするかを待っているような言い方だった。
「……まさか」
9999号は、青年が消えた方向を見つめた。
彼が本心を隠すために、わざと突き放したのだとしたら。
自分が逃げることを、黙認するつもりなのだとしたら。
そんな都合のいい話があるだろうか。
彼女は首を横に振った。
期待するな。
信じるな。
ただし、可能性があるなら利用しろ。
それが生き残るための唯一の方法だった。
9999号は実験区画へ戻る。
その足取りは、まだ震えていた。
けれど、彼女の頭の中では、すでに別の計算が始まっていた。
脱出経路。
監視カメラの配置。
警備員の巡回周期。
逃走後に身を隠せる場所。
そして、必要なもの。
彼女は生きることを諦めなかった。
たとえ、目の前の青年が最後まで敵であり続けるのだとしても。
その可能性に賭けるだけの価値は、まだ残っていた。
というわけでミサカ9999号ちゃんのお話です。
適当にチマチマ書こうと思ってたんですが思いの外筆が乗ってしまい書き上げてしまいました。推敲終わらせ次第置いていきます。
タイトルは『NIRVANA』より『Come As You Are』です。NIRVANAばっかりですね…
タイトルの意味合いとしては、相手の本心が分からないまま、それでも自分の弱さと願いをさらけ出して一方通行と接触する9999号の心情のことですね。
日常回はどのタイミングで入れるべき
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日常の章を作るべき
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時系列に沿って入れるべき