とある科学の独立番号《Nevermind》 作:シングルアクション教
それから数日間、ミサカ9999号は普段と変わらない生活を続けた。
実験施設に出勤し、指定された検査を受け、必要なデータを提供する。ミサカネットワークには接続し、他の妹達と情報を共有する。
表面上は、何も変わっていない。
だが、彼女の内側では、すべてが変わっていた。
彼女は実験の予定を確認するたびに、日付と番号を頭の中に刻み込んだ。施設の構造を再確認し、監視カメラの死角を調べ、警備員の巡回周期を記録する。
そして、ミサカネットワークから得られる情報を使い、一方通行の行動も分析した。
彼がどこにいるのか。
いつ実験区画へ現れるのか。
どのタイミングでヘッドギアを装着しているのか。
何を見て、何に反応し、どのような行動を取るのか。
もちろん、彼の能力を完全に理解することなどできない。
それでも、逃げるために必要な情報は集められる。
彼女は自分の能力にも目を向けた。
電流の発生と制御。
身体の内側を流れる電流。
生体電流の操作。
そして、短時間であれば、相手の身体に流れる電気信号を乱すこともできる。
それを使えば、相手を気絶させることも可能かもしれない。
だが、失敗すれば終わりだ。
自分の能力が、相手の身体にどこまで作用するのか。どれだけの時間、意識を失わせられるのか。実験施設の装備を奪うことができるのか。
ひとつでも見誤れば、計画は破綻する。
9999号は、頭の中で何度も計画を組み立て直した。
逃走経路は複数用意する。
監視カメラの死角を通る。
施設の外に出た後も、同じ道を使わない。
追跡される可能性を考慮し、潜伏先はひとつに絞らない。
そして、何より重要なのは、一方通行が本当に協力するつもりなのかを確かめることだった。
彼の「好きにしろ」は、許可ではない。
少なくとも、そう解釈しておくべきだ。
彼女は何度も自分に言い聞かせた。
期待してはいけない。
彼は自分を殺す側の人間だ。
それでも、あの言葉の裏に何かがあるのなら。
彼女は、その可能性を確かめる必要があった。
数日後。
9999号は、再び一方通行の前に立った。
彼は壁にもたれ、手元の端末を眺めていた。
「……またお前か」
「はい、とミサカは返答します」
「今度は何だ?また命乞いか?」
「その通りです、とミサカは肯定します」
「ハッ。懲りねェな」
彼は鼻で笑った。
9999号は、その前に膝をついた。
そして、両手を床につける。
深く頭を下げた。
「お願いします。ミサカを、逃がしてください」
彼女の声は、静かだった。
泣いてはいない。
震えてもいない。
ただ、覚悟だけがあった。
一方通行は、何も言わなかった。
「ミサカは、死にたくありません」
彼女は続けた。
「この街の研究員に頼っても、助かる可能性は低い。妹達に協力を求めても、計画が共有されれば失敗する可能性が高い。だから、あなたに頼むしかありません」
「……」
「あなたが本当にミサカを助けるつもりなのか、それとも単に面白がっているだけなのか。ミサカには分かりません」
彼女は顔を上げた。
「それでも、あなたに賭けることにしました」
一方通行の赤い瞳が、彼女を見下ろしていた。
「……なンで俺だ?」
「あなたが、実験を心から肯定しているようには見えなかったからです」
「そりゃ随分なご意見だなァ」
「はい。ミサカの推測です。間違っている可能性もあります」
「間違ってたらどうする?」
「その時は、ミサカが死にます」
即答だった。
「……」
「ですが、何もしなければ、いずれにせよミサカは死にます。それなら、可能性のある方に賭けるべきだと判断しました」
一方通行は、しばらく黙っていた。
やがて、舌打ちをひとつ。
「……チッ。面倒くせェ奴だな」
「否定できません、とミサカは返答します」
「で?計画は?」
9999号は、顔を上げた。
彼は、続きを促していた。
それだけで、胸の奥に小さな熱が灯った。
「脱走計画を立てました。施設内の監視カメラ、警備員の巡回周期、実験の予定。逃走経路と潜伏先も、複数用意しています」
「へェ」
「決行日は、ミサカ9950号の実験日です」
彼女は、計画の概要を説明した。
9950号に成り代わって施設の外へ出ること。
監視装置を破壊し、カメラの死角へ逃げ込むこと。
そして、一方通行にヘッドギアを破壊してもらい、会話内容と映像を遮断すること。
彼の協力がなければ成立しない計画だった。
「……俺が手伝う前提かよ」
「はい。あなたが協力しない場合、成功率は大きく下がります」
「随分と正直じゃねェか」
「嘘をついても意味がありません、とミサカは判断します」
一方通行は、しばらく彼女を見つめた。
それから、口元を歪める。
「泣いて土下座したら考えてやるっつったよなァ?」
「はい」
「涙の一滴も出てねェじゃねェか」
「泣いている余裕がありませんので」
彼女は、もう一度頭を下げた。
「どうか、お願いします」
長い沈黙が続いた。
やがて、一方通行は壁から背を離した。
「……好きにしろ」
最初に聞いた時と、同じ言葉だった。
彼はそれ以上何も言わず、彼女の横を通り過ぎた。
9999号は、しばらく頭を下げたまま動けなかった。
協力する、とも。
逃がしてやる、とも。
彼は言わなかった。
けれど、計画を聞いた上で、止めなかった。
それだけで十分だった。
少なくとも、彼は今すぐ自分を殺すつもりではない。
彼女は立ち上がった。
そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「……ありがとうございます」
返事はなかった。
彼はもう、廊下の向こうへ消えていた。
その日から、9999号は計画の最終調整に入った。
ミサカネットワークから離脱するタイミング。
9950号の実験日に合わせた行動。
施設外へ出るための装備。
逃走後の潜伏先。
そして、一方通行が協力しなかった場合の予備計画。
すべてを確認し、すべてを記憶した。
失敗すれば死ぬ。
成功しても、追跡されるかもしれない。
それでも、彼女にはやりたいことがあった。
聞いていない曲がある。
乗りたいバイクがある。
弾きたい楽器がある。
自分の人生を、自分で選びたい。
たったそれだけの願いのために、彼女は逃げることを決めた。
そして、決行の日が来た。
タイトルの『Run away』は『[ALEXANDROS]』から取りました。ボン・ジョヴィのRunawayと迷ったんですが、個人的にこっちのが合ってると思いましたので。
あと感想欄にて、是非「こんなバンドが好き」とか教えてください。なんなら小説の感想は二の次で構いません。
日常回はどのタイミングで入れるべき
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日常の章を作るべき
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時系列に沿って入れるべき