ミスがあったりしたらごめん。
30階建て程の高層ビルの屋上。太陽の光が眩しく、少し強めの風が吹くなか、うつ伏せの状態でスナイパーのスコープを覗く。
銃口を向ける先は、今いる地点から数百メートル程離れた廃工場。
[ ねぇ〜、遅くない? まだかなぁ〜 ]
この前の約束を社長へ話した矢先に依頼を渡され、渡りに船と言う事で狙撃の補佐をする事になった乃愛が隣で双眼鏡を覗きながら不満を口にする。
説明された話によると、そこで闇取引や人身売買などを行なっているらしい。
今回の依頼は、そこへ取引に来たとある組織の重鎮を狙撃銃で暗殺しろとの事だ。
[ 無視ぃ〜?、暇だなぁ〜 ]
ターゲットの到着まであと数分程余裕があるため深呼吸をする。
長距離の狙撃は集中力が必要であり、心を落ち着かせる事が大切だ。
[ いつ来るんだっけ〜 ]
深呼吸を何度か繰り返し、集中することがーー
[ ねぇ、佐藤〜 ねぇ〜 ]
[ うるっさいな! ]
できなかった。
双眼鏡を片手に持ち、緊張感のかけらもない様子でやかましく話しかけてくる乃愛。スコープから目を離しやかましい少女へと言う。
[ えぇ〜?、早く来ないかなぁ〜 ]
[ ......... ]
予定時間まで少しであるため、仕方なくやかましさを無視してスコープを覗く。
すると覗く先へと一台の車が入る。黒塗りの車で、いかにも高級そう。
[ あっ!やっと来たっ ]
片手で持っていた双眼鏡を両手に持ち直し覗くお隣さん。
一人の男が運転席から降りた。着ている服から執事だとわかるその男が助手席のドアを開けると、そこから女が出てくる。
スーツを着こなし若く見える女。
[ ターゲットだ! ]
双眼鏡を覗きながら嬉しそうに言う。
[ え〜っと....距離321m、風速7m/s、気圧は1020hpa?だってさ〜 ]
隣の乃愛が計測器を見ながら。長距離の狙撃では、距離や風速、気圧などで着弾する地点に影響が出る。
そのため観測手(今回の場合は乃愛)に情報を伝えてもらう必要がある。
そいつの頭へと照準を合わせ、トリガーに指をかける。
着弾地点を計算し照準を調整。
[ ぶっ殺せ! ]
先程と同じ様な口調で物騒なことを言う少女を尻目にトリガーを引いた。
サプレッサーを付けてはいるが、距離が距離なので通常の弾薬を使用している。故にそれなりの音量の銃声が辺りに響いた。
カランと薬莢の転がる音がすると同時、ターゲットが力なく地面へと倒れる。
[ いえ〜い!初めての依頼終わりっ! ]
それを見た乃愛がぴょんぴょんと跳ねながら嬉しそうに言った。
高層ビルの屋上、300m程先の地上を見下ろせる程の端で。
[ 危ないって!落ちたら死ぬぞ ]
[ あそっか、危ない危ない。]
少し焦りながら伝えるとなんでもないかの様に言い、すこし下がる。
[ .....終わったし、一旦会社に帰るぞ。]
[ は〜い ]
依頼が終わったら一度会社へ戻れと社長に言われたためそのことを伝える。すると再びやかましい返事をする乃亜だった。
[ よくやった、佐藤、篠浦。どうだった? ]
嗅ぎ慣れたコーヒーの匂いのする社長室。部屋のソファに座っていると、期待の混じる口調で社長からそう聞かれる。
[ 大成功だったよ! ]
隣に座る乃愛がテーブルの上に置かれた菓子類を無遠慮に摘みながら、元気よくそう返す。
[ そうか、それは良かった。]
腕を組み、安心した様にそう言う社長。
[ そうだ佐藤。次の依頼、篠浦とバディを組んでもらおうと思ってるんだが、どうだ? ]
すると思い出した様にこちらを見ながら言う。
[ .........依頼によります。]
[ なにその間!]
先程の依頼の喧しい乃愛を思い出し、含みのある様な口調で返すと、ソファから勢いよく立ち上がった少女に不満げにそう言われる。
[ そうか...........それで次の依頼、とある大企業の社長令嬢を護衛してもらう。]
微笑ましいものを見た様に穏やかな笑みでそう返すと、椅子に座り直し真面目な顔で依頼について言及。
うちの組織は殺しだけではなく、護衛なども請け負っている。護衛だけであれば表社会の人間を雇えば良いが、裏社会、特に殺し屋の人間であれば、護衛ならびに脅威の排除も請け負う事ができる。その分、護衛対象の安全も増えると言うことだ。尤も、目立ちすぎるのはうちの会社としても良くないが。
[ 佐藤、お前一人なら簡単だと思うが、今回は新人の篠浦もいる。無理だと思うなら断ってくれ。空いた依頼は他の奴にやってもらう予定だ。]
机の上のコーヒーを飲みながら返事を待つ社長。
[ ........やります。]
ただでさえ難易度の高い依頼、一応訓練などはするのだろうが新人である乃愛も付いて来る。
依頼失敗や怪我、最悪の状況などが脳裏によぎるが、それは殺し屋なんてやってれば日常茶飯事だ。
そこまで難しく考えなくても、乃愛なら大丈夫だろう。でなければスカウトなんてしていない。
[ そうか、依頼は2週間後だ。それまでに篠浦を訓練しておく。短い期間だが、一応使えるようにはなるだろう。]
ソファでくつろぐ乃愛を見ながら、そう言う社長。
[ 分かりました。準備しておきます。]
訓練と言う言葉に、菓子を頬張りながら少しだけ不満げな乃愛を尻目に社長室を後にした。
もう少しで日が暮れる様な時間帯。
冷蔵庫が空だったことを思い出し、夕食でも買いに行こうかと歩いているとなにやら視線を感じる。恐らくだが尾行されているのだろう。
殺し屋か、それとも私怨か、つけられている理由はまったくもってわからない。
しかも運の悪いことに今は銃を持っていない。もしそいつが銃を持っていた場合、この状況はかなり分が悪い。
こう言った場合は接近戦に持ち込むのが一番勝率が高い。
近接戦闘ではハンドガンよりナイフが有利な場合がある。と誰かが言っていた。尤もナイフなんて持っていないが。
薄暗く、人のいない路地に入り角を曲がる。つけている人間から死角になる様な壁に背中を預け、待つ。
少しして足音が聞こえて来る。その足音が近づき、やがて一人の人物がゆっくりと出てきた。
[ ひゃあ! ]
[ ......え?]
聞き覚えのある声で驚いている目の前の少女。
思いもよらぬ人物が出てきたことで、戸惑いの声が漏れてしまった。
その少女は、いつしかの潜入任務でお世話になった文学少女。星野先輩だった。
狙撃の事をよく理解していないので、間違いがあるかも。
星野先輩のくだりは少し無理矢理だったかもしれないけど許して。