オーバーロード 現地人に転生した弱体鈴木悟さん 作:モモンガ・アインズ
王国アンチ強めなので、嫌な人はブラウザバックしてください。
彼は最後までDMMO-RPG“ユグドラシル”を堪能したはずだった。十二年の時を紡いだ自由度の高いゲームはサービス終了を迎えて、彼は最後を自身の拠点「ナザリック大墳墓」の玉座の間で迎えたはずだった。
彼に残るのはそれが最後の記憶。日付が変わったために今日も仕事があるなと思って明るい視界を不思議に思いながらも目を開けると、そこは自分のいたアパートの一室ではなく、どこか古臭い木製の家のようだった。
彼は2130年代を生きていた人間だ。地球は汚染が進み、自然がちっとも残っていない環境になって数十年。木でできた柱や壁、床なんて富裕層でも再現できるかどうか。
そしてなんと彼は、背の小さな男の子になっていた。大体三歳くらいだろうか。ベッドに寝かされていて、顔などを確認したら黒髪黒目の肌色の良いショタになっていたのだ。姿見があったために自分の姿を確認するのはわけない。
どこだここと考えたところで、彼の中にところどころ穴だらけではあるが、三年分の知識が流れ込んできた。モモンガとしての、というよりはユグドラシルをプレイするためにリアルで働いていた頃の鈴木悟の知識は残っていることも当然ながら、今の体になってからの記憶もあった。
今の体の名前はアインズ・モモンガ。アインズが名前で、モモンガが家名のようだ。ユグドラシルの時に由来するような名前だが、その家名はないだろうと思っていたアインズ。母親の家名らしい。
ここはリ・エスティーゼ王国というらしい。その王国の中でどの辺りに位置するのかは知識になかったためにわからなかった。一緒に住んでいるのはアインズと同じく黒髪黒目で若々しく、正直子供がいるとは思えないような美少女のような母親と、父親ではない男性が一人。
祖父でもなく、母親とあまり年齢の変わらない年頃の男だが、父親ではないらしい。記憶が戻る前にアインズは何度かその男のことを父親として呼んだが否定されてしまった。彼は護衛なのか、軽装をして剣を帯びている。もしかして母親が貴族などの重要人物なのかもしれないと疑う理由になった。
その男性は母親よりは年上の、青年くらいの年齢だ。母親ほどではないが顔は整っている。どういう人物なのかわからないために普段は名前にさん付けで呼んでいるようだ。
なのだが、記憶では何故か母親とその男が同じベッドで裸で寝ていた記憶がある。その時アインズ少年は何だかわからずに誤魔化されてしまったが、まあいわゆる夫婦の営みだったと今ならわかる。
それでも結婚していないと周りには伝えているようで、何か事情持ちなのだろうとアインズは流すことにした。ブラック企業勤めの社会人としての経験が藪蛇だから突っ込むなと告げていた。駆け落ちとかの、古典的事情があるのだろうと予測し、それがあながち間違っていないのではないかと思うアインズ。
知識がいわゆる前世と呼んでいい人生の分が丸々あったために、これは使えるかもしれないと考えた。何とこの世界、ユグドラシルで使われていた魔法が使われているのだ。アインズは元レベル100プレイヤーとして知識がある。これを使えないかと思ったわけだ。
そして彼はMPのようなものがあると感覚的に察していた。これなら魔法が使えると思い、早速同居人の二人が同じベッドで裸で寝たのを確認して、こっそりと窓から出る。文化がそこまで発達していないのか、それとも田舎だからか、窓は木製のものでガラスなどなかった。
「うーん、母さんは美人だけど、三歳児をほったらかしにするのはどうなんだ?」
そう愚痴って誰にも見付からないように、不可知化の魔法を唱えたら普通に使えた。これで魔法が使えたというのは実証実験としては完了なのだが、他にどのような魔法が使えるのかを試しておきたかった。
ゲームのようにアクションメニューが出るわけでもなく、インベントリが開けるわけでもない。ステータス画面が見えないのだから実際にやってみるしかなかった。
そして実験の結果だが、魔法は第五位階までのアバター・モモンガが使えた魔法は使うことができた。アンデッド召喚系の魔法も使えて、思う存分魔法の的になってもらった。どれくらいの威力になるのか確かめるには丁度良かったのだ。
スキルも同じように大体40レベルくらいまでに覚えるものだけ使えた。アンデッドの体になったわけではないのにアンデッド時代の能力も使えるというのは良いことだと思った。
今のアインズの体は完全に人間だ。なのにアンデッドの能力が使えるというのはレア中のレアだろう。そしてレベルも100とは思えない。これから成長できる余地があるということ。ここはユグドラシルではないために同じように強くなれるか不明だが、成長が頭打ちということでもなければ楽しめそうだとアインズは思った。
それと彼がこの世界を気に入った理由は、雄大な自然だ。ただの村ながら近くには大きな山脈があり、村の中には川が流れ、当たり前のように木や草に花が生えている。映像データやゲームで再現されたものなら見たことはあったものの、実際に触れるのは初めてだ。
何せ本物の植物なんてリアルでは絶滅危惧種扱いにされており、専門家になっても見ることしかできずに触ることができない。だというのにアインズは今、この世界の人間として当たり前のように触れることも感じることもできる。
いきなり子供になっていて、レベルが40くらいになっていて驚かなかったわけではない。だが、自分の身に起こったことだ。他のギルメンにも同じようなことが起こっているのかもしれないと考えた。
ユグドラシルやアインズ・ウール・ゴウンの名前を出せばギルメンを探すのも簡単なのではないかと、この時のモモンガは思っていた。
それが思い上がりだったと知るまで、猶予はあまりなかった。
・
アインズは村の人間にギルメンがいないことを確認した、そんな春先のこと。
物心というか、前世のことを思い出して一年ほどが経過していた。魔法やスキルの検証などを夜中にしつつ、こっそり村の外に出てモンスターを倒したりした。ユグドラシルでも見たモンスターだったために特性などもわかっていたことと、何故だがこちらのモンスターはユグドラシルよりも弱かったりして、経験値が稼げたのかわからない。
そもそも経験値が入っているのかもわからない。ステータスの確認を一覧では見れず、観測魔法のようなものでHPやMPの数値を確認しても微増もしていなかった。倒したモンスターが弱すぎたのか、それとも現在のアインズのレベルが高いのか、それともレベルアップができないのか。
理由は検証中だが、アインズは様々なことを試していた。
季節が巡ったある日、母親に今日は家にいるようにと言われたため、家で待機をしていた。基本的にアインズは日中は村の中で子供達と遊ぶか、家で文字の勉強をしている。
流石にこの世界の言語は日本語ではなかったので一から勉強だ。文法も文字も覚えている言語とは違ったために、今必死に覚えている。
来客があるようなので大人しく子供が読むような児童書を呼んでいたところ、外で待機していた護衛の、母親の恋人であるデイビットが家の扉を開けてその客人を迎え入れていた。
その人物はピンクと薄青色のドレスをそれぞれ着た、十代の少女が二人と、メイドが一人。それにデイビットよりもしっかりと鎧を着込んだ護衛のような男が二人。
平民の家にしては大きな家ではあるが、デイビットも含めていきなり六人も増えたら狭く感じる。アインズは前世のアパートと比べていたのでそんなことを感じたことはなかったのだが、この時ばかりは狭いなと感じていた。
(貴族か?こんな人たちがやってくるって、やっぱり母さんは貴族?)
そう思いつつも、母親の背中に隠れておく。ここで騒ぐべきではないと判断して、子供らしく振る舞うのは悪手のように思えたので大人しくしていた。
貴族としか思えないドレスを着た女性二人が家の中に入ってすぐ鼻を動かして匂いを嗅いでいた。不躾だなと思ったアインズは、次の女性の言葉に驚くことになる。
「あーヤダヤダ!本当にこんな田舎に住んでるのね!お父様も一応話しておけだなんて、まだ未練があるのかしら?だから不相応なちょっと大きい小屋を与えたんでしょうけど」
「お父様もお盛んということよ。お母様も亡くなっているし、若い女に目がないのはおかしなことではないわ。それが例え、どことも知れぬ南方の女であってもね」
片方が甲高い声で罵り、もう片方は母親へ冷ややかな目線を向ける。
今の内容で大体の関係性は察せた。貴族らしい女性二人の父親と、アインズの母親であるラナが不倫関係だったのか、愛人関係だったのか。何にせよ正妻ではなかったのだろう。
そうしてアインズが産まれて、この村に追いやられたと。
アインズがいる今のこの家は、村長の家と遜色ないくらい大きい。それにラナもデイビットも働いている様子がない。デイビットは帯剣しているくせに、モンスターの対処などをしているわけでもない。他の村民のように大きな畑を持っているわけでもなく、家の裏の小さな畑だけだ。
その小さな畑では農民も名乗れないほどの収穫量しかない。結局お金で他の家から野菜などを買っている。
アインズが読むような本なども行商人から買っているが、小さな畑しか作っていない割にお金に困っている様子はない。それは訪問してきた彼女達の父親が支援をしてくれているということだろう。
貴族の婚外子とか面倒なことになる未来しか見えなかった。
「ヴァレッサ様、エリザベス様。ご壮健で何よりでございます」
ラナが頭を下げたので、アインズも一緒に頭を下げる。それでアインズの存在を把握したのか、とても四歳児に向けるものではない、蔑視としか読み取れない差別的な視線をアインズへ向ける。
「それがあなたの子?ああ、良かった。私達のように金髪を継承していなくて」
「ヴァレッサ姉様。金髪なんて王国では珍しくないわ。むしろあの黒髪黒目の方がわたくしには気色悪い。どうしたらあんな色になるのか、不思議で仕方がないわ。穢らわしい」
(……流石に《火球》の一つでも放り込んで良いんじゃないか?正妻の子だからって言っていいことと悪いことがあるだろ。いや、目立つのはダメか。《死》のような外傷がないような即死魔法なら……。今は使えないけど)
あんまりな態度に魔法を使うか逡巡するアインズ。目撃者が多いためにアインズがやったとわからないようにしなければならず、そんな高等魔法は現在使えなかった。
あとは帰り道にアンデッドでも召喚して襲わせるなども思い付く。実行するかどうかはこの後の態度次第といったところ。
アインズは現在のこの家族を気に入っている。ちゃんと家族として育ててくれており、困ったこともない。デイビットも本当の父親ではないはずだが父親のように優しくしてくれている。どういった経緯でラナがアインズを産むようなことになったのか不明だが、それでも今の家族を下に見るような半分血の繋がった姉二人のことが気に食わなかった。
「こんなところに長く居たくもないし、手紙だとどこかに漏れたら問題だもの。さっさと通達事項を伝えるわ。まず私達は今年結婚するの。年齢的にも当然ね。で、あとは弟が産まれたの。
「金額はこちらに。話したいことは以上です」
「承知致しました。ご成婚、おめでとうございます」
(第二王子?離宮?……王族⁉︎ええっ、普通王族って側室とかOKってペペロンチーノさんが言ってたぞ⁉︎王都にも住めないって、母さんが平民だから?それとも何かやったのか?)
衝撃の事実に、厄介ごとしか思いつかないアインズ。
王女も王子も数が多いらしく、更に血を引いているというのは政変などあった時に錦の御旗にされかねないという不安要素がある。
それにこの王国は近隣諸国との関係もよろしくなく、近々帝王と戦争になるのではないかという話が出ている。法国とも関係性が良くなく、遠いが評議国とも人間だけの国ではないために軋轢がある。
そんな話を外から来た大人達がしていて、アインズも情勢を知るために記憶していた。そんな、周辺国との関係性がよろしくない国の、正式な王位継承権がないのに血だけ継いでいる厄介者。
魔法が使えるからと、この苦境を超えられるとは思えなかった。
「それじゃあ用事も終わったし帰るわ。くれぐれも王家の話はしないようにその子供に教育しなさいよ」
「もし楯突いたら殺します。あなた方が生存を許されているという事実をゆめゆめ忘れないように」
そう言い捨てて全員出ていく。お見送りのためにアインズ達も出て、彼女達がやってきた馬車に乗り込んで村から出ていくのを見守った。
王家の紋章などはなかったようだが、その豪華な馬車に貴族だとは思われたようだが王族とは思われていないだろう。
性格の悪い姉達だったが、これはラナが何をやったのか次第だろう。もしかしたら悪女なのはラナの方かもしれないのだから。
そう考えて一旦姉達への仕返しを取りやめるアインズ。これからも平穏に過ごしていけば良いだろうと考えて、それからも王族としての教育などはされず、ただの村民として過ごしていた。
姉達の訪問から更に一年が経って。それ以降王族からも貴族からも介入がなく、将来的には冒険者になろうと漠然と考えていたところで。
アインズは全てを失った。